本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2013年度総会に先立って駒澤大学会館246・7階会議室を会場として、担当理事および委員33名の参加を得て開催された。冒頭に矢島國雄委員長が挨拶し、今年度も東日本大震災復興事業に伴う埋蔵文化財調査などの課題があり、本会での真摯な議論が要請された。その後、事務局の推薦により議長団に松本富雄(埼玉県)・初山孝行(栃木県)、書記に宇佐美哲也(東京都)・小笠原永隆(千葉県)の各委員を選出した。主な議事内容は以下の通りである。
松崎元樹事務局長により、2012年度における埋文委の主な活動について報告された。内容としては、月例の幹事会(計11回)における会議の内容や、要望書を提出した静岡県沼津市高尾山古墳、青森県五所川原市五月女萢遺跡、和歌山県岩出市根来寺遺跡および神奈川県茅ケ崎市下寺尾官衙遺跡群の保存・活用問題に関する取組みの状況が報告された。
また、昨年秋の福岡大会での情報交換会ならびに、ポスターセッションでも取り上げた「出土遺物」の取扱いに係る自治体へのアンケート調査結果に基づく現状と課題について報告された。また、文化庁との懇談については東日本大震災対策特別委員会との合同で実施され、主に要望書を提出した遺跡に関する対応についての申し入れと若干の意見交換等を行ったことが報告された。
@に引き続き、2012年度決算の説明ならびに2013年度予算案が提示された。昨年度は、遺跡の保存問題に係る案件がやや少なく、旅費等の支出が抑えられたことが報告され、今年度は、昨年の実績と今年度の活動を考慮し計上した予算案をそのまま総会に諮ることで了承された。
矢島委員長より今年度の活動方針が説明され、昨年度からの継続的な遺跡の保存問題に加え、地域連絡会などから提起される新たな問題に関しても取り組んでいくことが述べられた。これに対し、近藤理事からは遺跡の活用事例に関して現状を調査し収集していくことが提案され、今後、出土遺物の取扱いを含めた提起を行うことが盛り込まれた。また盛本勲委員(沖縄県)からは、米軍普天間基地返還に伴う敷地内の埋蔵文化財の取扱いに関する本協会としての議論の必要性が指摘された。
今年度は例年に比して少なく28あまりの都道府県の委員から回答があった。アンケート項目の集計結果とそれに基づいた2012年度の動向について、北澤滋委員(千葉県)から報告された。主な点としては、埋文行政第一世代の定年退職に伴う新規採用が抑制されていること、事業者負担による報告書の発行部数が300部に限定されたことで国民への普及が阻害されていること、多くの自治体で出土遺物の保管・管理態勢が不十分になっている現状が報告された。また、財団調査組織の公益財団法人・一般財団法人化が進んだものの、事業量の減少などの問題があること、博物館等では指定管理者により本来的な学芸業務が蔑ろにされ、財政的な理由から閉館されるケースも見られた。このほか、災害時における文化財の救援体制に関するシステムが構築されていないことへの懸念が示された。
はじめに、矢島委員長よりここ数年の問題が提起された。この中で、遺跡の世界遺産化や史跡整備は一定の成果を上げているものの、保護行政システムから漏れるケースも多々あること、民間調査組織の導入に関する基準が必ずしも確保されていないこと、出土遺物の管理活用体制が脆弱化していることなどが挙げられた。また、今後の課題としては国が推進し、現在放置されている調査員資格制度に関する検証の必要性が述べられた。
また、奥野麦生委員(埼玉県)により地方行政に関する問題点が以下に総括された。主な動向は、埋蔵文化財専門職員が17%あまり減少し、平成の市町村大合併により担当職員の範囲拡大による負担増ならびに、団塊世代の退職による正規職員の減少と任期付・嘱託職員の採用の促進や民間調査会社職員の編入などが常態化していることが報告された。
また、即戦力となる専門職員の不足と調査技術等の継承が困難な環境にあり、新採職員のスキルの向上に関して、今後、本協会も何らかの対策を講じる必要性がある。一方、地方自治体の調査への国庫補助金の活用に関して、県費補助が徐々に無くなる傾向にあり、整理補助金の申請に関しては煩雑な手続きにより担当者の負担が増加している現状が述べられた。全体としては、専門職員が埋蔵文化財調査の「処理」担当者化の傾向が強まり、他業務との兼務による疲弊が懸念材料であり、職員の「負」のスパイラル化が進行する傾向が報告された。
広島県(藤野次史副委員長)/福山市鞆の浦の地元での保存反対運動等。/埋文行政上の諸課題の中で、調査経験や技術面での人材確保が深刻。若い世代の歴史認識の欠如を改善するうえで、教育機関における歴史教育の重要性が強調された。