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東日本大震災対策特別委員会報告

 東日本大震災対策特別委員会(以下、震災委とする)の活動についてはこれまでに、会報174及び176、178において報告を行った。また、第79回総会でもそれまでの活動の報告を行ったので、今回はそれ以降の2013年度の活動について報告する。

1 委員会の開催状況

 第1回委員会
 2013年5月25日(土) 午後1時10分〜2時45分に駒澤大学1号館512教室で開催。 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、渡邊泰伸の10名である。

 第2回委員会
 2013年8月10日(土) 午後2時〜5時に協会事務所で開催。 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、玉川一郎、富山直人、八木光則、渡邊泰伸の11名である。

 第3回委員会
 2013年10月19日(土) 午前11時〜午後1時に長野市長野県社会福祉総合センターで開催。 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、八木光則の9名である。

 第4回委員会
 2014年1月26日(日) 午前9時30分〜12時15分に仙台市博物館で開催。 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、富山直人、八木光則、渡邊泰伸の12名(全委員)である。

2 被災地における復興調査の現状報告

 委員会での協議の前段として、被災3県から選出された委員によって、毎回現状報告がなされたが、2014年1月段階での被災3県の現状と問題点は次のとおりである。

(1)岩手県(八木委員)

【職員派遣状況について】

 上半期は岩手県教育委員会に8名、岩手県内の市町村に11名、岩手県埋蔵文化財センターに3名が道府県教育委員会や指定都市教育委員会、全国の市町村教育委員会、埋蔵文化財センターから派遣され、下半期には市町村教委に4名が増員されて復興調査が進められている。

【市町村教委の発掘調査の方式の多様化】

 岩手県沿岸部では、市町村の職員増と全国自洽体からの職員派遣を受け、かなり急ピッチに発掘調査が行われている。最近の大きな特徴として、市町村ごとの発掘調査の運営方式の違いが、隣接市町村間で顕在化してきたことがあげられる。

@ 完全直営 作業員の直接雇用などの現場管理、調査の進行などを教育委員会職員自らが行うもの。基準点測量や重機掘削などは委託することもある。

A 一部委託 基本は直営で、測量や遺構実測、遺物実測など、かつては自前で行っていた作業の一部を外部委託するもの。遺物整理を委託する場合があり、これまで測量会杜などが受注していたが、内陸自治体が復興調査支援の一環として受託する形も出てきた。

B 概括委託 作業員の雇用やバス送迎などの現揚管理、重機掘削、遺構実測などを地元建設会社などに委託し、教育委員会職員が調査の進行を取り仕切るもの。作業員への直接指示は不可。

C 一括委託 作業員の雇用などの現場管理から、重機掘削、調査員派遺までを一括して全国的な発 掘会社に委託するが、教育委員会職員が現場に常駐し、調査の進行を取り仕切るもの。

D 全面委託 現場調査から報告書作成まですべてを外部委託するもの。沿岸ではまだ行われていな いが、内陸部で実例がある。

 5方式のうち、調査の迅速化や少ない職員をカバーするために@からCまでで順次委託の割合を増やしたものとなっている。岩手県教育委員会や岩手県埋蔵文化財センターは@・Aの方式をとっており、B・Cが震災後に始められた方式である。Bは県内派遣職員によるもので、事務を簡略化し職員が調査に専念できる体制をねらっている。Cは地元教育委員会職員が派遣職員とともに現場で専従、指揮をとっており、主導権を堅持している。Dは岩手県教育委員会が原則的に認めていない方式で、例外的な扱いとなっている。

 遺物整理の他市への委託は、水洗後の遺物整理、分類、実測までで、報告書作成は地元教育委員会が行う予定である。地元での作業空間や実測作業員の不足を補うためにとられた方式である。

【2014年度の調査予定】

 来年度は調査のピークを迎える。そのための調査体制はまだ流動的で決まっていないが、ほぼ2013年度並みの体制が予定されている。県内内陸市町村では盛岡市から宮古市・大船渡市、滝沢市から野田村の継続はほぼ固まっている模様。ほかに全国から短期支援が可能というところがいくつか出てきている。

 調査は、県埋文センターでは三陸自動車道関連が継続して大きなウェイトを占める。高台移転造成地の調査では今年度からの継続として数カ所が予定されている。また高台移転後の県道付け替え道路やほ場整備関連事業が、今後増加する見込み。

 沿岸南部では区画整理事業、市道や民間事業などが予定されている。高台移転関連調査は2014年度で一応の区切りとなることが予想される。

(2)宮城県(倉委員)

