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シンポジウム「埋蔵文化財の資格制度を考える」
　「厳しさを増す研究環境を考える」実施報告

�T、はじめに−取り組みの経過−

　埋蔵文化財の調査に関わる資格制度を実現または、検討する動きは2007年に始まった。日本文化財保護協会は、2007年以降埋蔵文化財調査士・同調査士補の資格試験を実施し、資格取得者を公表している。同年、早稲田大学も文部科学省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」に「埋蔵文化財調査士の養成および資格授与のための埋蔵文化財科学実践プログラム」で応募して採択され、2008年度から始動し、資格取得者を輩出している。これらをうけて、文化庁は2008年から資格制度の創設に向けた検討を開始した。

　研究環境検討委員会では、埋蔵文化財に関わる資格制度は会員の研究環境に大きな影響を与えると考え、まずは資格制度の現状、検討の進行状況などについて会員の皆様にお伝えするとともに、シンポジウムを開催し、すでに動き出した二つの資格制度と文化庁により検討が始められた資格制度についてご意見を広く集めることとした。

　研究環境検討委員会及び委員が2008年以降実施した資格制度及び研究環境に関わる研究発表、ポスターセッション、シンポジウムは以下のとおりである。なお、2010年度末に西南学院大学のご協力をいただき、九州シンポジウム開催を計画したが、実現しなかった。

　以上のような研究環境検討委員会の活動は随時会報で報告している。

１、研究発表、シンポジウム

２、会報による活動報告

• ��163　研究環境検討委員会報告　2008年3月
• ��165　埋蔵文化財の発掘調査にかかわる資格制度の現状と今後　2008年12月
• ��168　埋蔵文化財の資格制度を考える」シンポジウムの概要とアンケート結果　2009年12月
• ��170　研究環境検討委員会報告　2010月8月

�U、シンポジウム「埋蔵文化財の資格制度を考える」　−会場からの意見及びアンケート結果−

　シンポジウム「埋蔵文化財の資格制度を考える」は早稲田大学で開催された第75回総会、研究発表会及び関西大学で２回開催された。シンポジウムでは、研究環境検討委員会のこれまでのスタンス、埋蔵文化財保護対策委員会の考え方を提示するとともに、日本文化財保護協会から文化財調査士、文化財調査士補の資格について、早稲田大学から考古調査士上級、１級、２級の資格について、文化庁からは現在検討中の資格についての説明を受け、引き続いて意見交換が行われた。また、会場では資格の必要性、資格の内容、日本考古学協会の今後の対応についてのアンケートをお願いした。第75回総会、研究発表会でのシンポジウム参加者は300名を超え最大で320名程度であった。関西シンポジウムは参加者200名程度で活発な意見交換が行われた。いずれも５本の発表ののちに事実関係の確認を行い、続いて討論を行った。討論のテーマはアンケート項目と同じく次の３点である。討論では�@、�Aが密接不可分のため、分けずに意見が出された。

• 　�@埋蔵文化財に関わる資格制度の必要性について
• 　�A資格制度を必要と考える場合、どのような内容の資格制度が必要。また、不必要と考える場合の理由
• 　�B日本考古学協会は今後資格制度の問題について、どのように取り組むべきか。

会場からの主な意見

１、�@・�Aについて

　資格の必要性を認める主な意見

• 埋蔵文化財は公共物であるから、発掘の技術水準を高めることが必要。今までなかったのがおかしい。社会的に求められている。早期に実施する必要がある。
• 現状では資格制度に反対。これまでの資格は発掘調査に対しての資格であり、資格には保存活用まで含めるべきである。
• 学生の考古学に対する動機付けとして必要と考える。できるだけ早く統一した資格を作ってほしい。資格制度は大学人として必要と考える。
• 最低限発掘調査に関わった経験があり、報告書をつくる。そこまでを設計した考古調査士にすべきではないか。
• 発掘調査の資格は分かるが資格の内容を大きく広げてしまうと資格を厳正に審査して公正に与えられるかという疑問がある。
• 資格は調査レベル以外には入りようがない。あるいは報告書作成のレベルを上げられるかどうかぐらい。活用は応用問題なので、スキルの部分でないと資格として捉えられない。活用を資格に結びつけるのは難しいのではないか。

資格が不要と考える主な意見

• 発掘調査が許可制であれば資格は必要だが、届け出制度のもとでは不要
• 資格の問題を聞いていけば行くほどこれが市民の幸せにどう結びつくのかどうかが分からなくなる。日本文化財保護協会や早稲田大学のものもビジネスのにおいがする。公共の利益に結びつかない。
• 長年窓口業務、調整をしてきた中で今まで資格を持っているのかと言われたことがない。現在発掘の届け出件数が激減している。全国的な流れとして保存、管理、公開、活用になってきている中で資格を持っていてはたして有効なのか疑問に思う。

先行する資格、検討中の資格とは異なる形の資格を考える意見

• 個人の資質を測ることと合わせて調査実績の監査、組織のありよう、責任をチェックすることが必要ではないか。資格は法的な根拠をもたないと難しいのではないか。

個人とあわせて組織の資格認証を問う意見

• 個人の資質だけでは難しい。個人と組織両面から考えないといけない。私の県では今はそんなに資格を必要としていないと考える人が多いと思う。
• 財産権を制約するという制度だから誰がどういう資格で、資質、能力、個人よりも組織として適正に執行できるのかを社会的に示すことが必要。なんらかの資格制度を持たざるを得ない
• 個人でできることは限られているのでトータルに埋蔵文化財行政を考える場合、機関での教育制度などを一つの方策として第三者機関による認証評価制度、自己評価点検などを設けて、制度設計をして頂きたい

