<2012年度総会 2012年5月26日>
先ほどの臨時理事会で会長に選任されました田中です。副会長には倉洋彰理事ならびに松尾昌彦理事にお願いをしまして理事会で承認されたところです。菊池会長を引き継いでこれから2年間つとめさせていただくことになりますので、よろしくお願いします。
さて、私はこれまで2年間副会長をつとめてきまして協会の課題が山積みであることは理解しているつもりです。まず、協会図書問題は、一昨年に理事会による提案が臨時総会で否決されるに至り、会員を二分するかのような事態となりましたが、昨年の総会で特別委員会が設置されて、先ほどの泉委員長の報告のように十分な議論をもとに進められております。いずれ近いうちに最も適切な結論を提示していただけると確信しています。
東日本大震災の被災については、地震、津波、放射能という三つの災害を被るという未曾有の事態となっていることは会員の皆様ご承知の通りであります。地震と津波の被害については文化庁と地元を中心に文化財レスキューが展開され、これからは復興のための調査協力が始まる段階を迎えております。しかしながら、放射能に汚染された文化財の問題は深刻です。いまだ除染を含めて方策が見えない状態にありますが、日本考古学協会においても特別委員会を中心にこれに取り組んでいく必要があると考えています。
さて、日本経済は長い停滞を続け、いまや後退局面となっておりますが、その社会情勢を反映してか考古学界も同じ様相を呈しております。考古学を志望する学生・院生が減少しているという事実は、学界の将来に陰を落とすものであり、重く受け止めなければなりません。しかし、その原因は経済的要因だけではないとも思っています。前・中期旧石器捏造事件によって日本考古学の信頼は地に落ちました。そして、10年以上を経てもなお回復したとは言いがたい状態です。実際、大学で考古学を学ぼうという生徒に対して、「いい加減な学問みたいだからやめた方がいい」と指導する高校の先生がおられるという話を聞いたことがありますが、不信感がそのような形で再生産されていることを肝に銘じなければならないと思います。もちろん、信頼を回復するのは、私たち考古学研究者の地道な学問的実践しかありません。社会への発信も積極的に行う必要がありますし、教科書問題を検討してきた成果に基づき、教科書や教育現場への働きかけもまた必要だと考えます。
ところで、日本考古学協会は、一般社団法人となって後、いくつかの制度的不備や齟齬が見いだされましたので、定款を改正し諸規則を整備する必要が生じております。そして、これを機会に会員制度を見直そうという意見も強く出ております。というのも、協会ではこれまで一定の業績をもった研究者であることを会員資格とし、考古学を専攻する学生たちには必ずしも開かれてはいませんでした。しかし、これからの考古学を担う学生たちに門戸を開き、活動の場を提供することも日本考古学協会の責務の一つではないでしょうか。このような観点から、学生会員や賛助会員など、新しい会員制度の検討も進めていきたいと思います。
最後に、日本考古学の国際化についても問題が提起されています。ご承知のように日本においては明治時代以来、きわめて豊富な調査研究の蓄積があります。そして、私たちはそれを享受してきました。しかしながら、この学問的蓄積は世界の考古学にどの程度貢献してきたのでしょうか。あるいは、World Archaeologyにおいて日本考古学はジャンルとして確立されているのでしょうか。この問題については国際交流委員会でも検討されてきたところですが、今後積極的に世界に発信し、貢献する手立てを講じる必要を痛感しているところです。
以上、思いつくまま協会の課題を述べてきました。これらの他にも課題は山積みではありますが、前理事会を継承して日本考古学協会の発展のために尽くしていきたいと思います。幸いにも、会長の非才を埋めてあまりある副会長、理事に恵まれたと思いますので、会員の皆様にもご協力、ご指導をお願いしまして、ご挨拶としたいと思います。