標記の件につきまして、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、別添書類の如く、現在和歌山県が実施しております県指定文化財「一乗閣(旧県会議事堂)」の移築計画を見直し、根来寺遺跡の学術上の重要性に鑑み、その保護・活用と歴史的環境の保護・保全対策を速やかに講ぜられますよう要望いたします。
なお、当件の具体的な措置、対策については8月27日(土)までに、ご回答をくださるようお願いいたします。
一、別添書類 一通
和歌山県岩出市所在の根来寺遺跡は、和歌山県のみならず日本を代表する中世遺跡として全国的に広く周知されており、学術上きわめて重要な内容と意義をもっています。本委員会はその重要性に鑑み、2004年6月の大湯屋遺構・坊院遺構の保存・整備に係る要望書提出を契機に、根来寺の旧寺域全体の整備・活用等について多大な関心をもち、その後の動向を見守ってまいりました。
さて、和歌山県教育委員会が公益財団法人和歌山県文化財センターに委託し、本年3月28日より実施してきた旧県会議事堂(一乗閣)移築予定地の発掘調査では、上下2段に造成された平場から地下式倉庫3棟(1棟は昇降用階段遺存)、井戸、暗渠、集水枡などの遺構が検出されました。また、幅約3mの石積み階段と、それに連結する犬走り状の細い通路なども検出されています。これらの遺構が使用されていた時期は、15世紀末から1585(天正13)年の豊臣秀吉軍による焼討ちまでと考えられています。なお、調査地は北東から南西に伸びる狭長な丘陵の南端部分にあたりますが、この丘陵上の北側近接地において1992年に広域農道の建設に伴って実施された発掘調査では、3段にわたる坊院敷地や遺構が検出されており、両者の関連性が注目されます。
以上のように、今回発見された遺構群は、戦国期根来寺坊院群の一角を占めるものであることは明らかであり、根来寺の歴史を解明する上できわめて貴重であるとともに、中世の権門寺院の本質、その都市性を知る上においてもまことに重要な意義を有すると考えます。しかしながら、これらの遺構群を戦国期根来寺の歴史の上に的確に位置づけるには、その時期的変遷や配置、既往調査との関係などの検討が必要不可欠であり、現状の調査範囲では十分検討に耐える情報が確保されているとはいえません。発掘調査結果及び現状地形の観察から、遺構の残存が予測される尾根上部の追加調査を含めて、開発範囲における十分な調査が必要です。
旧県会議事堂の文化財としての価値が高いものであることは承知いたしております。しかしながら、その移築に伴い、同様に価値の高い埋蔵文化財を破壊するという行為は許容されるものではありません。貴職におかれましては、根来寺遺跡の重要性に鑑み、今回発見された遺構の保存に努めていただきたく、下記の点を要望いたします。