その他の意見

• 協会（以下、日本考古学協会を協会と表記する。）の会員と資格制度の整合性を考える必要がある。国が認めた資格でないと社会的に力を発揮できない。
• 早稲田の資格は単位認定だけで、文化庁もそれに近いと思うが、資格の授与方法が単位認定だけだと、単位の認定の基準が大学によって違ってしまい、一律の基準にならない。本来であれば統一の試験をやるべき
• 資格制度を議論するときに地方公共団体における埋蔵文化財部門の充実強化、この観点を忘れてほしくない。

２、�Bについて

日本考古学協会のスタンスについての意見

• 自由な考古学研究に資格はいらないという考え方に賛同する。もし、文化庁の資格がなければ発掘調査が出来ないというような中央集権的なことにならないように協会は対応すべき。学問の自由を確保できるような方向で関わってほしい。
• 協会自体が資格の発行者側にまわらないようにしなければならない。調査がこうあってほしいと常に提言していくことが必要。
• 協会という組織が資格に学会として賛成するか反対するかという議論は必要ない。
• 協会がこれから実際の資格に直面するであろう学生さんや不安定な立場の人々の意見をくみ上げる場がここしかないとすれば協会はそういう立場の人々の意見をくみ上げる仕事を是非頑張ってやっていただきたい。

資格を埋蔵文化財行政の体制との関連で考える意見

• 資格を発行しても行政内にそれを生かす場が保証されていない。協会が行政なり、文化庁に働きかけていかないとせっかく専門性をうたって資格をとって資質が確保されている人間であっても事情が変われば部署が移動されてしまうことがある。そういうことこそ協会はリサーチし、職域の質を確保する方向を模索してほしい。
• 資格を持つ職員がいる自治体とそうでない自治体とが確実に出る。各自治体が資格を持つんだというかけ声がかからないと格差の問題とか地域差の問題が出てくる。これをどうするのか方向性を示してほしい。

アンケート結果

１、概要

（１）日本考古学協会第75回総会シンポジウム（早稲田大学）でのアンケート

　回答者数85名。58％が関東在住者であるため、東北、北海道、西日本等の傾向はつかめていない。資格の要不要、資格内容について、特定の意見と会員、所属、住所等との顕著な相関関係は認められない。ただ、資格制度への日本考古学協会の関わり方については、民間調査機関の回答者とそれ以外ではやや意見の違いがある。

（２）関西シンポジウム（関西大学）でのアンケート

　回答者数39名（回収数は40だが、１名は未記入）

２、アンケートに示された主な意見

項目１．埋蔵文化財に関わる資格制度の必要性についてどのようにお考えでしょうか。

• 第75回総会シンポジウム
• 　必要66名（77.6％）、不要９名（10.6％）、どちらともいえない５名（5.9％）、　不明５名（5.9％）
• 関西シンポジウム
• 　必要24名（61.5％）、不要９名（23.1％）、どちらともいえない６名（15.4％）

必要とする意見

　おもな理由として�@国民共有の財産を扱う責任、�A対外的客観性、�B技術格差の是正、�C専攻生への動機付け、�D民間導入の際の判断基準、�E担当者能力の対外的表示などがあった。

• 国民共有の財産を記録保存の名のもとにこの地球から消滅させる行為である以上、きちんとした記録保存を実施できる能力を保障するために必要。　（所属を問わず複数）
• 調査に関わる者の力量の客観性を示す意味で必要。（所属問わず複数）
• 対外的な説明をする際には、わかりやすい指標になる。（行政）
• 今後民間発掘が増加するときに役所の人が業者を選定する際に目安となるものが必要。(民間)
• 発掘調査水準の確保、技術の底上げという観点ではあってもよいと考える。（所属問わず複数）
• 大学によって大きく異なる考古学専攻卒業生の専門的知識や技術を公正に計り、水準を保つ上でも有用。（行政）
• 考古学を学ぼうとする学生に動機付けのためにも資格は必要。（大学教職員）
• 現在は必ずしも必要ないが、長い目で見れば必要になる。（大学教職員複数）
• 「国民共有の財産」を扱うことを考えれば専門技術・知識について保証する資格は必要。（大学教職員、学生）
• 予算が億単位の大規模な事業が何の資格もなく実施されることは考えがたい。（民間）
• 民間導入にあたって現状では適格性の判断基準が各行政によってあいまいで透明性が高いとは思われないので、資格制度の確立は必要。（民間、行政）
• 能力不十分と思われる人が業務を執行している例が現にあることは、社会的信用問題。（大学教職員）
• 調査を指導する行政担当者の能力レベルの基準として必要であり、採用時の基準にもなる。（行政）
• 役所内での協力体制、開発業者への対応などで説得力がある。（行政）

　不必要とする意見

　おもな理由として�@学術行為としての発掘調査への制約を危惧、�A民間委託の助長を懸念、�B資格が効力を発揮する環境がない、�C資格取得が目的化するおそれ、�D資格以外の方法で懸案に対応できる、などがあった。

