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日考協 第28号
2015年7月28日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様
総務大臣   高市 早苗 様
内閣官房長官 菅  義偉 様
文部科学大臣 下村 博文 様

一般社団法人日本考古学協会
会長 髙倉 洋彰

「人文・社会科学における教育・研究体制の充実を求める会長声明」の 送付について

 日頃より本協会の事業推進にあたりご理解、ご支援を賜り誠にありがとうございます。
 さて、本協会では、本年7月25日の理事会において、別紙のとおり、文部科学大臣通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(平成27年6月8日付文科高第269号)に関連し、「人文・社会科学における教育・研究体制の充実を求める会長声明」を発出しましたので、送付いたします。
 本声明の趣旨をおくみ取りいただき、ご高配を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。



一、別添書類  一通

以上 


人文・社会科学における教育・研究体制の充実を求める会長声明

 先般文部科学省は文部科学大臣名で「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(平成27年6月8日付文科高第269号)を通知し、各国立大学法人等に対して、第2期中期目標期間終了時までに行うべき組織及び業務全般にわたる見直しの内容を文部科学大臣決定として、来年度から開始される第3期中期目標・中期計画が本決定に沿った内容となるよう求めました。その内容は多岐に渡りますが、特に「第3 国立大学法人の組織及び業務全般の見直し 1 組織の見直し」の「(1)「ミッションの再定義」を踏まえた組織の見直し」の中で言及された「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」(通知、別添1別紙1、3頁)という指示は、通知対象の国立大学法人等を越えて、人文・社会科学全体に極めて大きな影響を与えることが予想されるため、看過できません。

 こうした通知が発出される背景には、財政・経済の効率化に基づく教育研究の短期的成果主義という評価基準を、産業界だけではなく国として積極的に採用・推進しようとする施策が根底にあります。そもそも人文・社会科学は中・長期的視野から教育研究がなされており、科学技術と背反関係にあるのではなく、むしろ車の両輪の関係にあるのです。産業の発達と機械文明だけが人間に幸福をもたらすわけではないことは、19世紀の産業革命の時代からよく知られてきました。今日の高度技術社会に暮らす我々は、人文・社会科学のもたらす豊かな教養と英知によって、初めて精神的な自立を果たすことが可能となっています。ますます増大する国際的な競争の場では、思慮深い言語表現による自己主張と他者の異質性への理解が欠かせません。人文・社会科学は高度の教養・専門教育を展開することにより、こうした人材を今後も養成していく役割を担うべきと考えます。

 翻って考古学の分野では、国民共有の財産である文化財の学術研究や生涯教育・行政等を通じて、広く国民がその歴史と文化に対し、より理解を深めるよう力を注いできました。文化財行政・文化遺産継承活動を通じて「まちづくり」「ひとづくり」を担う国・地域の担当者は、考古学分野が主に養成してきており、今後ともその責を果たして参ります。

 これまで考古学分野を含む人文・社会系の大学教育は、教育・研究成果の社会還元を確実に果たして参りました。短期的効率性一辺倒ではなく、中・長期的視野に立った人文・社会科学における教育・研究体制の確保と充実を今後とも強く要望いたします。

   2015年7月25日

一般社団法人日本考古学協会
会長 髙倉 洋彰