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日考協 第102号
2015年2月2日

文部科学省文部科学大臣 下村 博文  様
中央教育審議会会長   安西 祐一郎 様

一般社団法人日本考古学協会  会長 高倉 洋彰    

小学校学習指導要領の改訂に対する要望について

 一般社団法人日本考古学協会は、歴史教育に考古学研究の成果が適切に活用されるよう社会科教科書、および学習指導要領の内容について調査・検討を行っております。
 すでに、2014年5月17日付で現行の学習指導要領の改善を求める声明文を送付させていただきましたが、このたびの学習指導要領の改訂にあたり、「小学校学習指導要領等の改訂に対する要望書」ならびに「小学校学習指導要領等の改訂に対する改正案」を提出させていただきます。
 願意をお汲み取りいただき、改正のほどよろしくお願いいたします。

以上

日考協 第102号
2015年2月2日

文部科学省文部科学大臣 下村 博文  様
中央教育審議会会長   安西 祐一郎 様

一般社団法人日本考古学協会  会長 高倉 洋彰    

小学校学習指導要領の改訂に対する要望書

 人類の発生とその後の進化・発展に関しては、近年の研究成果から現生人類は10〜7万年前にアフリカ大陸を出て何世代もかけて世界各地へと拡散し、それぞれの地域に根ざした独自の文化を形成してきました。現在の知見では日本列島に人類が出現するのは遅くとも4〜3万年前と考えられていますが、日本列島における人類の出現を学ぶことは国際理解の重要性を認識することにもつながります。

 我が国の旧石器時代の遺跡は、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以後、全国で1万ヶ所を超 える発見と調査例があり、日本列島における人類の歴史が世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。旧石器時代から始まる歴史を物語る考古資料は、日本列島全域に普遍的に存在し、全国の子どもたちが文字などの記録だけでは知ることのできない人々の生活や各地域の多様な歴史と文化をより具体的に学習する上で、欠くことのできない貴重な資料です。また、身近な地域に残された遺跡・遺物に触れる体験的学習は、子どもたちの知的好奇心を刺激し、現在の生活につながるものとして歴史の理解を促し、先人に対する畏敬の念や生命の尊厳などを学ぶ上でも重要な意味をもちます。「小学校学習指導要領」に示された「狩猟・採集の生活」の学習内容は、縄文時代に限定されていますが、日本列島の人類史の始まりである旧石器時代を抜きにして、子どもたちを教育基本法、学校教育法にある「伝統と文化を尊重」し「我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導く」ことは困難です。

 「小学校学習指導要領」では、小学校第6学年の歴史学習における対象が「我が国の歴史」にとどまり、教育基本法、学校教育法の「我が国と郷土」に示された身近な「郷土」の表記が欠落しています。これは、「小学校学習指導要領」の指導計画の作成と内容の取扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにすること」の内容にも矛盾します。

 日本列島において最初に確認できる旧石器時代の歴史は、研究の進展にもかかわらず、これまで学習の基本となる教科書の記述や、第6学年で活用する年表にも表記されないまま今日に至っています。旧石器時代の歴史を明確に位置づけることは、日本の歴史を始めから教えない不自然さを解消し、地球規模での人類の営みとその関係を考える国際的な視野を育むことにもつながります。そして、これまでの地道な研究によって明らかにされてきた旧石器時代の研究成果を歴史学習に反映させることは、「我が国と郷土の現状と歴史」を正しくとらえ、理解する大切な一歩となると考えます。

 以上のことから、日本考古学協会は、学習指導要領の改訂にあたり、歴史教育に考古学の成果が適切に活かされるよう、以下の点について強く要望します。

  1. 日本列島全域に普遍的に存在する考古資料を充分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ態度を養うこと。
  2. 人類の発生から始まる歴史を明確に位置づけ、世界的な視野から人類の歩みを考える視点を育むこと。

以上


日考協 第102号
2015年2月2日

文部科学省文部科学大臣 下村 博文  様
中央教育審議会会長   安西 祐一郎 様

一般社団法人日本考古学協会  会長 高倉 洋彰    

小学校学習指導要領等の改訂に対する改正案

 私たちは要望書の主旨に従って「小学校学習指導要領」(以下、「指導要領」とする)の部分的な改正を次のように求めます。

  • 1) 要望事項「1.日本列島全域に普遍的に存在する考古資料を充分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ態度を養うこと」に関わる箇所の改正案。
    • i. 「指導要領」(第2節 社会 第2 各学年の目標および内容(第6学年)1目標(1))…p.38

      (1)国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について興味・関心と理解を深めるようにするとともに、我が国と郷土の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てるようにする。

        …下線部を追加する。

        理由:教育基本法、学校教育法の「我が国と郷土」に示された身近な「郷土」の表記が欠落しているため。

    • ii. 第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)3内容の取扱い(1)…p.40

       オ アからケまでについては、例えば、世界文化遺産、国宝、重要文化財などの我が国の代表的な文化遺産とともに、地域に残る遺跡や文化財を積極的に活用し、歴史を身近なものとして学習できるように配慮すること。

        …下線部に修正。

        理由:「小学校学習指導要領」の指導計画の作成と内容の取扱いにおける「博物館や郷土資料館等の施設の活用を図ると共に、身近な地域及び国土の遺跡や文化財などの観察や調査を取り入れるようにすること」の内容を実現することが容易になる

  • 2) 要望事項「2.人類の発生から始まる歴史を明確に位置づけ、世界的な視野から人類の歩みを考える視点を育むこと」に関わる箇所の改正案。
    • i. 第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)2内容(1)…p.39

      ア 人類の始まり、狩猟・採集や農耕の生活、古墳について調べ、大和朝廷による国土の統一の様子が分かること。

        …下線部を追加する。

      理由:現生人類は10〜7万年前にアフリカ大陸を出て何世代もかけて世界各地へと拡散し、4〜3万年前には日本列島に人類が出現すると考えられているが、日本列島における人類の出現を学ぶことは国際理解の重要性を認識することにもつながる。

    • ii. 学習指導要領解説 社会編 2内容(1)…p.75

      ア「狩猟・採集や農耕の生活」について調べるとは、例えば、貝塚や集落跡などの遺跡、石器・土器などの遺物を

      …下線部を追加する。

      理由:今日に連なる基本的な道具の機能や種類は、旧石器時代の技術によって生み出され発達してきたものであり、これまでの調査・研究からは、当時の環境や狩りの様子、そして、集団の姿や黒曜石に代表されるように生活に必要な物資の流通やその社会の仕組みについても、当時の様子が具体的に、かつ、いきいきと解明されている。

以上