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東日本大震災対策特別委員会報告
東日本大震災対策特別委員会(以下、震災委とする)の活動についてはこれまでに、会報174及び176、178において報告を行った。また、第79回総会でもそれまでの活動の報告を行ったので、今回はそれ以降の2013年度の活動について報告する。
1 委員会の開催状況
第1回委員会
2013年5月25日(土) 午後1時10分〜2時45分に駒澤大学1号館512教室で開催。
出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、渡邊泰伸の10名である。
第2回委員会
2013年8月10日(土) 午後2時〜5時に協会事務所で開催。
出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、玉川一郎、富山直人、八木光則、渡邊泰伸の11名である。
第3回委員会
2013年10月19日(土) 午前11時〜午後1時に長野市長野県社会福祉総合センターで開催。
出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、八木光則の9名である。
第4回委員会
2014年1月26日(日) 午前9時30分〜12時15分に仙台市博物館で開催。
出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、富山直人、八木光則、渡邊泰伸の12名(全委員)である。
2 被災地における復興調査の現状報告
委員会での協議の前段として、被災3県から選出された委員によって、毎回現状報告がなされたが、2014年1月段階での被災3県の現状と問題点は次のとおりである。
(1)岩手県(八木委員)
【職員派遣状況について】
上半期は岩手県教育委員会に8名、岩手県内の市町村に11名、岩手県埋蔵文化財センターに3名が道府県教育委員会や指定都市教育委員会、全国の市町村教育委員会、埋蔵文化財センターから派遣され、下半期には市町村教委に4名が増員されて復興調査が進められている。
【市町村教委の発掘調査の方式の多様化】
岩手県沿岸部では、市町村の職員増と全国自洽体からの職員派遣を受け、かなり急ピッチに発掘調査が行われている。最近の大きな特徴として、市町村ごとの発掘調査の運営方式の違いが、隣接市町村間で顕在化してきたことがあげられる。
@ 完全直営 作業員の直接雇用などの現場管理、調査の進行などを教育委員会職員自らが行うもの。基準点測量や重機掘削などは委託することもある。
A 一部委託 基本は直営で、測量や遺構実測、遺物実測など、かつては自前で行っていた作業の一部を外部委託するもの。遺物整理を委託する場合があり、これまで測量会杜などが受注していたが、内陸自治体が復興調査支援の一環として受託する形も出てきた。
B 概括委託 作業員の雇用やバス送迎などの現揚管理、重機掘削、遺構実測などを地元建設会社などに委託し、教育委員会職員が調査の進行を取り仕切るもの。作業員への直接指示は不可。
C 一括委託 作業員の雇用などの現場管理から、重機掘削、調査員派遺までを一括して全国的な発 掘会社に委託するが、教育委員会職員が現場に常駐し、調査の進行を取り仕切るもの。
D 全面委託 現場調査から報告書作成まですべてを外部委託するもの。沿岸ではまだ行われていな いが、内陸部で実例がある。
5方式のうち、調査の迅速化や少ない職員をカバーするために@からCまでで順次委託の割合を増やしたものとなっている。岩手県教育委員会や岩手県埋蔵文化財センターは@・Aの方式をとっており、B・Cが震災後に始められた方式である。Bは県内派遣職員によるもので、事務を簡略化し職員が調査に専念できる体制をねらっている。Cは地元教育委員会職員が派遣職員とともに現場で専従、指揮をとっており、主導権を堅持している。Dは岩手県教育委員会が原則的に認めていない方式で、例外的な扱いとなっている。
遺物整理の他市への委託は、水洗後の遺物整理、分類、実測までで、報告書作成は地元教育委員会が行う予定である。地元での作業空間や実測作業員の不足を補うためにとられた方式である。
【2014年度の調査予定】
来年度は調査のピークを迎える。そのための調査体制はまだ流動的で決まっていないが、ほぼ2013年度並みの体制が予定されている。県内内陸市町村では盛岡市から宮古市・大船渡市、滝沢市から野田村の継続はほぼ固まっている模様。ほかに全国から短期支援が可能というところがいくつか出てきている。
