埋文委ニュース  第72号

2017.8

埋文委ニュース 第72号

                         日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋蔵文化財保護対策委員会*******2017.5.26
 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2017年度総会に先立って大正大学3号館4階閲覧室4を会場として、担当理事および委員等30名の参加を得て開催された。
 まず、藤沢敦委員長による挨拶の後、事務局からの推薦により議長団に舘野孝(東京都)・一瀬和夫(大阪府)、書記に寺前直人(東京都)・関口慶久(茨城県)を選出した。主な議事内容は以下の通り。

1.2016年度埋蔵文化財保護対策委員会の活動報告
 ①2016年度の活動概要と決算報告
 松崎元樹事務長により、2016年度における埋文委の主な活動及び決算について報告された。
 東京学芸大学での2016年度総会時の委員会および月例の幹事会(計10回)の検討内容や、要望書を提出した4件、会長声明1件について報告された。福岡県北九州市城野遺跡、広島県三原市和霊石地蔵、兵庫県加古川市中道子山城、福岡県筑紫野市前畑遺跡等の保存問題等に関する主要な取組みの状況、新たに中国地区連絡会が立ち上がったこと等が報告された。このほか、弘前大会の情報交換会、2016年8月と2017年3月に実施された文化庁との懇談等の各概要が報告された。
 2016年度は予算額1,745,000円に対し、決算は55,892円の黒字であった。しかし、旅費・交通費に関しては、懸案事項に伴う地方出張等も多く幹事会予算での執行額は不足となった。
 ②2017年度予算と活動方針
 藤沢委員長により、2017年度予算が提示された。予算については、原案通り1,784,000円で総会に報告することで了承された。なお、本予算に関しては、幹事会活動費の中に中国連絡会の活動費が含まれているとの説明を行う。また、活動方針については、これまでどおりの活動として、月例の幹事会をはじめ、10月には宮崎大会において情報交換会を開催することが示された。

2.埋蔵文化財保護対策委員会アンケートの実施について
 藤沢委員長により、2013年で中止している埋文委員対象のアンケートに関して、再び実施することが提案された。実施に際しては、アンケートの収集および集約作業の軽減を図るため、地域連絡会を中心に取りまとめを行っていく方向性が示された。また、アンケートは委員任期の最終年次の2年おきに実施することで了解された。内容については、早急に案を作成することとなった。

3.埋蔵文化財をめぐる状況調査の総括について
 松崎事務長より、2004年~2013年まで実施したアンケートの総括に関して、『日本考古学』への掲載を前提に検討しており、日本考古学協会の発足70周年の記念事業に合わせた刊行を目指すとする方針が示され、概ね了解を得た。今後、執筆内容やスケジュール案は幹事会で協議し、周知することとなった。

4.地域連絡会等からの報告
 ①北海道・東北連絡会(藤沢敦委員長報告)
 ・栗原市入の沢遺跡/現状保存が決定し、史跡指定に向けた準備が行われている。
 ・山元町合戦原遺跡/54基の横穴墓が調査され、線刻画の剥ぎ取り保存が実施された。
 ・東日本大震災に関する埋蔵文化財調査/全体としては一段落だが、福島原発の被災地域内での復興事業は継続推進中。また、中間貯蔵施設建設予定地における試掘や用地買収が進んでいることが報告された。
 ②関東甲信越静連絡会(長野県:大竹憲昭委員・静岡県:渡井英誉委員報告)
 ・渋川市金井東下新田遺跡/火砕流により埋もれた遺跡で、祭祀遺構などが検出される。7月に連絡会として調査状況を視察。
 ・沼津市高尾山古墳/遺跡保存と道路建設を両立させる保存案が検討されたが、市が協議会の推奨案ではなく、古墳の両側に道路を敷設する案が有力視され史跡の景観が損なわれるおそれが浮上。
 ・橋本博文委員(新潟県)から、道路建設に伴い検出された栃木県那須川町鹿島前遺跡の豪族居館の保存について報告された。
 ③関西連絡会(大阪府:一瀬和夫委員報告)
 ・羽曳野市応神天皇陵外堤の目的外使用に関する撤去命令が府教委から出たが、現状のまま。
 ・桜井市箸墓古墳前面の温泉開発計画に対し、一部公有地とすることで回避。
 ・加古川市中道子山城/防災放送施設の建設が実施され、遺構の一部が調査後除去された。
 ・和泉市国史跡池上・曽根遺跡/市で史跡指定範囲での土地活用の計画があり、内閣府の特区申請の構想が惹起。同様に大坂城内の飲食店の存在も問題視される。
 ・八尾市東弓削遺跡/七重塔の基壇が検出、保存協議へ動く。
 ④四国連絡会(愛媛県:吉田広委員・高知県:吉成承三委員、宮里修委員報告)
 ・松山市祝谷大地ケ田遺跡/周濠に貼石を伴う後期の前方後円墳を検出。現地視察と保存要請を行うが、現状保存できず。
 ・高知市浦戸城/天守台範囲において竜馬記念館新設が計画されたが、確認調査で遺構は検出されなかった。
 ・高知大学朝倉キャンパスの弾薬庫跡が財務省により土地売却計画がある。南国市内の大規模圃場整備事業に伴い条里制区画が損なわれる危惧がある。
 ⑤九州・沖縄連絡会(藤沢委員長報告)
 ・北九州市城野遺跡/民間業者の判断で一部遺跡の保存が提案されるが、市の対応が無い状況。
 ・筑紫野市前畑遺跡/大規模な古代の土塁遺構を検出。大宰府跡に伴う羅城の一部である可能性。保存に関する要望書提出。
 ・長崎市小島養生所跡/近世末~近代の西洋医学校と病院遺構に関する保存問題。市は建物遺構を小学校内に保存、一部公開する方針。連絡会による現地視察等を実施。
 ⑥中国連絡会(広島県:藤野次史副委員長報告)
 ・2017年1月28日に連絡会が発足し、諸問題に関する報告があった。
 ・岩国市中津居館跡、福山市鞆の浦港雁木の修復工事、広島市平和記念資料館の耐震工事に係る中世~近代遺構の取り扱い等に関して協議された。
 ・懸案であった県重文の三原市和霊石地蔵の劣化問題に関する現状報告。
 ⑦その他の報告
 ・菊地芳朗委員(福島県)から、鳥取中部地震に伴う古墳や収蔵施設への被害状況について、状況を調査確認しておく必要性が提起された。

5.その他
 藤沢委員長より、近年、自然災害が絶えない日本の文化財に関して、どうやって保護していくかは、喫緊の課題として、埋文委でも検討していきたいとの発言があった。

 (文責:松崎元樹)