第25回「フランス考古学におけるコロナウイルス・パンデミックの影響」 アキアン・ミリアム

 新型コロナウイルスのパンデミックは、社会の各レベル、組織や施設の運営、日常生活のあらゆる場面に影響を与えて、それらを深く変えました。フランスでは、三回の完全ロックダウンや厳しい外出制限が実施されました。それはフランス考古学の調査・研究活動にも、大きな影響を及ぼしました。そのなかで、事前発掘調査と大学教育についての様子をご紹介します。

事前発掘調査とコロナウイルスパンデミックの影響

 事前発掘調査(救急発掘調査)は、国立事前考古学研究所(Institut national de recherches archéologiques préventives、Inrap、インラップ) 、地域の文化庁長官(DRAC、ドラック)の 考古学調査サービス(SRA)、民間の事前発掘調査企業が行っています。この考古学の企業は最初のロックダウンや外出制限により、2020年3月17日から5月まで突如すべての発掘調査の作業を止めなければなりませんでした(第一期ロックダウン)。この強制的な発掘停止や、考古学基地や研究所での厳しい作業制限は、公立施設か民間企業であるかを問わず、すべての事前考古学企業に影響を与えました。

 しかし、インラップは2020年の年次報告書の中で、第一期ロックダウンの後、急速なペースで発掘の遅れをほぼ完全に取り戻し、2020年の目標の80%を達成しました[1]。報告書では、2019年の227件に対し、210件近くの事前発掘が実施されたことが伝えられています[2]。また、最初のロックダウンでは、フィールドやラボでの作業ができない役員が自宅で作業を続け、その時間を使って既に終えた発掘の報告書などの作成を終わらせました。このように、事前発掘調査は、パンデミックの状況下でも、わずかな影響しか受けなかったようです。

 最も直接的な影響が認められたのは、間違いなく考古学の普及・活用の事業です。インラップは、診断・事前考古学的発掘の任務に加えて、考古学的な普及・研究・保存活動を行っています。度重なるロックダウンと、一般公開に対する数々の厳しい制限とによって、インラップの公開プロモーション活動はほぼ半減し[3]、訪問者数が2019年の240万人から2020年には63万人に減りました[4]

 衛生危機の状況下では、対面での活動には多くの制限があるため、いわゆる「オンライン化」された普及手段を開発するために大きな努力が払われました。インラップはウェブサイトでの様々なコンテンツ(ニュース、ニュースレター、教育コンテンツなど)を公開し、ウェビナー、ドキュメンタリー番組への参加、インターネットで自由にアクセスできる考古学専門のポッドキャスト番組の立ち上げなどに取り組みました。このようにインターネット資源への取り組みが強化されたことで、インラップのウェブサイトへの訪問者数は2019年の96万人から2020年には150万人、9.7%の増加となりました[5]

 この衛生危機の影響の一つとして、考古学研究を促進するための努力がデジタル技術に向けて部分的に再編成されたように思われます。また逆に、インラップは現代的な問題を考古学的に捉えた、新しいタイプの軽やかな巡回展示会「アーケオカプセル」[6]も開発しました。

 

大学とコロナウイルス・パンデミックの影響

 考古学の知識を広める博物館や大学は、発掘調査よりも長期にわたり、申告な影響を受けました。特に大学はロックダウンでキャンパスが閉鎖され、12ヶ月以上オンライン授業を余儀なくされました。学生は、相次ぐロックダウンによって、少なくとも58%が有給活動(仕事又はアルバイト)の喪失または減少という状況に陥りました[7]。第一期のロックダウンでは、アンケートに対し33%以上の学生が「経済的に困っている」と回答し、全体の6%の学生が「十分な食事ができなかった」と回答しています[8]

 このような学生の生活環境の悪化を受けて、2020年9月の年度開始時からさまざまな学生支援のための協会による食糧配給が行われ始めました。このような取り組みは、フランスのすべての大学に広がり、今年度も継続しています。パリ大学のPangeo協会は、2020年から2021年の間に、1,200個以上の食糧援助をパリ大学の300人以上の学生に行いました。パンテオン・ソルボンヌ大学を拠点とするCo’p1協会は、週に800個近くの食料バスケットを配布しています[9]。また、より地域に密着したLinkee 協会では、不安定な状況にある学生に、週に25,000食近くを配布して、2020-21年度全体で350,000食以上を配給しました[10]。これらの協会は、大学や町役場、地域からの補助金を受けていますが、他の協会からの寄付金や売れ残った食品によって上手く運営されています。学生生活の不安定さが増していることを受け、フランス政府は2021年1月25日から7月まで、大学内の学食で学生は一律1ユーロ(130円)で食事ができるようにしました。このように、学生を対象とする国家や相互扶助団体の多様な支援活動は、学生に衛生危機が及ぶことを防ぎました。

 この危機は全体社会にさまざまな悪影響を与えましたが、その一方で、人々の間に素晴らしく美しい連帯や助け合いの心を育みました。パンデミックは人々を孤立させましたが、コロナウイルス危機の悪影響をリバースする一つの希望は、手を伸ばしてお互いに助け合うことの大切さに、みんなが気づいたことではないでしょうか。パンデミックのなかで発見した、新しい関係性や助けあいの精神のなかに、明るい未来への道が見つかるのではないかと思います。


[1] Institut national de recherches archéologiques préventives, Rapport d’activité 2020, 2021, p. 37.
[2] Institut national de recherches archéologiques préventives, Rapport d’activité 2020, 2021, p. 43.
[3] Institut national de recherches archéologiques préventives, Rapport d’activité 2020, op. cit., p. 39.
[4] Ibid., p. 46.
[5] Ibid.
[6] 知らせ |考古学と社会:Archéocapsule, https://www.inrap.fr/archeologie-et-societe-les-archeocapsules-13968, 2021年8月18のデータ ; Archéocapsule • 実習, https://travaux-pratiques.fr/, 2021年8月18日のデータ.

[7] « OVE Infos n°43 | Student life in 2020 », op. cit., p. 5.
[8] Ibid., p. 5.
[9] Co’p1 – Solidarités Étudiantes, https://cop1.fr/, 2021年8月25日のデータ.
[10] Linkee, http://www.linkee.co/, 2021年8月25日のデータ.

 


パリ大学のPangeo協会の食糧援助活動

 


★なお、アキアン・ミリアムさんは、本コラムの原稿として、長文のレポート「フランスの考古学におけるコロナウイルス危機の影響」送ってくれました。本コラム欄の体裁上、そのダイジェスト版を掲載させていただきましたが、せっかくですので、元の原稿をこちらに掲載させていただきます。貴重な情報が満載ですので、ぜひご一読ください。

フランスの考古学におけるコロナウイルス危機の影響
-2020年3月から2021年8月までの期間-