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「第4回日本考古学協会賞」選考結果について

 「第4回日本考古学協会賞」につきましては、2013年11月30日(土)の締切日までに計6件の応募がありました。2014年2月26日(水)に選考委員会が開催されて、日本考古学協会大賞に田尻義了氏、日本考古学協会奨励賞に斎野裕彦氏と水ノ江和同氏がそれぞれ推薦され、翌3月22日(土)の理事会において報告、了承されました。この経緯を受けて、5月17日(土)の第80回総会において、髙倉洋彰副会長から日本考古学協会賞選考結果が報告され承認を得るとともに、田中良之会長より上記三氏に賞状と記念品が授与されました。選考理由は、次のとおりです。

第4回日本考古学協会大賞  田尻義了氏
 『弥生時代の青銅器生産体制』九州大学出版会 2012年5月刊

 弥生時代の青銅器生産は、製品の型式分類と時期的変遷の検討から、これまでも社会の発展段階に対応していることが明らかにされてきた。そこで、青銅器生産体制と社会の発展段階の対応関係をいっそう明らかにしようと、製品にくらべて等閑視されてきた観のある鋳型に視点を据え、その製作痕跡である加工痕を細緻に分析し、地域性や時期変遷を解明している。その分析に当って、日本列島に隣接する中国や朝鮮など東アジアの諸地域で知られている青銅器の生産体制を視野に入れ、比較対照している。また、資料の豊富な小形仿製鏡や巴形銅器の細緻な分析から、中期のピラミッド型(自立・分散型)から後期のネットワーク型へと製作や流通が変化していく様相を復元し、それが部族社会から首長制社会へと変化する社会の変化への対応であることを明らかにしている。このように、従来研究されてきた製品の検討に加え、鋳型の製作痕跡、地域性、時期変遷などを解明した実証性の高い内容は弥生時代青銅器研究に新たな境地を開拓した点で高く評価ができる。言い換えれば、生産体制を論ずるにあたって製品のみでは不十分であることを喝破している。生産体制であるから、たとえば工房や工人組織などの解明も重要であり、鋳型研究の開拓によって青銅器研究の新たな視点を提起した著者に今後を期待したい。

 このように、学界に新たな青銅器研究の方向性を示した本書は、弥生時代青銅器生産体制の総合的研究書として高水準の著書であると評価できる。選考委員会は、本書を日本考古学協会大賞候補として推薦する。

第4回日本考古学協会奨励賞 水ノ江和同氏
 『九州縄文文化の研究−九州からみた縄文文化の枠組み−』雄山閣 2012年12月

 縄文文化の研究は、遺跡の数や規模が圧倒的な東日本を中心に進められてきた。本書は九州から日本列島全体の縄文文化の性格や枠組みを相対化してとらえなおす、意欲的な著作である。本書の特徴は、土器編年を基軸に集落や遺物などの文化現象を丹念に掘り下げるという、オーソドックスであるが手堅い手法で分析を進めている点である。研究史も的確に整理されており、長い研究の蓄積を踏まえた渾身の一書といってよい。近年、縄文文化の一体性に疑問が提示されているが、サハリン、千島、伊豆諸島、南島、そして朝鮮半島と東アジア的な視点から縄文文化の枠組みをとらえ、言語という壁によって隔てられた文化であるという理解を示した。異論や意見もあろうが、あらたな理解として注目されよう。行政という研究に時間を割くことが困難な職場にあって、これだけの書物をまとめあげたことも高く評価され、ここに本書を推薦する。

第4回日本考古学協会奨励賞 斎野裕彦氏
 「仙台平野中北部における弥生時代・平安時代の津波痕跡と集落動態」 『東北地方における環境・生業・技術に関する歴史動態的総合研究 平成19年度〜平成23年度私立大学学術研究高度化推進事業「オープン・リサーチ・センター整備事業」研究成果報告書T』 東北芸術工科大学東北文化研究センター 2012年3月刊

 関連資料の考古学および地球科学の学際的な分析を基礎とし、記録資料も詳細に検討して、災害の実態と、それに対する人類社会の対応について解明したものである。弥生時代中期の津波が2011年3月11日の津波に匹敵する規模であり土地利用に大きな変化をもたらしたこと、貞観16年9月7日(西暦869年10月15日)の津波はそれより小規模であり影響も限定的であったことが示されている。その多角的な研究手法とそれによる成果の重要性、また社会への貢献度の高さから、選考委員会は本論文を日本考古学協会奨励賞にふさわしいものであると一致して推薦した。

 ※なお、本論文は、協会公式サイトに掲載PDF(15.4MB)