第85回(2019年度)総会報告

 一般社団法人日本考古学協会第85回(2019年度)総会報告

  日本考古学協会第85回(2019年度)総会は、5月18日(土)、19日(日)の2日間、駒澤大学駒沢キャンパスにおいて開催された。駒澤大学での開催は、第79回(2013年度)総会以来6年ぶり、計5回目である。寺前直人実行委員長のもと、駒澤大学の卒業生、学生などの尽力によって、滞りなく総会が進行した。
 18日は、大学記念講堂において、総会と講演会及びセッション1が開催され、その後、駒沢キャンパスに程近い深沢キャンパス内の洋館大ホールにおいて懇親会が開催された。19日には、1号館で研究発表とセッション、種月館(3号館)でポスターセッション、高校生ポスターセッション及び図書交換会が行われた。このほか、本総会にあわせ、禅文化歴史博物館では、「東日本の須恵器-駒澤大学の考古学-」と題する企画展(会期:2019年5月13日~8月4日)が開催された。参加者は、18日459名(正会員338名、賛助会員5名、一般116名)、19日997名(正会員614名、賛助会員13名、一般370名)で、合計1,456名であった。なお、2019年4月1日時点での会員数は4,074名であり、前年度の物故者は20名、退会者は58名であった。
 18日午前10時から開催された総会の冒頭では、司会から総会が成立要件を満たしているとの報告があった。その後、谷川章雄会長から開会の挨拶があり、近年首都圏における総会開催校の選定が難しくなる中で、非常に短い間隔で総会の開催を引き受けていただいた駒澤大学に対する謝意が表明され、毎年の総会を確実に開催していくことが本協会のきわめて重要な役割であることなどが述べられた。次に、開催校を代表して寺前実行委員長による挨拶があり、出席者に対する歓迎の辞が述べられるとともに、本総会では参加者の便宜を図る新たな取り組みとして、会場内に臨時の託児室を設けたことが紹介された。以上の開会挨拶が行われた後、この1年間に他界された会員への黙祷が捧げられた。
 議事に先立ち、司会から定款によって会長が議長を務めることが紹介され、議長から副議長と書記の指名が行われ、議事に入った。
 第1号議案「新入会員の承認に関する件」では、入会資格審査委員長から47名が審査を通過したとの報告があり、引きつづき組織担当理事から今年度新入会の賛助会員として、法人会員1件、フレンドシップ会員5名、学生会員0名、計6件の申込みがあったことが報告され、いずれも原案どおり承認された。つづいて、新入会員が登壇し、自己紹介の後、代表して髙野晶文会員(新潟県)が新入会員としての決意と抱負を述べた。
 第2号議案「2018年度事業報告・収支決算承認に関する件」では、まず協会賞選考委員会から、宮本一夫会員の『東北アジアの初期農耕と弥生の起源』が大賞に、高橋信武会員の『西南戦争の考古学的研究』と中久保辰夫会員の『日本古代国家の形成過程と対外交流』が奨励賞に、黒須亜希子会員の「木製『泥除』の再検討-弥生時代・古墳時代の出土事例を中心として-」、田中 裕氏の「Progress in Land Transportation System as a Factor of the State Formation in Japan」が優秀論文賞に推薦され、理事会で承認されたことが報告された。つづいて、2018年度事業報告(総大会・公開講座・理事会・年報・機関誌等)、陵墓報告、研究環境検討委員会報告、広報委員会報告、国際交流委員会報告、社会科・歴史教科書等検討委員会報告、埋蔵文化財保護対策委員会報告、災害対応委員会報告、平成28年度熊本地震対策特別委員会報告、将来構想検討小委員会報告、70周年記念事業小委員会報告が行われた。その後、財務担当理事から2018年度決算として、賃借対照表・正味財産増減計算書・特別会計報告(平成28年度熊本地震募金)についての説明が行われた。これを受けて、監査からの監査報告が行われ、適切かつ正確であることが報告された。以上の報告を受けて総括的な質疑応答が行われた後、事業報告及び収支決算は原案どおり承認された。
 第3号議案「理事の選任に関する件」では、矢島國雄副会長から現常務理事の退任に伴い、新たに高麗 正会員を常務理事として選任することについて説明があり、原案どおり承認された。
