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一般社団法人日本考古学協会2010年度 臨時総会報告

 今次大会では臨時総会が開催されることになった。 日本考古学協会 (以下 協会) が所蔵する図書約 5 万 6 千冊についての寄贈問題を唯一 議題とするものである。 この件はこれまでの長い検討の末に 2010年の 1 月理事会でセインズベリー日本藝術研究所に寄贈することが決定され 同年 5 月の第76回総会でそのことが報告了承された。 このことに対して 同年 9 月 9 日に 「日本考古学協会蔵書の海外放出に反対する有志の会」 より489名の署名とともに 「臨時総会開催請求書」 が提出されたことを受け 定款第25条第 3 項の規定により 臨時総会の開催となったものである。 議題は 一事不再議の原則等を考慮して 第76回総会の報告了承事項とは異なる審議事項とし 「協会所蔵図書の寄贈先について」 とした。 また 重要な案件のため 従来の委任状形式でなく 議決権行使書による意思決定を求めることとし 事前に 「会告 2010年度臨時総会開催のお知らせ」 とともに 「賛成」 「反対」 を明記した返信用葉書を全会員に送付した。

 臨時総会は10月16日 (土) 明石市生涯学習センター 9 階ホールを会場に午前10時30分から11時30分までの 1 時間が設定された。 午後 1 時からの公開講演会に先立ち急遽 予定外の臨時総会の時間を設けるために実行委員会にはずいぶんとご苦労をいただいた。 このため やむを得ず 1 時間という短い時間設定となったが 定刻に藤田富士夫理事が司会進行する形で始まった。 まず 菊池会長からの挨拶に続き 議長団及び書記団の選出に入った。 司会から会場に推薦を募ったが 応募者がなく 事務局提案の岸本道昭会員 (兵庫県) 百瀬正恒会員 (京都府) 及び吉川國男会員 (埼玉県) が議長団に 書記団には肥後弘幸会員 (京都府) 宮瀧交二会員 (埼玉県) が選出され 議事に入った。 当日の議題は 「協会所蔵図書の寄贈先について」 1 件であった。 議題についての説明は 寄贈賛成の理事会側から石川日出志理事 寄贈反対の立場から馬淵和雄会員 (神奈川県) が担当した。 この後 質疑に入ったが 原案賛成の立場からは 「セインズベリー日本藝術研究所への寄贈決定に至る事務的な手続きは問題ないと考えるので 原案を支持する。 反対側のいう対案とは何か」 (大阪府 大野左千夫会員) との問いに 馬淵会員からは 「あるとしか言えません。 具体的な形で申し出があります」 との答弁があった。 反対の立場からは 「理事会案の最後の部分は海外戦略の方向性を示していると思うが 総会で諮って初めて動くものだ。 総会と理事会の区分ができていないのではないか。 根拠を示してほしい」 (埼玉県 橋口定志会員) との問いに 石川理事は 「一文を切り離して解釈しないでほしい。 事業の推進を示している」 と答弁し また 「目録の実態がわからない」 (東京都 五十嵐彰会員) との問いには 「目録は協会事務所にあり 受け入れた後 順次会報に掲載していたが 数が増えてきたので2004年度以降は公式サイトで公開している」 (石川理事) といったやり取りがあった。

 ここで 11時30分となり 議長団から投票に移りたい旨の発言があった。 これに対して 会場から 「議長団は討論の時間を設定すると最初に説明したではないか」 (大阪府 橋本久和会員) との強い抗議があった。 これを受けて 実行委員会側から別会場を準備してあるので 延長も可能との提案があったので 30分間の休憩を取り 午後 0 時から 7 階学習室で再開することとした。

 議長団から 「午後 1 時から公開講演会が始まるので 20分間を目処に討論し 表決に入りたい」 との説明の後 議事が再開された。 賛成意見としては 「国外で日本考古学を学ぶものにとっては大切だ」 (福岡県 溝口孝司会員) などの意見 この他 「日本考古学協会図書の英国セインズベリー日本藝術研究所への寄贈に賛成します」 (大阪府 小川裕見子会員) といった賛成意見書が配布された。 一方 反対意見として 「寄贈してきた立場としては いつか有効に利用されるだろうと願って寄贈してきた。 理事会決定の転換を望む。」 (大阪府 橋本会員) などがあり この日に配付された 「緊急提案 日本考古学協会の蔵書問題について」 (大阪府 大塚和義会員ほか 6 名) の提案書にそった意見も複数出された。

 12時30分に議長団より ここで表決したいとの発言があり 協会監事が郵送分の葉書を壇上に提示し 投票分と合わせて集計を発表した。 この結果は以下の通りである。 有効票数2,063票 (郵送分1,959票 本日投票分104票) で このうち理事会案に賛成票922票 反対票1,111票 棄権票30票で 理事会案は否決となった。

