文化審議会による「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」について

 2017年6月より、文部科学大臣からの諮問を受けた文化庁文化審議会文化財分科会企画調査会において「これからの文化財の保存と活用の在り方について」の審議が行われてきました。これは、文化財保護法の改正を視野に入れたもので、地域の文化財の総合的な保存と活用を提言する一方で、政府が主導する「文化経済戦略」に沿い、国指定文化財の観光資源としての利用を推進する内容を含んでいます。企画調査会の議論は、今後の文化財保護行政の進む方向に関わる重要な論点が含まれるとともに、文化財の濫用につながる危険性をも有するものです。
 企画調査会では、8月末に「中間まとめ」が出され、9月にパブリックコメントの募集が行われました。日本考古学協会では、内容の重要性に鑑み、9月28日にパブリックコメントを提出いたしました(http://archaeology.jp/2017/12/12/publiccomment/ 参照)。
 このたび審議が取りまとめられ、12月8日に「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」が公表されました。これを受けて、日本考古学協会理事会では、下記のとおり意見を表明します。なお、基本的な考え方は、中間まとめに対するパブリックコメントと同様です。

文化審議会による「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」についての意見

日本考古学協会

 文部科学大臣の諮問機関である文化審議会文化財分科会企画調査会は、2017年12月8日「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」を公表した。今回の答申は、文化財保護法の改正が検討される中で、今後の文化財保護行政の進む方向に関わる重要な指針となるもので、日本考古学協会として、以下のような基本的な意見を表明する。
 第一次答申で示された新たな施策の中心となる「総合的な視野に立った地域における文化財の保存・活用の推進強化」という方向性は、文化財保護行政の重要な転換を含むものと考える。従来の目的が求められない文化財の保存から、目的となる方向が求められる保存へと、法の基本理念の転換を内包したものである。文化財が息づき継承されていく社会という目的に向けて、促進・推進していく法体系へ発展させていく方向性は評価され、「目先の利益は本質ではなく、文化財とそれを育んだ地域の持続的な維持発展のために、文化財の保存と活用そしてその担い手の拡充を考えていくべき」という方向で文化財保護行政の発展を図っていっていただきたい。その際、文化資源たる文化財を消耗することなく、持続可能な活用とすることを、基本原則として明記されることを望んでいる。
 具体的な方策として、「歴史文化基本構想」を発展させ、「域内の文化財総合的な保存・活用に係る計画(地域計画)」を策定し、それに基づいて施策を進めていくという方向性は評価できる。今後、地域の文化財の丁寧な実態把握、専門職員の配置による地方自治体の体制整備など、条件を整えていくことによって、実効性のある制度としていくことが期待される。また、「国による指針等の策定等」、「都道府県による大綱的な方針・計画等の策定」が示されているが、国および都道府県が果たすべき役割を明確にしていくことが望まれる。
 現状では「地域計画」に含まれない文化財が多数残ることが予想される。それらの活用にあたっては、個々の文化財ごとに策定される「保存活用計画」に基づいて進められることになるが、「活用」によって、文化財資源の損失にならないよう、「基本計画」に含まれない文化財について、国が適切な施策を示して行っていくことを望みたい。「管理責任者制度」を活用し、「所有者と共に文化財の保存・活用を担う主体」に維持・管理だけでなく活用を担わせようとしているが、持続可能な活用を実現するのにふさわしい法人のあり方を含め、多方面での慎重な検討を踏まえ、文化財保存・活用の総合的施策に位置づけて進められることを期待する。
 重要文化財などの公開制限については、対象物に応じて緩和する方向が示されているが、文化財の本質に影響を及ぼすような過度な活用にならないよう、「石橋を叩いて渡る」慎重さが必要であろう。活用に伴う文化財へのダメージについては、全てが把握されている訳ではなく、予期せぬ危険性があることを踏まえて、今後も調査検討を進めながら適切な管理システムの構築に万全を期していくことが必要である。
 次に、地方公共団体の体制充実として、条件によっては文化財保護の所管を首長部局へ移動することがあげられているが、首長が推進する開発行為の中で重要な遺跡が発見された場合、現在でも保存は難しい場合が多く、文化財保護の所管が首長部局へ移動することにより、いままで以上に難しくなることが憂慮される。答申で示されたように、平成25年度の企画調査会報告の「4つの要請」を、実効性のある形で担保されるよう注視していきたい。
 また、博物館等の役割強化についての提言がされているが、観光のための活用という観点からの要請が過度に進まないように留意する必要がある。地域にある文化財は調査研究によってその意義が明確になり、あるいは新しい意義が見いだされている。そのため調査研究は博物館の学芸員などにとって重要な任務であり、学芸員による調査研究等の業務を拡大することによって、文化財の魅力は増大するであろう。
 このような状況を踏まえると、基本的理念と枠組みを規定する基本法と、具体的施策を進めるための諸制度は個別法という形で、法体系を整えていくことも検討されるべきと考える。“保護と持続可能な活用による文化遺産の未来への継承”という今後進むべき方向性を基本法に明記し、その上で、具体的施策の充分な検討を重ねて個別法で整備していく方が現実的である。また、東京オリンピックでの観光への利用など、短期的に重点的対応を行う事業は時限立法とし、他省庁などと連携した推進を可能とすることも検討されるべきと考える。

 

*「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」の詳しい内容は、以下のURLで閲覧できます。
  http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/bunkazai/kikaku/h29/matome/index.html