第20回「コロナ禍が地域の学会活動に及ぼす影響の多面性を考える」 森原明廣

 新型コロナウイルスの感染拡大から1年半以上が経過し、地域の学会活動にも大きな「影響」が及んでいる。この影響にはマイナスとプラスの両面が存在し、一見良い影響に見えて実は悪い影響に転じかねないものもある。ここでは地域の学会によるシンポジウムなどの集会型催事の開催方法を俯瞰しつつ、思うところを述べてみたい。

筆者の暮らす山梨県は人口約80万人の小規模県であり、考古学界が一つにまとまっている県と言える。山梨県考古学協会(以下、略称「山考協」)はそんな山梨で42年間活動を続けている団体だ。研究会性格と遺跡保存・活用団体性格を併せ持つこの会は、会員所属や年齢幅も広く、山梨の地で考古学に携わる者の大半が所属している。そんな山考協の活動にもコロナ禍は大きな影響を及ぼしている。活動の肝である様々な集会型催事(講演会、研究集会、遺跡調査発表会等)の中止・延期もしくは規模縮小開催などがその最たるものである。多くの地域の学会がオンライン開催に移行する中、山考協では感染予防措置をとっての会場開催、アナログ開催で対処することが多い。

ここでふと思う。オンライン開催は、広範囲からの参加を促し、議論の深さや広がりを醸すことができる開催方法である。参加する側にとってもメリットは大きい。悪い影響ばかりが目立つコロナの稀な良い影響の事例であろう。しかしである。この方法はこれまでのアナログな世界で培ってきた研究者らの繋がりがあってこそ成り立つものである。地域に限らず考古学研究や活動は、人と人との温かみのある交流が基礎となって進展してきたものだ。特に集会型催事はパネラー選定、会場手配、印刷など細かな配慮など準備の労力負担を要す。実はその負担こそが若手研究者たちを育ててきた側面がある。オンライン開催も楽ではないが、アナログ開催に比べればその負担は軽い。アナログ開催の経験機会が徐々に減っていくことは若手育成の機会を減少させることに繋がらないだろうかという不安が頭をよぎるのである。

コロナの良い影響であるオンラインによる研究集会開催。研究の進展や開催の容易さというメリットの向こう側に、地域の学会を担う若手の成長の妨げになり得るというデメリットが見え隠れする。山考協は幅広い年齢層の家族的な会であるため、オンライン開催に簡単には移行しないままである。しかし、だからこそ、上記のような若手育成の機会喪失の心配は少なく、会の将来に不安は少ない。そんな地域の学会もよいものだと思う昨今である。  

しかし何よりも集会に伴う酒宴機会の減少が残念でならない、その方が心配だという声が全国から聞こえてくる気もする。山梨における考古学関連の研究集会には特産ワインを含む酒宴がつきものだ。一日も早い“酒宴付きアナログ研究集会”の再開を期待している。

コロナ禍下での山梨県遺跡調査発表会の開催状況(山梨県考古学協会・山梨県埋蔵文化財センター共催)