【職員派遣状況について】

 宮城県教育庁の調査体制は県教委職員20名と文化庁ルートの派遣職員24名の合計44名からなり、上半期と同様である。沿岸部市町への職員派遣状況は2013年度下半期は4名増員となり、合計10名となった。4名の内訳は文化庁ルート3名、総務省ルート1名である。

【復興調査の進捗状況】

 復興道路関係では三陸沿岸道路・県道泉塩釜線多賀城インター周辺は2014年度前半で終了予定、歌津インター以北は2014年度以降に調査開始予定となっている。常磐自動車道路山元インター以南の24遺跡は2013年で終了した。

 高台移転関係の調査は沿岸北部では2014年で一段落するが、2014年に調査が始まる市町もある。

【他機関から沿岸市町への支援】

 発掘調査に伴う委託業務の一括発注事務に係る技術支援が行われる。民間調査機関の導入は未着手で導入する場合の仕様書、手引き等の検討を行っている。奈良文化財研究所による測量、資料分析等の技術支援や、県内内陸市町から沿岸市町への試掘調査の支援が2013年度に行われた。

【その他】

 2013年度の調査は、当初の計画通りに進行し、大幅な遅れはないが、事業者サイドで条件整備が整っていないところが多く、調整が整った場合の高台移転地の調査が迅速にできるかが課題である。調査事業量は、2014年度に増加することが予想されている。また、2015年度以降までずれ込む可能性が高く、移転地への道路整備で、遺跡との調整も必要となる可能性が高い。

 震災復興交付金の事業期間が2015年度までとなっており、この期間内での事業を終了させることは困難とみられる。特に遺物整理や報告書の作成、刊行が遅れる見込みである。県では復興調査の報告書の体裁を検討中であり、県の方針を作成し、市町村を指導する計画である。

(3)福島県(玉川委員)

【2013年度の復興事業に伴う埋蔵文化財調査体制】

 2013年度に設置された教育庁の復興調査チームは、県職員4名、財団からの派遣2名、自治体派遣9名で変更はない。福島県文化振興事業団は2013年度に遺跡調査部管理課に復興調査班を新設し、他県の財団から4名、県の教員5名、嘱託6名を配置した。県の職員体制は支援県の途中交替はあるが2013年度当初の人数に変化はない。

【県教委の復興関係の埋蔵文化財調査の状況】

 2013年度の試掘対象予定のほ場整備・土取り場・県道などの試掘対象面積約480haは1月で終了する予定である。土取り場の試掘も1月で終了し、今後の協議で本調査面積が確定する。2014年度には、復興調査チームは自治法派遣職員の支援を受けて試掘調査を、本調査は財団に委託して対応することとしており、自治法派遣職員による被災市町村への技術支援は継続する予定。今のところ、派遣職員の大幅な増員は必要ないと認識しているが、内容が固まらない事業があるほか、県の原発被災者のための災害公営住宅が7市町村以上に建設される見通しだが、相当広い面積になる可能性がある。試掘・本調査とも2014年がピークと思われ、体制の再構築が出てくるかもしれない。

【市町村の復興関係の調査状況】

 県北部の1市1町は交付金事業の埋蔵文化財調査は終了したが、復興道路の追加部分で古代製鉄遺跡が発見され、調査が続く可能性がある。北部の1市は2014年度から本調査が本格化する。

 原発に近い双葉郡の各町では復旧・復興事業となる県道、防災集団移転、災害公営住宅などの調整協議が始まり、県教委が指導・協力しながら対応している。

 また、この区域に設置される中間貯蔵施設は国有化する範囲が示され、遺跡の取り扱いについて近々情報が提示される見込みである。

【現地調査における放射線対策(特に派遣職員)】

【現場の実態】

 試掘調査の場合は、表土はトレンチの両サイドに排出されるが、表土面は反転耕された状態で隠されるので、表面の線量は急減することになり、トレンチ内は「除染」された状態になる。

3 被災市町村の現地視察・聴取り調査の結果報告

 2013年11月から2014年1月まで、2012年度に実施した被災市町村の復興調査の進行状況と課題等についての追跡調査を同じ班編制で実施した。その結果概要は次のとおりである。

(1)岩手県北部班(佐藤宏之委員、渋谷孝雄委員)

 2013年12月17日(火)に野田村、田野畑村、18日(水)に宮古市、山田町、大槌町の5市町村

(2)岩手県南部班(石川日出志委員、八木光則委員)

 2013年11月26日(火)に北上市、花巻市、釜石市、27日(水)に大船渡市・陸前高田市の5市。

(3)宮城県北部班(倉敏明委員、富山直人委員)

 2013年11月11日(月)に南三陸町、12日(火)に気仙沼市、女川町、石巻市の4市町。

(4)宮城県南部班(飯島義雄委員、渡邊泰伸委員)

