第84回(2018年度)総会報告

一般社団法人日本考古学協会第84回(2018年度)総会報告

 日本考古学協会第84回(2018年度)総会は、5月26日(土)、27日(日)の両日、明治大学駿河台キャンパスにおいて開催された。明治大学での開催は、第73回(2007年度)総会以来11年ぶりである。石川日出志実行委員長のもとに95名のOBや学生などの尽力によって、円滑に総会が進行した。
 26日は、リバティタワー1階1013教室(リバティホール)において、総会と講演会(70周年記念講演会)が開催され、その後、リバティタワー23階の岸本・宮城・矢代ホールで懇親会が開催された。翌27日には、リバティタワーで口頭発表とセッション、アカデミーコモン2階ビクトリーフロアでポスターセッション・高校生ポスターセッションと図書交換会が、また2013年に竣工したグローバルフロント1階多目的ホールでも図書交換会が行われた。参加者は、26日396名(正会員328名・賛助会員8名・一般60名)、27日1,188名(正会員711名・賛助会員15名・一般462名)で、合計1,584名に上った。なお、2018年度4月1日時点での会員数は4,052名であり、前年度の物故者は14名、退会者は71名であった。なお、総会に併せて明治大学博物館では、「明大考古学の過去・現在・未来-モノ学のその先へ…-」と題する企画展(会期:2018年5月21日~6月21日)が開催された。
 26日午前10時から開催された総会では、まず司会から総会が成立要件を満たしているとの報告があった。その後、谷川章雄会長から開会の挨拶があり、日本考古学協会設立に尽力されたお一人の杉原荘介先生が永らく教鞭をとられた明治大学で70周年記念総会が開催されるのは偶然ではないのではないか、今年度は理事の改選があり理事会は新たな体制で臨むことになるが、前理事会から託された課題に引き続き取り組んでいきたい、今年度は70周年を記念した様々な事業を計画しているが、その一貫として本総会で名誉会員・永年在籍会員の表彰を行うことなどが表明された。次に、開催校を代表して土屋恵一郎明治大学学長から歓迎のご挨拶があり、考古学は明治大学文学部の看板科目であり、杉原荘介先生・大塚初重先生・石川日出志先生など、多くの先生方によって伝統が築かれたという紹介があった。続いて石川日出志実行委員長による挨拶があり、日本考古学協会は1948年に創設され、その2年後の1950年に明治大学に考古学専攻課程が設置されたこと、70周年総会では10会場でポスターセッションを含む120件の発表があり、高校生ポスターセッションを加えると132件もの発表が行われることなどが紹介された。開会挨拶後、岩崎卓也名誉会員をはじめ14名の他界された会員への黙祷が捧げられた。
 議事に先立ち、司会から定款によって会長が議長を務めることが紹介され、議長から副議長と書記の指名が行われ議事に入った。
 はじめに、第1号議案「新入会員の承認に関する件」では、入会資格審査委員長から46名が入会審査を通過したとの報告があり、引き続き組織担当理事から今年度新設した賛助会員について法人会員3件、フレンドシップ会員16名、学生会員17名、計36件の申し込みがあったことが報告され、いずれも承認された。ただちに、新入正会員が登壇し、代表して尾崎沙羅会員(東京都)が抱負を述べた。
 次に第2号議案「2017年度事業報告・収支決算承認に関する件」が審議された。まず、協会賞選考委員会から、桒畑光博会員の『超巨大噴火が人類に与えた影響-西南日本で起こった鬼界アカホヤ噴火を中心として-』が大賞に、小寺智津子会員の『古代東アジアとガラスの考古学』と榊田朋広会員の『擦文土器の研究-古代日本列島北辺地域土器型式群の編年・系統・動態-』が奨励賞、山田俊輔会員の「鹿角製刀剣装具の系列」が優秀論文賞に推薦され、理事会で承認を得たことが報告された。その後2017年度事業報告(総大会・公開講座・理事会・年報・機関誌等)が行われ、続いて陵墓報告、研究環境検討委員会報告、広報委員会報告、国際交流委員会報告、社会科・歴史教科書等検討委員会報告、埋蔵文化財保護対策委員会報告、災害対応委員会報告、平成28年熊本地震対策特別委員会報告、将来構想検討小委員会報告、70周年記念事業小委員会報告がなされた。その後、財務担当理事から2017年度決算として貸借対照表・正味財産増減計算書・平成28年熊本地震募金特別会計報告についての説明が行われた。また、監事から監査報告が行われ、適切かつ正確であることが報告された。なお、監事より会費徴収に関して今後改善が必要であるとの付帯意見が示され、質疑応答の後、決算は承認された。
