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2012.3

埋文委ニュース    第61号

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

2011年度研修会**********2011.11.19・20

 本年度の研修会は、東海大学山中湖セミナーハウスにおいて、埋文担当理事および幹事会委員12名の参加を得て開催された。冒頭に橋口事務局長が挨拶し、本委員会では、ここ数年、「出土品」の取扱いに関して着目し、ポスターセッション等の継続的な取り組みにより問題点を明らかにしてきた経緯が述べられた。また、今回の研修会を契機として、「出土品」の活用や保管のあり方に関して埋文行政のみでなく、考古学研究の視点からも再度見直し、「取扱い基準」を再検討する必要性が示された。

1日目(11月19日<土>)

 1.基調報告1 峰村 篤「出土遺物取扱いの基準に関する問題点」

 峰村委員は、1997(平成9)年以降に文化庁から出された諸通知の中で、「出土品」に係る内容について整理したうえで、これらが開発事業の円滑な推進を目的として埋蔵文化財調査との調整指針を示したものと位置付け、あくまで開発側の行政主導である点を強調した。

 また、埋蔵文化財調査に係る調査標準や積算基準についても、都道府県単位での策定が進み、各自治体に浸透していく中で、しだいに地域の実情にそぐわない点や遺跡調査のあり方と馴染まない部分が明らかになってきた現状を指摘した。一方で、千葉県内の事例等を挙げ、「活用」の具体像については多様な認識があり、基準実施の客観性が問われる現状を示した。そうした中で惹起した奈良県香芝市の遺物廃棄問題は、「廃棄基準」に係る危うさを浮き彫りにする結果となった。

 「出土品の取扱い基準」は、将来的に考古学研究のあり方にも大きな影響を及ぼすことが懸念され、基準は考古学を取り巻く社会状況や環境により変化するものであり、日本考古学協会の役割は学会としての普遍的な価値観と取扱いに係る原則を確認することにあるとした。同時に、基準の公開と記録保存の再点検の必要性を提起した。

 2.特別報告 小杉 康「考古学研究の視点からみた出土遺物の取扱いに関する問題点」

 小杉委員は、考古学研究上の観点から細片を含む出土遺物調査の重要性と意義について、多くの事例を紹介しつつ、その必要性に関して述べた。

 遺物の総量や全容を提示する方法に関しては、刊行された調査報告書を基に解説し、この中で奈良県『矢部遺跡』における土師器等の統計的報告(個体数量の把握・器種組成等)、搬入土器の分析(胎土の識別・搬入土器の個体比率)など、土器細片を含む詳細な分析結果が紹介された。また、縄文時代では、宮城県中沢目貝塚出土の縄文晩期土器の型式学的研究に際し、多量の土器片の分析が実施され、器種構成の割合や時期別組成等の検討に活用されていることを挙げた。また、須藤隆氏による縄文晩期から弥生への移行期における土器組成論をはじめ、藤村東男氏による晩期縄文土器の器形組成に関する統計的調査に基づく研究等を取上げ、土器細片が有する考古学的情報の豊富さに関して事例を紹介した。さらに、自身の調査研究の中から、中部地方における縄文前期の搬入土器の追究を取り上げ、破片レベルからすべて洗い出す方法を行い、稀少な搬入土器を検出したことなどが報告され、たとえ、細片であっても、一定の目的性を帯びた研究にとってきわめて重要かつ有用な学術資料となることが指摘された。

 当該報告後に行われた各県からの報告では、とくに、遺跡調査を単位とした遺物総量や土器個体数の抽出に関して、整理段階での試行錯誤の状況や、その方法に関しても事例を挙げながらの意見交換が活発に行われた。

2日目(11月20日<日>)

 3.基調報告2 奥野麦生「自治体へのアンケート調査結果と課題」

 奥野委員は、今年度都道府県や政令市を対象に実施した「出土品」の取り扱いに関するアンケート調査の結果に関して、その概要報告を行った。内容については、@出土品の取扱いに関する要綱等の設置状況、Aその周知の方法とあり方、B出土品(遺物)の保管・管理状況および、C出土品の活用状況に関する設問の集約結果が報告された。

 要綱は8割近い自治体で設置され、出土品の廃棄規定が半数以上で確認された。規定されているものの、実際には実施されていないとの回答がほとんどであったが、廃棄ありと回答した3県では、廃棄の対象が木屑片や鉄滓・鉄塊等の鍛冶関連遺物であった。廃棄に関して審議・了解とした第三者機関の設置状況に関しては、ほとんどが未整備であり、それを前提とする規定とは言い難い状況が窺えた。また、その際の市民や大学等研究機関への周知は念頭に無いことが判明した。また、要綱の公開については、ほとんどの自治体が容易に入手・閲覧できる環境が整備されていない現状が窺え、例規集や冊子・パンフレット類への掲載もなかった。一方、出土品に係る遺物台帳等は80%の自治体で準備され、管理体制は一応整備されている旨の報告であった。

 これらの結果を受け、今後、日本考古学協会として改善すべき方向性として、@出土品取扱い要綱の明確な位置付け、A出土遺物の原則保存、B廃棄条項に係るチェック機関の設置および市民への周知、C要綱の公開と案内等の作成、D出土遺物の活用方法の見直し等が提案された。

 以上の報告事項に関して、質疑応答および総括討論が行われた。

 この中で、「出土品」については、考古学的検討や吟味が十分に行われた上での「活用」が前提であり、学術的な評価が優先されるべきであることや、「活用」が処理的な機能や目的であってはならず、あくまで考古資料としての本質を損なわない活用が求められるとする提言があった。

 同時に、学術的な観点から破片レベルでの資料化や属性分析に係る研究成果や調査報告を集成し、積極的に評価していくべきではないかとの意見もあり、今後、当埋蔵文化財保護対策委員会でもその方向で取り組んでいくことなどが確認された。

(松崎記)