埋文委ニュース 第80号

2022.8

埋文委ニュース        第80号

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

はじめに

 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2022年度総会に先立って早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室を会場として、委員等31名(会場12名+オンライン19名)の参加を得て開催された。藤沢敦委員長による挨拶の後、議長団に寺前直人(東京都)、菊地芳朗(福島県)、書記に山﨑吉弘(埼玉県)を選出し、議事を進行した。主な議事内容は以下の通りである。

1 委員長・副委員長選出

 2022─2023年度の委員長及び副委員長について、委員長に山田康弘委員(新選出)、副委員長に吉田広委員(再選)、菊地芳朗委員(再選)を選出することが、満場一致で承認された。

2 2021年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動報告及び 決算報告について

 小笠原永隆事務長より、月例幹事会をすべてオンライン会議形式で計11回、総会時の全国委員会を5月29日に同じくオンライン会議形式で開催し、大会時の情報交換会は中止したことが報告された。加えて、島根県出雲市大社基地遺跡群、神奈川県横浜市稲荷前古墳群、広島県広島市広島城跡、東京都港区高輪築堤跡、徳島県徳島市徳島城跡、高知県安芸市瓜尻遺跡の保存等に関する要望書7件についての提出及び経過、文化庁との懇談、現在進行中の検討事項と今後の課題について概要が報告された。また、決算について報告が行われた。

3 2022年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動及び予算 について

 山田新委員長より2022年度の活動方針が、小笠原事務長より予算案がそれぞれ提示され、了承された。

4 埋文委アンケートの結果について

 藤沢前委員長より、隔年で実施しているアンケートについて、説明された。結果については、以下の地域連絡会からの報告の通り。

5 地域連絡会からの報告

(1)北海道・東北地区連絡会

 菊地委員・上條信彦委員より、2021年度の活動状況およびアンケート結果についての概要報告があった。また、各地の動向として、「北海道・東北縄文遺跡群」関連の史跡整備、2022年福島沖地震の文化財被災、収蔵施設での保管環境、老朽化や財政難に伴った小規模博物館や資料館の更新の停滞についてなどの報告があった。特に収蔵施設での保管環境については、7道県中5道県で施設の老朽化や管理体制不備等の深刻な現状が報告され、この問題が喫緊の課題であることが浮き彫りになった。

(2)関東甲信越静地区連絡会

 小笠原委員より、アンケート結果、行政担当者の人材育成問題、山間部農地での太陽光開発の増加、埼玉県北本市デーノタメ遺跡問題及び千葉県鴨川市・南房総市嶺岡牧問題の近況などについて報告があった。また、橋本博文委員より、「佐渡島の金山」世界遺産登録推進がおよぼす影響について報告があった。

(3)関西地区連絡会

 山川均委員より、アンケート結果、滋賀県守山市埋文センターの収蔵資料保管状況、天理大学による東乗鞍古墳の測量調査、滋賀県文化財保護協会の近隣大学との調査連携、歴史資料保全ネットワーク和歌山の活動などについて報告があった。、また、豊田裕章委員より、大阪府島本町水無瀬離宮関連遺跡・越谷遺跡と周辺の区画整理開発状況について説明があった。

(4)中国地区連絡会

 野崎貴博委員より、島根県出雲市大社基地遺跡群及び広島県広島城跡陸軍中国軍管区輜重兵補充隊関連施設跡について、保存要望書を提出するも適切な保存に至らなかったが、これらの遺跡周辺には関連遺跡があり、今後も同様の問題が発生する恐れがあり、引き続き注視することが報告された。

(5)四国地区連絡会

 吉田委員より、徳島県徳島市徳島城跡の音楽ホール建設問題について、県の建設方針を変えることは困難な状況であるが、引き続き注視し、対応を図ることが報告された。吉成承三委員より、高知県安芸市瓜尻遺跡問題について、学校建物配置を遺跡を極力破壊しない内容に変更されるも、運河跡など一部の遺構が破壊を免れない状況にあること、広域に遺跡が広がる様相であり、市道拡幅など周辺の開発についても注視することが報告された。

 (6)九州・沖縄地区連絡会

 田尻義了委員より、沖縄県米軍基地内における埋蔵文化財保護について、遺跡の現地公開については制約が多く、今後の情報収集及び検討の必要性が報告された。

6 その他の地域からの報告

 釼持輝久委員より、米軍基地内の近代化遺産(近代遺跡)の保護について、今後注視する必要があるのではないかとの意見が出された。

 三好清超委員より、岐阜県内の状況について、レーザー測量を用いた中世城館の調査、博物館の動向、過疎化・少子高齢化への対応、高校との連携、行政埋文担当者の他の自治体への異動、調査成果の公開を報告書刊行に先行して意見を募る取り組みの報告があった。

                   (小笠原永隆)