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埋文委 第2号

2010年5月20日

文化庁長官  玉井日出夫 様
東京都知事  石原慎太郎 様
東京都教育長 大原 正行 様
府中市長   野口 忠直 様
府中市教育長 糸満純一郎 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長  近藤 英夫

武蔵国府国司館跡および府中御殿跡の保存に関する要望について

 日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会の事業・活動に対し、日頃よりご理解、ご支援を賜り感謝いたします。
 標記の件について、別添書類のとおり、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容をもつものでありますので、その保存と活用に向けての適切な措置が速やかに講ぜられることを要望いたします。
 なお、当件に係る具体的な措置および対応については、然るべき時期にご回答をくださるようお願いいたします。

一、別添書類         一通



以 上



埋文委 第2号
2010年5月20日

要望書

文化庁長官  玉井日出夫 様
東京都知事  石原慎太郎 様
東京都教育長 大原 正行 様
府中市長   野口 忠直 様
府中市教育長 糸満純一郎 様
一般社団法人日本考古学協会
埋蔵文化財保護対策委員会
委員長 近藤英夫

武蔵国府国司館跡および府中御殿跡の保存に関する要望書

 府中市教育委員会は1954年以来、武蔵国府推定地域内の埋蔵文化財の発掘調査を半世紀以上にわたって丹念に実施し、武蔵国府の実態を一歩ずつ着実に解明してこられました。

 この度、府中本町駅前事業開発地区において「武蔵国府関連遺跡」の発掘調査が行われ、先般、現場説明会が開かれました。このような調査成果公開の努力についても、敬意を表するものです。

 さて、この府中本町駅前事業開発地区では、古代から近世に至るまでの地域の歴史を語る上で欠くことのできない、きわめて重要な遺構群が発見されております。

 古代の所産である大型の掘立柱建物跡群は、「コ」の字形に配置されたと考えられる状態で検出されており、その諸特徴から古代武蔵国府の国衙(政務空間)の中で、国庁とともに地方行政の中心的な機能を果たしていた「国司館」跡と考えられます。多摩川に向かって張り出す段丘上に位置した国司館からは、正面(南側)に古来「多摩の横山」と呼ばれ親しまれた多摩丘陵が、西側には富士山が遠望され、また、背後(北側)にはそびえ立つ武蔵国分寺七重塔の偉容を望むことが出来たものと思われます。まさに、当時の為政者の居宅にふさわしい“場”であったと言えるでしょう。国庁とともに国司が政務にあたる場であった国司館跡の検出は、全国的に見ても僅かな事例が知られているのみで、府中市教育委員会の積年の努力の延長線上での成果として高く評価されるものです。

 ところで、隣接する国分寺市では、武蔵国府と一体の関係にある武蔵国分寺跡および武蔵国分尼寺跡、そして武蔵・上野両国府を直結した東山道「武蔵路(入間道)」跡が既に保存・整備(公開・活用)されています。今後、府中市においても市名の由来となっている武蔵国府、とりわけ国衙関連遺構を、こうした周辺の古代武蔵国の中枢に位置する諸遺跡・遺構と一体のものとして全国に先駆けて保存・整備していくことが求められています。2009年度には国府の中心地区が「武蔵国府跡」として国史跡に指定され、府中市栄町で検出された国分寺・国分尼寺に向かう参道遺構や、国衙地区で検出された大型の掘立柱建物跡が保存・整備されています。このような府中市のこれまでの努力を結実させる上で、今回発見された国司館跡こそは、古代武蔵国府・国衙関連遺構を象徴する存在として、保存・整備していくことが重要であると考えます。

 前述したように、府中本町駅前事業開発地区では中・近世の重要な遺構群も検出されています。

 中世では、鎌倉街道に沿った鎌倉時代から室町時代にかけての遺構群が検出され、当時の幹線道路沿いの土地利用の実態および景観を考える上で貴重な成果を挙げています。

 近世では、徳川家康が関東入国直後に建設し、豊臣秀吉の接待や鷹狩り等の拠点として使ったとされながらもこれまで詳細が不明だった「府中御殿」と考えられる大規模な建物跡群や柵跡、井戸跡が検出されています。徳川家康の居城等は、江戸城をはじめ各地に知られていますが、その後の歴史のなかで改修・改築されているものが大多数で、家康自身の在世中の遺構そのものが土中に保存されている事例として「府中御殿」は稀有なものといえます。そして注目されるのは、家康や秀吉がこの御殿から眺めたであろう南面に拡がる景観が、古代武蔵国国司館の主のそれと同じであったということです。

以上のことから、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、この場所が古代、中世、近世の各時代にわたり、日本の歴史上重要な遺構が重複して残されていた稀少性に鑑み、関係諸機関に対して下記のとおり要望いたします。

  1. 国司館跡の関連遺構を破壊することなく保存し、これを国史跡「武蔵国府跡」と一体のものとして整備(公開・活用)すること
  2. 徳川家康の「府中御殿」も同様に保存・活用すること


以上