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協会図書に係る特別委員会の答申について

2013年3月31日

一般社団法人 日本考古学協会
会長 田中 良之 殿

協会図書に係る特別委員会
委員長 泉 拓良

協会図書に係る特別委員会の答申

 協会図書に係る特別委員会(以下、委員会と略す。)は、2010年10月16日に行われた日本考古学協会2010年度臨時総会において、協会所蔵図書の寄贈先に関する理事会案が否決されたことを受けて、理事会・有志の会双方とも対立という状況を残さず協会の正常な運営を進めるために、議長団が特別委員会設置の検討を要請したことが出発点です。3回の準備会を経て、第77回総会において当委員会の設置が決まりました。2011年7月23日の第1回委員会以来、設置に至る経緯を踏まえ、3名の専門分野の外部委員の就任を得て、協会所蔵図書問題を根底から検討してきました。これまでの事実の正確な把握と委員間での問題意識の共有を計り、協会員の意識調査や関連する外部機関への調査を実施し、協会所蔵図書の有効な活用策を検討してきました。委員会でのこのような詳細な討論・審議を経て、ここに協会が所蔵する図書に関して以下のような結論に達したので報告致します。また、今後の協会の作業の進捗に資するため、「協会所蔵図書寄贈先募集要綱(案)」を付します。

【結論】

 日本考古学協会所蔵の図書は、日本考古学協会員を含む一般市民への公開が可能な、国公私立大学図書館、公立図書館、国公立の機関並びにこれに準ずる研究機関へ、一括して寄贈することが望ましく、かつ、それを可能にする現実的基盤があると考えます。

1.結論に至った経緯

1)第1回から第3回の委員会では、特別委員会設置にいたる経緯についての報告と特別委員会の役割と協会内での位置付けについて準備会の委員から説明があった。以下の項目について審議・検討を行った。

@歴史:協会図書収集目的、図書収集方法、図書保管方法の変遷について詳細な検討を行った。

A協会が所蔵するとした場合の経費見込み:施設費を除く書架などの設備費、司書の人件費を含む運営費の経費見積を行った。

B所蔵図書のデジタル化:web上での公開・利用には、デジタル化経費のほか著作権処理が必要であり、作業主体に負担の大きいことが認識された。

C所蔵図書の持つ意義:協会所蔵図書の持つ戦後の考古学の発展と深く係わる歴史的意義や希少価値の高い地方同人誌や小規模研究会の機関誌等の貴重さを各委員が確認した。

D今後の図書収集:協会が組織的に図書収集する意義と図書の今後の収集について意見を交し、会員向けアンケート調査にこの項目を加えることにした。

2)第4回の委員会では、それまでの審議をふまえ、これまでの図書問題に関する取組みを周知し、より多くの会員の意向を知るために、日本考古学協会図書に係るアンケート調査(2012年3月)実施を決定した。

3)第5回委員会では、338名の回答によるアンケート調査集計結果が報告された。アンケート結果によれば、所蔵図書を一括で扱い、広く利活用できるようにすることを会員多数が求めていることが明らかになった。具体的には、「一括して寄贈する」、「一括して所蔵する」案の順に要望が多かった。これを受けて、@一括寄贈案、A一括自己所蔵案、B分割寄贈ないし分割所蔵案を検討することにした。また、今後の協会による図書の収集については、回答者の2/3以上が何らかの形で、継続して収集することを希望していることを確認した。
 会員の要望が最も多かった一括寄贈案に関して、前回の公募では受贈先に対する配慮を欠く点があったと思われるので、受贈側の意向を調査するため、寄贈希望者の予備調査を行うことを決定した。

4)第6回から第9回委員会では、一括寄贈案と係わり、寄贈先予備調査の募集と審議を行った。応募のあった1機関に対する調査実施方法の審議を行い、また応募の可能性のあった数機関との接触を持った。その結果、一括寄贈募集に応募する機関があるとの感触を得た。
 一方、一括自己所蔵案の場合について、それに必要な施設や図書関連経費の算出とその経費を得るために必要な資金調達、会費の値上げに関する試算を行った。その結果、10年以上にわたって年会費を2,000円以上値上げする必要のあることがわかった。