 第4号議案「名誉会員の承認に関する件」では、近藤英夫副会長から名誉会員選考委員会の議にもとづき、本協会の創設期から幾度となく重要な会務に携わり、多大な貢献をされた坂誥秀一会員を新たに名誉会員に推挙したいとの説明があり、原案どおり承認された。
 審議終了後報告事項に移り、「2019年度事業計画・収支予算に関する件」、「『日本考古学年報』の体裁及び発送方法の変更に関する件」、「会費納付に関する件」、「諸規定の一部改正に関する件」、「永年在籍会員表彰の件」についての報告が行われた。
 報告事項終了後、名誉会員、日本考古学協会賞、永年在籍会員(48名)の表彰式に移り、名誉会員と協会賞は各受賞者が、永年在籍会員については出席者を代表して菊池徹夫会員が挨拶を行い、総会は終了した。その後、壇上で表彰者の記念撮影が行われた。
 午後2時からの記念講演会では、谷川会長による挨拶につづき、長谷部八朗・駒澤大学学長によるご挨拶があり、つづいて酒井清治会員(駒澤大学教授)による「生産の考古学-窯業-」と題する講演が行われた。その内容は、駒澤大学における考古学研究の歩みとともに酒井会員が長らく取り組んできた窯業研究の成果を紹介しつつ、後に続くセッション1の問題提起を含むものであった。
 午後3時20分からは、セッション1「東日本における須恵器生産と消費」(研究発表5件)が開催された。セッション1終了後、深沢キャンパス洋館大ホールに会場を移し、懇親会が開催された。
 19日には、午前・午後を通して口頭発表が行われ、第1~3会場において各10件、計30件の研究発表があった。これと併行して、第4~7会場では8件のセッションが開催された。第4会場では、午前にセッション2「環日本海北部地域の土器出現期」(研究発表5件)、午後にセッション3「黒曜石と原産地をめぐる人類の行動研究の新局面」(日本地質学会との共催)(研究発表6件)が、第5会場では、午前にセッション4「稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築-」(研究発表6件)、午後にセッション5「群馬県居家以岩陰遺跡における早期縄文人の骨考古学」(日本人類学会骨考古学分科会との共催)(研究発表4件)が、第6会場では、午前にセッション6「『隔離・漂泊・排除』の記憶を掘る-近現代のハンセン病者への考古学的接近-」(研究発表5件)、午後にセッション7「考古学・埋蔵文化財における情報処理のワークフローと実践」(研究発表5件)が、第7会場では、午前に日本考古学協会平成28年度熊本地震対策特別委員会・災害対応委員会・埋蔵文化財保護対策委員会によるセッション8「災害と文化財-その現状と課題-」(研究発表5件)、午後に日本考古学協会英文機関誌編集委員会によるセッション9「先史時代狩猟採集民の景観考古学-交錯する時空間スケールからみた物質文化と持続可能性-」(研究発表5件)が行われた。
 ポスターセッション会場では計37件の研究発表が行われ、午後1~2時には発表者による解説が行われた。高校生ポスターセッションでは、昨年より4件多い計16件の発表が行われた。本年度も意欲的な発表が数多く見られた中、審査の結果、岐阜県立関高等学校地域研究部・文芸部の「雑誌『ひだびと』と江馬修の考古学研究」が最優秀賞に、福岡県立朝倉高等学校史学部の「為朝伝承の聖地・朝倉-新たなる聖地の誕生-」、福岡県立糸島高等学校歴史部の「九州型石錘の展開と漁業集団」の2件が優秀賞に選ばれた。
 今回の総会は、2日間とも晴天に恵まれ、多くの参加者を得て盛況のうちに終えることができた。これもひとえに駒澤大学の多大なご支援と、実行委員会・学生の皆様方のご尽力によるものであり、あらためて厚く御礼を申し上げたい。                                                                                 

                                                                                                             (総務担当理事 滝沢 誠)

一般社団法人日本考古学協会第85回(2019年度)総会(抄録)

日 時 2019年5月18日(土) 午前10時~午後0時10分
会 場 駒澤大学記念講堂
