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埋文委 第9号

2009年11月27日

大和郡山市長   上田 清 様
大和郡山市教育長 赤井繁夫 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長  近藤 英夫

郡山城五軒屋敷における観光バス駐車場建設に関する要望について

 標記の件について、別添書類の如く、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容をもつものでありますので、貴殿において、その保存の対策を速やかに講ぜられることを要望いたします。
 なお、当件の具体的な措置、対策については12月11日(金)までに、ご回答をくださるようお願いいたします。

一、別 添 書 類         一通



以 上


埋文委 第9号
2009年11月27日
大和郡山市長   上田 清 様
大和郡山市教育長 赤井繁夫 様

郡山城五軒屋敷における観光バス駐車場建設に関する要望書

一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 近藤英夫

 郡山城は、天正8(1580)年の筒井順慶による本格的な築城以来、大和の中心的城郭となり、同13(1585)年に豊臣秀長が入城した後は大和・紀伊・和泉の中心として栄えています。その後、江戸時代には親藩・譜代大名の預かる城として、大和のみならず畿内の拠点として整備・拡充がなされ、今日もその遺構が良好に保存されております。

 現在、大和郡山市(以下、「市」とする)が観光バス駐車場(面積約1,200u)を予定しているのは近世郡山城内の「五軒屋敷」と呼ばれる区域にあたります。この地点は、豊臣秀長の郡山入城以後、一貫して家老級重臣の居住地として利用されておりました。ここは郡山城内でも本丸・二の丸に次ぐ重要区画であり、そこに上級家臣の邸宅を構える形態は、わが国の近世城郭の中でも特筆すべき構造であります。

 この観光バス駐車場建設予定地は、試掘調査の結果、地下に複数面にわたり「五軒屋敷」にかかる池状遺構など屋敷地の内部構造に関する遺構を含む良好な遺構面の存在が確認されています。試掘調査の結果を受けた市当局が土壌改良工事の予定深度を半分に変更し、地下遺構の保全を図られた姿勢は大いに評価できます。しかし、市による確認調査は、約100uのトレンチを入れて地下遺構の有無を確認したのみであり、遺構面および遺物包含層の深度および空間的広がりの的確な把握は、調査面積の制約から、なお不充分な状態にあります。当該地域は本来西から東へと傾斜する緩斜面を盛土によって整地した地域で、複数の盛土が存在します。こうした地形上、試掘調査で検出された複数の遺構面が、開発予定地全面に同じレベルで展開している保証はなく、現状の試掘面積では、土壌改良工事の掘削深度を決定するための情報がなお不足していると言わざるを得ません。

 しかも、今回の駐車場建設に際しては、地盤の悪さを前提に土地改良に関する設計が行われていると聞き及びますが、設計変更により改良深度を半分にすることで当初計画通りの地盤強度が保証されるのか強い疑問が残ります。仮にこれが保証されないとなると、バス等重量物による負荷のため変形した地盤が、地下遺構・遺物に深刻な影響を与えることが懸念されます。それは、駐車場自体の安全性確保とも無縁ではありません。

 さらに、五軒屋敷周辺は市街化が進行しており、今回の観光バス駐車場予定地はその中で地下遺構が最も良く保存されている数少ない場所である言っても過言ではなく、将来的な活用の条件をしっかりと残しておくことは極めて重要です。

 上記の理由により、現状のまま観光バス駐車場造成が強行されれば、かろうじて残されている郡山城五軒屋敷の地下遺構が破壊も含めた深刻な被害を蒙る懸念を否定できず、郡山ひいては大和の歴史はもとより、日本城郭史や近世史研究全体に与える影響も深刻かつ多大であると言わねばなりません。

 こうした状況を踏まえ、日本考古学協会では以下の点を市に対して要望するものです。

  1. 地下遺構保全のため、遺構面の面数・深度が面的に把握できる十分な調査面積を確保し、再度調 査を行うこと。特に池状遺構をはじめとする重要部分については、遺構の性格を把握できるよう努 めること。
  2. 上記調査の成果に基づき地盤強度設計を行い、駐車場造成に際しては盛土をするなど地下遺構の 保全に十分配慮すること。また、擁壁やトイレ建築工事によって地下遺構が破壊される部分につい ては発掘調査を行い、十分な記録に努めること。
以上