5)第10回委員会では、実施した聞き取り調査の結果報告と会費値上げに関する会長と委員長との意見交換についての報告とを受けて、協会所蔵図書一括寄贈の方向で結論を作成することを委員会の総意とした。さらに、応募時期、締切り時期等について意見を交換し、また、考古学協会の今後の図書寄贈受け付け問題について審議した。

6)第11回委員会では、特別委員会報告(暫定版)および、募集要綱(案)の文言整備を行い、協会として今後も責任を持って図書を収集し、寄贈先に送付する必要があることを確認した。

2.委員会の主要検討事項

1)一括寄贈

利点:

@協会側の経費負担が最も少ない。

A寄贈先を公的機関(国公私立大学図書館、公立図書館、国公立の機関並びにこれに準ずる研究機関を指す)に限定しているので、図書の管理が信頼できる。

B一般利用者に対して開かれている。

Cインターネットの利用を通して全国から図書検索が可能である。

D身近の図書館を通じて、寄贈先の図書館から図書の複写、場合によっては貸出が可能である。

欠点:

@所有が協会から離れる。

A寄贈先によっては、将来の図書の扱いに不安がある。

検討結果:

@協会が所有することより、会員が利活用することの方が重要である。

A将来に関する不安は、公的機関であり、かつ寄贈先調査の段階で図書の扱いについて十分に調べることで対応できる。


2)一括自己所蔵

利点:

@協会の役割の一端が維持できる。

A事務所と同じ場所にあれば、協会の活性化につながる。

B図書の今後の収集に有利である。

欠点:

@図書を所蔵するための施設は事務所と一体である必要があり、新たな施設が必要となる。

A専門司書を雇う必要がある。

B経費負担が大きく、今後、10年以上にわたって年会費を2,000円以上値上げしなくてはならない。

検討結果:

@年会費を2,000円以上値上げという試算結果とアンケート調査結果からみて、本案は実現が困難である。

A空き教室を探したが、公立学校については、地域と関係のない団体の使用はほとんど不可能である。

B寄付金募集については、本委員会はこの問題を検討できる立場にない。


3)分割寄贈ないし分割所蔵

利点:

@協会にとって必要と思われる図書を保持できる。

A問題点である重複本を分割できる。

Bインターネットでつなげば、図書がどの図書館にあっても協会寄贈図書として利用できる。

欠点:

@分割する図書の選別に意見が出て、分割は実質的に困難である。

A分割にかかる事務的負担が大きい。

B引き取り手のいない図書が協会に残り、今後も多大な保管経費負担が協会に残る可能性がある。

検討結果:

@分割案は実現性が乏しい。

A重複本はいずれの案でも問題である。重複本は応募する各機関にも共通している可能性が高く、大きな事務的負担になる可能性がある。


4)今後の図書の受贈について

   図書収集の経緯と、所蔵している図書の貴重さ、考古学界・埋蔵文化財関係機関にとっての図書の重要性を考えると、協会で継続して図書を収集することの意義は大きい。報告書等の印刷・配布縮減の問題が表面化してきた今日、もし図書収集を中止すると、その影響は考古学・埋蔵文化財研究に多大であり、基本的に収集は続けるべきである。しかし、収集した図書を協会で所蔵することは困難であり、継続して寄贈先に送付するのが賢明かつ現実的である。

5)重複本の取り扱いにつて

   一括寄贈の場合、重複本の取り扱いが問題として生じうる。委員会としては、 現実的な対応として、事前の重複確認作業は時間と経費がかかるので、重複本を含めて一括寄贈とし、重複本の選別とその後の取り扱いは寄贈先に委ねることが適切と考える。