議長団 議長:谷川章雄会長、副議長:相京健史会員・森原明廣会員  司会:小澤正人理事

 司会の小澤理事から、2019年4月1日現在の会員数4,051名のうち、本日の総会出席者106名(午前10時現在)、委任状預かり分1,243名、計1,349名で、総会が成立する旨の報告があり開始する。
 開会にあたり、一般社団法人日本考古学協会を代表して、谷川章雄会長から次の挨拶がある。
 駒澤大学の寺前直人先生を中心とした実行委員の方々、大学からは施設、会場の利用に供し感謝したいこと、1948年設立以降去年70周年を迎え、現在「転換期を迎えた日本考古学と日本考古学協会」という名称の記念事業を行ってきていること、さらこの転換期に会員の皆さんの意見を頂き、どういう方向に進むべきかを考えていることを、後ほど審議事項などとして諮りたいとした。続いて、今回の実行委員会の寺前直人委員長から挨拶があった。
 次に、司会から審議に先立ち前年度の物故会員20名の方のお名前を読み上げ黙祷を捧げた。また、本総会の議長は、定款第33条の規定に基づき会長がこれにあたるとの説明があり、副議長については、群馬県の相京健史会員、山梨県の森原明廣会員、書記には千葉県の稲葉昭智会員、埼玉県の池尻篤会員が指名され、会場出席者の承認を受けた。また、議長は、議事に先立ち議事録署名者としての静岡県の篠原和大会員と東京都の山﨑和巳会員2名を指名し両会員の了承を得、審議に入る。

議 事

【審議事項】

第1号議案 新入会員の承認に関する件
 正会員と賛助会員に分けて審議を受ける。正会員については、入会資格審査委員会の上敷領久委員長による。入会申請は総数48名あり、第1次審査で1名が資格基準を満たさないとされた。再審査の結果は同様の判断となった。2019年度正会員入会資格者は47名との報告があり、資格該当者に対する異議申し立ては無かったとの説明がある。
 賛助会員については佐々木和博理事による。内訳は法人会員1件、フレンドシップ会員5名の計6件について理事会で審議して承認された。なお、法人会員については、3月会報で意見を求めたが異議の申し立ては無かったとの説明がある。
 議長から第1号議案「新入会員の承認に関する件」について、会場に質問を求めた。質問はなく直ちに決議に入り、拍手をもって原案どおり承認される。新入正会員が登壇し、各会員からの一言の後、47名を代表して新潟県の髙野晶文から新会員としての挨拶がある。
第2号議案 2018年度事業報告、収支決算承認に関する件
 配布資料記載の順により、最初に事業報告、次に収支決算について行う。各担当理事から事業内容及び委員会における業務の説明を行う。
〈1〉2018年度事業報告
1.日本考古学協会賞の報告
 関根達人理事から説明。日本考古学協会賞規定の一部改正に伴い前回から優秀論文賞が創設された。今回第9回の応募件数は過去最大の14件があり、また論文賞については『日本考古学』とJJAの方から推薦が2件、計16件に対し本年3月6日の選考委員会で審査された。大賞には宮本一夫氏の著書『東北アジアの初期農耕と弥生の起原』、奨励賞は高橋信武氏の著書『西南戦争の考古学的研究』、中久保辰夫氏の著書『日本古代国家の形成過程と対外交流』の2件。優秀論文賞は『日本考古学』第43号に掲載された黒須亜希子氏の「木製『泥除』の再検討-弥生時代・古墳時代の出土事例を中心として-」とJJAVol.5,No.1に掲載された田中裕氏の「Progress in Land Transportation System as a Factor of the State Formation in Japan」。以上5件を理事会に推薦し承認されたこと、推薦内容の詳細は協会ホームページで掲載される予定との説明がある。
2.総会・大会・公開講座等、3.理事会等、4.年報・会報・機関誌等
 小笠原永隆理事から、総会資料に沿って2.3.4.についての一括報告がある。
5.陵墓報告
 杉井健理事から説明。日本考古学協会は、陵墓関係16学協会において陵墓公開運動全体に関わる連絡調整役を担うこと、陵墓関係行事の陵墓調査とその公開について概説を行う。
