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2009.12

埋文委ニュース 第55号

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋文委・夏期研修会*********2009.10.3・4

 本年度の夏期研修会は、東海大学山中湖セミナーハウスにおいて、11名の参加者を得て開催された。冒頭に近藤英夫委員長が挨拶し、ここ数年、夏期研修会では、本会場で埋蔵文化財保護行政をめぐる諸課題について議論を行うというスタイルをとっているが、今回は行政発掘における民間調査組織導入について、これまでの動向、議論を整理しつつ集中的に議論を行うことが説明された。そして埋文委として今後に向けた提言を行う方向性が確認された。

 夏期研修会の概要を以下に報告する。

【1日目】

1.基調報告 狭川真一氏(元興寺文化財研究所)「発掘調査の民間委託と行政の責務」

 元興寺文化財研究所の狭川真一氏に基調報告をお願いした。氏は過去の発掘調査主体が大学・研究機関から行政、財団法人へと移行してゆく過程について回顧し、それが民間調査組織へと移行しつつある現在を最も大きな画期と位置づけた上で、民間委託の体制、行政の変貌、行政の責務などについて述べた。そして現状の民間調査組織が行う発掘調査と行政、事業者の関係、契約方法は様々であり、それによって調査の質も良くも悪くもなる。また組織改革によって行政も変貌を遂げており、その責務には曖昧な部分が多々あることを指摘し、行政の発想が開発に伴う保護法クリヤーのための処理の発掘調査へとシフトする中で行われる民間委託は、当然あるべき姿とは言い難く、発掘調査は文化財保護の理念のもとで行われるという、原点に立ち返る必要があることを説いた。質疑では、行政の体制、保護法92条と99条という2種類の発掘届と実態の問題、現在の行政の体制を構築してきた世代と現世代間の意識差、入札制度やいわゆる民民契約の問題点などが議論された。平成12年の地方分権一括法公布に伴う保護法の一部改正によって、文化財保護行政に関わる多くの事務が各都道府県へと移ったことにより、かえって各自治体の埋蔵文化財に対する対応が様々になり、それはとりわけ民間調査組織の導入に関わる部分に顕著に見られるようである。こうした点を踏まえ、行政の側でのシステムの再構築が必要であることが確認された。

2.今後の埋蔵文化財保護を巡る方向性に関する検討−近年における文化庁報告に基づく議論を中心として−

 最初に峰村篤委員が、全国の埋文委委員を対象に実施した「埋蔵文化財保護をとりまく状況の調査」のうち、民間調査組織、行政、外郭調査組織、文化庁による標準化、資格制度に関する動向について、過去3年間の回答を集約し、その推移について報告した。近年の地方自治体を取り巻く状況の変化の中で埋蔵文化財の発掘調査体制は外郭機関、市町村ともに縮小傾向が加速しており、民間調査組織導入の拡大はこれに呼応した動向である。民間調査組織はそうした動向を見据えて業界団体の設立や資格制度の創設など着々と環境整備を進めるが、これに対する行政の対応は必ずしも充分とはいえず、この間に報告された民間調査組織に関わる問題点は、行政の対応が後手に回った結果と捉えるべき部分があることなどが浮き彫りになっている。

 次に奥野麦生委員が、「民間調査組織の導入と資格問題にかかる埋蔵文化財行政の課題」と題して、平成20年の文化庁報告『今後の埋蔵文化財保護体制のあり方について(報告)』の検討と総括、資格制度についてのアンケート分析、今後の課題について報告した。文化庁報告は、今後の発掘調査体制に民間調査組織の参入を認めながらも、「質の確保」の観点から「地方公共団体による調査組織及び個々の発掘調査の適切な管理」の確保が必要であるとし、一定の能力を備えた専門職員の適切な配置を求めるなど、「地方公共団体の果たす役割はますます重要となってきている」ことを強調している。しかし現状は、地方公共団体の体制の疲弊という状況の中で民間調査組織の導入が進んでおり、基準を持たない場当たり的な導入により問題が発生している事例も散見される。専門職員の配置についても、統計資料によれば市町村職員は減少傾向にあり、しかも20代は殆どが嘱託で賄われているなど、「あり方」報告とは裏腹な体制へと進んでおり、発掘調査の管理・監督体制、そして文化財保護行政の継承の観点からも憂慮すべき事態に陥っているといえる。資格制度については、2009年度第75回総会時のシンポジウムの際に実施されたアンケート調査の分析が報告された。その結果、比較的高い割合で資格を必要と考える意見が認められるが、その理由、資格に何を期待するのかという点については、埋蔵文化財の公共性を重視した対応、調査水準の確保、学生の考古学への動機づけなど様々な意見が見られるとのことである。そしてこれらの報告を踏まえた今後の課題として、調査組織が行う発掘調査の透明性の確保、地方公共団体文化財担当者の職制の明確な位置づけとそれを踏まえた継続的な人員の確保の必要性などが挙げられた。