• 資格がないと発掘調査ができないようになれば学問の自由を侵す。（行政、その他）
• 発掘のような文化事業は行政が行うもので、文化事業の民営化、市場原理主義を排除すべき。それを助長する資格制度は不要。（センター等）
• 民間会社への委託が過度に進み、行政の専門職不採用傾向を助長するおそれ。（行政）
• 資格があっても、その資格が組織の中で正しく生かされる組織環境がない。（民間）
• 資格より先に全国の行政機関に専門担当者を置く制度を整えてほしい。（行政）
• 資格制度のみが先行して、資格を取ることが目的になってしまうことを危惧。（行政）
• 資格制度よりも研修の充実、発掘調査や報告書のチェック、組織評価などで対応可能。（センター等）
• 埋文行政に関わる資格が考古学に関わる資格のように見られる危険性を感じる。（センター等）
• 難易度を高めると現職員に不適格者が出て埋文行政が立ちゆかなくなるし、低くすると現状からの改善は望めない。（センター等、その他）
• 行政内の調査は個人の資格で行うものではなく、行政責任で行うものである。開発が減少し調査需要が少なくなる現状で、発掘能力を問う資格を新設することはあまり意味がない。埋文の保護・活用を行うには、博物館法の学芸員で十分担当できる。（センター等）
• 埋蔵文化財の取り扱いに特化した資格制度の創設は、「指定制度」を根幹とする現状の文化財保護法の法理に照らして、適切ではない。（大学教職員）

　その他

• 資格はあっても良いと思うが、今わざわざ作る必要性がよくわからない。（学生）
• 「必要」だが、その前に調査基準が整備されなければ意味がない。（民間）
• 「考古学」という学問に資格がいらないという原則はもっともだと思うが、発掘調査はどんな動機であれ国民共有財産を解体する行為であるのだから、自由でいいというわけにはいかない。（行政）
• 学生が資格に焦点を当てすぎて、研究がおろそかになるというが、例えば、法学部では司法試験、企業、公務員志望もいれば研究者志望もいる。なぜ、考古学専攻のみが資格に焦点を当てる学生が出ると研究がおろそかになるのかがわからない。（その他）
• 94条の発掘届けの内容を行政が判断する場合には有効だが、行政の埋文担当者として採用されている職員はすでに資格要件を備えていると考えるべき。（行政）
• 学生に与える基礎資格はあってもよいが、地方公共団体としては必要ではない。学生の履歴書をこれにかえることができる。（行政）

項目２．もし、資格制度を必要と考える場合に、どのような内容の資格制度が必要とお考えでしょうか。また、不必要とお考えの場合にはどのような理由で不必要とお考えでしょうか。

　資格の内容

　�@発掘調査技術面に限定した資格、�A発掘調査だけでなく監理、保存活用までふくめた包括的な資格、という二つの立場に大きく分かれ、関西シンポでは後者が多い傾向があった。

• 資格は発掘調査の技術だけにあてるようにすべき。（所属問わず複数）
• 現場のマネージメント（工事管理）と遺跡調査のノウハウ（考古学的スキル）をあわせたもの。（行政）
• 発掘調査を実施する上での最低限の発掘技術・考古学知識・遺跡研究能力を持つ人材を社会的に位置づけるものであるべき。（行政）
• 発掘技術だけでなく遺跡の保存・活用、出土品の維持・管理ができるような包括的内容。（所属問わず複数）
• 考古学の力量も資格の中で重要な部分を占めて欲しい。（大学教職員）
• 遺跡の周知から保存・活用に至るまでの流れを理解した「埋文監理資格」と、記録保存の調査・報告書作成を理解した「埋文調査報告資格」というように２本立てとすることがよいのではないか。（所属未記入）
• 発掘調査能力を検証できるもの。（行政）
• 発掘調査の専門技術・知識に対して与えられるべきもの。（大学教職員）
• 埋蔵文化財の記録保存調査に限定したものにすべき。ただし、資格取得の要件として考古学全般に関する能力・知識は不可欠。（行政）
• 活用レベルは応用問題であり、資格にはそぐわない。（センター等）
• 発掘調査能力を判断するためだけの資格は不要。（センター等）
• 埋蔵文化財が行政に組み込まれていることからも、埋文行政に必要な保存、活用を含めた要件を考えるべき。（所属問わず複数）
• 埋文が社会にフィードバックできるような保存活用できる内容を含む資格制度。（その他）
• 発掘調査の能力が主体となるのは当然であろうが、埋文行政全般にわたる総合的な能力が求められるものが望ましい。（行政）
• 多様な文化財があるなかで埋蔵文化財に特化した資格はいかがなものか。（大学教職員）
• 保存処理に関しては処理に必要な技術の認定、発掘調査については遺跡の内容を最新の研究レベルで引き出す能力の認定。普及活用に関しては学芸員資格を利用。（行政）

　運用面に関わる意見

• 一本化された公的な資格とすべき。（所属問わず複数）
• 資格の法的根拠も必要ではないか。（所属問わず複数）
• 就職に結びつくような有効性を持ったもの。（学生）
• 大学の講義を受けていなくても、しかるべき経験を積んだ人にも資格を与えるような制度を望む。（行政）
• 教員免許のように更新制をとるべき。（行政、民間）
• 既存の大学教育・研究との整合性をどのようにとるのか。（大学教職員）
• 学生に対する資格は不可欠。それがあってこそ専門職員への道も開ける。（大学教職員）
• 一本化して共通認識のできるものでなければ意味がない。（民間）
• 文化財保護が法令で明記されている以上、実務資格は文化庁主導で整備され、付与されるべき。（行政）
• たとえ資格を持ってもすべての時代の遺跡を十分に調査できるとはいえないので、それを補完する組織（たとえば、より機能的に調査に協力できる調査委員会）を設けてはどうか。（大学教職員）

