本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2011年度総会に先立って國學院大學院友会館地下1階大ホールを会場として、委員36名の参加を得て開催された。冒頭に矢島國雄委員長が挨拶し、今般の東日本大震災の犠牲になられた考古学関係者への哀悼の意が表され、同時に今後の震災対応への協力要請等が述べられた。その後、事務局の推薦により議長団に宮瀧交二(埼玉)・舘野孝(神奈川)・吉田広(愛媛)・馬淵和雄(神奈川)各委員を、書記に峰村篤(千葉)・小笠原永隆(千葉)各委員を選出した。主な議事は以下の通り。
橋口定志事務局長により、2010年度における埋蔵文化財保護対策委員会(以下、埋文委)の主な活動について報告された。内容としては、月例の幹事会における会議の持ち方や、要望書を提出した石垣市白保竿根田原洞穴遺跡、松山市文京遺跡、北九州市城野遺跡、向日市長岡宮跡等の保存問題等に関する主要な取組みの状況が報告された。
また、文化庁との懇談で遺物の活用問題や府中市武蔵国府跡の史跡追加、松原市河合遺跡等の保存問題について意見交換を行ったことや、鴨川市嶺岡牧の保存活用に関するシンポジウムに協力したことなども合せて報告された。
松崎元樹事務局次長により、2010年度決算の説明、及び2011年度予算案が提示された。昨年度 は大震災の影響により、年度末に予定していた合同研修会が中止となり、未執行額がやや多い点 などが報告された。今年度予算は昨年度よりも減になるが、協会の現状と実績を考慮して本案で 今総会に諮ることが了承された。
委員を対象としたアンケート調査を今年度も実施し、一昨年度を上回る34都道府県から回答があった。各アンケート項目の集計結果とそれに基づいた2010年度の動向や総括について、柳戸信吾、奥野麦生両委員から報告があった。
前半の動向では、埋蔵文化財保存問題、地方行政の動向、遺物の保管・管理・活用問題、行政外郭調査組織及び民間調査組織の課題、博物館・資料館の運営等に係る問題点等について、現状の報告がなされた。この中で比重が大きな問題として、とくに地方行政における市町村の人員不足が慢性化しつつある。先の合併の後遺症ともいえ、本来、行政が担うべき役割が不十分な点が多々指摘されている。同時に、事業者負担の調査報告書部数の制限に見られるように、国民への情報公開や普及に関しても、後退的な状況が現出しつつある点が懸念された。
また、遺物の保管・管理・活用についても、「廃棄」を基準とする施策が推進される傾向があることにも注意が必要であることが述べられた。
総括としては、やはり「出土遺物の取扱い」をめぐる問題があげられ、収蔵スペースの不足を理由とした廃棄基準のあり方には大きな問題があり、あくまで、学術的な資料である遺物の内容を考慮すべきであり、単に、見栄えの良い遺物のみが遺されるべきとする単純な活用の概念だけでは、あまりにお粗末な取扱いといえる。
今後、埋文委として継続的な取組みと新たな提案を行っていくことが再度確認された。
北海道・東北連絡会の報告として、今回の東日本大震災に伴う文化財被害の状況と地元での文化財救済活動について、宮城県の藤沢敦委員と福島県の菊地芳朗委員により、詳細な報告が行われた。
宮城県では、地震・津波により人的被害や文化財被害が顕著な資料館や博物館の事例などが紹介され、すでに、古文書をはじめ歴史民俗資料などの救済を目的とする資料保全ネットワークや、各自治体の取組みも紹介された。また、復興事業に伴う埋蔵文化財の取扱いについて、今後注視し対応していく必要が述べられた。また、福島県の場合は、地震災害に加えて原発事故による汚染問題が深刻化しており、この先、文化財被害の状況も把握できない地域が出てくる懸念がある。自治体職員は震災対応に追われ、文化財まで手が及ばない現状であり、ふくしま歴史資料保存ネットワークによる救済活動が行われているのみである。文化庁・自治体による本格的な支援が急務であることが報告された。
この報告に対し、矢島委員長から文化財レスキューの概要が報告され、今後、埋文委としても復興事業に対する対応を本格的に協議するなかで、地元学会との共通認識に立ち、文化庁等への働きかけを行っていく方針が述べられた。
今年度連絡会は年3回開催し、御所市巨勢山古墳群の毀損問題、向日市長岡京481次調査遺跡、 松原市河合遺跡、京都市梅小路遺跡の保存問題等について現地視察及び協議を実施した。この他、大津市藤原京瓦窯跡、奈良市京奈和道路建設、大阪府立弥生博物館の存続問題に取組む。
連絡会は年3回開催し、高知市高知城、個別遺跡の保存問題、財団の動向、史跡の整備・活用 等に関して取組む。この中で、松山市愛媛大学構内の文京遺跡の保存・活用問題に関しては、学 長との懇談なども踏まえ、遺跡の活用協議を継続する。
今年度は年度末に予定していた連絡会・研修会が大震災のため中止となり、主だった活動はで きなかった。関東も一部被災地を含むことから、今後、震災に係る対応を検討していく。