HOME > 文化財保護 > 埋文委ニュース


埋文委ニュース第50号

2006.12 日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋文委・夏期研修会..............2006.9.16・17

 本年度の夏期研修会は、9月16・17日の2日間にわたり長野県長和町で開催された。今回の研修会は、①国指定史跡星糞峠黒耀石原産地遺跡及び黒耀石体験ミュージアムにおける史跡整備と地域社会への取り組みを学び、今後の埋文委の活動の参考にする。②月例の幹事会では時間的な制約により十分に検討できない事項について、集中的に協議・検討することが目的である。

 研修会は1日目に史跡整備された星糞峠黒耀石原産地遺跡とそれに隣接する黒耀石体験ミュージアムを見学し、地域社会と一体となった文化財の活用及び博物館運営について研修し、2日目に埋蔵文化財保護対策委員会の現状と課題について意見交換を行った。2日間の参加者は20名で、埋文委幹事・四国地域連絡会・群馬・長野の全国委員の参加も得た。今回の研修会の実施にあたっては、会場となった長和町・長和町黒耀石体験ミュージアム・明治大学黒耀石研究センターの協力をいただいた。

※研修の経過

9月16日(土)
・星糞峠黒耀石原産地遺跡見学
・黒耀石体験ミュージアム見学
9月17日(日)
研修会 明治大学黒耀石研究センター
・埋蔵文化財保護対策委員会の現状と課題

※星糞峠黒耀石原産地遺跡の見学

 星糞峠黒耀石原産地遺跡は、縄文時代の黒耀石原石採掘跡及び石器の加工遺跡群である。また峠の麓を流れる鷹山川沿いは旧石器時代遺跡が点在し、全体として鷹山遺跡群を形成する。今回は、博物館より星糞峠に登り、山の中腹にある発掘調査が実施された1号竪坑まで見学を行った。

※黒耀石体験ミュージアム

 黒耀石体験ミュージアムは、研究の成果をわかりやすく展示し、遺跡の保存と活用を図る目的で平成16年に開館している。博物館はその名のとおり、通常の展示スペースよりも体験学習ができるスペースが広いのが特徴である。体験学習にはガイダンスビデオ等の工夫が凝らされており、現在初級から上級まで17のコースがある。また友の会として組織された地域住民が開館時からさまざまな形で関わり、博物館運営に重要な位置を占めている状況も特筆される。学芸員の大竹幸恵氏からは、鷹山遺跡群発掘から史跡整備、博物館建設決定から開館後の活動について「地域社会と文化財活用」と題する講演をいただき、史跡整備及び体験ミュージアムによる継続的な活動が、地域にとって重要な位置を占めていることを確認することができた。

※研修会

 2日目は明治大学黒耀石研究センターの会議室に会場を移して、幹事会で検討課題になっていた案件についての意見交換を行った。議題はおおむね以下の通りである。

1.地域連絡会のあり方について

 地域連絡会については既に活動を行っている関西・四国連絡会・北海道・東北地区の他に関東甲信越静地区でも発足に向けて動き出すなど、全国的な広がりを持ちつつある状況である。今後はこれら地域連絡会の組織や予算等、活動に関する一定の指針が必要な状況となってきており、今回はその原案について議論を行った。

2.埋文委内規改正に関して

 協会の有限責任中間法人移行後、実態にそぐわなくなっている内規について、その改正を前提として議論を行った。

3.愛媛大会に対しての取り組みについて

 当大会への埋文委幹事会としての参加について、意見交換を行った。

4.奈良県平城宮跡の保存問題について

 特別史跡平城宮跡に対する京奈和自動車道建設問題とともに、「平城遷都1300年祭」の問題について議論を行った。

5.財団法人かながわ考古学財団の廃止方針について

 現知事が打ち出したこの問題については、本来自治体が担うべき文化財に対する責任を明確にすることが必要であると考えられる。こうした動向は今後、神奈川県以外の公的財団組織にも波及することが予想され、慎重な対応を行ってゆくことを確認した。

6.奈良県高松塚古墳の問題について

 高松塚・キトラ古墳問題検討小委員会の議論について意見交換を行った。特別史跡である高松塚古墳の石槨解体の決定に対しては、協会として、昨年、その徹底的な原因の究明と国民への説明、そして万全の保存処置を「特別史跡高松塚古墳の保全・保護を求める声明文」で求めているところであり、これを踏まえた議論が必要であることを確認した。

