文化庁長官 青木 保 様 国土交通省港湾局長 中尾成邦 様 広島県知事 藤田雄山 様 広島県教育長 榎田好一 様 福山市長 羽田 皓 様 福山市教育長 高橋和男 様
標記の件について、別添書類の如く、歴史的港湾都市としての学術上の重要性に鑑み、早急に市民および研究者が納得できる適切な施策を講じられることを要望いたします。日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、現在、福山市が計画しております鞆地区道路港湾整備事業の遂行により、中・近世港町の特徴を今に残す鞆の歴史的景観や文化的価値が永遠に失われることに対し、大いに危惧しております。
つきましては、鞆地区の整備事業計画を抜本的に見なおし、国民共有の文化遺産である「鞆の浦」の歴史的環境を後世に伝えるため、適切な対応策を講じられますよう強く要望するものです。
なお、当件の具体的な対応策については、1月21日(月)までにご回答をくださるようお願いいたします。
一、別添書類 一通
文化庁長官 青木 保 様 国土交通省港湾局長 中尾成邦 様 広島県知事 藤田雄山 様 広島県教育長 榎田好一 様 福山市長 羽田 皓 様 福山市教育長 高橋和男 様
鞆は、『万葉集』に潮待の港として詠まれて以来、中世には水軍拠点として、また近世には朝鮮通信使の寄港地として繁栄するなど、古代・中世・近世を通じて瀬戸内海交通を支える中核的港湾として歴史的に重要な地であります。そして、現在も雁木や常夜燈、焚場跡などの近世港湾施設が良好に保存されております。さらに、湾を囲む町並みには江戸時代〜明治時代の歴史的建造物群が、また港の周囲には神社仏閣が数多く遺されており、地域に暮らす人たちの営みと調和した独特の美しさを伝える代表的な港湾都市遺跡として高く評価されます。
これに加えて、1978年以降に実施された埋蔵文化財の小規模な発掘調査や試掘調査では、鞆市街地南半部の広い範囲で中世〜近世を中心とする複数時期の遺構面が確認され、中近世の町家遺構が良好な状態で保存されていることが明らかになっています。また、鞆城跡の周辺では、近世以前に遡ると想定される城郭関係遺構が検出され、文献では良くわからない鞆城の成立や構造などの解明が期待されるようになってきました。さらに、1995〜1997年には推定焚場遺構の調査が行われ、良好な保存状態であることが判明しており、現存する近世港湾施設を含めて一体的な保存が必要であると考えられます。
こうした中・近世遺構の遺存状態からすると、中世港湾施設も良好な形で残されている可能性があり、また、出土遺物の様相からは、中世以前の遺跡が残されていることも推測されます。
しかしながら、これまでの調査はきわめて部分的なものにとどまっており、市街の地下に存在する遺跡の性格、規模、時期などの解明を目的とした計画的な調査はまったく行われておらず、さらに鞆港湾周辺の歴史痕跡(水中遺跡)の有無については全く未検討のままとなっています。
ところが、近年、広島県や福山市により交通事情の改善や緊急車両の乗入れ等の基盤整備を目的として、鞆地区道路港湾整備計画に基づく鞆港の埋め立て・架橋工事が検討されています。この事業により、鞆の浦が現在まで伝えてきた貴重な歴史的景観や文化遺産の価値が著しく損なわれることが懸念されます。
以上のことから、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、文化財の保護・活用の観点、および歴史的景観を保全し文化遺産を将来に引き継ぐという観点から、以下の点を強く要望いたします。