埋文委ニュース 第76号

2019.8

埋文委ニュース 第76号

                         日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋蔵文化財保護対策委員会*******2019.5.17
 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2019年度総会に先立って駒澤大学会館246 7階会議室を会場として、担当理事及び委員等30名の参加を得て開催された。藤沢敦委員長による挨拶の後、事務局推薦により議長に田尻義了(福岡県)・足立佳代(栃木県)、書記に関口慶久(茨城県)を選出した。主な議事内容は以下の通り。

1.2018年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動報告及び決算報告(小笠原永隆事務長)
 月例幹事会の開催(9回)について、茨城県坂東市神明遺跡・千葉県鴨川市及び南房総市嶺岡牧・長崎県長崎市県庁舎跡地所在遺跡・福岡県北九州市城野遺跡の保存等に関する要望書又は抗議文の提出、大規模災害に伴う文化財被害・改正文化財保護法・神奈川県鎌倉市大倉幕府跡・埼玉県北本市デーノタメ遺跡・東京都港区済海寺伊予松山藩久松松平家墓所・神奈川県三浦市埋蔵文化財収蔵庫をはじめとする多数の事案についての検討を行ったことが報告された。また、総会時の全国委員会、大会時の情報交換会、ポスターセッション、文化財保護法改正に係る文化財マネジメントを考えるワークショップの開催、文化庁との懇談等の各概要とともに、幹事会及び各連絡会の決算内容が報告された。

2.2019年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動について(藤沢委員長)
 2019年度の活動方針及び予算案が提示され、了承された。また、隔年で実施するアンケート(次回は2018・2019年度分)を2020年度全国委員会での報告を目途に実施すること、埋文委活動のアーカイブを行うことが提示され、了承された。

3.地域連絡会からの報告
①北海道・東北地区連絡会(菊地芳朗委員)
・北海道胆振東部地震に伴う文化財被害/北海道博物館協会HPで加盟博物館等の被害状況が集約されている。
・福島県中間貯蔵施設地内の埋蔵文化財/平時と同様の埋文の取扱を行うという方針のもと、整備計画が進んでいる。整備に伴い、双葉町銅谷迫遺跡の発掘調査が進む。
②関東甲信越静地区連絡会(松崎元樹担当理事、閏間俊明委員)
・埼玉県北本市デーノタメ遺跡/本遺跡の保存をめぐる動向は状況が刻々と変化しており、今後とも注視していく。
・東京都港区済海寺久松松平家墓所/改葬に伴う発掘(立会)調査が実施されたが、都及び区が埋蔵文化財として取り扱わない旨の見解を出している。国元の大名墓が文化財指定され、適切な保 存活用が進む一方、江戸の大名墓が文化財保護法の適用外という取扱がなされているという現状 は大きな問題である。
・山梨県立考古博物館所蔵土器の盗難事件/県考古博の職員が同館所蔵遺物を盗難、ネットオークションに出品した容疑で逮捕された。捜査の経緯を注視し、今後の対応を協議する。
③関西地区連絡会(一瀬和夫委員)
・2018年の台風21号被害/大阪府藤井寺市はざみ山古墳の前方部が調査され、方形壇や埴輪列等が確認された。
・京都府与謝野町日吉ヶ丘遺跡/小学校廃校に伴う再開発計画が進んでいる。
・京都府岩滝町大風呂南墳墓群/開発計画が進んでいる。
・平安京域/常時10件程度発掘調査が進んでいる。
・大阪府高槻市安満遺跡/一部の史跡整備が完了。一方、遺跡の中にある京大農場の建物の取扱は決着がついていない。
・大阪府堺市陶邑窯跡群/再開発計画の動きが出てきており、今後注視が必要。
・大阪府堺市・羽曳野市・藤井寺市百舌鳥・古市古墳群/イコモスが世界遺産への記載が適当との勧告。評価の中で、日本の史跡整備の方法について今後考え直す必要があるとの意見があった。
④中国地区連絡会(藤野次史委員)
・国史跡の管理状況の調査/管理に課題がある史跡に対しては、今後行政と面談するなどの対応を検討。
・保護法改正に伴う文化財保護部局の改組の動向、海浜部に位置する遺跡の浸食問題、広島県三原市和霊石地蔵問題、山口県岩国市中津居館跡の保存問題について注視していく。
・西日本豪雨に伴う文化財被害/広島歴史資料ネットワークを中心に活動を展開。
・広島県福山市鞆の浦/県が3ルートのトンネル案を提示し、住民の意向に沿った案(第3案)が採用。また、防潮堤建設に伴う雁木の積み直し・発掘調査を実施。
⑤四国地区連絡会(吉田広副委員長)
・東京都港区済海寺久松松平家墓所/調査団を結成し12月から4月まで調査を実施。49基の墓から良好な遺構・遺物が検出。金属・漆・繊維製品等、今後保存処理が必要な出土品が多く含まれる ことから、今後の保存が課題。
・香川県丸亀市丸亀城/西日本豪雨により、南西部分の石垣が大規模崩落。それ以外の石垣についても、傷み・緩みが進行中。石垣下の地盤が不安定なことから、今後、在来工法だけで復旧できるかどうかについて検討する必要がある。
・徳島県阿南市加茂宮ノ前遺跡/西日本では珍しい縄文後期の円形の集石遺構等が検出。
⑥九州・沖縄地区連絡会(佐藤浩司委員、稲富裕和委員、田尻委員)
・福岡県北九州市城野遺跡/方形周溝墓が開発業者により一部損壊した。今後、復旧方策について注視が必要。
・長崎県長崎市長崎県庁跡地/岬の教会や長崎奉行所等、歴史上重要な施設が建設された場所であり、出島とともに、包括的な遺跡の取扱をすべき。「長崎県庁舎跡地遺構を考える会」を立ち上げ、6月2日にシンポジウムを実施。
・佐賀県基山町基肄城/大規模土石流が発生し被災。早急な復旧が必要な中でどう調査するかについて注視が必要。

(文責:関口慶久)