調査は、県埋文センターでは三陸自動車道関連が継続して大きなウェイトを占める。高台移転造成地の調査では今年度からの継続として数カ所が予定されている。また高台移転後の県道付け替え道路やほ場整備関連事業が、今後増加する見込み。
沿岸南部では区画整理事業、市道や民間事業などが予定されている。高台移転関連調査は2014年度で一応の区切りとなることが予想される。
(2)宮城県(倉委員)
【職員派遣状況について】
宮城県教育庁の調査体制は県教委職員20名と文化庁ルートの派遣職員24名の合計44名からなり、上半期と同様である。沿岸部市町への職員派遣状況は2013年度下半期は4名増員となり、合計10名となった。4名の内訳は文化庁ルート3名、総務省ルート1名である。
【復興調査の進捗状況】
復興道路関係では三陸沿岸道路・県道泉塩釜線多賀城インター周辺は2014年度前半で終了予定、歌津インター以北は2014年度以降に調査開始予定となっている。常磐自動車道路山元インター以南の24遺跡は2013年で終了した。
高台移転関係の調査は沿岸北部では2014年で一段落するが、2014年に調査が始まる市町もある。
【他機関から沿岸市町への支援】
発掘調査に伴う委託業務の一括発注事務に係る技術支援が行われる。民間調査機関の導入は未着手で導入する場合の仕様書、手引き等の検討を行っている。奈良文化財研究所による測量、資料分析等の技術支援や、県内内陸市町から沿岸市町への試掘調査の支援が2013年度に行われた。
【その他】
2013年度の調査は、当初の計画通りに進行し、大幅な遅れはないが、事業者サイドで条件整備が整っていないところが多く、調整が整った場合の高台移転地の調査が迅速にできるかが課題である。調査事業量は、2014年度に増加することが予想されている。また、2015年度以降までずれ込む可能性が高く、移転地への道路整備で、遺跡との調整も必要となる可能性が高い。
震災復興交付金の事業期間が2015年度までとなっており、この期間内での事業を終了させることは困難とみられる。特に遺物整理や報告書の作成、刊行が遅れる見込みである。県では復興調査の報告書の体裁を検討中であり、県の方針を作成し、市町村を指導する計画である。
(3)福島県(玉川委員)
【2013年度の復興事業に伴う埋蔵文化財調査体制】
2013年度に設置された教育庁の復興調査チームは、県職員4名、財団からの派遣2名、自治体派遣9名で変更はない。福島県文化振興事業団は2013年度に遺跡調査部管理課に復興調査班を新設し、他県の財団から4名、県の教員5名、嘱託6名を配置した。県の職員体制は支援県の途中交替はあるが2013年度当初の人数に変化はない。
【県教委の復興関係の埋蔵文化財調査の状況】
2013年度の試掘対象予定のほ場整備・土取り場・県道などの試掘対象面積約480haは1月で終了する予定である。土取り場の試掘も1月で終了し、今後の協議で本調査面積が確定する。2014年度には、復興調査チームは自治法派遣職員の支援を受けて試掘調査を、本調査は財団に委託して対応することとしており、自治法派遣職員による被災市町村への技術支援は継続する予定。今のところ、派遣職員の大幅な増員は必要ないと認識しているが、内容が固まらない事業があるほか、県の原発被災者のための災害公営住宅が7市町村以上に建設される見通しだが、相当広い面積になる可能性がある。試掘・本調査とも2014年がピークと思われ、体制の再構築が出てくるかもしれない。
【市町村の復興関係の調査状況】
県北部の1市1町は交付金事業の埋蔵文化財調査は終了したが、復興道路の追加部分で古代製鉄遺跡が発見され、調査が続く可能性がある。北部の1市は2014年度から本調査が本格化する。
原発に近い双葉郡の各町では復旧・復興事業となる県道、防災集団移転、災害公営住宅などの調整協議が始まり、県教委が指導・協力しながら対応している。
また、この区域に設置される中間貯蔵施設は国有化する範囲が示され、遺跡の取り扱いについて近々情報が提示される見込みである。
【現地調査における放射線対策(特に派遣職員)】
- @ 調査対象地の限定 警戒区域内(20q圏内)への立ち入りは行わない。年間20mSvを越える放射 線量の地域では作業を行わない。
- A 個人被ばく線量の管理 ポケット線量計を携帯し、被ばく量をチェックし、積算線量を管理する。派遣職員は自然放射線レベルである年間1mSvの範囲内に収まるように作業を調整する。
