文化庁長官　　青木　保　様
佐賀県知事　　古川　康　様
佐賀県教育長　川�ｱ俊広　様
唐津市長　　　坂井俊之　様
唐津市教育長　村井文三　様

桜馬場遺跡の保存に関する要望書

　佐賀県唐津市桜馬場遺跡は、中国史書『魏志倭人伝』に記された「末盧国」と考えられる唐津地域の最重要遺跡です。特に、1944年に防空壕の工事中に偶然甕棺内から発見された中国後漢代の方格規矩鏡２面と九州製の有鉤銅釧26点・巴形銅器３点などは、「末盧国」の最有力者の墓地（通常「王墓」と呼ぶ）であることを示す弥生後期前半期の資料であり、1957年に国の重要文化財に指定されております。しかし、これまで、この甕棺が検出された箇所の証言はあるものの正確な地点は特定できず、その甕棺自体も破砕されて埋め戻されたと伝えられてきました。

　ところが、この甕棺が発見されたと伝えられる箇所を含む区域が、宅地開発申請に伴って、本年唐津市教育委員会によって発掘調査されたところ、国重要文化財に指定された方格規矩鏡と巴形銅器に接合する破片が発見されました。また、龍溪顕亮氏が発見当時作成した略図と特徴が一致する甕棺も確認され、防空壕工事によって大きく破壊されているもののその埋設状況も確認できました。これらにより1944年に検出された「王墓」が特定されたと評価できます。中国式武器である素環頭大刀、装身具のヒスイ製勾玉、ガラス小玉多数も同時に検出され、さらに1957年に採集された中国後漢代の内行花文鏡片と接合する銅鏡大形破片もみつかり、「王墓」としての内容が従来の認識以上であることが判明しました。今回調査区域には新たに甕棺群も検出されましたが、「王墓」周囲には甕棺がみられないなど、墓地の階層構造を知ることができる点でも学術的に重要です。

　これまで、中国史書に記載された北部九州の国々の位置が特定できる諸国のうち、中国漢代の青銅器を主とする豊富な副葬品をもついわゆる「王墓」が発掘調査で確認されたのは「伊都国」地域の福岡県前原市三雲南小路遺跡・平原遺跡の２遺跡があるだけです。江戸時代〜明治年間に偶然発見された例として「伊都国」地域の井原鑓溝遺跡と「奴国」地域の春日市須玖岡本遺跡もありますが、井原鑓溝遺跡はいまだ地点が特定できず、須玖岡本遺跡は発掘調査による確認はなされていません。このことからも、今回の調査成果により桜馬場遺跡が学術的にきわめて重要な意義をもつ遺跡であることが明らかであり、国民的文化遺産として将来にわたって有効に保存・整備・活用していくことは、埋蔵文化財保護行政上の責務であると考えます。

　以上のことから、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、唐津市桜馬場遺跡の重要性に鑑み、下記のとおり要望いたします。

記

1. 桜馬場遺跡の今回調査区域について現状を保存し、公有化して史跡指定に向けた適切な整備・活用を図ること。
2. 国民的文化遺産として将来にわたる保全・活用を図るべく、桜馬場遺跡の広がりや内容の把握に必要な措置を講ずること。