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(投 稿)
日本考古学協会の「図書交換会」について

大村 裕

 図書交換会に書籍を持ち込んだ経験のない会員にはあまり関心のないことであろうが、標記の図書交換会に参加を申し込むと、実行委員会から指示された一定額の「整理費」を徴収されることになっている。そして更に、交換会に持ち込む予定の書籍を、日本考古学協会と会場施設に各一冊ずつ納入することが要請されているのである(ただし協会は2010年度より中止)。これらのことについては、会場の大学ないしは開催関係団体に種々の迷惑をかけることでもあるし、日本考古学協会に毎年刊行される考古学関係書籍が集められ、さらには各地域・大学に蔵書が充実されるのはまことに結構なことであると、私共も積極的に協力してきたところである。しかし、この20数年間同人誌を編集し、図書交換会に参加し続ける中で、そろそろ改善の方向に向かうべきではないか、という考えが年々強まって来ている。その一端については、本年度(2011年度)総会時に発言したので、ここでは繰り返さない。短い質疑の時間の中で、私が主張出来なかったその他の問題について、以下に述べることとする。

 日本考古学協会という学会の総会・大会は、単に研究成果を報告するだけの行事ではなく、各地で刊行される同人誌・発掘報告書等を収集し、情報を交換する場でもある。一年に数千件の発掘が今も行われ、莫大な報告書が刊行されており、国会図書館や各地の公共図書館・埋蔵文化財センター付属の図書室だけではとても研究資料を充足することは不可能である。どうしても手元に置いておかなければならない資料は、この図書交換会でまかなうしかない。そうした意味で、日本考古学協会の図書交換会は、研究成果の発表会と車の両輪のような機能を有しているのである。18年前、会場の施設の都合で、図書交換会が中止となった折、参加者が激減したのは記憶に新しいところであろう。その重要な役割を担っている図書交換会参加者・団体にのみ、多大な負担を負わせるだけで果してよいのか、ということである。私が関わっている同人誌は既に22号になるが、仮に初めて会場となる施設に図書交換会参加申し込みをするとなると、在庫のバックナンバー12冊分(10〜12・14〜22号)を寄贈することになる。一冊2,000円平均として24,000円相当を現物で納める訳である。更に上述した「整理費」を支払うと、合計30,000円前後になる。私個人としては、「研究発表会場」で口頭により発表をしている会員同様、活字によって「図書交換会」会場に於いて研究成果の発表に参加しているという意気込みなので、それはそれでよいのであるが、一方、「研究発表会場」等に於いて発表をしている会員には、何も負担がないのは釈然としない。本学会での「研究発表」は、研究職採用時の業績申告や昇進時の業績申告等に於いて、少なからぬ「ポイント」になっているはずであり、研究発表者は「図書交換会」参加者と同等の(ある意味ではそれ以上の)「受益者」と言ってよいのである。会計面に目を向けると、本年度、日本考古学協会は「発表レジュメ」の刊行費用として177万円を計上しているのであるが、この金額は図書交換会に於ける諸経費と同様かなり大きな出費となっている。しかも、口頭発表やポスターセッション参加希望者は、前述のような理由から増大の一途をたどっており、「発表レジュメ」はますます増頁(従って印刷費増)の方向に向かってゆくと思われる。学会での研究発表が多くなることは大変歓迎すべきことではあるが、図書交換会参加者にのみ多大な負担を負わせる現状を改め、総会・大会に於ける受益者すべて(非会員の傍聴者も含む)に応分の負担を求める方向に漸次転換することを希望するものである。

 「誰かが言ってくれるのではないか」と、この20年近く発言を我慢して来たが、この度思うところがあり、勇を鼓して意見表明をする決意を固めた次第である。諸賢のご意見を待ちたい。なお、刊行書籍の「物納」について触れたが、自分が作成に関わった書籍が大学等に配架されることは嬉しいことで、大きな異論はない。ただ、既に関係大学等の書架にある購入書籍の重複本も機械的に徴収するのは極力避けて頂きたい。過去に於いてこちらが総会・大会時に献本した書籍については、そうした事態は避けられるが、会場となった大学等が独自に書店を通して購入した書籍は、こちらで把握することが出来ないので注意を要する。仄聞するところによると、大学図書館は重複本を嫌がるそうである。余分となった書籍の行方を考えると暗澹たる気持ちになる。その点、今回の國學院大學は、予め蔵書を調べ、図書交換会参加団体に必要な図書の寄贈を訴えられたのは誠に良心的な処置であった。大変手間のかかる仕事であり、作業に当たられた職員・学生諸氏に深く感謝する次第である。


 〔追記〕 私の要望は、「早急に現状を改善せよ」というものではない。性急な改革は関係者に多大な負担を負わせる結果につながり、本会のような善意で運営される団体に於いては好ましいものではない。こうした意見もあるということを取捨して頂ければ幸いである。