- B 現場での対応 調査実施時には簡易マスク・防塵マスク等の使用、使い捨て軍手等を使用する。
【現場の実態】
- @ 派遣元及び本人の全員から同意書がでているが、派遣調査員には旧警戒区域での調査は行わせていない。旧警戒区域は、全て福島県の調査員と県の財団職員が調査している。派遣職員には年間1mSvで、県職員の場合は年間20mSvの基準で業務に従事していることになる。
- A 派遣職員を含めた全ての調査員に積算線量計を配付し、調査業務日誌に累積線量を記入させ、積算線量の管理を行っている。
- B 現場に簡易マスクや軍手を常備し使用を促している。
- C 現場にはシンチュレーション線量計が配付されており、調査前の表土面の線量を測定し、数値が一定量ある場合は開発側が汚染土壌として掘削し、保管・処理することになっている。本調査の場合は、表土は調査区から離れた場所にあり、現場は「除染」された状態で調査が行われることになる。(セシウム134・137などの放射性物質は土壌表面の数pに付着していて、表土を5〜10pすき取って特定の場所で管理することがいわゆる「除染」である)。
試掘調査の場合は、表土はトレンチの両サイドに排出されるが、表土面は反転耕された状態で隠されるので、表面の線量は急減することになり、トレンチ内は「除染」された状態になる。
3 被災市町村の現地視察・聴取り調査の結果報告
2013年11月から2014年1月まで、2012年度に実施した被災市町村の復興調査の進行状況と課題等についての追跡調査を同じ班編制で実施した。その結果概要は次のとおりである。
(1)岩手県北部班(佐藤宏之委員、渋谷孝雄委員)
2013年12月17日(火)に野田村、田野畑村、18日(水)に宮古市、山田町、大槌町の5市町村
- @ 昨年の訪問時はどこの市町村も復興関連調査がオーバーフローすることを恐れていたが、今年度訪問してみると、ほぼ全ての市町村で、復興事業の終了予定である2015年度までに現地調査は終了する見通しであるとの返答を得た。これは調査量が当初の見込みよりも少なかったことと、国・県の指導・協力と各市町村教委の努力によるものと思われる。また復興計画の遅れにより調査が後年度にまわるといった事態も発生していないようである。
- A そのため民間調査機関の導入に関する要望はずいぶんトーンダウンし、現場や整理の部分委託を除いて希望はほとんどなくなった。
- B 整理と報告書作成は2015度よりも確実に遅れる見通しとなっている。市町村から埋蔵文化財センターに委託した遺跡の報告書の刊行については問題がないが、派遣職員を受けて実施した市町村教委の直轄事業による発掘調査の整理と報告書作成の目途が立たない市町村が少なくない。そのため、今後の整理体制をどう構築・維持していくかが問題となる。調査費用に対する復興庁の予算査定が厳しくなったという声が複数の自治体から聞かれた。復興交付金は複数年使用が可能なので、これを積み立てて整理費に充当しようとの計画で事業を進めてきた自治体もあったが、来年度査定では予算の積み残しがあると新たな予算は認めないということになったため、積み立てによる整理と報告書刊行費用の確保ができなくなったということである。2016年度以降も整理費を交付金で確保し、同時に派遣を継続して人的資源を保証していく必要がある。
- C 昨年の聴取りで要望の高かった市町村への直接派遣が実現したので、住民からの調査要望に遅滞なく対応できるようになったことは大きい。調査員もおおむね確保されていると評価できよう。市町村への直接派遣は、今後も必須である。
- D 昨年度提案して実現した復興調査の報告会は、一過性ではなく今後も継続すべきと考える。そのため来年度は福島での開催が決まっているが、それに加えて被災地での報告会の開催も必要と考える。被災地の教育委員会では、復興調査の社会還元を強く希望している。
(2)岩手県南部班(石川日出志委員、八木光則委員)
2013年11月26日(火)に北上市、花巻市、釜石市、27日(水)に大船渡市・陸前高田市の5市。
- @ 沿岸部の出土資料を内陸部の2市に分割委託して整理作業が進められている。現地調査は派遣職員が担当し、すでに派遣元に戻っている。現地調査の判断や記録が整理作業に活かせないなどの状況がみられる。発掘情報の作成法や引き継ぎ方の標準を定めておかないと、調査成果が報告書に適正に反映できないばかりか将来の活用にも影響が出てくることになる。早急に検討が必要な課題である。
