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日考協 第28号
2008年5月26日
文化庁長官     青木 保 様
国土交通省港湾局長 中尾成邦 様
広島県知事     藤田雄山 様
広島県教育長    榎田好一 様
福山市長      羽田 皓 様
福山市教育長    高橋和男 様
有限責任中間法人 日本考古学協会
会長 菊池徹夫

鞆の浦の歴史的景観および港湾文化財の保全・保護を求める 声明文の送付について

 当協会の事業・活動に対し、常々ご理解とご支援をいただき感謝いたしております。
 さて、当協会では、本年5月24日、東海大学湘南校舎で開催された第74回(2008)年度総会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
 意のあるところをおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。

一、別添書類          一通

以上

鞆の浦の歴史的景観および港湾文化財の保全・保護を求める声明

 広島県福山市鞆の浦は、『万葉集』にも詠まれた潮待ちの港として知られ、中世には水軍の拠点として、近世には朝鮮通信使の寄港地として繁栄した、歴史的にきわめて重要な港湾都市遺跡である。さらに港の周囲には、中世末から近世・近代にかけての歴史的建造物群を含む町並みや寺社がよく保存されており、瀬戸内海沿岸の港町の面影をいまに伝える貴重な歴史的文化遺産と評価される。また、鞆の浦を眼下に納める医王寺からの眺望は、鞆港をとりまく古い町並みや港湾施設のみならず、人々の悠久の営みをも感じさせるに十分な、かけがえのない景観的価値を有している。この鞆の歴史的環境は、イコモス(ICOMOS国際記念物遺跡会議)からも、世界遺産にふさわしいとする高い評価が与えられている。

 近世の港湾遺構群(文化財)である「雁木」、「常夜燈」、「波止」、「焚場」、「船番所」などがすべてそのままの姿で遺されていることが、他の港町ではみられない鞆の浦の最大の特徴であり、国内に遺された唯一の歴史的な港湾の景観を創り出している。これに加え、「亀の甲」とよばれる石積み遺構は、近世焚場の一翼を担った重要遺構であり、その石積み技法は、常夜燈基礎の最下層部分などとも共通することからみて、近世港湾施設が一体的に築造・管理されていたことを物語っている。

 いっぽう、鞆の市街地には、これまでの部分的な発掘調査により、中世に遡る遺構・遺物が検出されており、現在の鞆の地下には中世の港町がきわめて良好な形で遺されている可能性が高い。

 ところが近年、広島県および福山市は「鞆地区道路港湾整備事業計画」に基づき、町の利便性を理由に港湾の埋立て架橋・道路建設工事を推進しようとしている。この計画が実施に移されると、鞆港湾の地形・景観が大幅に損なわれるだけでなく、「亀の甲」などの重要な焚場遺構が失われてしまう。また、常夜燈付近からの港湾の眺めは埋立て架橋により遮蔽され、これまで保たれてきた鞆特有の歴史的景観が一気に損なわれることとなる。一度失われた環境・景観は二度と元に戻すことはできない。同時に、大規模な埋立てに伴う土取りは、周辺環境の破壊や新たな埋蔵文化財の喪失を招く危惧さえある。

 以上の観点から日本考古学協会は、鞆の浦の歴史的景観や近世港湾施設を主体とする文化遺産を永く後世に伝えていくことこそが鞆地区の未来を創造する原点であると確信し、広島県および福山市が上記の整備計画による道路建設を撤回し、港と町並みが一体となった鞆固有の歴史的景観ならびに港湾文化財を全面的に保全・保護し、活用するため再検討することを強く求めるものである。

 以上、日本考古学協会総会の名において、ここに声明する。

    2008年5月24日

有限責任中間法人日本考古学協会第74回総会