7.その他の報告・協議事項

 幾つかの遺跡の保存問題、財団法人古代学協会の存続問題について報告、意見交換が行われた。

情報交換会報告.........2006.11.4

 日本考古学協会の2006年度愛媛大会にあわせて、11月4日(土)午後3時から愛媛大学共通教育講義棟3階講義室34を会場として、文化財保護担当理事・全国委員21名のほか、オブザーバー2名の参加を得て情報交換会が開催された。会の進行役は富山直人・松本富雄両委員がつとめ、冒頭に近藤英夫委員長の開会挨拶があった。この中で、今後も埋文委の意見交換の場として会を継続していくこととともに、各地の直面する課題を取り上げていくことが述べられた。その後、事務局報告、基調講演、各地からの報告等、活発な情報交換がなされた。

1)事務局報告

 事務局から、全国委員会以降の埋蔵文化財をめぐる動向に関して、下記の報告がなされた。

①要望書の提出について

 かながわ考古学財団の解散問題については、遺跡調査・遺物の保管管理・活用等をめぐる包括的な視点から、当該財団の廃止を含む見直し案に対して再考の必要性を強く要望した。この問題は、全国の公益法人にも波及するものであり、今後大きな問題になることが予側されることから、各地の状況についての情報を寄せてほしい旨、委員長より協力要請があった。この他、平城遷都1300年記念事業の開催に関して、今後要望書の検討を行うことが報告された。

②文化庁との意見交換会・夏期研修会について

 8月7日に、文化庁担当者と埋文委との意見交換会が行われた。内容としては、かながわ考古学財団や平城宮跡をめぐる問題に関することが中心となっている。
 9月16・17日には、長野県長和町及び同町の黒輝石体験ミュージアム・明治大学黒輝石研究センターの協力を得て、遺跡の保護・活用の実践的取り組みについて有意義な研修を実施した。

2)基調報告「愛媛県における埋蔵文化財保護に関する問題点と対策」

 愛媛県全国委員で今大会の実行副委員長である名本二六雄氏から、愛媛県内の埋蔵文化財保護や活用のあり方について、県内の現状と実践例を織り交ぜながらの基調報告がなされた。
 この中で、遺跡の保護は活用を伴うものでなければならないという理念から、その活用方法に関しても従来の行政主導のあり方を見直すことが求められた。そのための市民参加を促がす工夫をはじめ、財団組織や博物館等の経営改善に向けた具体的取り組みが紹介され、興味深い内容であった。 また、地域史における考古学の位置付けに関しては、まず何より教育の場における人材の育成が最重要であることが強調され、広く社会においては団塊世代への啓蒙と普及が大きな力となることが指摘された。そうした点では、県内における方向性は未だ統一されておらず、基盤づくりを行っていく必要性が挙げられた。
 今後、県内における人材育成の多様化を図り、遺跡の保護・活用に関する体制を構築することが提言され、その際、協会埋文委の役割が重要である点が指摘された。このことは、昨年の福島大会時での大平氏の報告とも共通する部分が多く、考古学や埋蔵文化財への理解者をいかに増やしていくかが大きな課題であり、文化財保護の将来を左右するという発言で締め括られた。

3)各地からの報告

①関西連絡会

 富山直人委員から高松塚古墳・鈴鹿関跡・平城京跡に関する保存問題の現状に関する報告がなされた。また、鈴木重治委員からは、ユネスコ世界遺産委員会ボッカルティー氏による奈良県への視察や、文化庁が国史跡藤原宮跡について橿原市への管理移譲を申し入れたことが報告された。

②四国連絡会

 吉田広委員・松田直則委員から、四国連絡会の議事報告とともに、高知城の保存問題に関し、埋文委による現地視察、「高知城の保存と整備を考える会」との懇談予定等が報告された。

③北海道・東北連絡会

 事務局より、藤沢敦委員の報告に基づき、埋蔵文化財活用状況を巡るアンケート調査の準備等を含む活動報告がなされた。

④その他

 福井県の古川登委員からは、同一遺跡における遺跡調査に関する取扱いが、調査組織により異なるという問題、鹿児島県大西智和委員からは九州・沖縄ブロック立ち上げに向けての抱負、長野県大竹憲昭委員からは関東・甲信越静連絡会の発足に向けての報告等がなされた。