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埋文委ニュース 第48号

2005.12 日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋文委・夏期研修会・・・・・・・2005.10.7.8

 本年度の夏期研修会は、10月7日(金)・8日(土)の2日間にわたり、新潟県柏崎市及び長岡市で開催された。今回の研修会の趣旨は、以下の通りである。〔1〕昨年度埋文委が保存要望書(2004年度埋文委第14号)を提出した柏崎市軽井川南遺跡群について現地視察を行い、今後の保存・活用問題や対策を考える。〔2〕昨年新潟県を襲った震災・水害等の自然災害により大きな被害を受けた、博物館施設・行政機関の被災状況や取り組み状況等についての報告を受け、意見交換・討議を行うことにより、学会として今後に向けた取り組みや課題の整理を行う。〔3〕新潟県における、民間調査組織との連携の状況について研修する。

 研修会は、1日目が軽井川南遺跡群視察及び柏崎市立博物館見学、2日目が新潟県立博物館における研修会という日程で行われた。2日間の研修会参加者は、文化財保護担当理事、幹事、新潟・栃木・群馬・長野各県の全国委員、四国連絡会委員の合計15名で、この他、新潟県に在住する協会員の参加も得た。研修会の実施にあたっては、新潟県の全国委員をはじめとして、新潟県立博物館、柏崎市立博物館、柏崎市教育委員会の他、新潟県教育委員会、(財)新潟県埋蔵文化財調査事業団、長岡市教育委員会、三条市教育委員会、十日町市博物館等多くの諸機関からご協力をいただいた。記して、深謝申し上げる。

研修の経過

10月7日(金)

10月8日(土)

軽井川南遺跡群・柏崎市立博物館の見学

 軽井川南遺跡群は、新潟県柏崎市の市街地南西方約3kmの丘陵地帯に展開する奈良〜鎌倉時代の大規模な製鉄遺跡群である。2003年度から「柏崎フロンティアパーク」建設事業(産業集積団地造成)に伴い大規模な発掘調査が実施されており、鉄生産に関わる製錬・精錬・鋳造・燃料生産等の作業工程の全貌が把握できる、稀少な製鉄遺跡群であることが明らかになっている。日本考古学協会埋文委ではその重要性に鑑み、昨年度保存要望書を提出し、遺跡分布の詳細な把握と十分な調査体制・期間の確保及び遺跡群における開発事業の見直しと、国史跡化を含めた十分な保護・活用の措置を関係諸機関に求めた。その後、調査期間の延長や一部区域の保存が図られたものの、根本的な問題解決には至っていない。現在は保存区域を除き、記録保存の措置を前提とした発掘調査が、柏崎市教育委員会を中心に継続して行われている。現地では調査担当者の説明を受け、発掘調査中の遺跡を視察した。

 調査が終了した丘陵には重機が往来し、既に造成工事が進行していた。埋文委としては、今後とも調査の進捗に注視していくとともに、保存地区の問題についても更なる議論が必要であると感じられた。

 遺跡視察後は柏崎市立博物館に移動し、館長より説明を受けながら同館を見学した。

研修会

 翌日は新潟県立博物館に移動し、研修会を実施した。近藤英夫委員長の挨拶後、最初に昨年度新潟県を襲った自然災害に伴う行政組織・博物館の被災状況とその後の取り組み等について、4名の講師から基調報告がなされた。まず田村氏から、昨年三条市を襲った水害について、被害の状況とその後の取り組みについて報告があった。特に、水害によって泥水に浸かってしまった文化財や記録類の復旧には、速やかな対応が必要となる点等が説明された。続いて、昨年の中越大震災による被害とその後の取り組みについて、3名から報告があった。国宝の縄文土器を収蔵・展示している十日町市博物館の菅沼氏からは、展示ケースや遺物の展示方法と被害状況の関係について詳細な報告があった。この中では、展示に利用されている免震台が、必ずしも万全ではない点等も説明された。長岡市立科学博物館の駒形氏は、地震災害時の自治体の対応について詳細に説明した上で問題点を指摘し、毀損した文化財の災害後修復に関わる公的基金設立の必要性等を説いた。県教委の北村氏は、災害後における県の対応について報告した。指定文化財の復旧状況・遺跡被害の確認状況や、平成7年に発生した阪神・淡路大震災時の兵庫県の対策を参考にしつつ、市町村文化財担当部局への対応状況等について資料を呈示しながら説明があった。

 以上、自然災害に関わる自治体の対応は、当然ながら住民の安全確保が最優先となり、その中で担当者がどのように文化財の被害状況を把握し、その後の復旧作業に関わったかという点が生々しく報告され、今後の対策を考える上で非常に有益であった。

 休憩後、全国的な趨勢として、埋蔵文化財保護行政の中に近年急速に浸透してきた感のある民間調査組織との連携について、2名の講師から報告がなされた。まず地震災害関係でも報告いただいた県教委の北村氏から、新潟県における民間調査組織導入に至る経緯と、それに伴い作成された県の指針等について説明があった。次いで、県埋蔵文化財調査事業団の鈴木氏から、実際に民間調査組織の調査現場に携わる立場から、発掘調査から整理・報告書刊行に至る管理・監督の事例について報告があった。その後の質疑では、民間調査組織は今後、市町村レベルでの導入や拡大も予測されており、その際に調査・報告書の水準をどのように保っていくか、そのための行政の指導体制はどうあるべきか等の問題が議論された。

