本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2010年度総会に先立って国士舘大学6号館105教室を会場として、委員41名の参加を得て開催された。冒頭に近藤英夫前委員長が挨拶し、委員長就任後8年間に及ぶ各委員の協力に対し、謝辞と今後の課題が述べられた。その後、事務局の推薦により議長に近藤英夫・藤沢 敦・吉田 広各委員を、書記に佐藤亜聖・宇佐美哲也各委員を選出した。主な議事は以下の通り。
橋口事務局長により、2009年度における埋蔵文化財保護対策委員会(以下、埋文委)の主な活動について報告があった。内容としては、要望書を提出した奈良県大和郡山市郡山城下五軒屋敷 遺跡や東京都府中市武蔵国府関連遺跡の保存問題のほか、奈良県香芝市の遺物投棄問題、夏期研 修会の報告、山形大会時の情報交換会など。
松崎元樹事務局次長が、2009年度決算の説明及び2010年度予算案の提示を行い、昨年度よりも 減になるが、実績を勘案して本案で総会に諮ることが了承された。
選出にあたり議長団から、埋文委担当理事は委員を兼務できないことが説明された。次いで委員長・副委員長への立候補及び推薦がなかったため、事務局提案として、委員長に矢島國雄委員、副委員長に酒井清治委員、藤沢 敦委員を推薦し、全会一致により承認された。
矢島新委員長から就任の挨拶があり、速やかに新たな執行体制を整備することが述べられ、事務局長には橋口委員、事務局次長には松本富雄、馬淵和雄、松崎委員を充てる方針。
委員を対象としたアンケート調査を今年度も実施し、今回は32都道府県から回答があった。各アンケート項目の集計結果とそれに基づいた2009年度の動向や総括について、峰村 篤、柳戸信吾、奥野麦生各委員からの報告があった。
さきの香芝市遺物廃棄問題を重く捉える中で、奥野委員からは、とくに出土遺物の保管・管理・活用をめぐる問題が取り上げられ、多くの自治体で出土遺物の保管収納場所に苦慮している実態や、文化庁の「出土品の取扱い」に関する基準についても、管理・活用の実態を踏まえた上で再検討する必要があることが報告された。
資格制度に関する意見交換会の実施や、遺跡に関しては岩手県内における発掘調査に伴う死亡 事故や、山形県出羽城周辺の開発問題等について報告された。
今年3月20日に実施された連絡会、新潟市立美術館のカビ発生問題、旧中条町にある城の山古 墳(前期)の学術発掘調査についての報告があった。
連絡会は年3回開催し、年度後半は多様な問題に対応するため、幹事会への出席を増やした。奈良県では香芝市遺物廃棄問題、大和郡山市五軒屋敷跡、平城京跡の保存問題に取組み、香芝市の問題では、現地での遺物回収・再保管の状況に関して確認した。この問題はポスターセッションでまとめている。この他、官衙遺跡と目される大阪府松原市河合遺跡、平清盛西八条推定地の京都府京都市梅小路遺跡の調査、及び府立弥生文化博物館の存続問題の現状に関して報告された。
連絡会は年2回開催した。高知市高知城跡の活用問題、土佐市上ノ村遺跡の状況が報告された。この他、(財)徳島県埋蔵文化財センターの公益法人化についても報告された。
鞆の浦の埋立て問題について、昨年景観の文化財的価値を認める1審判決が出されたことの報告。福山城跡では、JR福山駅前地下整備工事に伴う外堀遺構(石垣)への一部影響についても報告された。
吉備路郷土館の閉館問題、岡山市亀山桜古墳群の石室崩壊、庄田廃寺跡の史跡整備問題等が報 告された。
本高古墳群の保存に伴う鳥取西道路の計画変更、県立高校改築に伴う国史跡鳥取城跡の保存問 題等が報告され、後者については埋文委としても現地視察を含めた対応を行う予定。
松江城下町における歴史博物館建設は着工され、賛否両論。県下の専門職の採用状況は厳しく、 実質的には3〜5割減であることなどが報告された。
近世城下町におけるマンション建設問題を契機として、城下町の景観保全についての議論が不 可欠になってきている。九州では近代産業遺産の世界遺産リスト登録もあり、この分野への考古 学からのアプローチの必要性が提起された。
石垣島の空港建設に伴う調査で、洞穴遺跡より出土した人骨や遺跡等の取扱いに関して、日本人類学会より知事に要望書が出されたことが報告された。考古学協会埋文委としても、今後調査の進捗状況を見ながら何らかの対応が必要との認識が示された。