 2018年度の主要活動は、限定公開と呼ばれるもので大阪府の大山古墳(仁徳陵古墳)における発掘調査の見学、また工事中の立会い調査を実施。また陵墓公開については宮内庁との懇談をはじめ、特に大阪府の伝安閑陵高屋築山古墳の観察、第3次リストの提出、また大阪府の百舌鳥・古市古墳群の世界遺産の登録に関し、推薦された段階でそれに関する声明を出していること、特に陵墓の公開性、構成資産名称、仁徳天皇陵古墳という名称等々について問題点があり、登録認定が進展するなか今後の動向を注視していきたい、と結んだ。
6.研究環境検討委員会報告
 堀内秀樹理事から説明。当委員会は、考古学研究に関わる研究環境を改善し、考古学の発展と広い理解の促進を目的とした委員会であること、2018年度は考古学の教育環境と後継者育成に関すること、及び埋蔵文化財の資格制度に関する2つの課題に重点を置いた。前者は採用する側の意識を把握するために埋蔵文化財保護行政に関わる職員の採用動向に関するアンケートを実施し、春の総会で結果速報、秋の大会でその分析結果を公表。後者の認定考古士制度については、①既存の資格制度と認定に関わる情報収集、②文化庁が行ってきた或いは現在の資格に関する議論、③認定考古士の目的効果に関する議論、④資格認定の制度運営経費に関する議論、⑤資格問題と考古学協会の関わり方の以上5項目を検討課題として情報収集を行い、かつ新文化財保護法、それに伴う文化庁の研修制度のスタートなど新たな課題にも注目する必要性を言及した。
7.広報委員会報告
 小澤正人理事から説明。2018年度の活動報告として、主に広報と協会サイトの在り方について検討したこと。近年、賛助会員など新たな会員制度が導入されたことで協会活動の周知も一層重要な局面を迎えている。現在配布のリーフレットをはじめ賛助会員向けに特化した情報収集や発信も不可欠である。一方の協会サイトは、随時更新しているものの、当協会の役割としては協会内部の情報発信に止まらず考古学関係のプラットフォームとしての位置づけも必要。2018年度で検討したこうした提言・発想を踏まえ、今後は他の委員会活動とも連携する施策を進めたい、とした。
8.国際交流委員会報告
 佐々木憲一理事から説明。国際交流委員会の通年事業として実施している2つの事業について報告。1つは、英文による海外向けの情報発信事業で、毎年開催される「発掘された日本列島」展から日本考古学の研究成果を厳選し、協会英文ホームページで公開しているもので、2018年度は7件を選び協会ホームページに公開された。2つめは、国内外に在住する日本人の研究者による外国での発掘調査・研究の成果を紹介する「アジア考古学四学会合同講演会」事業で、東南アジア考古学会、日本中国考古学会、西アジア考古学会、日本考古学協会の四学会が合同で企画し、12回目を迎えた2018年度は、1月12日に早稲田大学戸山キャンパスで「貨幣の世界」をテーマに開催。参加者も92名と多く、日本人研究者による外国考古学研究の成果発信の場として定着した感がある。
9.社会科・歴史教科書等検討委員会報告
 佐古和枝理事から説明。2002年に小学校の歴史教科書から旧石器、縄文時代の記述が削除されたことを契機に2006年に小委員会として発足、2008年に常置委員会に位置づけられた委員会である。
 2017年9月に告示された小学校指導要領の解説社会編に、北海道、沖縄の独自の文化や伝統があることにも触れるようにとするという文面記載を受けて2018年5月の総会の研究発表でテーマセッション「教科書にある歴史 ない歴史」を開催した。ポスターセッションでは中世以降の考古学資料の扱いをテーマに現状分析を行う。2018年度の静岡大会では、学校教育と考古学というテーマで各地の教育実践を紹介するポスターセッションを行った。こうした活動の成果は毎年「歴史教科書を考える」という印刷物として協会の研究発表会等の場での配布、また協会ホームページに掲載している。今後の取り組みとしては、引き続き小学校の歴史教科書の記述が旧石器時代から始まるよう働きかけを行うとともに、旧石器時代に限らず考古学の研究成果が学校教育の場でより適切に有効活用されるための活動を続け、その成果を情報発信したいと結んだ。
10.埋蔵文化財保護対策委員会報告
 松崎元樹理事から説明。1965年より本協会の常置委員会として活動。団体として各地域に設置されている連絡会及び委員からの報告を基に幹事会で討議をして、保護問題に取り組み、また状況に応じて現地の視察や協議、あるいは保存要望書等の提出を行ってきた。2018年度では総会開催時の全国委員会、静岡大学大会での情報交換会及び月例の幹事会を合計9回開催し、また、保護について文化庁との懇談を行った。