情報交換会報告・・・・・・・2005.10.23

 日本考古学協会の2005年度福島大会にあわせて、10月23日(日)午後2時から福島県文化センター1階リハーサル室を会場として、文化財保護担当理事と全国委員21名の参加を得て情報交換会が開催された。冒頭に、橋口定志副委員長の挨拶があり、事務局報告、基調講演、各地からの報告等、活発な情報交換がなされた。

1)事務局報告 

 事務局から、5月の総会時に開催された全国委員会以降の動向について、下記の報告があった。

〔1〕保存要望書を提出した遺跡等について

保存要望書を提出した遺跡は、和歌山県水軒堤防遺構、三重県万古焼古窯跡群の2件である。その他保存が懸念される遺跡として千葉県千葉貝塚群(荒屋敷貝塚)、長野県竹佐中原遺跡、群馬県三軒屋遺跡等があり、幹事会による視察や情報収集等を行い、その動向を注視していることが報告された。

〔2〕地域ブロック化の進捗状況について

北海道・東北地区については、情報交換会前日の10月22日(土)に意見交換会を開催し、連絡会設立のための準備を進めること、来年の総会時に再度準備会を開催すること等が報告された。九州地区については連絡会設立の準備が進められており、10月21日に幹事会から舘野孝委員が調整に出向いた。また、関東甲信越静地区については、設立に向けての意見交換会を今年度中に開催する予定であることが報告された。

〔3〕日本考古学協会市民講座の開催について

市民を対象とした公開講座を開催することが報告された。講座名は「考古学からみえてきたふるさとの歴史」とし、地域研究の重要性を伝えることを目的に、今後は協会の事業として全国各地で開催する予定である。第1回目は来年3月18日に昭和女子大学を会場として、東京都世田谷区野毛大塚古墳を中心とした武蔵国の古墳文化に焦点をあてた講座を開催する予定。なお、この事業は『第3次埋蔵文化財白書』刊行に伴う記念事業を兼ねる。

〔4〕その他

その他、10月7・8日の2日間にわたって新潟県で実施された夏期研修会、『第3次埋蔵文化財白書』編集上の不備とその対応、今大会で提出された特別史跡高松塚古墳の保全・保護を求める声明等について報告がなされた。

2)基調報告「福島県における埋蔵文化財の保護と課題」

 いわき市立差塩中学校長大平好一氏から、福島県の埋蔵文化財保護体制の歴史と現状、福島県埋蔵文化財センター白河館での保存と活用の事例、直面する課題等について基調報告がなされた。

 このうち直面する課題としては、事業量減少により県及び市設立の財団調査組織が運営の見直しを迫られていること、市町村合併により専門調査員配置率は見かけ上は上昇したが、一人当たりの担当面積が増加するため専門調査員の負担加重になる事態が予想されること、合併しても依然専門調査員不在の自治体ができる見込みであることなど、他県と同様の問題や課題の生じていることが報告された。

 埋蔵文化財保護に対する理解や普及については、埋蔵文化財に関する情報が市民に十分に伝わっていない問題点が指摘され、担当者がさらに多くの情報を発信することで、市民が埋蔵文化財を保護する意識を高め、その意義を理解することにつながるとの提言がなされた。

 最後に、福島県で取り組んでいる、「遺跡の案内人」というボランティア制度について紹介された。これは一定の研修を受けたボランティアが各発掘調査現場を案内し、調査の過程やその意義や感動などを県民に伝える制度で、県民と遺跡をつなぐ「架け橋」として位置付けられている。このような活動を通し、埋蔵文化財のサポーターを増やす努力を続ける必要性があることを述べ、報告のまとめとした。

3)各地からの報告

〔1〕関西連絡会

鈴木重治委員から、和歌山県根来寺の国指定史跡問題での県教育長の見解、三重県万古焼古窯跡群の保存問題、兵庫県芦屋市の徳川大坂城東六甲採石場跡報告書原稿の検閲問題、京都府下に導入された初の民間企業による発掘調査等について報告があった。また、関西連絡会のメンバーが、世界考古学会議中間会議大阪大会に、平城京(宮)跡とオオヤマト古墳群の保存問題をテーマに取り上げて、ポスターセッション・口頭発表に参加することが報告された。

〔2〕四国連絡会

吉田広委員から、徳島県吉野川第十堰、香川県鵜の部山古墳の保存問題等について報告があった。また、高知大学の新規建物建設予定地に所在する戦争遺跡について、学内のプロジェクトによる調査がなされ、県教委・市教委で埋蔵文化財包蔵地としての登録を検討している点が報告された。

〔3〕岩手県

瀬川司男委員から、胆沢ダム建設のコア材(芯材)採取のために周囲が崖状に削られてしまっ た大清水上遺跡の保存問題、堤防工事予定地にある衣川遺跡群等について岩手県考古学会等が 十分な調査実施のために期間延長を要請したことが報告された。

〔4〕長野県

大竹憲昭委員から、竹佐中原遺跡の保存問題について、県教委から国土交通省に対し保存・活用方法に関する協議を要請したことが報告された。

4)その他

 矢島國雄委員から、世界考古学会議中間会議大阪大会に、遺跡保護に対する協会の取組みについてポスターセッションとして参加する予定であることが報告された。

 事務局から、来年度の埋文委全国委員改選にあたっては、委員不在及び1名のみの県を解消するため、出席した各委員に対し協力が要請された。