- A 市の直営という形を取ってはいるが、(公社)日本文化財保護協会と整理・報告書作成までの委託契約を結び、市の調査員、派遣調査員と同協会傘下の民間調査組織の調査員(主任作業員と位置づけられている)3名で調査を進めている例がある。また、派遣調査員の従事期間は1年以内であり、報告書刊行や、収納まで担当することはかなりの困難があるが、民間組織は報告書刊行までを担当することができる面がある。しかし、その調査の監理が必須であり、その条件を整える必要がある。復興事業の賃金単価が高く、発掘作業員の確保が難しくなっている。近隣の内陸部からバスで送迎して確保している例がある。
- B 防災集落・高台移転事業の遅延により、集団移転から個人住宅建設に転換する事例が増えている。また、各市教委直轄に加え埋蔵文化財センターへの委託も予定されているが、2015年度内に終えるのは難しいというところが多い。
(3)宮城県北部班(倉敏明委員、富山直人委員)
2013年11月11日(月)に南三陸町、12日(火)に気仙沼市、女川町、石巻市の4市町。
- @ 専門職員不在で各地から直接派遣された4名に加え、県から5名の職員の派遣を受けて大規模な調査を実施している町では、この調査が終了しても個人住宅に伴う調査やほ場整備の計画もあり、来年度も3名の調査職員の派遣を依頼することになっている。同じく専門職員が不在で、2013年度に県からの派遣で試掘を実施し、2014年度は自治法派遣職員を2名要望して対処しようとしている町もある。来年度以降、公共事業に伴う確認調査が48件、高台移転関連調査が20件ほどあるという。この町の問題は、高台移転を含め、復興事業に伴う埋蔵文化財の調整と調査が震災後3年が経過しようとしているにもかかわらず、ほとんど進んでいないことで、派遣職員の確保と事務体制の確立や作業員の確保など課題は山積している。
- A 高台移転地の調査が市職員や派遣職員によって順調に進んでいるが、なお防災集団移転事業等に 関連し例年の2〜3倍の確認調査や協議があり、個人住宅建築の調査は10年以上続くことが予想 されるという。2014年度とそれ以降の調査事業量も固まっていない市もある。集団移転に関しては移転戸数の変動が用地交渉に遅れをきたしている。いまのところ、発掘調査に対する地域住民の理解もあるが、事業側の調整不足で調査が進まないことが、今後、悪影響を及ぼす可能性のあることが懸念される。長期計画での担当職員の確保と体制の確立が急務であることなどの課題がある。作業員の安定的な確保も課題という。
- B 整理作業を委託した市で、発掘調査の現場調査員と民間委託整理作業との連携が充分でないため、作業の進行がスムーズに行かないことなどの問題点が生じている。
(4)宮城県南部班(飯島義雄委員、渡邊泰伸委員)
2013年12月10日(火)に亘理町、山元町、岩沼市、白石市、11日(水)に名取市、東松島市、七ヶ浜町の7市町。
- @ 県南の町では集団高台移転に伴う調査対象地はなかったものの、個人住宅の宅地造成への対応が倍以上となっている。復興造成に関係しての大規模な土取りと、その取り付け道路に伴う調査が生じる恐れがある。また、別の町では集団移転や津波避難拠点事業の関連調査に着手したが未買 収などで試掘・確認調査が遅れ、目途が立っていないという。事業者側から2014年中の発掘調査終了が要請されているが、事業量はきわめて多く、事業者側との調整や発掘調査に遅れをきたし ているとのことで県教委の適切な指導が必要であろう。
- A 仙台市に隣接する市では2013年度は区画整理とほ場整備、被災した個人住宅・店舗・工場建設で 60件ほどの確認調査を実施し、今後もほ場整備や集団移転に係わる事業が顕在化する可能性があるが、調査事業量はこれ以上増えることはなく、復興事業に伴う調査事業量は震災直後に見積もった面積の5分の1程度に収まる見込みという。また、松島湾に面した町では本調査に至る案件はなかった。高台移転関連でも遺跡は避けられる見込みとなっている。2014年度から農地基盤整備事業が始まり、対象面積は広大だが、実際の調査は排水路等の切土部分のみとなる見込みで、復興事業関係の事業量はほぼ把握できたとのこと。
(5)福島県北部班(河野一也委員、玉川一郎委員)
2013年11月27日(水)南相馬市、28日(木)相馬市、新地町の3市町。
- @ 北側に位置する1市1町での復興事業関係の埋文対応はほぼ終了した。南部の1市では2013年度は防災集団移転住宅、災害公営住宅、個人住宅、工業団地などで約40カ所の試掘が行われる。区域再編で立ち入り可能となった地区では、環境省による除染が進まず、復興事業が大幅に遅れ、試掘調査の見通しはたっていないという。また、工業団地2カ所と防災集団移転で33,000uの本調査が確定している。