 協議では、都道府県、市町村の退職者補填の状況、大学教育、文化庁報告と実態、行政及び民間の調査体制の問題点、発掘調査に伴う民間調査組織の選定方法などが議論され、日本考古学協会としても学界の立場を充分に踏まえて発言してゆくべきであり、時機を見極めつつ提案或いは提言を行うことが確認された。またこれに関連して、近藤委員長より、第4次埋蔵文化財白書の刊行も視野に入れて検討することが提案され、了承された。

【2日目】

 まず、藤沢敦委員より、「仙台市を中心とする民間調査組織についての動向」と題して、宮城県の中で唯一民間調査組織の積極的な導入を行っている仙台市の状況についての報告があった。宮城県は、東北地方の中でも早くから文化財保護体制が確立し、直営による発掘調査を基本としてきた地域である。しかしこうした中で仙台市は、急増する発掘調査に対応するために民間調査組織の導入を平成14年度から検討し、独自に要綱等の整備などを行った。そして一部の調査を除き、市が調査主体者となり、民間調査組織に委託して調査を実施している積算基準や入札要件を一定程度厳密に設定し、市による管理・監督を徹底することで、従来の調査レベルをおおむね維持できている。また急増した調査件数に対応することも可能となっている。但し調査の管理・監督のために各調査には専門職員を配置するために、職員の負担の軽減という効果は無く、むしろ配置する職員が不足している状況である。初期の民間調査組織導入時に策定された要綱なども、実態に併せて順次改定されていく予定であるとの藤沢委員の報告の後、現場の規模などの要件の違いや、隣接地を複数年度で調査する場合による調査会社選定や管理の実態、入札による調査会社選定の問題などの質疑があり、現状では仙台市における民間調査組織の活用は概ね成功している事例と評価されるが、多くの調査会社が入っているために、各遺跡調査の成果が必ずしも均質にはならないなど、少なからず問題点も見られ、今後市の専門職員の補填の状況を注視してゆく必要があることなどが指摘された。

 また、こうした地方公共団体が調査主体者となり、民間調査組織が支援する形態は、一方では、建前上はその参入を認めていない自治体において、なし崩し的な民間調査組織の参入が行われるケースもあり、こうした動向には充分に注意を払い、行政においては実態に即した基準の策定が重要であることなどが指摘された。

 これまでの議論を踏まえて、今後の民間調査組織導入について議論が行われ、文化庁報告との乖離が進んでいる地方公共団体の体制の維持が重要であること、また発掘調査に対して調査の質に対する正当な評価が行われるような機会が必要であることが確認された。

3.山形大会時の情報交換会への取り組みについて

 2009年度山形大会に併せて実施される埋文委情報交換会について、松崎元樹事務局次長より、次第案が提示され、概ね了承された。基調報告として、天童市教育委員会の岡崎友美氏に「天童市西沼田遺跡公園における保存と活用」と題する発表を依頼している。主要な議題は、「埋蔵文化財保護をめぐる昨今の状況について」と題して、各地における民間調査組織の導入に関する事例と問題について、奥野委員が夏期研修会の報告を含め関東地方を中心とする状況について、藤沢委員が宮城県の事例について報告し、質疑を行う。また、最近、広島県福山市鞆の浦の埋め立て架橋工事をめぐる訴訟で、文化的・歴史的景観保全の観点から埋め立て免許差し止めを命じた判決が広島地裁から出されたことを受け、地元の委員に経過説明を求めることで調整することが提案され、さらに今後の動きを視野に入れて昨年5月に協会が行った「鞆の浦の歴史的景観および港湾文化財の保全・保護を求める声明」について、先の政権交代を機に、再度行うことを理事会に提案すべきであること、これまでに見られなかった画期的な判決である点に鑑み、埋文委としても何らかのコメントを出すことを検討する点が了承された。