　その他

• 大学での一定の科目を履修した「証し」としての資格はあってもよい。（大学教職員）
• 多岐にわたる文化財のなかで埋蔵文化財にのみ資格を与えることは文化財行政に混乱をきたすのでは。（センター等）
• 学問の府として大学と、埋文行政の最高指導機関である文化庁が協力して資格制度を確立し、現在混乱している埋文行政を整理すべき。（センター等）
• 個人の資格の議論よりも調査機関（地方公共団体も含む）の調査力を評価することの方が現実的な対応かもしれない。（行政）
• 大学での考古学単位取得に資格を与えることが考古学の裾野を増やしていくとは思えない。（センター等）

項目３．日本考古学協会は今後資格制度の問題について、どのように取り組むべきとお考えでしょうか。

　一定の関わり（中立的な立場での提言も含めて）を持つべき、関わるべきでない、という二つの立場が見られる。前者は行政、後者は民間調査機関所属の回答者に多い傾向。関西シンポでは関わるべきでないという強い主張がなかった。情報の提供や自由な議論の場を設けることを期待する意見もあった。

　一定の関わりを持つべき

• 資格制度化を既定のものと認め、早急に協会での制度案を策定すべき。（行政、民間）
• 実施主体の一つとして、資格認定機関への参加など、積極的に取り組むべき。（その他）
• 公的な制度作りをリードし、サポートする。（行政）
• 協会は、文化庁が検討中の資格制度に考古学の専門的立場で意見すべき。協会員であることが発掘調査資格に準ずる意味を持ってきたことを忘れてはいけない。（行政）
• 協会が学問の場であることは自明であるが、そのような当たり前論ではなくて、学問と強く関連する今日の社会の現実とどこまで正面切って向き合うかが重要。（行政）
• 協会は学問としての考古学を研究する団体かもしれないが、会員内には埋文調査に関わるものが多数いることからも、この資格制度に関わるべき。（大学教職員）
• 埋蔵文化財問題に関わるという運動方針であるならば積極的に関わるべき。（センター等）
• 民間協会、大学の動向について、研究者集団という立場からそれぞれの一人歩きに抑制をかけ、文化庁に一定の立場で発言をするという役割を果たして欲しい。（行政）
• 協会としては考古学の立場から資格について述べるべきで、資格制度により自由な学問行為が阻害されることは避けるようにすべき。（行政）
• 協会は第三者的立場を守りつつ、多くの会員の意見をくみ取り、よりよい制度への協力をすべき。（行政）
• 日本考古学を追求する組織としては、その動向に向かい合い、提言をしていく必要はある。ただ、学問としての独立を確かにするために具体的な資格などの中身を検討する組織とはならないようにする必要がある。（行政）
• オブザーバーとして関与すべきだが、中立性を保つべき。（センター等）
• 協会も権威ある学会として、資格制度に主体的に関わり、議論をリードしていってほしい。（行政、学生）
• 協会として積極的に関わらなくてもよいと思うが、資格認定のための審査する場として協力することは必要。（その他）
• このような議論の場をできるだけ提供してほしい。（行政）
• 文化財の保護・活用全体を担当する資格が実現するような取り組みを期待したい。
• 行政ベースで進められる資格制度に対しては学問研究の自由、国民の文化向上にどう資するかなどの観点でチェックしてほしい。（センター等）
• 協会員の身分や立場を守る上でも積極的に関与すべき。（民間）
• 有資格者が専門職として取り扱われるようなサポートに関与するのがよい。（行政）　・まずは文化庁の目指す方向付けに対して注視、提言を行い、意見の集約をはかっていくことが望ましい。資格制度実現後も、会員から問題点などの吸い上げを積極的に。（センター等）
• 学会である協会は一歩引いた立場で検討する必要はあるが、会員の多くが埋文行政に関わっていることを考えると、考古学研究の進展に寄与できる状況を創り出せる方向に議論展開を進めてほしい。（行政）
• 行政発掘の現場から見れば学会・大学にもっと関与・発言してほしい。（センター等）

　関わるべきでない

• 協会は資格制度を考える必要はない。考古学の学会として埋蔵文化財ではなく遺跡を、資格の制度ではなく考古学という科学を検討する立場に徹するべき。（行政）
• 注意して見守っていくだけでよい。少なくとも資格に関する認証機関となるような愚を犯してはならない。（民間）
• 協会が発掘調査員の団体であれば取り組む必要があるが、研究者の集まりである協会が資格について活動するのはおかしい。（民間）
• 考古学協会の使命に徹するべきであり、関わるべきではない。レフェリー的な立場をとる必要もなく、結果に対して協会として意見を言う程度でよい。（民間）
• 学問研究をやる場所であるべき。資格については関わる必要なし。（民間）

　その他

• 透明かつ公平な資格制度になるよう努力するべきである。（大学教職員）
• 今回のような自由な議論の場を設けることを期待する。（行政、学生、大学教職員）
• 日本考古学協会は学会としての立場を見失わないようにすることが重要。（大学教職員）
• 資格制度そのものでなく、文化財担当職員の専門、研究環境が行政機関の中で担保されるよう関係機関に働きかけるべき。職員の研修、研鑽の「場」を提供する環境作りを進めてほしい。（センター等）
• 協会員には多様な考え方があり、まとめて一本化することは困難なので、意見を聞く程度にとどめておくべきだ。（大学教職員）