  具体的には茨城県坂東市神明遺跡、千葉市鴨川市・南房総市嶺岡牧の野生動物被害に関するもの、長崎県庁跡地や福岡県北九州市城野遺跡等に対して関係自治体等に要望書などを提出。最近では東京都港区済海寺の伊予松山藩主久松家墓所の改葬問題等、非常に重要な案件に取り組んでいる。
11.災害対応委員会報告
 杉井健理事から説明。常置委員会として設置されて2年目。委員会設置目的は、近年大規模災害が頻発しているが、防災減災の観点から事前に対策・対応をすることにある。2018年度を振り返ると6月に大阪府で地震、7月に中四国で甚大な豪雨災害、9月の台風直後に北海道を震撼させた震度7を観測する地震、それに正月明けの熊本地震等々。こうした際に協会会員の安否確認をし、また文化財の災害情報の収集を行いホームページに掲載してきた。全国の学会等で「文化遺産防災ネットワーク会議」に参画し、先の埋蔵文化財保護対策委員会とも共同したセッションを明日開催する。
12.平成28年熊本地震対策特別委員会報告
 宮本一夫委員長から説明。熊本地震後3年を迎え復旧等の現状と課題について。第1に明治大学における総会のセッションでは「平成28年熊本地震で被災した文化財の保護・復旧および埋蔵文化財調査・保護の現状と課題」と題した4本を発表。特別史跡熊本城跡あるいは井寺古墳そして通潤橋の復旧並びにその課題を取り上げた。行動指針に基づき益城町大辻遺跡や本山神宮の本殿修復、井寺古墳・釜尾古墳の実態調査を行い、続いて宇城市、益城町、熊本市、熊本県の文化財担当者との面談を行った。そこでは、復旧対策或いは災害復興に伴う調査が数多く進められ、これらは協会のホームページのブログ「災害の考古学」で公開している。なお、明日であるが先報告の災害対策特別委員会とも共同で報告会を行う予定である。
13.将来構想検討小委員会報告
 滝沢誠理事から説明。当委員会は、協会が将来に向けて抱えている諸問題を継続的に議論していく委員会で、会長と副会長、総務担当理事で構成。2018年度は特に次の5点を検討。①会員が減少傾向にあるなかでの将来的な財政運営や総会・大会の在り方を中心に議論。具体的には安定的な財源確保の観点から前納率の向上のための対策、総会の当日に多額の現金を取り扱う問題点である。後者は本日の受付から施行させて頂いた。②開催経費が大きく膨らむ傾向にあることから首都圏における開催校の選定が非常に困難になる。そのため総会・大会時における研究発表に関わる参加費の徴収について議論を始めたこと。③賛助会員制度を開始したが、さらに魅力あるものとして増員策を図りたいこと。④個人情報保護との関連で近年は各種の団体における名簿作成が極めて困難になっているなかでの会員名簿の作成是非・取扱について。以上の課題は今後も検討する。
14.70周年記念事業小委員会報告
 矢島國雄理事から説明。2018年度に協会設立70周年を迎え次の記念事業を実施した。①刊行物として「日本考古学と日本考古学協会-1999~2018年-」を『日本考古学』の第47号として刊行し、雄山閣から『日本考古学・最前線』として、現況の日本の考古学会の現状を網羅的に総括する図書を出版。②記念講演会として静岡大会と関連して登呂博物館において「子どもたちと語る考古学」という共催の公開講演会、そして「加曽利貝塚の現代的意義-調査と保存の歴史に学ぶ-」を加曾利貝塚博物館と共催で講演会を開催。今年度も岩宿遺跡及びモヨロ貝塚で公開講演会を予定。③顕彰事業として、前回の総会時に協会の発展に貢献された70名の会員を表彰。なお、本記念事業は、協会の歴史的な記録類の整理、アーカイブの整備はまだ継続中である。
〈2〉2018年度収支決算
 萩野谷悟理事から説明。2018年度事業報告が終了したことを受けて、資料に沿って収支決算のうちここでは要点又は注意点のみの説明とする。財務状況を示す貸借対照表のうち、固定資産には動きはないこと、流動資産は27,304,317円であり、その中には未収会費が408万円以上ある。これは2017年、18年度の2箇年度分の滞納額の合計を示す。貸借対照表の考え方で、入るべきであるけれども未収金は債権であるが資産に含めるという表記となる。つまり、年会費の約1割の会費が滞納されていると認識している。会員の方には会費の全納にご協力を求めるとともに、滞納されている会員には督促を行っている所である。正味財産は33,329,010円で、前年度より479,351円減である。