4.埋文委委員改選に伴う次年度以降の執行体制について

 来年度は、埋文委委員改選の時期に当たるため、その手続きについて確認があった。そして近藤委員長より、来年度に向けて新たな体制を確立してゆく必要がある旨の発言があった。

5.その他

 馬淵和雄委員より、神奈川県相模原市小保戸遺跡について、今後の整備・活用がネックとなり保存問題に対して見解の相違が生じている事例が報告された。質疑では、遺跡を残すということの意義、活用のあり方などについて意見が出された。

 近藤委員長より、神奈川県平塚市塚越古墳の保存問題について報告があった。現在市による指定を目指して調整を行っているが、今後保存要望書の提出も視野に入れた対応が必要になる可能性があることが確認された。

(峰村 篤 記)

埋文委・情報交換会**********2009.10.18

 埋蔵文化財保護対策委員会では、2009年度山形大会に併せて、10月18日(日)午後1時30分から、東北芸術工科大学本館306講義室において、埋文担当理事、埋文委委員ならびに会員19名の参加を得て情報交換会を開催した。進行は、松崎事務局次長が務め、近藤委員長の挨拶の後、基調報告、埋蔵文化財保護をめぐる昨今の状況、その他について活発な意見交換が行われた。

1.基調報告「天童市西沼田遺跡公園における保存と活用」

 天童市教育委員会生涯学習課の岡崎友美氏から、同市矢野目に所在する西沼田遺跡の史跡公園整備と活用の状況について基調報告がなされた。報告では、遺跡発見から保存に至る経緯や、検出された遺構を生かした復元過程やその手法などについて、詳細な説明を受けた後、ガイダンス施設を含む遺跡公園の管理運営に関する報告がなされた。管理運営に関しては、遺跡の所在する地域の「地域づくり委員会」と合同で管理と活用に関する検討会を組織し、これを基に、住民対象に委員を公募しワークショップを実施しながら活用方法を模索したとの報告がなされた。現在は、公募委員が中心となって設置されたNPO法人が指定管理団体となって運営に当たっており、地域に根ざした多彩な企画で賑わっているとのことであった。

 整備後、十分な活用が図られない状況の史跡が多い中で、親子連れでにぎわう西沼田遺跡公園の取り組みは大変参考になった。

2.検討・協議事項

 1)埋蔵文化財保護をめぐる昨今の状況

 「各地における民間発掘会社の導入に関する事例と問題」をテーマに、2件の報告と協議が行われた。

 まず、藤沢敦委員から「東北地方における民間調査組織の動向について」と題し仙台市の事例について、その後、奥野麦生委員から「民間調査組織導入に関する事例と問題について」と題し関東地方の状況と夏期研修会の概要を併せて報告した。民間調査組織に関する問題点は、例年実施している「埋蔵文化財保護状況調査」においても、ここ数年急速に回答事例を増やすとともに状況の複雑さが浮き彫りにされており、今後も継続的な協議の必要性が確認された。

 2)各地からの報告

 北海道・東北連絡会の藤沢委員、関東連絡会の馬淵和雄委員から今後の連絡会の予定について報告が行われた。

 関西連絡会からは佐藤亜聖委員から、大阪府の「発掘調査市場化テスト」に関する問題と、山田邦和委員から、「京都市梅小路公園再整備」に関する問題が報告され、今後の状況を注視することが確認された。

 四国連絡会の岡山真知子理事から「高知城北曲輪・国史跡追加指定」についてと「愛媛県四国中央市里城跡の破壊」、「松山市生涯学習財団統合問題」について報告が行われた。

 また、「鞆の浦保存問題」に関して松本富雄理事から、大会初日の会長挨拶の中に広島地裁判決を評価する趣旨が盛り込まれたことが報告された。なお鞆の浦問題に関しては、政権交代に伴いあらためて国に対しこれまでの経緯と保存の必要性について要望書を出すことと、来春の総会に併せ再度声明を出す方向で検討中であることなどが報告された。

(奥野麦生 記)