本年度の日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、2015年度総会に先立って帝京大学本館7階1・2・3会議室を会場として、委員等33名の参加を得て開催された。冒頭に矢島國雄委員長が挨拶し、埋文委アンケート10年間の総括をもとに、総会でのセッション開催、『日本考古学』への掲載を行うことが示され、その協力が要請された。その後、事務局の推薦により議長団に松本富雄(埼玉県)・一瀬和夫(大阪府)、書記に柳戸信吾(埼玉県)・小笠原永隆(千葉県)の各委員を選出した。主な議事内容は以下の通り。
松崎事務局長により、2014年度における埋文委の主な活動及び決算について報告された。
月例の幹事会(計10回)における会議の内容や、要望書を提出した千葉県船橋市海老ヶ作貝塚、神奈川県鎌倉市円覚寺西側結界遺構、高知県高知市浦戸城跡の保存問題等に関する主要な取組みの状況等が報告された。また、10年間取り組んできた「埋蔵文化財を取り巻く状況に関するアンケート」について、2014年度は実施せず総括を行うこととし、これに関する研修会の報告なども合わせて行われた。さらに、文化庁との懇談会の概要が報告された。
松崎事務局長により、2015年度予算(案)及び活動方針が提示された。予算(案)については、やや減額となっているが、活動を制限するものではないことが説明され、原案通り総会に諮ることで了承された。活動方針については、幹事会の月例会と研修会を例年通り開催するとともに、九州地区での連絡会結成に向けた動きがあれば積極的に支援してくことが確認された。
@地方行政の動向
担当職員に関しては、30歳代以下の正規職員が減少し、非正規職員が多くなっている。さらに、市町村合併等の影響で、博物館や社会教育全般との兼務が一般化し、職員の負担が増大する傾向にある。発掘調査については、民間調査機関の導入が進んでいるほか、国庫補助に随伴する補助金がつかないケースもみられ、財政悪化を理由とした調査の取りやめが懸念される。調査基準を標準化する動きも活発だが、基準が社会的に広く認知されるものでなければならない。
A埋蔵文化財の保存と活用
各地で世界遺産を目指す動きが活発化し、地域が一体となった整備活用は良いことだが、観光に偏るなど懸念材料も多い。首長部局と教育委員会の連携が重要である。
B出土資料の保管・管理・活用
2011年度、都道府県と政令市を対象に出土資料の取扱いについてアンケートを実施したところ、収蔵専用ではない施設へ仮の分散保管が常態化していることが明らかとなった。さらに、活用見込みの低い遺物の廃棄について、文化庁の指針を越え機械的に区分する基準を作る自治体がある。情報公開も不十分で、強く憂慮される。活用については、学習用貸出キット、体験イベント、巡回展が盛んになっているが、担当職員が少ないと実施できず、自治体間で格差が生じている。また、資料の学術的活用が少ないことは残念である。
博物館・資料館については、市町村合併の影響で、閉館や規模縮小する館が増え、2008年度より館数が初めて減少に転じた。また、一般化した評価制度は、入館者数を重要視する傾向が強く、観光施設化を促すだけでなく、博物館活動の質の低下を招いている。また、若い正規職員の減少、非常勤・再任用職員の増加は、技術継承を困難化させ、この傾向に拍車をかけている。指定管理者制度の導入も進んだが、民間側は管理部門のみを求めることが多く、直営に戻す事例も見られる。
民間調査機関の導入問題については、かながわ考古学財団の民営(一般財団法人)化問題が、埋蔵文化財調査において自治体がどこまで責任を負うのか、という意味で象徴的な事例であった。地方自治体の民間調査機関の活用は確実に進んでおり、民間側の体制整備も進んでいる。しかしながら、管理監督に係る体制整備は進んでいるとは言い難く、問題も大きくなっている。
全体として、この10年間で問題は多様化しており、取り組むべき課題も複雑化している。なお、埋蔵文化財の保護問題については、あからさまな破壊事例は減少傾向にある。しかしながら、この問題に直面した時、行政職員は研究者以前に公務員であり、理想を追うことだけでは済まされないという現実がある。学会の役割として、世論に保護を訴えていくことが今後の大きな課題となる。
松崎事務局長より、理事会の最終判断をもって声明が関係機関に送付されることが報告された。
関西地区全体で調査件数が増え、職員も増員傾向にあるが、まだ人員不足の自治体もある。