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2006年11月3日、愛媛大学城北キャンパスで開催された2006年度愛媛大会において、 を発表し、各々下記のとおり送付しました。
日考協 第59号
2006年11月7日
文部科学大臣          伊吹 文明 様
文化庁長官           近藤 信司 様
独立行政法人文化財研究所理事長 鈴木 規夫 様
有限責任中間法人 日本考古学協会
会長 西谷 正

特別史跡高松塚古墳の保全・保護を求める再度の声明の送付について

 当協会の事業・活動に対し、つねづね御理解と御支援をいただき感謝いたしております。
 さて、当協会では、本年11月3日、愛媛大学城北キャンパスで開催された2006年度大会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
 意のあるところをおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。

一、別添書類 一通

以上

特別史跡高松塚古墳の保全・保護を求める再度の声明

 2006年10月2日、文化庁は、「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」の答申をもとに文化審議会の承認を経て、高松塚古墳壁画を「解体修理」するため、石槨を摘出する発掘を開始した。日本考古学協会は、2005年10月開催の福島大会において「特別史跡高松塚古墳の保護を求める声明」を提出し、高松塚古墳の石槨解体という方針に対して、これまでの経緯と石槨解体に関する国民への説明と、さらなる議論を重ねることを要請した。

 しかるに、壁画劣化の原因究明と「解体修理」に到った経緯についての充分な説明もないままに、発掘が開始された。国宝の壁画のみでなく、高松塚古墳の総合的な保存を図ることの重要性を強く訴えてきた本協会としては、まことに遺憾の念を禁じ得ない。

 しかし、「解体修理」のための発掘開始という事態に至った現在では、石槨解体による墳丘等の破壊を断腸の思いで受けとめ、また、保存処理後の国宝壁画を特別史跡の歴史的環境のもとで古墳としての恒久的保存を図るという文化庁の前提方針を固く信じて、以下の諸点について、改めて要請する。

  • (1)すみやかに発掘調査の方針や具体的な方法についての情報を公開すること。
  • (2)発掘にあたっては、最大限の情報をひきだすべく徹底した学術調査として十分な環境を整え、 予想外の事態に対しても万全の対応を図ること。
  • (3)発掘調査の進捗状況に応じて、適宜研究者に現場を公開し、広く知識を結集することによって、最善の結果が得られるよう図ること。
  • (4)石槨解体、搬出にあたっては、石材・壁画に損傷がないよう細心の注意をはらい、古墳に対する損傷を最小限にとどめること。石槨搬出後、墳丘と石槨床石痕跡の保存についても万全の措置を講ずること。
  • (5)壁画の保存にあたっては、彩色による壁画が認められない壁面も、壁画を構成する重要な要素と認識し、その全き保存に万全を期すこと。キトラ古墳の恒久的保存や第3の壁画古墳発見の可能性を念頭におき、高松塚古墳の総合的保存・保護を図る方策についての研究と検討をも進めること。
  • (6)文化庁は、壁画が著しく劣化した原因究明と、特別史跡の古墳を「解体修理」という苦肉の策をとらざる得ない状況に至ったことに対し、誠意をもった説明責任を果たすこと。

 以上をふまえて、文化庁は学術的立場・文化財保護行政の立場から真摯に総括し、将来への教訓として活かし、国民の信頼を取り戻すよう、適切な対応を図ることを切望する。

 以上、日本考古学協会2006年度大会の場において、ここに声明する。

2006年11月3日
有限責任中間法人 日本考古学協会
日考協 第60号 2006年11月7日

文部科学大臣伊吹 文明 様
文化庁長官近藤 信司 様
国土交通大臣冬柴 鐵三 様
奈良県知事柿本 善也 様
奈良県教育委員会教育長矢和多 一 様
奈良県文化財保護審議会会長鈴木 嘉吉 様
国土交通省近畿地方整備局長藤本 貴也 様
国土交通省近畿地方整備局奈良国道工事事務所長山田 哲也 様
奈良市長藤原 昭 様
奈良市教育委員会教育長中尾 勝二 様
奈良市文化財保護審議会会長菅沼 孝之 様
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所所長田辺 征夫 様
日本ユネスコ国内委員会会長吉川 弘之 様
日本イコモス国内委員会委員長前野 まさる 様
(財)ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所長山本 忠尚 様
The World Heritage Centre UNESCO DirectorFrancesco Bandarin 様
ICOMOS International Secretariat DirectorGaia Jungeblodt 様
高速道路から世界遺産・平城京を守る会事務局長小井 修一 様
奈良県庁内文化記者クラブ 御中 
有限責任中間法人 日本考古学協会
会長 西谷 正

平城宮跡地下の高速道路通過計画の再考を求める再度の声明の送付について

 当協会の事業・活動に対し、つねづね御理解と御支援をいただき感謝いたしております。
 さて、当協会では、本年11月3日、愛媛大学城北キャンパスで開催された2006年度大会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
 意のあるところをおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。

一、別添書類 一通

以上

平城宮跡地下の高速道路通過計画の再考を求める再度の声明

 日本考古学協会は、「京奈和自動車道」大和北道路のルートとして、国指定特別史跡であり、ユネスコの世界遺産として登録されている平城宮跡の直下をトンネルで通過するという国土交通省の計画に対し、2001年5月と2002年5月の総会において反対決議を行い、2004年5月の総会においては声明を協会の総意として表明してきた。