小結

　第75回総会シンポジウム(早稲田大学）、関西シンポジウムを通じて多くの意見が寄せられた。全体に資格制度を不要とする意見は比較的少数で、資格制度の目指すべき方向に違いがありながらも必要とする意見が多数であった。また、調査技術に限定した資格とすべきとする意見と保存、活用を視野にいれた埋蔵文化財保護行政全体に対応すべきとする意見に分かれた。日本考古学協会のこれからの対応については関わるべきでないとする意見は少数で、情報を提供し、より良い方向を提案するなど、一定の関与をするべきとする意見が多数であった。

　シンポジウムの意見交換、アンケートの回答を通じて述べられた以下の意見には比較的多くの賛同が得られたと思われる。

• 埋蔵文化財の資格制度はあくまでも埋蔵文化財保護行政の一環として位置づけられるべきであり、考古学研究全体に及ぶものではないことを明確にすべきである。
• 複数の資格制度が存在する現状は問題で、公的な統一した資格が必要である。
• 団塊の世代の大量退職、埋蔵文化財保護行政の弱体化などの問題は深刻で、将来的な埋文行政体制の再構築を視野にいれた資格制度を構築すべきである。
• 資格制度には継続的な研修等の資格取得者を支援する構造を組み込むべきである。
• これからの考古学、埋文行政を担う若い人々の職を確保する方策を制度に組込むべきである。

�V、シンポジウム「厳しさを増す研究環境を考える」 −会場からの意見及びアンケート結果−

　文化庁による資格制度の検討は、2009年３月に「埋蔵文化財保護行政における資格のあり方について（中間まとめ）」が公表されて後に目立った進展がない一方で、地方分権改革推進委員会第３次勧告で、博物館資料、学芸員、施設の必要性を示す博物館法第12条の第１項から第３項の削除が示された。また、埋蔵文化財保護体制についても神奈川県の状況を含め、各地で問題が顕在化しつつあった。

　研究環境検討委員会ではこのような状況を踏まえて、これまでの第75回総会、関西のシンポジウムとは形を変え、資格問題と合わせて博物館の現状と問題、埋蔵文化財保護体制の問題を合わせて取り上げ、シンポジウム「厳しさを増す研究環境を考える」を2010年３月に東北学院大学で、同年５月に第76回総会（国士舘大学）で開催した。

　シンポジウムでは、埋蔵文化財に関わる複数の資格制度が動きだし、包括的な資格制度が検討されている現状、団塊の世代が大量に退職する一方後任は補充されず、若い世代の埋蔵文化財担当者が非常勤職員などの不安定な立場におかれ、埋蔵文化財保護体制に危機的な状況にあること、地方分権、経済改革が進められる中で博物館の財政は逼迫し、基盤となる博物館法に手を加えられようとしているなどの諸問題について発表され、活発な意見交換が行われた。また、会場で�@資格制度への意見、�A文化財保護体制の抱える問題、�B博物館をめぐる状況についてのアンケートを実施した。

会場からの主な意見

• 市町村の職員は立場が弱く難しい立場であることを忘れてほしくない。立場の弱い人々をバックアップするシステムを考えてほしい。現実は甘くないと思う。
• 財団は組織の維持、市町村は体制、県は文化財担当者の減少などの問題を抱えている。市町村で保存と活用を進めることで人の確保につなげたいと考えている。
• 行政の職員として文化財の理想だけでは動かせないことがある。役所の職員として　文化財の保護だけでは上を説得できない。地元の経済が大変な状況の中で文化財にさくお金の優先順位はどうなのかということがある。自分の業界だけで話していてはいけないのではないか。まわりを納得させる指標や、強い根拠が必要ではないか。
• 関係者が早稲田の資格を取りに行った。今のうちに取っておけば、次の採用要件の中に専門的な部分が必要だということになることを考えたということだ。埋蔵文化財をとりまく環境は厳しくなっている。協会は他の学会と連携してもうちょっと積極的に提言とか提案とか文化庁に働きかけなどをしてもいいのではないか。
• このような話を聞いていてこの世界で仕事につきたい学生がいないのではないかと思う。大学では埋文行政の実態の話をするときに業界に入ることをすすめているのか疑問だ。この業界に入りたいと思えるような状況を協会なり大学で作ってほしいと思う。
• 指定管理者制度は廃止すべき。
• 大学のシステムが学生集めの道具であったら悲しい現実だと思う。市町村は非常に困っている。東北はかつてのような職員採用をする時代は終わった。定年になってやめても補充できない。
• 資格制度は必要だという意見もある。ただ、ある部分だけで突出する形でやっていいのか疑問に思う。この議論は協会が主導してきちっと議論して協会の過半数を超えた市町村の人々のためにプラスになる方向で考えなければ大変危険だ。構成員の大部分を占める人々の研究環境を守れない協会なんかは意味がないと思う。
• 一番問題なのは埋蔵文化財行政は必置ではないということだ。法律的には必置でもやってない市がある。協会とか国とかでやってほしいことは埋蔵文化財の必置であり、資格を作るんだったら、資格のある職員の必置義務を訴えていってほしい。それで資格を作る意味が出てくる。会社の方の資格は委託先の資質向上ということでそのまま続けられるのがいいと思う。
• 日本人類学会のことを言えば、10年ぐらい前に人骨鑑定士という資格を作るか否かで話しが始まっているが、結局就職先がなく、資格を取っても資格が生かせるか否かが判然としない。30、40になって正職員になれない人がいっぱいいる中で資格制度をつくっても受け入れられていく形にはなりにくいのではないか。
• 資格を取ったら必ず就職できなければならないわけではないと思う。行政の全体的な流れとして地方分権が進んでいるが、その中で市民協働の意識が一番大切だ。その視点が考古学、埋蔵文化財の中に本当にあるのか、埋蔵文化財を保護することが市民協働を推進する上で役立っているのか。これが議論されてないと既得権益を守れといっている発言にしか聞こえない。いままでが本当に良かったのかどうか文化財の方の自己批判も必要なのではないか。
• 今進められている市民協働の基本的な原理の中に我々の考え方がきちんと入っているかが問題になると思う。１年間の予算に対応する短いスパンの費用対効果議論の中で我々、我々の先輩達がやってきたことを評価されるのは問題がある。教育と文化というのはもう少し違ったスパンで考えていかなければならない。それぞれの時点で最大の選択をどうしていくか見直していく、それを自己批判というならすべきだと思う。将来に向かって何を構築すべきかという中で議論しなければならない。ただ、それが市民に伝わっていたかということでは反省すべきところがあると思う。
• 資格というのは遺跡をきちっと守っていくための手法である、記録保存としなければいけない場合にその能力を担保するものだと思う。能力のある人でも調査の環境ができなければその調査はできない。遺跡を守るという意味で、市町村の格差を含めて是正していく必要がある。もう一つ、住民との接触があり、その中で理解されていないことを認識すべき。埋文行政は理解と協力でやることになっている。理解と協力を得る為には協会を含めて普及をどうするのかの確立をしていただきたい。役所の中で埋蔵文化財行政が確立していないと感じている。
• 一番大きい問題は私のあとの世代に継承していくかという問題。10年もすれば埼玉県内でも第一世代はほとんど出て行き、市町村の職員は半分ぐらいになる。地域の人たちと問題を共有化しながらやっていかなければならなくても全然そんな時間がとれない。発掘調査に追われ、報告書に追われ、人を入れてほしいというのは切実な状況。

