会長声明
東日本大震災復興事業に伴う文化財の保存・調査に望む
東日本大震災から4ヶ月が過ぎました。震災の犠牲になられた方々には、改めて哀悼の意を表します。また、被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。とりわけ、福島県の皆様には、原発事故の速やかな終息を願っております。
日本考古学協会には、困難な状況の中、各地域で復旧・復興に向けたさまざまな取り組みが始まっていることが伝わってきています。地元の皆様を始め、多くの方々による地域再生に向けてのご努力に敬意を表し、これらの取り組みに本協会もできる限りの協力をさせていただきます。
さて、このたび大きな被害を受けた東北、北関東の太平洋沿岸は、先史時代以来、多様で個性豊かな文化が展開した地域です。そこでは史跡を含む多くの遺跡の所在が知られており、うちいくつかは地域の歴史を体感できる場として整備され、公開されています。さらに、これらを顕彰する博物館等の施設も各地につくられてきました。その中には、今回大きな被害を受けたものもあります。今後の復興事業推進にあたりましては、史跡を保全し、文化財を保管、活用する施設をできる限り旧状に復する努力を尽くされるよう願っています。
また、各地元の方々には、厳しい状況の中ではありますが、これら事業に、ご理解とご協力とをお願いしたいと考えます。
次に、復旧・復興事業の過程で、新たな遺跡調査など、さまざまな行政的措置をとらねばならないことが予測されます。その際は、あくまで文化財保護法の趣旨に基づき、充分な配慮のもとに実施されますようお願いいたします。
かつて、阪神・淡路大震災の復興事業では、「埋蔵文化財は地域における人々が懸命に生きてきた証であり、愛着を持つことのできる再生都市の形成には、その地域の文化や文化遺産の持つ魅力や歴史は不可欠である」とする兵庫県文化財保護審議会から発せられた声に、全国の自治体が呼応し、自治体の枠を越えて協力体制をつくりました。これによって復興事業に伴う遺跡の発掘調査が円滑に進められ、神戸市周辺地域における先史時代以来の歴史の厚みを改めて知ることができるようになりました。
復旧・復興に際しては、住民生活の復旧が第一義であることは言うまでもありません。その上でさらに、こうした阪神・淡路での経験を踏まえ、今回も、国・県・市町村が一体となって、地域の歴史と文化・記憶の再生への取り組みがなされることを切望しております。このことが、地域再生の核をつくることになると考えるからです。この点についても、それぞれ地域の方々のご理解とご協力とをお願いしたいと考えます。
本協会は、本年度の総会において東日本大震災対策特別委員会を立ち上げました。今後は、行政や、すでに活動を行っている各地の文化財レスキュー活動、そして関連学会と連携しながら、地域の復旧・復興に積極的に協力していく所存です。
2011年7月12日
一般社団法人日本考古学協会
会長 菊池徹夫