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2012.8

埋文委ニュース    第62号

日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会

埋蔵文化財保護対策委員会*******2012.5.25

 本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、第78回(2012年度)総会に先立って立正大学1号館1階301会議室を会場として、委員等39名の参加を得て開催された。冒頭に矢島國雄前委員長が挨拶し、東日本大震災に関わる埋蔵文化財保護問題などの課題が多くあり、慎重かつ活発な議論が要請された。その後、事務局の推薦により議長団に松本富雄・宮瀧交二(埼玉県)・舘野孝(神奈川県)、書記に宇佐美哲也(東京都)・小笠原永隆(千葉県)の各委員を選出した。主な議事内容は以下の通り。

1.2012−2013年度委員の改選について

 近藤英夫担当理事より、新委員の選任に関する経過報告等がなされた。今回は岐阜県を除いた46都道府県から121名の委員が選任されたことや、不在県についても、早急に委員候補者を定めて委員選考委員会において選任したい旨の報告があった。

2.委員長・副委員長等の選出

 新委員長については、委員複数の推薦により矢島國雄委員を再選した。また、矢島委員長の指名により、副委員長に藤沢 敦(宮城県)・藤野次史(広島県)両委員、事務局長に松崎元樹(東京都)委員が推薦され、全会一致で承認された。この後、新委員長の挨拶があり、昨今の埋蔵文化財保護行政をめぐる変化に十分に対応できるように、委員へのさらなる協力を求める発言があった。

3.2011年度の埋蔵文化財保護対策委員会活動報告

 @ 2011年度の活動概要報告

 松崎事務局次長により、2011年度における埋文委の主な活動について報告された。内容としては、月例の幹事会(計10回)における会議の内容や、要望書を提出した和歌山県岩出市根来寺遺跡、福島県相馬市中村城跡の保存問題等に関する主要な取組みの状況等が報告された。

 また、継続的に取り組んでいる「出土品の取扱い」に関する全国自治体へのアンケート調査の実施と集約、及びこれに関する研修会の報告なども合わせて行った。さらに、文化庁との懇談会に関して概要が報告され、震災関連の埋蔵文化財の諸問題については協力していくことが確認された。

 A 2011年度の決算報告と2012年度の予算案について

 松崎事務局次長により、2011年度決算の説明、及び2012年度予算案が提示された。昨年度は、遺跡保存に係る案件は少なかったもの、幹事会では、各地域との情報交換により旅費は前年度よりも執行した点や、今年度は、昨年度実績を考慮し計上した予算案を総会に諮ることで了承された。

4.福島原発事故区域に所在する文化財等の保全に関する総会決議について

 福島原発避難地域に残された文化財の保護を訴えたもので、菊地芳朗(福島県)・藤沢両委員作成の原案に基づき、事前に埋文担当理事等により案文が作成され、理事会を経て総会に諮られることなどが近藤理事より報告された。

5.2011年度委員アンケート集計結果の報告と協議

 今年度は31都道府県の委員から回答があった。各アンケート項目の集計結果とそれに基づく2011年度の動向や総括について、北澤 滋(千葉県)・柳戸信吾(埼玉県)両委員から報告された。

 前半の動向では、東日本大震災復興に係る文化財の問題、地方埋文行政の動向、出土遺物の保管・管理・活用問題、行政外郭調査組織及び民間調査組織の動向、地域博物館・資料館の運営等に係る問題点等について、現状の報告がなされた。

 上記の問題点を踏まえた総括的な整理では、埋蔵文化財を取り巻く環境が人的にも予算的にも改善されず厳しい運営状況にあること。加えて、東日本大震災関連の報道等により埋蔵文化財への風当たりが強まっていることが懸念されるなか、正に日本考古学協会の真価が問われているとした。

6.自治体アンケート結果をめぐる埋蔵文化財保護の諸課題

 41都道府県及び14政令市から回答が寄せられた「出土品の取扱いに関する要綱等の設置及び運用状況等調査」の集計結果と分析に関して、峰村篤委員(千葉県)より報告された。なお、本結果の一部については、今年度総会のポスターセッションにおいて公表している。

 本調査では、「活用」と「廃棄」基準のあり方と、これらに関する自治体の整備状況に関する設問が中心である。大部分の自治体において、活用頻度に応じた遺物の「廃棄」に係る取扱い基準や人工遺物を廃棄する規定が設置されているのに対して、実際の廃棄案件に際して、それを審査する第三者機関や市民、研究機関等を設置する自治体はきわめて少なく、整備状況に大きな較差がある。また、国民の共有財産である埋蔵文化財の廃棄規定等が、現状では一般市民に対して十分に周知されていない点や、行政側における「活用」のあり方が特定の普及事業に偏る傾向がつよく、過去の生活・文化を復元するための学術的な「考古史料」という大前提が軽視されている点が報告され、今後、継続的にこの問題に取り組んでいくことが確認された。

7.各地からの報告

(松崎記)