 これを受けて 議長団から 「理事会案は否決されたが 理事会側から何か意見はありますか」 との問いに 「理事会側としては むしろ議長団から提案等呼びかけていただきたい」 といったやり取りの後 議長団から改めて 「第三者機関などの設置等を考えて 今後の運営をお願いしたい。 会員にも協力をお願いしたい」 との発言があり 午後 0 時50分に閉会を宣言して 臨時総会を終了した。 (総務担当理事 古瀬清秀)

一般社団法人日本考古学協会2010年度 臨時総会 (抄録)

 午前10時30分 藤田富士夫理事の司会で開会し 冒頭 菊池徹夫会長の挨拶があった。 その後 司会から 現在の会員数が4,264人で 本日の出席者110人 議決権行使書の預かり分1,959人 合計2,069人となり定款で定める定足数に達しており この臨時総会が成立する旨の報告があった。

 次に議長団 書記団の選出に移り 議長団として吉川國男会員 岸本道昭会員 百瀬正恒会員 書記団として肥後弘幸会員 宮瀧交二会員が選出され 登壇の後議長団から 公平中立な立場で議事を進める旨 また書記団から 正確な議事録作成に努めるとの発言があり 議事に入った。

【審 議】

1 . 協会所蔵図書の寄贈先について

 最初に理事会を代表して 石川日出志理事から次のような理事会提案があった。

 まず 本日の臨時総会に関する基本的なことを確認する。 臨時総会の開催請求書は 日本考古学協会蔵書の海外寄贈に関する本年 1 月の理事会決定を見直すための請求である。 これは これまでの経緯を踏まえると 一事不再議の原則から 請求に応じかねるという理解もあり得る。 しかし 所蔵図書は定款でいう財産にはあたらないものの 協会がもつ重要な資料であり その寄贈先については総会で決すべきものと判断した。 そこで 第76回総会の報告了承事項を審議事項に改めて 議案とした。 したがって 第75回総会で審議承認された 「一般社団法人日本考古学協会所蔵図書寄贈先募集要綱」 の見直しは対象外になる。 万一 理事会提案が否決された場合は 2010年 1 月理事会決定の前の時点に戻ることになる。

 提案に移る。 理事会としては2006年度総会以降 各年度の総会で協議し 会報等で会員の意見を求めながら進めてきた。 その経緯の中での理事会決定であった。 理事会としてはここに改めて唯一申請のあったセインズベリー日本藝術研究所を適正と認め 寄贈先として決定することを提案する。

 なお 有志の会の方々が反対する根拠は 一つには 寄贈先が海外の機関であること。 二つ目は寄贈先が民間企業であり 要綱に定める機関にあたらない というものである。 前者については 募集要綱に国籍条件を付していないことから この点は成立しない。 後者は 例えば日本の場合 私立大学が国公立大学を補完し それに準ずる機関と見なされている。 セインズベリー日本藝術研究所は 日本における公益法人的な枠組みの基で運営されており かつ財政面においても十分な基盤を有する組織であることから 要綱第 8 条に規定する条件に該当する。 さらに 英国における公益性の実現は民間でという事情を考慮すれば 十分に国公立の機関に準ずるものである。

 続いて 以上の理事会提案に反対する立場で 「日本考古学協会蔵書の海外放出に反対する有志の会」 を代表して 神奈川県の馬淵和雄会員から次のような意見が述べられた。

 私たちの主張の根幹にあるのは 文化財は固有の風土の中にこそあるべきものである ということである。 協会蔵書は無数の遺跡の記録である。 日本の蔵書は日本に置き 未来に伝えるべき知的財産である。 協会はそれらを地域社会に還元する責務がある。 もう一つの根幹は 協会は寄贈先を国内において手を尽くして探したか ということである。 募集期間が 3 ヶ月しかなかった。 これでは短くて国内の機関は検討できない。 真剣に探せば寄贈先は国内にある。 私たちは具体的な話として国内で複数の応募をしてくれるところを確認している。

 この話題が出て 5 年になる。 会員の大部分は寄贈先が国内という前提があったが 急に国外という話が出てきた。 この間理事会内でどんな議論があったのか判らない。 総会で議論すべきことを理事会で決めたことには納得できない。

 セインズベリー日本藝術研究所に寄贈するなとは言っていない。 各機関や会員の元には重複している図書が多数ある。 それを贈ればよい。 しかし 単数しか無いものはあげられない。 セインズベリー日本藝術研究所には申し訳ないが 率直に謝罪して誠意をもって善後策を講ずればよい。 表決の結果がどうあれ これを機に協会が日本社会の中でどうあるべきか その中で図書がどのような役割を果たすのか 皆で考える機会としたい。

