2021年高校生ポスターセッション報告

 「高校生ポスターセッション」は、日本考古学協会総会研究発表の一環となる企画で、今年で第6回目となる。考古学に関心のある高校生および教育の現場、学会・考古学研究者を結ぶコミュニケーションの場として、ささやかとはいえ、意義のある催しとして継続して取り組まれている。

 昨年2020年度は、15件の応募があった。しかし、コロナ禍により専修大学で予定していた第86回総会・研究発表会が中止となり、これら作品の概要は、紙上報告として掲載されるのみとなった(『日本考古学協会第86回総会研究発表要旨』)。

 2021年度は、5月22・23日に再び専修大学を会場とし、第87回総会および研究発表会が開催された。今回は、13件の応募があり、うち以下の12件が採用となった。これらの作品は、日本考古学協会ホームページ上で公開された。

 

01.福島県立相馬高等学校 郷土部「相馬中村藩における官軍墓地について」

02.栃木県立矢板東高等学校 リベラルアーツ同好会「特産品の運搬からみる古代下野国塩屋郡衙跡の推定」

03.太田市立太田高等学校 地理歴史クラブ「古地図から読み解く太田宿の発展と特徴」

04.群馬県立高崎北高等学校 JRC部歴史研究班「古墳から城、そして祭場へ-場の転用についての考察-」

05.鶯谷高等学校 地歴サークル部「鉄の考古学を考える-美濃(三野)の製鉄伝播-」

06.岐阜県立関高等学校 自然科学部霊長類研究班・地域研究部「ヒトとチンパンジーの石器使用比較-体と心の進化を探る-」

07.岐阜県立関高等学校 地域研究部「織田信長の東美濃攻略戦とその関連史跡の活用について-地域と高等学校の連携による実践報告-」

08.愛知県立豊橋南高等学校 松下文太「なぜ川の側に造営した?」

09.奈良県立橿原高等学校 考古学研究部「弥生ARTを科学する-人物画のテクニック-」

10.鳥取県立八頭高等学校 亀の会「鳥取池田家・岡山池田家の墓碑について」

11.徳島文理高等学校 郷土研究部「徳島県の高地蔵-新たな発見-」

12.福岡県立糸島高等学校 歴史部「記紀神話と考古資料-糸島地域を舞台とした一考察-」

 

 概観すると、例年の傾向であるが、対象とする時代は中世から近世が多く、旧石器時代遺跡や縄文時代に関する発表はすくない。遺跡の発見や遺物採集、発掘調査といった「掘り起こし」から離れ、視覚的に確認できる石造物の調査、ツーリズム的視点での研究発表が増加している。高校生をとりまく考古学をめぐる環境は、戦後間もない頃と大きく変化している。こうした時代における、高校生たちの新しい視点に共感したい。

 作品はどれも甲乙つけがたいものであったが、審査の結果、5月22日(土)第87回総会において、次の3件(校)が優秀賞に選ばれた。副賞としてトロフィーが後日贈呈された。

 07.岐阜県立関高等学校 地域研究部

 09.奈良県立橿原高等学校 考古学研究部

 10.鳥取県立八頭高等学校 亀の会

 受賞校のなかには、地元新聞で紹介され話題となり、町づくりの追い風となっているという話を耳にしている。「高校生ポスターセッション」を続ける意味を再度確認した思いである。  

          (企画担当理事 河村好光)

 

【会長講評:優秀賞コメント】

K07.岐阜県立関高等学校 地域研究部「織田信長の東美濃攻略戦とその関連史跡の活用について-地域と高等学校の連携による実践報告-」

 地域に残る織田信長の東美濃攻略という歴史動向を示す遺跡群を実際に歩いて現状を確認した上で、高校生の視点で観光、郷土学習を提案し、イベントを地域の自治体と共同して開催するという実践は大変素晴らしいと思いました。

K09.奈良県立橿原高等学校 考古学研究部「弥生ARTを科学する-人物画のテクニック-」

 弥生土器に描かれた人物を、既成概念にとらわれない新鮮な高校生らしい視点で分析した好感の持てる発表でした。人物は「一番伝えたいメッセージを上半身中心に強調して表現」するという認識は重要な指摘だと思います。

K10.鳥取県立八頭高等学校 亀の会「鳥取池田家・岡山池田家の墓碑について」

 岡山池田家、鳥取池田家の墓所にある墓碑を現地調査し、歴代藩主と分家当主の墓碑を実証的に検討し、その結果を考察した優秀な発表だと思いました。検討の結果は大きな成果となったと思います。

(会長 辻 秀人)