埋文委ニュース 第65号

埋文委ニュース 第65号                               2013.12

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋文委・情報交換会**********2013.10.20

 埋蔵文化財保護対策委員会では2013 年度長野大会にあわせて、10月20日(日)午後1時30分から長野県社会福祉総合センター3階第1会議室において、埋文担当理事、委員ならびに会員21名の参加を得て情報交換会を開催した。進行役は松本富雄委員(埼玉)が務めた。矢島國雄委員長の挨拶の後、今年度の主要議題である長野県における古代官衙遺跡の調査の現状について、飯田市恒川遺跡群・岡谷市榎垣外遺跡および他の官衙関連遺跡に関して3名の方々から報告された。その後、参加者による活発な意見交換も行われた。この他、各地からは埋蔵文化財保護等に関する問題が、事務局からは現在、埋文委が取組んでいる課題等について報告された。

 以下に、上記の各報告の概要について記載する。

報告1「長野県における古代官衙遺跡の調査」

事例報告①「飯田市恒川遺跡群(伊那郡衙跡)の調査について」/下平博行氏(飯田市教育委員会)

 リニア中央新幹線駅の問題で遺跡破壊が懸念されたが、日本考古学協会をはじめ多くの方々の協力を得て、遺跡の範囲を外して設置されることが決定した。今後は史跡指定への取り組みをより一層進めていくことになるが、地元住民の当該遺跡に対する保護意識が高く、関連遺跡について既に約8割の合意が得られており、遺跡の保存・活用に向けた地元の努力が期待される内容であった。

 伊那郡衙の特長としては、郡内における駅家数の多さから馬(牧)を中心に発展したことが推察されている。さらに、大量の陶硯類(風字硯を除く)が出土していることは、東山道が東国に向かう官人のほとんどが通行したと思われることに関連し、文書が大量に作成されたことを示していると考えられた。また、現在も信仰対象となっている恒川清水からは、人形等の木製品、墨書土器(「官」「御厨」)、陶硯が大量に出土していることから、重要な祭祀の場であったと思われる。

事例報告②「岡谷市榎垣外遺跡(諏訪郡衙跡)の調査について」/会田 進氏(長野県考古学会)

 榎垣外遺跡の調査は、すべて個人住宅の建設に対するものであり、大規模調査は行われてこなかった。結果として、40年間で多くの部分が蚕食的に破壊されることとなった。2008年度に総括的な調査報告書を刊行している。なお、これまでの調査で政庁跡は推定できたが、正倉院や寺院などは未発見である。また、直接的に官衙の存在を示す墨書土器は現時点では見つかっていないが、稀少な三彩陶器などが多く検出されていることが重視される。

 発掘調査は現在も継続しているが、相変わらず個人宅造関連である。広範囲にわたる官衙遺跡は、現代も町の中心部等になっている場合が多く、遺跡を保存することが難しく、本遺跡のように小規模調査のみにならざるを得ない。市街地化されている地域の遺跡保存は将来に向けての課題である。

事例報告③「長野県における官衙遺跡の現状」/原 明芳氏(長野県立歴史館)

 長野県では、1990年代をピークとして、それ以降、全体の調査件数は減少傾向にある。結果として、古代の官衙遺跡も破壊されずに残っている場合が多いが、保存や保護の対象とするには各方面へのアピール度がやや低く、今後、様々な歴史ストーリーに位置付けることで遺跡への注目度を上げていかなくてはならないと考える。現在、古代官衙に関連すると考えられる遺跡は、県内では10数遺跡にのぼり、主に郡衙に比定されるものであり、肝心の国府関連遺跡は未確認の状況である。また、初期荘園に関わると推定される塩尻市吉田川西遺跡なども注目される。

 なお、長野県内では、他地域同様に圃場整備事業面積が広大であり、地形を大幅に変える場合が多く、遺跡に対する影響がきわめて大きい。古代郡衙推定地である千曲市屋代遺跡群では、盛土保存で対応していた部分も多いが、結果的に果たして良い対応であったかどうか、今後議論していく必要性があると思われる。

報告2 各地からの報告

 ①関西連絡会からの報告/山川均委員(奈良)・冨加見泰彦委員(和歌山)より活動報告があり、和歌山県岩出市根来寺遺跡、同和歌山市岩橋千塚古墳群、大阪府八尾市での文化財収蔵ケース放火・焼失事件、台風18号による文化財への被害状況等が報告された。

 この中で、根来寺遺跡に関しては、県による一乗閣移転用地における埋蔵文化財調査に関して、協会として現地での立会いに応じることなどが報告された。また、八尾市における遺物焼失に関しては、委員から遺物の保管方法や管理の実態に関する調査の必要性が指摘され、埋文委として早急に事実確認をする方向で検討することとなった。岩橋千塚古墳群に関しては、霊園墓地の建設計画に対して、史跡範囲の拡張を求める市民運動について報告され、埋文委としても地元の状況を注視していく必要がある。

 ②四国連絡会からの報告/出原恵三委員(高知)からは、高知県南国市高知大学農学部内・高知海軍航空隊通信所跡の現状報告が行われた。いずれの施設も遺存状況はきわめて良好であり、貴重な歴史遺産として保存・活用の意義が述べられた。

 ③事務局からの報告/松崎元樹事務局長より静岡県沼津市高尾山古墳、神奈川県茅ケ崎市下寺尾官衙遺跡群(高座郡衙)の保存問題、佐賀県神埼郡吉野ヶ里町吉野ヶ里遺跡隣接地でのメガソーラー設置に関する問題等について報告された。

  東海地方における初現期の前方後方墳として注目された高尾山古墳に関しては、未だ現状保存が決定しておらず、近々に協会埋文委と沼津市教育委員会との遺跡保存をめぐる懇談を実施すること、11月に静岡県考古学会において、当協会の後援により「駿河における前期古墳の再検討」と題した当該古墳に関するシンポジウムが開催されることが報告された。また、茅ヶ崎市下寺尾官衙遺跡群に関しても、将来的な保存・活用のあり方が不明なことから、再度、県教委との懇談を申し入れていることなどが報告された。吉野ヶ里遺跡については、隣接するニューテクノパーク内の埋蔵文化財調査の状況やメガソーラー設置・稼動に関する佐賀県からの情報提供を受けて、現地での確認を目的として10月上旬に視察を行った結果が報告された。その結果、現在は国営吉野ヶ里歴史公園として広大な保存区域が確保されており、国民に幅広く活用されてはいるものの、将来的には、史跡指定範囲外における土地利用に伴う遺跡保護の在り方等に関しても注視していく必要があることが報告された。   

(小笠原永隆記)