文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正についての意見

文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正について

 平成30年の第196回国会(通常国会)において,文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律が成立し,平成31年4月1日から施行されることとなりました。昨年度に文部科学大臣からの諮問を受けて文化庁文化審議会文化財分科会企画調査会において審議され、昨年12月に出された「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」を踏まえた法改正です。日本考古学協会では、企画調査会による中間まとめへのパブリックコメントを提出し、第一次答申についても意見を表明してきました。今回、法改正案が成立したことを受けて、下記のとおり意見を表明します。

文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正についての意見

日本考古学協会

 

 平成30年の第196回国会(通常国会)において,文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律が成立した。今回の改正は、今後の文化財保護行政の在り方に大きく影響すると考えられる。なお審議にあたった衆議院文部科学委員会と参議院文教科学委員会では、7項目にわたる付帯決議がなされているが、内容は両院委員会とも同じである。

 今回の改正で新たに定められた、市町村が作成する「文化財保存活用地域計画」と、都道府県による「文化財保存活用大綱」は、地域の文化財を総合的に保存・活用していくことを目指すものとして期待される。所有者等が作成する個別の指定・登録文化財の「保存活用計画」も新たに定められた。これらの計画や大綱が法律上に位置づけられたことは、地方自治体による文化財の保存と活用の施策を促進するものとして期待される。ただし、付帯決議でも指摘されたように、保存と活用の均衡が取れたものとなることが必要である。政府が主導する「文化経済戦略」に沿って指定文化財等の観光資源としての利用が推進される中、「活用」が資源を低下させるような乱活用にならないよう配慮する必要がある。文化資源たる文化財を消耗することなく持続可能な活用が基本原則であることを、日本考古学協会はあらためて訴えたい。

 そのためには、今後改正法施行までに示される関係省政令の整備、都道府県の大綱と地域計画や個別の保存活用計画の内容が重要となってくると考える。今回の法改正で示された新たな制度は、今後の具体的運用によって、左右される部分が多いと考える。特に、個別の指定・登録文化財についての「保存活用計画」は、短期間で多数の計画策定が進む可能性もあるが、普遍的かつ持続可能な活用を担保する慎重な検討が望まれる。

 これらの施策の実施にあたっては、「文化財保存活用支援団体」を市町村が指定する制度も新たに設けられ、指定・登録文化財の管理責任者として、「文化財保存活用支援団体」やその他の適当な者を選定することが可能となった。どのような団体が、いかなる位置づけで関与するかが課題で、持続可能な活用を実現するのにふさわしい者が選定されるよう、具体的な基準などを国が示していくことが望まれる。

 また、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正によって、地方公共団体における文化財保護に関する事務を、条例の定めるところにより、当該地方公共団体の長が管理・執行できることとなった。首長が推進する開発行為の中で重要な遺跡が発見された場合、現在でも保存は難しい場合が多い。このような状況の中で文化財保護の所管が首長部局へ移動すると、いままで以上に協議が難しくなることが危惧される。付帯決議でも、「文化財の本質的な価値が毀損されないよう十分に留意する」ことが求められている。文化審議会の答申で示されたように、平成25年度の企画調査会報告の「4つの要請」が、実効性のある形で担保されるよう注視していきたい。同時に、現在の開発と文化財保護との関係をめぐる問題を解決していくためには、開発に際しての適正な文化財保存方法の基準の整備、その基準の運用をめぐるチェック体制の整備、文化財の評価に変更が生じた場合に柔軟に対処できるシステムを作っていくことなど、体制整備を進めていく必要性を指摘したい。

 今回の改正による新たな制度を実効性あるものとしていくためには、地方自治体における専門的職員の拡充が不可欠である。付帯決議でも「文化財に係る専門的知見を有する人材の育成及び配置が重要」と指摘されているように、各分野での専門的職員の配置及び育成が重要である。特に埋蔵文化財に関しては、開発行為などによる破壊の危険性に常に直面していることから、専門的職員の配置へ特段の配慮が必要と考える。さらに、各分野での専門的職員の配置に加えて、地域の様々な文化財を総合的に把握し保存と活用を図る、マネージメント能力を有した人材の配置が不可欠であることを指摘したい。

 今回の法改正で掲げられた「未指定を含めた文化財をまちづくりに活かしつつ、地域社会総がかりで、その継承に取り組んでいく」ためには、歴史・考古・民俗・美術・建築・自然環境など、多方面の知識や総合的なマネージメント能力を有した人材が必要である。地域社会の実情を踏まえた、地域づくりのための知識や関係機関・団体との連携も不可欠である。研修制度の充実などを通じた人材育成、諸施策を実施する際の財政的支援などを通じて、地方自治体の体制整備や支援を進めていくことが重要である。

 今回の改正を受けて、積極的な地方自治体にとっては、新たな制度を活用して施策を実施していくことが期待できる。一方で、自治体間の格差が拡大する懸念がある。様々な理由で保存のための施策や活用が進まない文化財を、いかに継承していくべきか、検討を進め、施策を充実していくことを望みたい。

 

 

※文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律については、以下のURLにて詳細が閲覧できます。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/1402097.html