 続いて第3号議案「理事の選任に関する件」について、選挙管理委員長から当選者22名に近畿地区の非立候補者1名の当選者を加えた23名を理事に選任するとの説明があり、承認された。また、第4号議案「監事の選任に関する件」では、近藤副会長より現行の2名の監事は任期を同じくするため、今回の総会で新たな監事1名の選任を求めたいとの説明があり承認された。
 引き続き第5号議案「名誉会員の承認に関する件」について、石川副委員長から名誉会員選考委員会において大塚初重会員を名誉会員に推挙する旨の説明があり、承認された。
 審議終了後報告事項に移り、「2018年度事業計画・収支予算に関する件」、「協会設立70周年記念事業に関する件」、「日本考古学協会規則・諸規定の一部改正に関する件」についての報告がなされ、以上をもって総会は終了した。
 総会終了後、名誉会員、永年在籍会員(対象者69名)、協会賞の授賞式および記念撮影が行われた。名誉会員と協会賞は各受賞者が、永年在籍会員については出席した18名の受賞者を代表して向坂鋼二会員が挨拶した。
 午後0時30分から開かれた臨時理事会で谷川章雄理事が新会長に互選され、午後1時半から谷川章雄新会長の就任挨拶および新理事・監事が登壇し紹介された。
 午後2時から記念講演会が開催された。石川日出志会員(明治大学教授)による「日本考古学協会の創設と初期の活動」、安蒜政雄会員(明治大学名誉教授)による「日本における旧石器時代研究の歩み」と題し、70周年記念に相応しい講演会が行われた。講演会終了後、リバティータワー23階の岸本・宮城・矢代ホールに会場を移し、懇親会が開催された。
 27日には、口頭発表が午前・午後を通して行われ、第1から第3の会場で各々11件の研究発表がなされた。併せて、第4から第9会場では11のセッションが開催された。第4会場では、午前中セッション1「教育・研究・文化資源としての基準資料」(研究発表5件)、午後セッション2「土器残存脂質分析を用いた古食性復元法の最前線」(研究発表5件)が、第5会場では、午前中セッション3「新人の拡散と先住集団との文化的交替-完新世考古学・民族学からみた展望-」(研究発表4件)、午後セッション4「縄文時代初頭の『居住』とその評価」(研究発表5件)が、第6会場では、午前中セッション5「弥生時代から中世にかけての米調理時間の短縮化とその背景」(研究発表6件)、午後セッション6「弥生時代早期を再論する」(研究発表5件)が、第7会場では、午前中セッション7「喜多方市灰塚山古墳の学際的研究」(日本人類学会骨考古学分科会との共催)(研究発表6件)、午後セッション8「和歌山県磯間岩陰遺跡出土資料の研究」(研究発表4件)が、第8会場では、午前中日本考古学協会平成28年熊本地震対策特別委員会によるセッション9「平成28年熊本地震で被災した文化財の保護・復旧および埋蔵文化財調査・保護の現状と課題」、午後セッション10「文化財保護法の改正と遺跡の保存活用」(日本学術会議第1部史学委員会文化財の保護と活用に関する分科会との共催)(研究発表5件)が、第9会場では、午前中日本考古学協会社会科・歴史教科書等検討委員会によるセッション11「教科書にある歴史・ない歴史-北海道・群馬・沖縄の実践から-」(研究発表5件)が行われた。
