研究環境検討委員会では、2009年5月31日に日本考古学協会第75回総会時の特別発表「シンポジウム 埋蔵文化財の資格制度を考える」、7月4日に関西大学で「埋蔵文化財の資格制度を考える 関西シンポジウム」を開催した。シンポジウムでは、研究環境検討委員会のこれまでのスタンス、埋蔵文化財保護対策委員会の考え方を提示するとともに、日本文化財保護協会から埋蔵文化財調査士、埋蔵文化財調査士補の資格について、早稲田大学から考古調査士上級・1級・2級の資格について、文化庁からは現在検討中の資格についての説明を受け、引き続いて意見交換が行われた。また、会場では資格の必要性、資格の内容、日本考古学協会の今後の対応についてのアンケートをお願いした。
参加者は300名を超え、最大で320名程度であった。趣旨、発表、討論の概要は以下のとおり。
【趣旨】資格制度問題の重大性と会員の関心の高さを踏まえ、すでに動き始めた2つの資格制度の内容と文化庁の検討の進展状況に関わる情報を共有し、会員の意見を集約するとともに今後日本考古学協会としてこの問題にどのように対応すべきかを探るため。
5本の発表の後、事実関係の確認を行い、続いて討論を行った。討論のテーマはアンケート項目と同じく次の3点である。
討論で出された主な意見は下記のとおり
参加者は200名程度で、活発な意見交換がなされた。趣旨、発表者、発表内容は第75回総会特別発表のシンポジウムと同じである。討論も同じくアンケートの3項目に沿って行った。討論の主な意見は次のとおり
回答者数85名。58%が関東在住者であるため、東北、北海道、西日本等の傾向はつかめていない。資格の要不要、資格内容について、特定の意見と会員、所属、住所等との顕著な相関関係は認められない。ただ、資格制度への日考協の関わり方については、民間調査機関の回答者とそれ以外ではやや意見の違いがある。
〈回答者の内訳〉
〈具体的意見〉
必要66名(78%)、不要9名(10%)、どちらともいえない5名(6%)、不明5名(6%)
おもな理由として①国民共有の財産を扱う責任、②対外的客観性、③技術格差の是正、④専攻生への動機づけ、などがあった。
おもな理由として①学術行為としての発掘調査への制約を危惧、②民間委託の助長を懸念、③資格が効力を発揮する環境がない、④資格取得が目的化するおそれ、などがあった。
①発掘調査技術面に限定した資格、②発掘調査だけでなく監理、保存活用までふくめた包括的な資格、という2つの立場に大きく分かれた。
①一定の関わり(中立的な立場での提言も含めて)を持つべき、②関わるべきでない、という2つの立場が見られる。前者は行政、後者は民間調査機関所属の回答者に多い傾向。また、情報の提供や自由な議論の場を設けることを期待する意見もあった。
回答者数39名(回収数は40だが、1名は未記入)。
〈回答者の内訳〉
〈具体的意見〉
必要24名(61.5%)、不要9名(23.1%)、どちらともいえない6名(15.4%)
おもな理由として①国民共有の財産を扱う責任、②民間導入の際の判断基準として有効、③調査水準の確保、④担当者能力の対外的表示として有効、などがあった。
おもな理由として①資格以外の方法で懸案に対応できる、②学問としての考古学への影響を危惧、③文化財行政を取り巻く現状の解決策として有効とは思えない、などがあった。
①発掘調査技術面に限定した資格、②発掘調査だけでなく保存活用までふくめた包括的な資格、という2つの立場に大きく分かれたが、東京シンポに比べると、後者が多い傾向。また、行政発掘調査の「監理能力」という面の言及は少なかった。ほかに、技術面の資格と普及活動の資格を分けて考え、後者には学芸員資格を活用するアイデアもあった。
一定の関わり(中立的な立場での提言も含めて)を持つべきという意見が大半で、関わるべきでないと強く主張する意見が見られなかったのは、東京シンポとの大きな違い。情報の提供や自由な議論の場を設けることを期待する意見があったのは東京シンポと同様。
第75回総会のシンポジウム、関西シンポジウムを通じて多くの意見が寄せられた。全体に資格制度を不要とする意見は比較的少数で、資格制度の目指すべき方向に違いがありながらも必要とする意見が多数であった。また、調査技術に限定した資格とすべきとする意見と保存、活用を視野に入れた埋蔵文化財保護行政全体に対応すべきとする意見に分かれた。日本考古学協会のこれからの対応については関わるべきでないとする意見は少数で、情報を提供し、より良い方向を提案するなど、一定の関与をするべきとする意見が多数であった。
シンポジウムの意見交換、アナンケートの回答を通じて、資格制度を作ることを前提とした場合に、以下の意見には比較的多くの賛同が得られたと思われる。
研究環境検討委員会では、これらのシンポジウムに寄せられた多くの意見をもとに今後の活動の方向を引き続き検討していきたい。