 次に2018度の収支を示す正味財産増減計算書には、大部分を会費で占める経常収益は47,469,276円、経常経費は47,948,627円で給料手当以下、科目ごとに示している。これらは殆ど昨年度並の支出である。ここにある増減額は当期一般正味財産増減額として479,351円の減だが、これがそのまま貸借対照表の正味財産の減に繋がっていることを示している。熊本地震募金特別会計は募金を停止しており収入はない。現地調査も特別会計予算を使用しての調査の支出はない。
 続いて副議長は監事に事業報告及び決算報告について監査報告を求めた。唐澤至朗監事から監査対象は、本協会の財務会計、理事会や各委員会の運営・活動、事業執行状況等である。結果については、適法かつ正確に執行されている。社会環境の変化に伴って増大する協会事務の処理に対して事務局の苦労もお伝えしたい。ただ、昨年度に比べ若干の改善が見られるものの年会費の全納がなされていない点は会員の皆様にお願いするとともに改善するよう指示がある。
(質疑)
 副議長から第2号議案「2018年度事業報告・収支決算承認に関する件」について、会場から次の2点の意見及び質問等がある。
 ①京都府の山田邦和会員から、総会・大会の参加料の徴収計画の説明に対し、 セッション、研究会に係る参加料はやむを得ないが、総会議事への参加は会員の権利である。ついては議事参加については誤解されないよう措置をお願いしたい。萩野谷悟理事から、ご指摘のとおりであり、議事総会の参加費は検討していない旨を回答する。
 ②東京都の水山昭宏会員から協会サイトの英文表記の中にスペルの誤記があるとの指摘がある。佐々木憲一理事から、単純ミスで速やかに訂正し、以後十分な注意を払う、と伝える。
 その後、特に質問はなく直ちに決議に入り、賛成多数の拍手をもって原案どおり承認された。
第3号議案 理事の選任に関する件
 矢島國雄副会長から説明。選挙による理事とは別に1名常任理事の選出を諮りたく東京都の高麗正会員が紹介され、拍手をもって承認された。
第4号議案 名誉会員の承認に関する件
 近藤英夫副会長から説明。3年前に施行された名誉会員に関する第3条第1項の規定により50年以上の在籍、それから顕著な功績、業績のある正会員の要件に基づき理事会の推薦を経て、総会の議決によるものとされている。初年度は岩崎卓也会員は、昨年度は大塚初重会員が、そして本年度は次の事由から東京都の坂誥秀一会員をこの3月の理事会で推挙した。
 坂誥会員は1960年に立正大学文学部研究科修士課程を終了、立正大学教授、1998年には学長を務められ、現在立正大学名誉教授である。当協会では在籍58年、この間協会の企画委員(現在の理事)など歴任され、また東京都の文化財審議委員として考古学の普及啓発や文化財の保護に尽力。『歴史考古学の実践』など編著も多いと紹介がある。
 議長から、会場に質問、意見を求めたが、特に質問はなく、賛成多数の拍手をもって承認された。承認後坂誥秀一名誉会員から受賞の挨拶が次のようにある。
 協会には恩師石田茂作先生の推薦で入会し、1970年からは協会の委員となり、当時印刷費も送料もない時代で彙報という内部のものではなく会報という形式に変え、そこに出版社の広告を掲載することで印刷費を賄ったこと、名前を文献頒布会から現在の図書交換会に改め、出版社の方には会場整理費を徴収、また最後には交換会場での山内清男先生とのやり取りなど秘話が披露された。因みに、夕方に開催された懇親会において先生の後段が披露された。
 前年の大塚初重名誉会員は協会初期の逸話、今回は続く協会の基盤形成期の時代、ともに会場に笑い声を誘い、一同和やかな雰囲気の中で、議事前半を締めくられた。議長は次の第6号議案「その他」について理事会に求めたが、特に追加議案の提案はなく、審議をすべて終了する。

【報告事項】

1.2019年度事業計画・収支予算に関する件
〈1〉2019年度事業計画