- A ほ場整備と県道などの調査は県教委が担当することになり、土取り場の試掘が進んでいるが、試掘の結果を受けて農林や土木事務所が避けた場所を民間が買い上げて土取り場とするケースも出てきている。また、ほ場整備では、畑地化に備え1m間隔で暗渠を設置する案が浮上し調整が進んでいる。この工法が決定されると盛土で保存し、本調査を回避できなくなり、広大な本調査が必要になる可能性がある。
(6)福島県南部班(菊地芳朗委員、近藤英夫委員)
2014年1月8日(水)に福島県教育庁、まほろん、9日(木)に広野町、いわき市の4カ所。
- @ 福島県の復興計画に伴う埋蔵文化財の調査体制および状況
文化財課の中に「復興チーム」を設置し、職員16名が所属している。ここには県財団からの派遣職員2名、他自治体からの派遣職員10名を含み、残る4名の県職員のうち3名は教員、1名が近年採用の専門職員である。県教委は国・県事業の分布・試掘調査にあたり、本調査の場合には財団委託となる。開発側との調整は順調に進んでおり、開発の遅れは出ていない。マスコミによるネガティブな取り上げ方も落ち着き、イメージが改善されつつある。
- A 原発立ち入り制限区域内の埋蔵文化財の取り扱い
双葉町・大熊町・楢葉町に放射性廃棄物中間貯蔵施設建設計画が進んでいるが、県市町村を超えたレベルの話であり、県としては国に前面に出てほしいと考えている。
- B 南部の町ではこれまで文化財専門職員を配置していなかったが、2013年10月にようやく主任主査 (期限付職員)が着任し、県外他市からの派遣職員も着任した。しかし、派遣は2014年3月まで、任期付職員も2016年3月までで、待遇などで不安定な状態にある。安定した埋蔵文化財保護のため、一層の取組みが必要である。
- C 福島県沿岸部の南端の市は、調整業務を市教委で、確認・試掘・発掘は財団で行っている。市教 委では、財団からの一時退職職員を嘱託の専門員として埋蔵文化財保護にあたる特殊な体制をとっているが、自前で文化財保護行政を行えるような体制づくりが必要である。財団は正規職員6名、嘱託職員5名の11名体制で対応しているが、試掘・本調査に加え、2014年度末刊行予定の報告書を5つ抱えており、業務量がきわめて多く試掘調査の増大で業務遂行に支障が出ている。
4 委員会での協議結果
4回開催した委員会で決定したことは次のとおりである。
(1)委員の交代
第1回委員会で岩手考古学会推薦の熊谷常正委員が多忙のため辞職したいという申し出があり、協議の結果、委員会としては同学会員で熊谷委員が推薦する前盛岡市教育委員会の八木光則会員に依頼することとし、理事会で承認された。
(2)報告会の持ち方
第1回委員会では、2013年度事業として実施が決まっていた報告会について、実施方法と形態についての協議が行われ、今年度は岩手県盛岡市と宮城県仙台市で秋以降に開催することで決定をみた。来年度は福島県内で開催する。協会主催で各県考古学会に共催や後援を求める。1回3時間以内とし、各県の調査の現状報告とその評価を中心とする。実施費用は特別会計からの支出とする。内容の詳細と実施時期等については、今年度開催分については次回委員会までに詰めていくこととした。
この結果を受け、第2、3回委員会でテーマや報告者、後援機関を詰め、後述する構成で開催することを決定した。
(3)現地説明会での出張報告会
第1回委員会で、復興調査遺跡の現地説明会に出かけていき、復興計画に伴う埋蔵文化財調査の意義について、震災委として何らかのアピールを行うことができないか検討することとした。開催地は宮城県内とし、渋谷・倉委員が宮城県教育庁文化財保護課と実施できる遺跡について協議を始めることが了解され、第2回、第3回委員会を経て、南三陸町新井田館の説明会での開催が決まり、中世史の研究者である東北学院大学の七海雅人教授に依頼することとした。
説明会は11月23日(土)の午前10時と午後1時の2回行われ、史料の少ない当地域で中世城館跡のほぼ全域の調査が行われたことの歴史的意義について、午前、午後合わせて318名にのぼった参加者に説明していただいた。
(4)第80回総会でのセッションについて
第4回委員会を経て2014年5月18日(日)の総会時の特別委員会セッションを次のとおり開催することとなった。
- テーマ「東日本大震災の復興調査の進捗状況と課題」 東日本大震災対策特別委員会
- 1.10時00分〜10時15分 石川日出志「趣旨説明 特別委員会報告」