 ポスターセッション会場(第10会場)では33件の発表が行われ、午後1時~2時には発表者による解説が行われた。3年目となる高校生ポスターセッションでは、福島県から福岡県にわたる高校から、昨年より3件多い12件の発表があり、多くの参加者でにぎわった。午後1時から高校生による説明を受けた後、表彰式が行われ、福岡県立糸島高等学校歴史部(梅本正幸・高山健太・辛島拓朗・日髙雄将・江﨑心温・山﨑由貴・日髙誠将)の「糸島地域における石工の基本的研究」が最優秀賞に、栃木県立学悠館高等学校歴史研究部(小川優花・櫻井聖人・髙橋 牧)の「岩出古墳と富士山信仰-栃木県岩出町岩倉山の信仰史-」、徳島市立高等学校歴史研究部(川上菜月・井村華子・益田明英・笠井瑠夏・生駒 杏)の「鳥居龍蔵の見た『日本』」、徳島文理高等学校郷土研究部(井上悠揮・神原聡太・中山響一)の「3Dプリンターによる埋蔵文化財の活用・普及」の3件の発表が優秀賞に選ばれた。表彰式後、谷川会長から高校生ポスターセッションへの参加校が増加したこと、研究内容が多様化するとともに年々レベルアップしており、大学生のレポートと遜色ないものが認められたという総評があった。
 以上のように、今回の総会は晴天のもとで多数の参加者を得て、盛況に開催することができた。これも明治大学の多大なご支援と、総会実行委員会・学生の皆様方のご尽力によるものであり、厚く御礼申し上げたい。

(総務担当理事 橋本裕行)

一般社団法人日本考古学協会第84回(2018年度)総会(抄録)

日 時 2018年5月26日(土) 午前10時~午後0時10分
会 場 明治大学リバティタワー1階1013教室(リバティホール)
議 長 谷川章雄会長、副議長 比田井民子会員・黒済和彦会員  司会 佐藤宏之理事

 2018年5月26日(土)午前10時開会、司会の佐藤理事から、現在の会員数が4,091名のうち、本日の総会出席者98名(午前10時現在)、委任状預かり分1,396名、合計1,494名で、本日の総会が成立する旨の報告があった。
 開会にあたり、一般社団法人日本考古学協会を代表して、谷川章雄会長から開催の挨拶として、本年度は協会設立70周年を迎えた記念すべき総会であるとともに、この記念すべき協会の創設に大変大きな役割を果たされた杉原荘介先生が教鞭を取られた明治大学において開催することができたことを祝した。続いて、開催校である明治大学土屋恵一郎学長から挨拶があった。次に、第84回総会実行委員会を代表して、石川日出志委員長から明治大学を挙げて歓迎するとの挨拶があった。
 次に、司会から審議に先立ち前年度の物故会員14名を読み上げ黙祷を捧げた。また、本総会の議長は、定款第33条の規定に基づき会長がこれにあたるとの説明があり、副議長には東京都の比田井民子会員、埼玉県の黒済和彦会員、書記には東京都の中村新之介会員、東京都の飯田茂雄会員を指名し、会場出席者の承認を受け審議に入った。

議 事
議長は、議事に先立ち議事録署名者として長野県の大竹憲昭会員、茨城県の河野一也会員の2名を指名して両会員の了承を得た。

【審議事項】

第1号議案 新入会員の承認に関する件
 本年度から正会員と賛助会員に分けて審議を受けることとした。正会員については、入会資格審査委員会の篠原祐一委員長から入会申請は総数49名あり、第1次審査で8名を保留としたが、再審査の結果3名を有資格者とし、2018年度正会員入会資格者は46名との報告があり、資格該当者に対する異議申し立ては無かったとの説明があった。
 続いて久保田正寿理事から賛助会員について説明があった。内訳は法人会員3件、学生会員17名、フレンドシップ16名の計36件について理事会で審議して承認された。なお、法人会員については、3月会報で意見を求めたが異議の申し立ては無かったとの説明があった。
 議長は第1号議案「新入会員の承認に関する件」について、会場に質問を求めたが、質問はなく直ちに決議に入り、拍手をもって原案どおり承認された。直ちに新入正会員が登壇し、46名を代表して東京都の尾崎沙羅新入会員から新会員としての挨拶があった。
第2号議案 2017年度事業報告・収支決算承認に関する件
 2017年収支決算書の説明資料として、2017年度事業報告の説明があった。
〈1〉2017年度事業報告
1.日本考古学協会賞の報告