 続いて質疑応答に移り 議長団から 質疑の後討論をするという段取りが示された。

 冒頭 緊急動議の声が上がったが 議長団から 緊急動議は採用しない旨回答があった。

 最初に 大阪府の大野左千夫会員から臨時総会を請求した会員に対し 寄贈先の具体的な対案を示してほしい また これまでの理事会対応でどういう点が不十分で どのような対策をもとめるのか という質問があった。

 これに対し馬淵会員から 対案についてこの場で具体的な事は言えないが 確かにある。 2 点目は 理事会からの情報不足 判断材料が与えられていない との回答があった。

 続いて埼玉県の橋口定志会員から 資料 1 の文章中に 「本協会図書の寄贈を契機として ヨーロッパでの日本考古学研究のセンターという役割 云々」 とあるが これは内容的に総会で諮るべきものである。 今までに提示されたことはあるのか という質問があった。

 これに対し石川理事から この一文は 定款第 3 条ので掲げている 「国際的な研究交流の推進」 と関わり このことが重要な柱となる そういうことが期待される という意味である。 これは定款に定める事業に関わるものであり 特定した国際交流の柱として基本方針とする意味ではない との回答があった。

 続いて東京都の五十嵐彰会員から 蔵書のうち報告書の割合 研究雑誌の種類など実態が明らかでない 海外からの受贈図書を英国に寄贈して国際的に支障はないか という質問があった。

 これに対して石川理事から 図書目録は協会事務所にある。 図書は受け入れた後 すべて順次会報に掲載していたが 数が増えてきたので2004年度以降は協会の公式サイトで公開している。 なお 報告書の割合は60.6%である との回答があった。

 次に大阪府の大野会員から次のような質問があった。 仮に英国への寄贈が否決されて 現理事が罷免となり 臨時総会を請求した会員が理事になった場合 新たな理事はセインズベリー日本藝術研究所に対し どのように 「覚え書」 を破棄するのか。

 この質問に対し議長団から 仮定の上の質問なので 回答は不要との発言があった。

 次に東京都の五十嵐会員から 「協会が所蔵する一切の図書」 というあいまいな表現で契約を結ぶというのはあり得ない。 また 目録を相手に作らせるというのは論外である。 協会で目録を作成し 公開すべきである という意見が出された。

 これに対し白井久美子理事から セインズベリー日本藝術研究所が作ろうとしている目録は 同研究所付属の図書館に受け入れるためのもので 詳細なカタログを作りたいと言っている。 また 協会名で刊行した図書は寄贈から除いている と回答があった。

 次に 岡山県の新納泉会員から 「覚え書」 は正式なものではなく 今後正式な契約を結ぶという前提で進めているのか と質問があった。

 これに対し白井理事から 今は 「覚え書」 を取り交わし 細部について検討準備中である。 今後 双方の意見が整いしだい正式に契約を行うことになる との回答があった。

 続いて千葉県の植木武会員から 総会資料とは別に 7 名連記の 「緊急提案」 がある。 この中に蔵書を協会が保有する意味 次世代に伝える意味などこの問題の全てが書かれている。 参考にしてほしい。 協会が保有する図書は完全体の報告書のコレクションである。 これが海外に行ってしまったら二度と復原できない。 理事会はもう一度真剣に検討すべきである との意見があった。

 これに対し石川理事は 協会の約56,000冊の蔵書は残念ながら完全体ではない。 奈良文化財研究所には約30万冊あるときく。 協会蔵書は同人誌の研究活動の成果が含まれており この点が特徴と言える と回答があった。

 この後 議長団から次のような発言があった。 協会蔵書は長期間にわたる関係者の善意と奉仕で現在の数量となり 保管されてきた。 長い間管理していただいた市川考古博物館に感謝すべきである。 また 応募していただいたセインズベリー日本藝術研究所も評価したい。 さらに この図書問題について 5 年間かけて進めてきた理事会の努力に感謝し また 協会蔵書は重要であるから海外に寄贈すべきではないとする有志の会の主張も意義あるものである。 このような各方面の関係者に感謝し これを機に会員がまとまり 今後の協会のあり方を考えていかなければならない。

続いて議長団から ここで質疑を打ち切り 議決権行使書の投票に移る旨発言があり 投函が始まった。 しかし会場から 「討論が済んでいない」 「討論が必要である」 との声があがり 投函作業が中断した。

 ここで 大会実行委員会の会場担当者から 午後から 7 階学習室が使えるので 12時以降そちらに会場を移して臨時総会を続けることができる旨発言があった。

 これを受け議長団は30分間の休憩を宣し 12時から 7 階学習室で再開することとした。

 午後12時 7 階学習室に会場を移して 議長団により臨時総会が再開された。

 冒頭 議長団から午前中の議事進行について不手際があった旨陳謝があり その後討論に移った。

 最初に千葉県の植木会員から セインズベリー日本藝術研究所に図書を寄贈したことによって 海外に拠点ができるというのはまちがい。 同研究所はすでに拠点となっている。 昭和20年代から40年代前半にかけての図書で 大学や研究機関が持っていないもの 協会しか持っていないものを放出してよいのか よく考えてほしい という意見があった。