 2013年12月10日(火)に亘理町、山元町、岩沼市、白石市、11日(水)に名取市、東松島市、七ヶ浜町の7市町。

(5)福島県北部班(河野一也委員、玉川一郎委員)

 2013年11月27日(水)南相馬市、28日(木)相馬市、新地町の3市町。

(6)福島県南部班(菊地芳朗委員、近藤英夫委員)

 2014年1月8日(水)に福島県教育庁、まほろん、9日(木)に広野町、いわき市の4カ所。

4 委員会での協議結果

 4回開催した委員会で決定したことは次のとおりである。

(1)委員の交代

 第1回委員会で岩手考古学会推薦の熊谷常正委員が多忙のため辞職したいという申し出があり、協議の結果、委員会としては同学会員で熊谷委員が推薦する前盛岡市教育委員会の八木光則会員に依頼することとし、理事会で承認された。

(2)報告会の持ち方

 第1回委員会では、2013年度事業として実施が決まっていた報告会について、実施方法と形態についての協議が行われ、今年度は岩手県盛岡市と宮城県仙台市で秋以降に開催することで決定をみた。来年度は福島県内で開催する。協会主催で各県考古学会に共催や後援を求める。1回3時間以内とし、各県の調査の現状報告とその評価を中心とする。実施費用は特別会計からの支出とする。内容の詳細と実施時期等については、今年度開催分については次回委員会までに詰めていくこととした。

 この結果を受け、第2、3回委員会でテーマや報告者、後援機関を詰め、後述する構成で開催することを決定した。

(3)現地説明会での出張報告会

 第1回委員会で、復興調査遺跡の現地説明会に出かけていき、復興計画に伴う埋蔵文化財調査の意義について、震災委として何らかのアピールを行うことができないか検討することとした。開催地は宮城県内とし、渋谷・倉委員が宮城県教育庁文化財保護課と実施できる遺跡について協議を始めることが了解され、第2回、第3回委員会を経て、南三陸町新井田館の説明会での開催が決まり、中世史の研究者である東北学院大学の七海雅人教授に依頼することとした。

 説明会は11月23日(土)の午前10時と午後1時の2回行われ、史料の少ない当地域で中世城館跡のほぼ全域の調査が行われたことの歴史的意義について、午前、午後合わせて318名にのぼった参加者に説明していただいた。

(4)第80回総会でのセッションについて

 第4回委員会を経て2014年5月18日(日)の総会時の特別委員会セッションを次のとおり開催することとなった。

(5)来年度の復興調査成果報告会の持ち方

 成果報告会は2014年度も継続し、福島県に加え被災市町村でも開催することが決定した。開催地は視察協議で希望が出された岩手県宮古市を軸として調整を進めることとなった。

(6)その他了解・決定事項

 第2回委員会で次のことが決まった。@ 兵庫県立図書館から『地震災害と考古学T』(2000)をデジタル化することについて依頼があり、執筆者の了解を得ることを条件に、了承することとした。A 埋文委で、文化財レスキューの検討、民間導入のことについて議論しており、当委員会と重なる。しかし、当委員会でも検討・議論することは必要で、適宜意見調整をすることとなった。

 第3回委員会では第2回委員会後に、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について(中間まとめ)」に対する意見を佐藤宏之委員が原案をまとめ、メールで各委員の意見をまとめた上で提出したことが了承された。

 第4回委員会では文化庁面談について、埋文委との調整の上、文化庁記念物課に面談日程の確保について依頼することとなった。後日、その日程は2014年3月4日(火)と決定した。

5 東日本大震災復興に伴う発掘調査の成果報告会について

 2014年1月25日(土)に盛岡市の岩手大学で、また翌26日(日)に仙台市の仙台市博物館を会場として開催した。テーマは両会場とも「発掘調査でわかった沿岸部の歴史」で、岩手県教育委員会、岩手大学、岩手考古学会、岩手歴史民俗ネット、宮城県教育委員会、仙台市教育委員会、宮城県考古学会から後援をいただいた。そのプログラムは次のとおりである。

 盛岡会場

【プログラム】進行:佐藤宏之(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)

 仙台会場

【プログラム】進行:渡邊泰伸(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)

 年末に岩手、宮城両県の市町村教委をはじめとして関係機関にポスターとチラシを配布し、事前に地元紙でも案内していただいた。一般の方や自治体職員、派遣職員の方など盛岡会場で91名、仙台会場で115名の参加者があり、各会場とも平易な説明で、わかりやすかったとの一般の方からの評価があった。また、有意義な意見交換もなされた。

(東日本大震災対策特別委員会委員長 渋谷孝雄)