 関根達人理事から日本考古学協会賞規定の一部改正に伴い優秀論文賞の創設について説明があった。第8回の応募件数は6件があり、2018年2月21日の選考委員会で審査した結果、大賞には桒畑光博氏の著書『超巨大噴火が人類に与えた影響-西南日本で起こった鬼界アカホヤ噴火を中心として-』、奨励賞には小寺智津子氏の著書『古代東アジアとガラスの考古学』、榊田朋広氏の著書『擦文土器の研究-古代日本列島北辺地域土器型式群の編年・系統・動態-』の2件、優秀論文賞は山田俊輔氏の論文「鹿角製刀剣装具の系列」の4件を理事会に推薦し承認されたとの報告があった。推薦内容の詳細については協会ホームページで掲載される予定との説明があった。
2.総会・大会・公開講座等、3.理事会等、4.年報・会報・機関誌等
 橋本裕行理事から、総会資料の2.3.4.について一括で報告があった。
5.陵墓報告
 新納泉理事から日本考古学協会は、陵墓関係16学協会の幹事学会として、陵墓公開運動全体に関わる連絡調整役を担っている。16学協会には運動の実務の立案と推進にあたる運営委員会が設けられており、昨年度に引き続き、日本考古学協会は幹事、大阪歴史学会、京都民科歴史部会、考古学研究会、古代学研究会、日本史研究会、日本歴史学協会の7学協会が担当した。運営委員会の活動分担は、陵墓立入り観察が大阪歴史学会・日本史研究会、工事立会見学が考古学研究会・古代学研究会、世界遺産と陵墓問題が京都民科歴史部会・日本歴史学協会との説明があった。
 2017年度の当協会陵墓担当理事は、杉井健理事、橋本裕行理事、新納泉理事が担当し、主要な活動としては、宮内庁との陵墓懇談、大阪府泉南郡岬町淡輪ニサンザイ古墳及び奈良市佐紀陵山古墳の立会調査見学、奈良県橿原市四条塚山古墳の立入り観察等を行った。こうした活動に当たり16学協会全体との連絡と調整に当たる幹事学会としての日本考古学協会に課せられている責任は非常に大きいものとの説明があった。
6.研究環境検討委員会報告
 堀内秀樹理事から研究環境検討委員会の活動目的は、1,考古学研究者の研究環境に関すること。2,埋蔵文化財調査の資格制度に関すること。3,国内外における経済活動の考古学的調査に及ぼす影響に関すること。4,博物館における考古学資料の保護と活用に関すること。5,考古学の研究環境と後継者育成に関することとの説明があった。
 2017年度は埋蔵文化財調査資格に関すること、考古学の研究環境と後継者育成に関するアンケート分析を「考古学研究における後継者育成の現状、まとめと展望」と題して宮崎大会のポスターセッションで総括した。また、国・地方自治体・教育委員会及び法人調査機関・主要博物館・民間調査機関等の職員採用の動向を探るアンケートを実施し、認定考古士に関する問題については総括的に議論を重ね意見交換を行ったとの報告があった。
7.広報委員会報告
 大島直行理事から2017年度の活動報告として、主に広報マニュアルの作成、協会ホームページの運用について検討を行った。広報マニュアルは協会からの情報発信や外部機関からの情報提供について基本的な流れをマニュアル化した。協会ホームページの運用については、2016年度に規定、内規を整備して広報委員会が運用し、主に会員向けの情報を中心に総会・大会の告知などの基本的な情報を掲載してきた。しかし、協会の対外的な情報提供が不充分であることから、今後、日本の考古学界を代表する団体として考古学研究の成果や文化財保護の取り組みを積極的に発信して行くとの説明があった。
8.国際交流委員会報告
 佐々木憲一理事から国際交流委員会の通年事業として実施している二つの事業について報告があった。一つは、英文による海外向けの情報発信事業で、毎年開催される「発掘された日本列島」展から日本考古学の研究成果を厳選し、協会英文ホームページで公開しているもので、2017年度は8件を選んだとの報告があった。次に、国内外に在住する日本人の研究者による外国での発掘調査・研究の成果を紹介する「アジア考古学四学会合同講演会」事業で、東南アジア考古学会、日本中国考古学会、日本西アジア考古学会、日本考古学協会の四学会が合同で企画し、2017年度は11回目を迎えた。2018年1月20日明治大学で「アジアの煌めき-ガラスが結ぶアジアの東西-」をテーマに開催した。講師として5名の研究者がガラス研究の最新成果の講演を行い一般市民を含め179名の参加があった。
9.社会科・歴史教科書等検討委員会報告