 その後、本年2月に至り、国土交通省の主宰する近畿地区幹線道路協議会課題別会議「大和北道路に関する会議」において、複数のルート案の中から「西九条佐保線地下+高架」案が選定され、平城宮跡の直下をトンネルで通過するという当初案が回避されたことは、一定の前進であると評価することができる。

 しかしながら、今回示された「西九条佐保線地下+高架」案にも、過去に多数の木簡を出土した地区に近接しているなど、文化財保護上なお多くの問題点があることも事実である。さらに、トンネル出入口部や排気筒の工事に伴って、周辺地域に所在する多くの文化財にも深刻な影響を及ぼすことが懸念される。現在の土木技術水準が、複雑な地下水脈や周辺環境に影響を与えないという絶対的な力量を持っているとは断言できない以上、ことの決定にはより一層慎重を期すべきである。

 平城宮跡は特別史跡であるとともに、人類的遺産として将来にわたり保全し、後世に引き継いでいくべき歴史的に重要な遺跡であるとして、1998年には世界遺産に登録されている。このことは、史跡に対する国際的な責任を日本国が負っているということでもある。ところが、提示されている高速道計画は、世界遺産をより良好な環境で保全するために定めたバッファゾーンに一部がかかっており、「世界遺産」の保全という国際的な課題をクリアせずに建設計画が進められる危険性をはらんでいるといえる。また、道路建設にかかる諮問委員会としての文化財検討委員会でも、「世界遺産条約に定められている緩衝地帯(バッファゾーン)内においてもできる限り離隔をとって行われるのが望ましい」とする答申が出されており、これを真摯に受け止めるべきである。

 以上のことから日本考古学協会は、国際的な歴史遺産である平城宮跡の保全に大きな影響を及ぼすことが懸念される「京奈和自動車道」大和北道路の「西九条佐保線地下+高架」案について、世界遺産保全の見地からの再検討を強く求めるものである。

 以上、日本考古学協会2006年度大会の場において、ここに声明する。

2006年11月3日
有限責任中間法人 日本考古学協会
日考協 第61号
2006年11月7日
文部科学大臣    伊吹 文明 様 
中央教育審議会会長 鳥居 泰彦 様
有限責任中間法人 日本考古学協会
会長 西谷 正

学習指導要領の改訂に対する声明の送付について

 当協会の事業・活動に対し、つねづね御理解と御支援をいただき感謝いたしております。
 さて、当協会では、本年11月3日、愛媛大学城北キャンパスで開催された2006年度大会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
 日本考古学協会は、今後ともこの社会科教科書問題への取り組みを継続し、改善に向けての協力を惜しまない所存です。
 意のあるところをおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。

一、別添書類 一通

以上

学習指導要領の改訂に対する声明

 1989年以来の学習指導要領の改訂にともない、小学校第6学年の歴史学習は「指導内容の厳選を図る観点から、歴史上の代表的な事象にとどめて学習するようにし、網羅的な学習にならないようにした。」に従い、「農耕の始まり、古墳について調べ、大和朝廷による国土の統一の様子が分かること」と、その内容を弥生時代から取り扱うことに改められた。この改訂によって、現行の教科書の本文から旧石器・縄文時代の記述が削除されたが、日本列島における人類史のはじまりを削除し、その歴史を途中から教えるという不自然な教育は、歴史を系統的・総合的に学ぶことを妨げ、子ども達の歴史認識を不十分なものにするおそれがある。

 考古学は、祖先の生きた証となる物質資料をもとに歴史を復元する学問である。列島全域に普遍的に存在する考古資料は、文字などの記録では知ることのできない人々の生活や地域の豊かな歴史と文化をいきいきと物語るものであり、その成り立ちを理解するうえで欠くことのできない貴重な資料である。また、掘り出された遺跡・遺物に触れる感動は、子ども達に自国の歴史や各地域の身近なふるさとの歴史を学ぶという知的好奇心を刺激し、祖先に対する畏敬の念や生きる力と知恵、そして、生命の尊厳等を学ぶ教材として重要な意味を持っている。

 現行の歴史教科書から内容が削除された旧石器・縄文時代の歴史は、世界やアジアのなかにおける日本列島の地域性と、南北に連なる列島内部において複雑で多様な自然環境とその恵みのなかで育まれた極めて特徴的な地域文化を生み出したのである。それは、列島文化の基底をなすものでもあり、弥生時代に農耕を始めたことの意味を正しく理解するためには、この先行する原始時代における社会のしくみや生活の様子を明らかにしておく必要がある。また、日本列島は、一律に稲作社会へと移り変わったわけではない。“稲作から国土の統一へ”で始まる歴史教科書は、本州の弥生文化とは異なり、稲作が行われずに、それぞれ「続縄文文化」と「後期貝塚文化」と呼ばれる独自の文化を発展させた東北北部から北海道、そして、沖縄を含む南西諸島地域の歴史を無視したものであることも危惧される。

 日本考古学協会は、歴史教育に考古学の成果が適切に活用されるよう望むとともに、次回の学習指導要領改訂にむけて、文部科学省と関連審議会に対し、小学校第6学年の歴史学習の内容に旧石器・縄文時代も取り扱うように改め、教科書の本文中に両時代の記述を復活させることを強く求めるものである。

 以上、日本考古学協会は2006年度大会の場において、ここに声明する。

2006年11月3日
有限責任中間法人 日本考古学協会