- 2.10時15分〜10時40分 八木 光則「岩手県における復興調査と課題」
- 3.10時40分〜11時05分 倉 敏明「宮城県における復興調査と課題」
- 4.11時05分〜11時30分 玉川 一郎「福島県における復興調査と課題」
- 5.11時30分〜12時00分 討論(司会:佐藤宏之)
(5)来年度の復興調査成果報告会の持ち方
成果報告会は2014年度も継続し、福島県に加え被災市町村でも開催することが決定した。開催地は視察協議で希望が出された岩手県宮古市を軸として調整を進めることとなった。
(6)その他了解・決定事項
第2回委員会で次のことが決まった。@ 兵庫県立図書館から『地震災害と考古学T』(2000)をデジタル化することについて依頼があり、執筆者の了解を得ることを条件に、了承することとした。A 埋文委で、文化財レスキューの検討、民間導入のことについて議論しており、当委員会と重なる。しかし、当委員会でも検討・議論することは必要で、適宜意見調整をすることとなった。
第3回委員会では第2回委員会後に、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について(中間まとめ)」に対する意見を佐藤宏之委員が原案をまとめ、メールで各委員の意見をまとめた上で提出したことが了承された。
第4回委員会では文化庁面談について、埋文委との調整の上、文化庁記念物課に面談日程の確保について依頼することとなった。後日、その日程は2014年3月4日(火)と決定した。
5 東日本大震災復興に伴う発掘調査の成果報告会について
2014年1月25日(土)に盛岡市の岩手大学で、また翌26日(日)に仙台市の仙台市博物館を会場として開催した。テーマは両会場とも「発掘調査でわかった沿岸部の歴史」で、岩手県教育委員会、岩手大学、岩手考古学会、岩手歴史民俗ネット、宮城県教育委員会、仙台市教育委員会、宮城県考古学会から後援をいただいた。そのプログラムは次のとおりである。
盛岡会場
【プログラム】進行:佐藤宏之(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
- 13:30〜13:35 あいさつ・趣旨説明
- 石川日出志(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
- 13:35〜14:05 復興計画と発掘調査の進捗状況
- 菅 常 久(岩手県教育委員会)
- 14:05〜14:35 復興調査による三陸の歴史の解明(1)
- 小山内 透((公財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター)
- 14:35〜15:05 復興調査による三陸の歴史の解明(2)
- 高橋憲太郎(宮古市教育委員会)
- 15:15〜15:45 派遣職員からみた復興調査
- 八木 光則(元盛岡市から宮古市派遣)
- 15:45〜16:15 復興調査の意義と地域文化の振興
- 渋谷 孝雄(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
- 16:15〜16:30 意見交換
仙台会場
【プログラム】進行:渡邊泰伸(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
- 13:00〜13:10 あいさつ・趣旨説明
- 近藤 英夫(一般社団法人日本考古学協会理事)
- 13:10〜13:40 復興調査の報告1 波怒棄館遺跡
- 鹿島 直樹(気仙沼市教育委員会)
- 13:40〜14:10 復興調査の報告2 新井田館跡
- 佐々木 潤(南三陸町教育委員会)
- 14:10〜14:40 派遣職員からみた復興調査
- 林 大 智(石川県教育委員会から派遣)
- 15:00〜15:30 復興調査の意義と地域文化の振興
- 倉 敏明(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
- 15:30〜16:00 意見交換
年末に岩手、宮城両県の市町村教委をはじめとして関係機関にポスターとチラシを配布し、事前に地元紙でも案内していただいた。一般の方や自治体職員、派遣職員の方など盛岡会場で91名、仙台会場で115名の参加者があり、各会場とも平易な説明で、わかりやすかったとの一般の方からの評価があった。また、有意義な意見交換もなされた。
(東日本大震災対策特別委員会委員長 渋谷孝雄)