 佐々木和博理事から2017年度の活動報告として、第83回総会の研究発表で「2016年度中学校社会科(歴史)に見る旧石器~古墳時代の扱い」をテーマにポスターセッションを行い、2016年度に改訂された中学校社会科の教科書を対象に検討した結果を発表した。共通する課題として、北海道・東北北部・南西諸島に関する歴史的な記述がほとんどないことを指摘した。また、宮崎公立大学での大会では、「現行小・中学校歴史教科書における中世以降の考古学資料の扱い」というテーマでポスターセッションを行い、小・中学校の歴史教科書で中世から現代までの考古学資料の活用について検討した結果、中世・近世の考古学資料、近世以降の考古学資料が教科書で反映されていないとの報告があった。また、2018年2月には、「小学校6年の社会科教科書の本文および年表に旧石器時代を記述してほしい」との要望や改訂された小・中学校学習指導要領案に対するパブリックコメントとして「北海道や沖縄の文化について学べるように」と委員会として表明した。今後、新学習指導要領で琉球とアイヌの文化が社会科・歴史教科書にどのように記述されるか注視するとの説明があった。
10.埋蔵文化財保護対策委員会報告
 小笠原永隆理事から2017年度活動報告として、総会開催時の全国委員会、宮崎公立大学大会での情報交換会および月例の幹事会を合計9回開催し、また、保護について文化庁との懇談を行った。2017年度の遺跡の保存活動としては、6遺跡の保存問題について協議して、要望書2件に対する回答が6件あった。高尾山古墳については沼津市の保存計画案の具体的な推移を注視して行くこととした。また、文化財保護法の改正案に対するパブリックコメントを提出したとの報告があった。
11.災害対応委員会報告
 杉井健理事から災害対応委員会が常置委員会として設置されて1年目であることから具体的な活動は少なかったとの説明があり、2017年度は2017年10月に委員会を開催して委員長の選出を行った。主な委員会の活動としては、2017年11月22日、2018年3月19日に開催された文化遺産防災ネットワーク推進会議への参加であったとの報告があった。
12.平成28年熊本地震対策特別委員会報告
 宮本一夫理事から2017年度活動報告として、第83回総会で、平成28年熊本地震対策特別委員会主催のセッション「平成28年熊本地震による文化財被害とその復興が抱える諸問題」を開催し、地震災害における埋蔵文化財の被災状況と復旧対策、ならびに文化財保護の問題点を明らかにした。また、被災した熊本城や古墳などの文化財のうち、指定文化財であれば修復や復元の対象であるが未指定のものは、復旧はおろか被災状況も十分に把握されていないという問題点の指摘があった。委員会は5月28日に第1回を開催し、委員会の活動計画を立案し、2017年9月24・25日に復興に伴う埋蔵文化財の影響等を探るため、益城町、宇城市、熊本市を視察すると共に、被災地の宇城市教育委員会、甲佐町教育委員会、益城町教育委員会、熊本県教育委員会で面接調査を実施した。また、復興に伴う埋蔵文化財調査の急増することが予想され、行政職員の増員、熊本県外からの派遣職員を積極的に導入すると判断されたが、調査の体制は個々の市町村ごとに違っており、こうした課題については、熊本県教育委員会と意見交換を行ったとの説明があった。第2回委員会では委員の役割分担を明確化して、2018年度には総会でセッションを開催することを検討した。
13.将来構想検討小委員会報告
 近藤英夫副会長から将来構想検討小委員会は、協会が抱えている問題を継続的に議論していく委員会で、会長と副会長、総務担当理事で構成されているとの説明があり、2017年度は日本考古学協会設立70周年記念事業、賛助会員制度、総・大会の開催経費、会費について討議した。特に重要案件として総会時の現金取扱いについては、会員の皆様と議論を深めてより安全な方策を目指して、次期駒澤大学の総会までに検討して行くとの説明があった。また、現在会員が毎年約50名のペースで減少しているとの説明があり、こうした問題も将来構想として理事会と会員の皆様と考えて行く必要があるとの説明があった。
14.70周年記念事業小委員会報告