アンケートに示された主な意見

　資格制度について

• 資格制度は誰が必要とするか、地方自治体専門職員はこの資格が必要か、現在の議論は目的が不明確に見える。
• 制度自体の必要性は否定しないが、現役ないしかつて調査に携わったものの扱いがどうなるか不安。
• 現場では原因者から「調査の資格」の説明を求められることがある。対外的に説明する部分では有効かもしれない。技術の向上、知識の向上は個人の資質、努力の比率が高いのではないか。現行の資格制度は有効的には感じない。大学の講義、しっかりとした現場実習で十分。各大学での実習等の充実をはかるべき。
• 民間調査組織の行政発掘の導入が進む中、何らかの資格制度が必要である。
• 資格内容の充実化、環境整備について今後さらに建設的な議論を積み重ねるべき。
• 机上で理念や定式化した調査法・保護行政を学んでも保護行政の現場ではほとんど役に立たないのでは。早稲田の資格要件（単位）では実習が必須ではないことにみるようにこの視点の欠如が懸念される。文化財行政学は各専門分野（考古や民俗、歴史）を土台にした応用学であって、大学では基本的には各分野を現代社会や地域社会と関わらせながら学ぶべきであろう。そうしないと各資格取得が目的化している現状で「考古調査士２級」のような資格には問題がある。
• 調査に関わる資格であれば賛成であるが、その認定システムには問題あると思う。実績ある実務経験が必要で、厳しく審査する必要がある。保存は別の方法で専門知識が必要であり別資格で良いと思う。活用に関する資格は難しいのではないか。
• 複数の資格が乱立する現状では、資格の価値をおとしめかねず、行政や学会の裏付けをしっかりと得た統一的、包括的な資格が望まれる。
• 私たちは遺跡をどうしたいのか。20年後、50年後に遺跡はどうあるべきなのか。これを議論していただきたい。その姿を実現するために資格は有効か、有効な資格は、その他必要な策は、行政の体制はという論点が必要。遺跡のスペシャリストである私たちは遺跡をどうするべきなのか学会で議論すべき課題である。
• 資格は調査能力の保証という意味で必要と同時に整理する行政の体制の確保と調査条件を確保する組み立てが必要。
• どの資格制度についても、資格を出す側の利権が見える様なきらいがある。技術の認定についてもどの様にして平等な判断するかが不明確な点に問題を感じる。
• 「考古学を研究する資格」ではなく職業として記録保存の措置としての発掘調査の原因者負担に伴う契約行為としての発掘調査をする為の資格は必要と考える。
• 一刻も早く整備すべき。すでに２団体による資格制度が開始されてしまった現状ではこれらをベースにしながら統一的な資格制度の整備が行われるべき。協会アンケートの結果をふまえ（賛成多数）協会は議論すべき。
• 資格制度に対する議論はやや行き詰まり感がある。制度の結果、資格がどのように実態化しているのか追跡してほしい。
• 埋文就職環境が全く整備されていない中で資格制度をつくることは道路がない車が買えないのに免許を出すのと同じこと。学生に今必要なのはこのような資格ではなく埋文保護や調査への哲学である。
• 市町村の職員が研究者であろうとすると立場がなくなってしまう。過重な責任と一人で対応しなければならない現状を解決しないままでの資格制度は問題がある。
• 個人の調査能力を担保するのであれば資格が不可欠とは思わない。国の実施する研修制度、教育制度の充実によっても対応できる。むしろ、今後の行政→民間あるいはその逆の発掘調査の移動が予想される中で調査を実施する機関の条件、体制をどう担保していくかが重要に思われる。
• 三者ともに将来の埋文行政の行方を見つめたうえでの資格化なので大いに期待している。協会は彼らを支援すべきだ。批判ばかりが協会の能ではあるまい。協会がイニシアチィブを取った訳でもない資格について協会以外の大学や民間が開始したことについて敬意を表すべき。
• 民間組織が独自の資格制度を持つのは自由。しかし、大学が資格を与えると結局民間組織に入社する際の条件となるだけだろう。現在大学の考古学専攻を出ても就職口は公的機関にほとんどなく、結局民間組織しかない。となればそこに就職するための条件としての大学での資格取得になり下がることは目に見えている。協会が目指すべきは全国の自治体に専門職員を置くように働きかけることだと考える。そしてその専門職は従来の学芸員資格を多少強化するだけでいいと考える。

