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会長再任のご挨拶(2010年)

会長 菊池徹夫

 去る5月22日、国士舘大学で開催されました一般社団法人日本考古学協会第76回総会に際して開かれた理事会において、再び会長に選出されました。もう1期だけ頑張るように、とのことと思います。もとより非力のうえ長い間在職した早稲田をこの3月で定年退職してホッとしたところだけに、個人的にはとまどうところもございますが、多くの会員の皆様によって選ばれた理事の方々のご信任を頂いたということについては、率直に心からのお礼を申し上げます。誠心誠意、微力を尽くしたく存じますので、何とぞ引き続きご指導、ご協力賜りますよう、心からお願い申し上げます。

 さて、本協会はいまや4,200名の会員を擁する全国学会となりましたが、埋蔵文化財の保護・活用のための不断の活動をはじめ、特に陵墓問題、社会科教科書問題などを重く見て積極的に対応し、さらに市民を対象とした公開講座など、社会に向けての研究成果還元・情報公開にも極力努めて参りました。最近の政治・経済・社会の情勢は、考古学の研究や埋蔵文化財の調査・保護・活用の体制にますます大きな影響を及ぼしています。国立大学・研究所の法人化、博物館など生涯学習施設への指定管理者制度の導入、それに民間発掘組織、発掘調査資格制度の問題等々です。国をはじめ地方自治体が、ひとり文化財に止まらず広く文化政策全般をどう考えるか、どのような政策を打ち出してくるかに、本協会としても大いに注目しなければならないと思っています。さらに、このところの市町村の広域合併や行政組織の改編、それに財政の縮小などに伴い、埋文担当職員の削減や博物館統廃合の激しい動きが各地で見られます。昨年、奈良県で出土文化財が不法投棄されるという不幸な事態が起こったことは皆さんご存知と思います。個々人の意識や責任はもとよりですが、地方自治体はじめ行政こそ、埋蔵文化財の発掘調査はもとより、これの万全な保管、積極的な活用についても公としての責任を持つべきです。協会は、行政組織の第一線で日々頑張っている方々のためにこそ、より大きな全体の構造、つまり埋文施策のあるべき姿について、行政はもちろん市民・一般社会に対して、より積極的に発言・提言しなければならない、と思っています。

 このように、今後ますます複雑化するであろう考古学・埋蔵文化財を取り巻く諸問題に的確、迅速に対処するためにも、本協会は本来志向していた公益社団法人を目指すべきかもしれません。昨今、いわゆる事業仕分けで既存の公益法人は評判がよくありませんが、しかし考えてみると「国民共有の財産」・「人類共有の文化遺産」を扱いながら、およそ経済的価値、いわんや私利・私益とは遠いために、一般には真剣に扱われることの少ない考古遺産、埋蔵文化財に関わる仕事ほど、文字どおりの公益はないのではないでしょうか。むろんこれには定款の改定をはじめハードルが決して少なくないことも承知しています。

 経理を含め協会運営の無駄をなくし一層の合理化と更なる情報公開に努めます。しかも極力会費値上げを避けながら本協会の財政の健全化を図らねばなりません。そこで、例えば賛助会員・一般会員・学生会員といった会員・会費の類別化、また総大会ごとの参加費などについても検討してみたいと思っています。さらに、各方面からの寄付を積極的に呼びかけることや、本協会らしい専門性を生かした収益事業の可能性なども考えてみています。

 いずれにせよ、本協会の特質は、考古学研究、埋蔵文化財の調査・保護・活用といった活動に関わる、様々な立場と意見の会員による自由な組織だ、と私は思っています。国・公・私、あるいは、教育・研究機関か行政か、といった立場の違いを問わず、多様性の中での自由な発言と相互理解、そして定められた手続きでいったん決定されたことは果断に実行することが大切でしょう。

 会員の皆様のご理解を得ながら、本協会は、よりよい方向を目指して、さらに一歩一歩前進してゆくつもりですので、一層ご協力いただければ幸いです。

 2期目のスタートに当たってのご挨拶と致します。どうぞよろしくお願いいたします。