 小澤正人理事から2018年度は協会設立70周年にあたり記念事業を検討する小委員会の役目ということになっており、2017年度は主に計画の立案を行った。詳細については後ほど報告事項で報告するとの説明であった。
〈2〉2017年度収支決算
 2017年度事業報告が終了して、都築恵美子理事から資料に沿って収支決算の報告を行った。2017年3月31日現在の協会資産額は52,118,928円で、内訳は流動資産26,700,026円、固定資産25,418,902円。流動資産のうち未収会費が4,160,000円とのことで今後検討すべき課題である旨の説明があった。負債合計は18,310,567円、正味財産合計は33,808,361円で、負債及び正味財産合計は52,118,928円となる。正味財産については、正味財産増減計算書の提示をもって説明とした。
 次に特別会計(平成28年熊本地震募金)収支計算書の報告があった。収入合計予算額572,346円、収入決算合計額592,196円、支出予算額140,000円、支出は18,918円、当期繰越収支決算額が573,278円との説明があった。
 続いて議長は監事に収支決算書について監査報告を求めた。唐澤至朗監事から監査対象は、本協会の財務会計、理事会の運営、事業執行状況との説明があった。収支決算の結果については、適法かつ正確に執行されている旨の報告があったが、指摘事項として、規則第10条に定めた会費前納、未収会費については早急に改善するよう指示があった。
 議長は第2号議案「2017年度事業報告、収支決算承認の件」について、会場に意見および質問等を求めたが、特に質問はなく直ちに決議に入り、賛成多数の拍手をもって原案どおり承認された。
第3号議案 理事の選任に関する件
 議長は第3号議案について、2017年度選挙管理委員会の荒井秀規委員長に理事選挙結果の説明を求めた。荒井委員長から定数23名に対して立候補者数は24名であったが、全国8地区のうち近畿地区からの立候補者がいなかったことの説明があった。2018年4月7日に行われた開票の結果は、有権者数は4,123名、投票した会員数は1,164名、投票率は28.2%で、前回の2016年より約4%上回った。内訳は有効投票9,526票、立候補者が獲得した票数が9,058票、非立候補者の投票数は468票であった。定数23名のうち、立候補者24名の上位22名と近畿地区の非立候補者1名が当選者となった。次点者には立候補者から決定し、当選した23名を次期理事候補として理事会に報告した。
 議長は本議案が理事の選任に関する件であることから、当選理事23名に常務理事1名を加えた合計24名の理事の選任について承認を求め、会場に質問および意見を求めたが、質問はなく直ちに決議に入り、賛成多数の拍手をもって24名の理事の選任が承認された。
第4号議案 監事の選任に関する件
 議長は第4号議案の監事の選任に関する件について理事会に議案の説明を求めた。近藤英夫副会長から協会は財務や事業の適切な運営を図るために、現在2名の監事による監査体制を実施している。また、監事の定員、任期に触れ、現行の2名の監事が同時に任期満了を迎えるため、本年度1名を増員して任期をずらした体制を作るとの説明があった。新監事の候補としては、本年度財務担当理事を退任する奈良県の橋本裕行理事が理事会で推薦されたとの報告があった。
 議長は第4号議案「監事の選任に関する件」について、決議にあたり、会場に質問を求めたが、特に質問はなく直ちに決議に入り、賛成多数の拍手をもって原案どおり承認された。
第5号議案 名誉会員の承認に関する件
 次に、議長は第5号議案「名誉会員の承認に関する件」について理事会に説明を求めた。石川日出志副会長から、定款第6条第3項で名誉会員は理事会の推薦に基づき、総会の議を経て定めるとの説明があり、推薦については、名誉会員に関する規定の第3条第1項に、「決議する総会で50年以上在籍し、顕著な功績のある正会員」と加え、大塚初重会員を名誉会員に推薦する趣旨を述べた。また、略歴として、大塚会員は1926年生まれ、1963年に明治大学文学部第1号の学位を取得し1997年まで専任教授等を歴任した。また、日本考古学協会では70年前の設立総会に学生として立ち会っていたこと、1953年に入会して1990年度に会長を務めたことを含めた多くの功績を紹介した。