　埋蔵文化財保護体制について

• 1975年体制（文化財保護法改正）で多くの発掘が行われたが、考古学の進展は比例していない。考古学研究は現在（新資料が少なくなったこともあるが）既発掘資料の再発掘が必要となってきている。遺物の保存はそのためにも必要。平成６年の文化庁調査で未報告資料が市町村で６割（だったか）あった。この部分の解決も必要。2000年体制（文化財保護法改正施行）の道筋ができていないが、75年体制の総括、課題の引き継ぎが必要。
• 保護行政の現場に考古学の発掘が分かるものがいない状態で開発事業が進む形が日常化している。県の指導力強化と各自治体への適切な人員配置が望まれる。資格制度自体が保護行政が未熟な地域、自治体ではあまり効果的なやり方ではないと思う。調査を義務付けて法的整備を進めるよう圧力をかけるべきではないか。
• 地方分権が言われる中、埋蔵文化財の管理、監督する体制の弱体化、埋文行政の補完活用の一体化の崩壊など心配している。協会は提案、提言する機関かもしれないが埋蔵文化財の最大の学術研究組織として、埋蔵文化財の保護体制にもっと積極的に他の学会と連動して発言していくことも必要だと思う。
• 行政側に充分な人的保障がなければ民間調査組織の監理、監督はできない。定年退職に伴う補充が充分に行われないのであれば民間調査組織の導入を推進すべきではな　い。たとえ新規採用があっても監理のみを行うのであれば、これまで行政ないに蓄積されてきたものが伝承されないし、新規採用者のスキルアップの機会もなくなる。結果的に名ばかりの監理になりかねないのでは。
• 安定した雇用が望めない埋文行政の現状では若者は考古学を学んでもそれを生かせず希望が持てない。何年かたったのち埋文行政は成り立たなくなってしまい文化財保護はままならなくなってしまうと思う。
• 文化財の保存と活用においては、社会への還元が必要不可欠と思う。保護体制は常に社会の理解をえていなければならないが、充分尽くされているのだろうか。
• 小さな自治体では埋蔵文化財の担当職員が１〜２名しかおらず、事務と現場を同時にこなさなければならない事が精神的、体力的に厳しいと感じている。埋蔵文化財以外の歴史関係の催事なども実施せねばならず、専門職として採用されているため、職場の中に当然専門職がやるべきという状況になっており、限界を感じている。行政の財政状況が下降の一途をたどる中で文化財関係の予算や人員増を望むのはそうとう難しいと感じており、今後もこのような状態が続くのであれば行政の中で働いていけるのかどうかすら不安。文化財保護を叫ぶだけでなく、他の視点（どのくらい雇用を生むかとか地域に貢献しているか）からも理論武装しないと廃れていくしかないと思う。
• 埋蔵文化財行政の行政組織内部での地位低下が問題。今後埋蔵文化財行政は市民への広報の充実とともに行政内での地位向上に努める必要があると思う。
• 開発優先の埋文行政を見直すこと。本来の埋文行政のあるべき姿はどうであるのかということを考えていくことが必要。知らず知らずのうちにわれわれは「効率よく発掘調査を行うための努力を払うようになってしまった。事前調査のための発掘基準、「資格」を考えている。本来の「保存が前提であり」ということを忘れたところで議論しているように思う。本末転倒の議論を見直すことからはじめたい。
• 埋蔵文化財保護行政の最大の課題は世代交代である。若い人材を育て自己再生可能な組織体制へと変化していかなくてはならない。行政・民間・教育機関を問わない課題であり、その克服には相互の協力が必要。学術研究団体である協会はこれらの組織に対し働きかけ、教育の場、実務経験の場をそれぞれ歩み寄って確保していく開発業者に対しても協力を呼び掛けていくリーダーシップを協会に期待したい。
• 保護体制を維持する専門職員の確保（役所内における位置づけ）・民間事業等に対する原因者負担の軽減（公費導入）・文化財（出土資料を含む）の保管施設の確保・基本となる市県民への埋文行政の必要性の普及・まちづくりにおける文化財側からの積極的働きかけ、学校教育、生涯教育における文化財資料の活用と方法の確立。
• 埋蔵文化財保護の４項目の連携の必要性と行政の責任についてのモデルおよび実例の蓄積と情報発信が必要。また、市民をまきこむ方策も考えねばならないのではないか。「郷土の財産」という意識の良い意味における復活が必要だと思う。
• 協会は埋蔵文化財保護を行政が全て行うことを前提としている。この前提そのものを見直すことが必要なのであるが牢固として考え方を変えようとしない。社会や一般行政から孤立し、限りなく衰えていく埋文行政の現状をまねいたのは行政内研究者と称する人達の社会環境変化に対する驚くばかりの鈍感さである。
• 資料の保存問題が静かに進行しているのは事実だと思う。府県調査→地元市町村へ返還が各地で行われているが、町村には担当者が不在、少人数の場合が多い。府県の調査＝大規模公共工事金の通るところは府県に行く。市町村の調査＝民間開発→いつも市町村にシワよせがくる。
• これまでの調査体制に関して埋文側の自己批判がなされていないのではないか？　既得権益を守るだけでは一般の支持を得られない。埋文行政が「処理」中心となり、「珍品主義」がはびこり遺跡総体として分析の欠如、「地域経営」という視点の欠如が「事業仕分け」的な動きに対抗できなくなっていると思われる。埋文、考古学側の自己改革ができないかぎり、現実乖離した議論しかできない。
• 職員の高齢化、若年層の不足、保護する側の組織が維持されなくなることが問題。行政の中で文化財の意味、位置づけを今まで以上に確立する必要があると思う。