 滝沢誠理事から説明。総会資料に沿って2019年度事業計画の一括説明がある。総会はここ駒澤大学で本日と明日。大会は岡山大学で2019年10月26・27日を予定。巡検の予定はない。アジア考古学四学会合同講演会、70周年記念事業として10月に北海道のモヨロ貝塚、11月に岩宿遺跡との関係で公開講演会を予定。年報・機関誌・会報等の定期刊行物は従前どおりで、(和文)機関誌『日本考古学』は2冊、英文機関誌『Japanese Journal of Archaeology』(Web公開)は科学研究費の補助金を活用する。通例の理事会のほか、新入会員の募集、賛助会員、特にフレンドシップ会員向けの企画を更に充実させること、さらに1年後となるが理事選挙に向けての準備を開始する。
〈2〉2019年度収支予算
 萩野谷悟担当理事から説明。2019年度の収入予算は会費、補助金ほか計46,745,000円、昨年度より590,000円減となるが、このなかには補助金の昨年度より40万円減が含まれる。支出総額は49,338,000円で昨年度より2,847,000円減額となる。固定的経費のほか各委員会からの予算要求及び昨年度実績を考慮して策定された額である。
 特別会計(平成28年熊本地震募金)は、既に募金を停止しており収入はない。支出予算額には、被災地の埋蔵文化財調査、修復の現状のシンポジウムを現地で開催する予算計上である。
2.『日本考古学年報』の体裁及び発送方法の変更に関する件
 小笠原永隆理事からの説明。協会発足当初から今日まで当協会の主要事業のひとつとして年報が編集・刊行されてきた。しかし、昨今の出版業界、宅配業界の急激な変化があること、特に刊行物の送料の増額が避けられないことが明白となった。以前の会員へのアンケート結果も踏まえ、厳しい財政事業にあり、また会員の負担軽減できる苦肉の策を考案した。創刊以来B5判・横組1段・上製本という体裁であったものを、つまり次号となる71号(2018年度版)からA4判・横組2段組の構成・並製本、現在の『日本考古学』と似た体裁に変更することとした。
3.会費納付に関する件
 都築恵美子理事からの説明。年会費の振込手数料について、これまでの当協会支払いの分を来年度から会員の負担とさせて頂きたい。具体的には現在のATMの郵便振込手数料の料金はゆうちょ銀行で150円、それと今度銀行口座を開設致したが、銀行口座からは216円という費用が発生する。従前よりお願いしている年会費の前納制と合わせて、ご理解いただきたい。
4.諸規定の一部改正に関する件
 関根達人理事から説明。今回は日本考古学協会賞の一部規定改正である。前回(第8回)「優秀論文賞」が設定された。この賞を設けた主な目的は2つの機関誌、和文機関誌『日本考古学』と英文機関誌『Japanese Journal of Archaeology』に優秀な論文をたくさん掲載したいことであった。
 因みに、この「優秀論文賞」は当該年度に載った論文等から各機関誌の編集委員会が推薦をし、それを協会賞選定担当が選定する流れにある。他の大賞や奨励賞と違い、応募ではなく編集委員会からの推薦という形である。現行の規定条文では明確でなかったため「応募」された方があった。そこで今回、各編集委員会から推薦することを条文に掲げ明確化した。
5.永年在籍会員表彰の件
 矢島副会長からの説明。会員の顕彰に関する内規の改正。昨年の総会で70周年事業という形で永年在籍の方々の表彰を実施。今後同じ周年事業という形で5年又は10年置きになると、今後表彰会員がその都度非常に多数となることが予想される。そこで会員歴50年を超えた方は毎年度の総会でもって永年在籍の表彰、シニア・フェローの称号を授与するいう手続きを進めたい。
 議長は予定していた報告事項が終了し、会場に質問、意見を求めたが、特に質問はなく、報告事項を終了し、2019年度一般社団法人日本考古学協会総会の議事はここで終了。
 総会議事終了後、名誉会員1名、永年在籍会員48名のうち代表して菊池徹夫会員、日本考古学協会賞5名の表彰状の授与式及びご挨拶を行い、閉会にあたり矢島國雄副会長からの挨拶があり、散会した。なお、続けて、表彰者の記念撮影を行った。
 本抄録は書記及び駒澤大学の実行委員会の協力を頂き、上記本文に掲げた議長団、議事録署名の諸会員による了承・確認頂いた。感謝申し上げる次第である。

                                                                                                              (協会事務局長 高麗 正)