 議長は第5号議案「名誉会員の承認に関する件」について、会場に質問、意見を求めたが、特に質問はなく直ちに決議に入り、賛成多数の拍手をもって原案どおり承認された。
第6号議案 その他
 議長は第6号議案の「その他」について理事会に求めたが、特に追加議案の提案はなく、審議事項は終了した。

【報告事項】

1.2018年度事業計画・収支予算に関する件
〈1〉2018年度事業計画
 宮本一夫理事から総会資料に沿って2018年度事業計画の一括説明があった。総会は2018年5月26日・27日で明治大学、大会は静岡大学で2018年10月20日・21日・22日に開催するが、従来の大会日程に加え、10月20日午前中に国際研究集会を予定し、70周年記念事業に伴う講演会は登呂遺跡、加曽利貝塚で公開講演会を予定している。年報・機関誌・会報等の定期刊行物は従前どおりで、英文機関誌『Japanese Journal of Archaeology』は科学研究費の補助金事業が認められ、2018年度は『JJA』Vol.6,No.1を2018年9月、Vol.6,No.2を2019年3月に刊行予定とした。また、補助事業として、特集号を刊行するとの説明があった。
〈2〉2018年度収支予算
 都築恵美子理事から2018年度収支予算書について説明があった。2018年度の収入予算は55,151,181円、内訳は会費収入40,791,000円、国庫補助金3,900,000円、前期繰越収支差額7,816,181円で、前年比で4,165,040円増である。支出の予算額は、52,185,000円で前年比2,697,000円増との説明があった。2018年度予算については協会設立70周年に関連する印刷物、講演会等事業を増額した予算となったとの説明があった。
 特別会計の平成28年熊本地震募金は、収入予算額は繰越金562,607円、支出予算額は、旅費交通費として6万円を計上している。なお、募金活動は2017年度をもって終了した。
2.協会設立70周年記念事業に関する件
 小澤正人理事から主な事業の説明があった。1.協会設立関係資料のアーカイブ化事業、2.永年在籍会員の顕彰事業、3.記念出版事業として、書名『日本考古学・最前線』(雄山閣から刊行)、機関誌特集号『日本考古学と日本考古学協会1999~2018年』(考古学協会編)を出版する。また、記念公開講演会として第84回総会(明治大学)、2018年度静岡大会では「東アジアの農耕社会の中の日本」と題する国際セッションを開催するとの報告があった。また、協会設立当時の日本考古学協会と関わり深い遺跡の中から、協会設立の契機となった静岡県登呂遺跡、協会が主催した発掘調査で史跡となった千葉県加曽利貝塚について講演会をするとの報告があった。
3.一般社団法人日本考古学協会規則・諸規定の一部改正に関する件
 石川日出志副会長から2017年を中心に諸規定等に改正があった事案について説明があった。なお、著作権規定、賛助会員に関する規定、災害対応委員会規定については、すでに会報等で報告していることから割愛し、総会に報告することが定められている協会規則と協会賞の規定について報告した。日本考古学協会規則第27条の常置委員会については、災害対応委員会を追加し、常置委員会を8委員会とした。
 同規則34条については、70周年事業に伴う永年在籍者の表彰を行うにあたり、会員の顕彰について一部を改正したとの報告があった。また、協会賞の規定については、優秀論文賞を新たに設け、第2条、第3条の一部を改正した旨の説明があった。
 議長は予定していた報告事項が終了し、会場に質問、意見を求めたが、特に質問はなく、報告事項を終了し、一般社団法人日本考古学協会第84回(2018年度)総会の議事はすべて終了した。
閉会にあたり、近藤英夫副会長から閉会の挨拶があった。(午後0時10分)
 総会議事終了後、名誉会員1名、日本考古学協会賞4名、永年在籍会員出席者18名の表彰状の授与式並びに記念撮影を行い散会した。