 次に福岡県の溝口孝司会員から 募集要綱に国籍条項がないということに敬意を表する。 また The Japanese Archaeological Association は国家の中における考古学者の利益の代表団体であるばかりでなく 国外で考古学を学ぶ研究者や国外で日本の考古学を学ぶ研究者たち全ての人たちのためにある。 報告書は唯一性のものだが 同時に世界へ発信する性格をも併せもつ。 日本考古学協会の存在意義 JAA の定義をどうとらえるのか どのような人間集団の利益代表なのか 改めて考えるべきである という意見があった。

 次に滋賀県の小笠原好彦会員から 協会蔵書は会員から任意で寄贈されたものである。 それらの蔵書は 冊数などの点で本協会のものよりも充実している大学もある。 過日セインズベリー日本藝術研究所を訪れた。 考古学専用の建物などがあり 受け入れ体制も充実している。 図書問題は手続きに問題はあったが 結論は支持する という意見があった。

 次に大阪府の橋本久和会員から 私は長いこと市の職員として手弁当で研究を続けてきた。 その研究成果としての冊子を 総会の時に寄贈してきた。 それはいつの日か協会が有効に活用してくれるだろうと考えていたからだ。 それを海外に寄贈するということは納得できない。 これまで手弁当で協会を支えてきた会員の意志と理事会の考えにズレができてしまった。 また この問題は協会が文化 文化財にどう関わるかという試金石であり 関連学会も注目している。 理事会決定の転換を望む という意見が出された。

 次に熊本県の木下尚子会員からは 手続きの問題である。 本質的には協会の図書であることが問題で それが海外へ行くことが問題なのである。 「緊急提案]のとおりである という意見があった。

 次に奈良県の佐藤亜聖会員から 理事会と会員間で問題意識が共有されていないことが問題。 また 会員自身の問題意識の低さが今に繋がっている。 「緊急提案」 にあるように 会員が広く議論できる場として 開かれた特別委員会を設置したらどうか という意見があった。

 次に兵庫県の山本三郎会員から 図書問題は 5 年以上かけて議論し 模索してきた。 有志の会の主張は情緒的 センチメンタル的なものである。 一つの遺跡について数百冊ある報告書を文化財としてみるのはいかがなものか 論理の飛躍がみられる という意見があった。

 次に 大阪府の大野会員からは 理事会の措置に誤りはない。 意義申し立ての時間は十分にあった。 図書問題について知らなかった 説明が不十分であったというのは自らの怠慢である。 総会にも出席し 会報にも目を通していれば十分問題を認識できたはずである。 理事会に苦渋の選択を強いたのは誰か 全ての会員である。 英国への寄贈はやむを得ないと考える という意見があった。

 ここで議長団から 討論を打ち切り 議決権行使書の投票 確認作業を行う旨が宣せられ 投票が行われた。

 続いて議長団から 議決権行使書の確認作業は原田道雄監事 金子直行監事が行い 理事会側 有志の会側から各 1 名の立ち会い者を認めるとの発言があった。

 両監事の確認作業の後 原田監事から 郵送分と本日分の確認作業について 次のとおり報告があった。

 10月14日 (木) 理事会 有志の会各 1 名立ち会いのもと日本考古学協会事務所において 原田 金子両監事により 郵送による議決権行使書の確認作業を行った。

 14日の確認作業結果は以下のとおり。

  • 投票総数1,970票
  • 無効票11票
  • 有効票数1,959票
  • 理事会案に賛成票866票
  • 理事会案に反対票1,063票
  • 棄権票30票

 10月16日 理事会 有志の会各 1 名立ち会いのもと 臨時総会当日の投票による確認作業結果

  • 投票総数107票
  • 無効票3票
  • 有効票数104票
  • 理事会案に賛成票56票
  • 理事会案に反対票48票

 両日を併せると次のような結果になることを報告する。

  • 投票総数2,077票
  • 無効票14票
  • 有効票数2,063票
  • 理事会案に賛成票922票
  • 理事会案に反対票1,111票
  • 棄権票30票
                 以上

 原田監事の報告を受け 議長団から 理事会案は否決されたことが宣せられた。

 続けて議長団から 理事会 有志の会双方とも対立という状況を残すのではなく 会員が一丸となって協会の正常な運営を進める事が肝要である。 今後理事会には 会場からも意見があったが 第三者機関あるいは特別委員会の設置ということも含めて検討していただきたい。 また 会員の皆様には理事会に協力するようお願いしたい との提言があった。

 以上をもって臨時総会は閉会となった。 午後12時50分