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日考協 第199号
2008年3月22日
文部科学大臣   渡海紀三朗 様
中央教育審議会会長 山崎正和 様
有限責任中間法人日本考古学協会
会長 西谷 正

学習指導要領案の修正に関する要望について

 日本考古学協会は、歴史教育に考古学研究の成果が適切に活用されるよう社会科教科書、および学習指導要領の内容について調査・検討を行っております。
 すでに、2006年11月7日付で現行の学習指導要領の改善を求める声明文を送付させていただきましたが、このたびの学習指導要領の改訂にあたり、別紙のとおり公開されました改訂案の修正を要望いたします。
 なお、当件の具体的な措置、対策については、恐れ入りますが3月末までに、ご回答くださるようお願いいたします。

一、別添書類 一通

以上

日考協 第199号
2008年3月22日
文部科学大臣   渡海紀三朗 様
中央教育審議会会長 山崎正和 様
有限責任中間法人日本考古学協会
会長 西谷 正

学習指導要領案の修正に関する要望書

 旧石器時代から始まる歴史を物語る考古資料は、列島全域に普遍的に存在し、全国の子ども達が文字などの記録では知ることのできない人々の生活や各地域の多様な歴史と文化を学習する上で、欠くことのできない貴重な資料です。また、身近な地域に残された遺跡・遺物に触れる感動は、子ども達の歴史を学ぶ知的好奇心を刺激し、知識のみの歴史ではなく、現在の生活につながるものとして歴史の理解を促し、祖先に対する畏敬の念や生きる力と勇気、ひいては、生命の尊厳等を学ぶ上でも重要な意味をもっています。

 しかし、2008年2月に公表された学習指導要領の改訂案では、小学校第6学年の歴史学習における対象が「我が国の歴史」にとどまり、改正された教育基本法、学校教育法の「我が国と郷土」に示された身近な郷土に対する視点が欠落しています。これは、同学習指導要領案の指導計画の作成と内容の取り扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り上げるようにすること。」の内容にも矛盾することは言うまでもありません。

 さらに、学習指導要領案に示された「狩猟・採集の生活」の学習内容は、改訂案の提示と同時に公開された改訂ポイントの解説を見る限りでは、「縄文時代」に限定されています。しかし、日本列島の人類史の始まりである旧石器時代を抜きにして、教育基本法・学校教育法にある「伝統と文化を尊重」する基礎的な学習としての「我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導」くことは不可能です。そして、同学習指導要領案の内容の取り扱いにある「歴史学習全体を通して、我が国は長い歴史をもち伝統や文化をはぐくんできたこと、我が国の歴史は政治の中心地や世の中の様子などによって幾つかの時期に分けられることに気付くようにすること。」を達成させることはできないと考えます。

 旧石器時代の遺跡は、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以後、全国で1万ヶ所を超える発見と調査例があり、列島における人類の歴史が世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、日本列島独自の地域性を形成してきた経過が明らかになってきました。また、今日に連なる基本的な道具の機能や種類は、この時代の技術によって生み出され発達してきたものであり、これまでの調査・研究からは、当時の環境や狩りの様子、そして、集団の姿や黒曜石に代表されるように生活に必要な物資の流通やその社会の仕組みについても、当時の様子が具体的に、かつ、いきいきと解明されています。しかし、この日本列島において最初に確認できる旧石器時代の歴史は、研究の進展に反して、これまで学習の基本となる教科書の記述や、第6学年で活用する年表にも表記されないまま今日に至っています。日本列島における旧石器時代の歴史を明確に位置づけることは、歴史を途中から学ぶ不自然さを解消し、系統的・総合的に理解する基礎的な力を習得させ、また、地球規模での人類の営みとその関係を考える国際的な視野を育むことにもつながります。そして、これまでの地道な研究によって明らかにされてきた旧石器時代の研究成果を歴史学習のスタートとすることは、「我が国と郷土の現状と歴史」を正しく理解し、学習する大切な一歩となるといえます。

 日本考古学協会は、学習指導要領の改訂にあたり、歴史教育に考古学の成果が適切に活用されるよう、以下の点について強く要望します。

1.列島全域に普遍的に存在する考古学資料を十分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ姿勢を尊重すること。

(修正案例文)

第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容 (第6学年) 1目標(1)…P30
(1)国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について興味・関心と理解を深めるようにするとともに、我が国と郷土の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てるようにする。…下線部追加

第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容 (第6学年) 2内容(2)…P31
(1)我が国の歴史上の主な事象について、人物の働きや代表的な文化遺産を中心に遺跡や文化財、資料などを活用して調べ、歴史を学ぶ意味を考えるようにするとともに、自分たちの生活の歴史的背景、我が国と郷土の歴史や先人の働きについて理解と関心を深めるようにする。…下線部追加

第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容 (第6学年) 3内容の取り扱い(1)…P33
オ アからケまでについては、例えば、世界文化遺産、国宝、重要文化財に指定されている我が国の代表的な文化遺産とともに、各地域に残る遺跡や文化財を積極的に活用し、歴史を身近なものとして楽しく学習できるように配慮すること。…下線部に修正

2.旧石器時代から始まる列島の歴史を明確に位置づけ、世界的な視野から人類の営みを考える視点を育むこと。

(修正案例文)

第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容 (第6学年) 3内容の取り扱い(1)…P32
イ 歴史学習全体を通して、我が国は旧石器時代からはじまる長い歴史をもち伝統や文化をはぐくんできたこと、我が国の歴史は政治の中心地や世の中の様子などによって幾つかの時期に分けられることに気付くようにすること。…下線部追加

以上