要望書

文化庁長官　　河合隼雄様
高知県知事　　橋本大二郎様
高知県教育長　大�ｱ博澄様
高知市長　　　岡�ｱ誠也様
高知市教育長　吉川明男様

高知城の保存に関する要望書

　高知市の中心部に所在する国史跡高知城は、関ヶ原の戦い後に入国した山内一豊によって築城された近世城郭です。1950年には天守・追手門など15件の建造物が国の重要文化財に、1959年には約10haの城域が国史跡に指定され、高知県のシンボルとして最も県民に親しまれてきた文化財です。

　ところが、史跡指定範囲西側の搦手門に近接する旧営林局跡地にマンション建設が計画され、高知市教育委員会により2005年12月に試掘調査、2006年３月に発掘調査が実施されています。その結果、近代以降に改修された現在の堀よりも古い近世の堀の存在が明らかとなり、近世初頭の陶磁器とともに、豊臣秀吉が有力大名に使用を許したとされる桐紋棟飾瓦が３点発見されるなど、豊臣政権との関係や城郭構造・変遷過程を解明するうえで、学術上極めて重要な知見が得られております。さらに、隣接する裁判所建替えに伴う2001年の発掘調査では、「松平土佐守」と記された木簡をはじめとする大量の遺物が出土し、高知城三の丸で現在実施されている石垣改修工事に伴う学術調査でも、山内氏以前の長宗我部氏時代の石垣や、それに先行すると考えられる切岸状遺構も検出されております。

　このように、いずれの調査においても市街地の中心部に占地する城跡としては希有な保存状況にあることが確認され、高知城の城郭構造および現高知市の原点である高知城下町の成立・変遷過程の解明に直結する事実が次々と明らかとなっております。高知城については古地図や絵図資料などの関連資料にも恵まれており、調査資料の蓄積とともに城域の全容について極めて正確に復元できる可能性が高く、学術的にも極めて高い意義を持つ城跡と評価されます。また、今回のマンション建設予定地の調査では、高知市民にとって忘れてはならないもう一つの重要な事実が明らかとなっています。堀跡内からは、第二次世界大戦時の1945年７月４日の高知大空襲で被災した、焼けた瓦類を含む大量の戦災資料が発見され、戦争の激しさと平和の尊さを現代に伝える戦争遺跡としても、重要な意味を持つ調査となっています。

　以上のような、高知城の歴史的・文化的重要性に鑑み、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、下記のとおり要望いたします。

記

1. 高知城の国史跡指定範囲をマンション建設予定地にまで拡大し、周辺の歴史的景観の保全とともに、高知市の誇る国民的遺産としてその整備・公開・活用を図ること。
2. 発掘調査体制を充実して、城郭周辺部に展開する関連遺構の内容把握に努め、その成果を速やかに公表すること。
3. 高知市民にとって、極めて重要な史実の証である戦災資料について適切な保存措置を講じ、将来にわたってその有効的な活用を図ること。