本年10月22日、福島県文化センターで開催された2005年度福島大会において、特別史跡高松塚古墳の保全・保護を求める声明を発表し、下記宛てに送付しました。
文部科学大臣 中山成彬 様
文化庁長官 河合隼雄 様
有限責任中間法人 日本考古学協会
会長 田村晃一
当協会の事業・活動に対し、つねづね御理解と御支援をいただき感謝いたしております。
さて、当協会では、本年10月22日、福島県文化センターで開催された2005年度福島大会において、別紙の声明を発表いたしましたので、送付させていただきます。
意のあるところをおくみとりのうえ、よろしくご高配賜りますようお願い申し上げます。
記
一、別添書類 一通
以上
1972年に奈良県明日香村で発見された高松塚古墳は、石槨内部に四神をはじめ、星宿、人物群像の極彩色壁画を有する、それまでに類を見ない飛鳥時代の貴重な古墳として翌年、国の特別史跡に指定された。また、古墳壁画は、国内外の考古・歴史・美術史学界のみならず、広く国民的な反響を呼び、考古学が身近なものとして親しまれる発端となり、1974年に国宝に指定された。以来、この古墳と壁画については、保存と公開について議論が重ねられる中、永久保存を目指し、国および文化庁は、壁画の修復を最優先として、今日まで非公開を原則とする現地での保存処置を行ってきた。
ところが、近年、壁画の劣化や退色が顕著となり、文化庁が主宰する「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」において、急遽、石槨解体による壁画の保存措置の方針が決定された。文化庁が公開した資料によれば、壁画のカビや害虫による被害は、すでに保存施設設置後の1970年代末頃から認められており、遺憾ながら、発見以来三十数年たった今日まで、何ら抜本的かつ有効な保存対策が講じられて来なかったことが、事態の悪化を招いたと言わざるを得ない。さらに、古墳の外部構造に関するデータの不足は、石槨内の保存方法を誤らせた大きな要因であった可能性も指摘されている。
国および文化庁は、高松塚古墳の保存管理に協力と理解をしてきた関係諸機関および国民に対し、石槨解体に至った経緯と責任の所在を明確に説明し、壁画の劣化および損壊に関する原因を究明する責務がある。
日本考古学協会は、これまで国内の重要遺跡について史跡化を含む遺跡の保護と活用を求めてきたが、それは遺跡・遺構・遺物を一体のものとして捉え、それらを包括する歴史的環境をも保全するという観点から、遺跡の現地保存を原則としてきた。これに対して、この度の特別史跡高松塚古墳における石槨解体への決定は、十分な検討がなされたとはいえず、古墳そのものを損なうとともに、広く史跡の概念や存在意義を大きく変更する恐れがある。
日本考古学協会は、国と文化庁に対し、これまでの経緯と石槨解体に関する国民への明確な説明を望み、今後、特別史跡である高松塚古墳に対する議論を積み重ね、万全な保存処置を講じるとともに、この度の惨状に至った原因の徹底的な究明を強く求め、ここに声明する。
2005年10月22日
有限責任中間法人 日本考古学協会