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埋文委 第8号

2009年12月10日

文化庁長官      玉井日出夫 様
奈良県知事      荒井 正吾 様
奈良県教育長     冨岡 将人 様
香芝市長       梅田 善久 様
香芝市教育長     中谷  彪 様
香芝市二上山博物館長 石野 博信 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 近藤英夫

出土遺物に関わる適切な取扱いを求める声明

 先般、奈良県香芝市において国史跡である尼寺廃寺跡より出土した飛鳥時代の瓦をはじめ、同市内から出土したサヌカイト等の20t以上にも及ぶ出土遺物が大量に廃棄されるという、憂慮すべき事態が起きた。

 これは、本来、香芝市教育委員会遺物調査室周辺において保管・収納されていたものであったが、管理上の安全性が確保できないという理由のみで、尼寺廃寺跡に隣接する水田に投棄されたものである。

 ところが、これらの貴重な埋蔵文化財を廃棄するに当たり、奈良県や香芝市において文化庁の「出土品の取扱い」基準の指針に基づく十分な検討や協議が行われた事実はなく、あくまで市教育委員会における独自の判断により廃棄が決定されたようである。このように、正規の行政的な手続きが取られることなく安易に出土遺物の廃棄が実施に移されたことに重大な懸念を抱く。

 すなわち、文化財保護法の理念に基づき、国民共有の財産である埋蔵文化財を、将来にわたって保護・活用していこうとする各自治体のこれまでの努力に対する背信的行為であり、この行為が及ぼす影響は計り知れない。当委員会としても、今回の遺物廃棄処分は到底容認できるものではなく、香芝市に対して厳重に抗議するものである。

 本来、埋蔵文化財保護は調査―保護(保存)―活用の三位一体で成り立つものである。今回の事例はまさに、地方自治体における文化財保護行政の放棄にも等しい行為であり、きわめて遺憾である。

 こうした観点から、国並びに都道府県の埋蔵文化財保護行政に携わる監督機関は事態を真摯に受けとめ、ひとり香芝市のみの問題として等閑に付すことなく、出土遺物の保管・管理・収蔵方法等、出土遺物の取扱いに関しては慎重に対応すると同時に、各自治体への適切な指導と保管施設等についても積極的な援助を行う必要性が求められよう。

 以上、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、埋蔵文化財保護・活用の観点から、香芝市が廃棄処理した出土遺物の早期回収はもとより、多くの自治体が劣悪な環境で出土遺物の保管・管理に当たっている事態を抜本的に改善する必要があると考え、適切な出土遺物の取扱いとその保管・管理体制の整備を関係機関に対し強く求めるものである。

以上