　行政改革と博物館について

• 指定管理者制度は働く者にとって劣悪な条件であり反対。しかし、実際の公務員のスキルの低さは目を覆うばかりで、これは内部浄化だけでは解決できず、第三者を入れることも必要。このままではよくならないのでもっと別の観点からの議論が必要。
• 勤務する博物館の近年の状況を述べると�@企画展、特別展予算の大幅削減、�A非常勤職員の大幅削減、�B集客、イメージ向上のためのイベント開催等がある。�@については実収入（入場料、図録売上等）に基づいた予算編成が求められ、不足分は積極的に外部の助成金を得ることによって充足すべきとする。�Aについては展示解説員、資料の整理員の削除であり、行政側はその穴埋めは学芸員の当然の仕事と述べる。�Bは「敷居の低い博物館」、「発信する博物館」を掛け声にコンサートや演劇、ワークショップ等を増やす。学芸員の仕事は�@で減、�A�Bが増、結果的には以前と同様か。ただし、�@には研究活動が含まれており、研究活動に費やせる時間の割合は�A、�Bの増加とともに減っている。行政評価は相変わらず入場者数で、加えて収益性も近年求めてきている。研究活動、資料整理、社会教育活動について行政側に認識がないのが気にかかる。行政側の博物館機能とその必要性の根気強い説明と働きかけ、つまりは市民、県民への同様のアピールできる活動が必要で、方法論の鍛錬と実践が喫緊の課題。
• ある程度人気のある展示をやり、人を集めていかなければならないのは仕方ないことかもしれない。しかし、企画するにも人手と財源がない、大きな展示が可能なのは都内などに限られ地方の博物館は縮小していくだけだとも聞く。
• 指定管理者制度の導入や民間委託の問題は博物館だけの問題ではない。それぞれの部門で反対される中でも結局民営化される状況を考えると、博物館も同じ道をたどると思う。正論だけでは太刀打ちできない。博物館や教育は必ずしも費用対効果で表せるものではないことは充分承知しているが、そういった見方に対抗できるだけの指標の設定の仕方を示すことが何より重要だと思う。大方の市民の方は博物館の運営主体が民でも官でも気にしないと思う。業界の人間だけが危機意識を持っていてもかなわない。一般の方を見方につけるための運動や方策が必要だと思う。
• 博物館に指定管理者制度を導入することに反対。それは行政の責任放棄であると思うから。また、制度導入の成功、失敗を認定するシステム作りをする前に制度導入を決めているため資料の保存や研究など短期で利益の出ない分野がおろそかになる可能性が高いと思われる。行政は自らの地域の教育、文化財に責任をもち運営する義務がある。今後全国で責任放棄が多発しないことを願っている。
• 指定管理者制度との関係で現状の登録博物館の質の悪化につながるという理由は説明しやすく、理解してもらいやすい。しかし、文化政策を国が規定するより地方にゆだねるべきだという意見は理論的には支持されやすい。文化政策に必要な「公」をどこに求めるかという根本的な議論が必要だと思う。しかし、意見が分かれるのが現実だと思う。博物館登録制度にかえて第三者機関による博物館の品質保証制度（評価制度）を真剣に考えるときではないかと思う。
• 指定管理者制度や民間活力の導入といった諸制度の問題点を指摘し、批判し、改善することももちろん大切だが、行政の文化財担当者や各博物館の学芸員が�@旧来の業務が本当に市民や博物館の利用者に還元されていたのか？（給与に見合う業務を本当に手がけてきたのか？）�A「専門家」と自称できるだけの調査研究をやってきたのか？という点についてもこの機会にもう一度自己点検するべき。行政当局や市民から本当の意味での専門家として私たちが信頼されることもとても大切だと思う。この前提があってはじめて先の諸制度の改善が実現していく。
• 地方における博物館の地位の低下が著しく、必要とされていない。この現状を打破するため必要とされる博物館である努力が求められる。
• 指定管理者制度導入による学芸員雇用の不安定化が改善されなければ日本の博物館の質が落ち来館者の減少予算削減といった状況が半永久的に続くであろう。
• 行政改革の立場はひたすらに人員削減、予算削減を求めている。博物館の存続についても厳しく締め付けてきている。博物館も埋蔵文化財調査も行政で為さねばならないか？という問いかけに対しどのように立ち向かっていくべきか？地域の文化財の保　存。国民の財産としての文化財の保存。学術研究上の重要性は理解されてもそれを行政が為さねばならないか？と突っ込まれた時困惑しているのが学会、文化財行政が真の現状の姿であろう。国民的遺跡保存運動、博物館運営をささえる運動が必要であり、全国展開すべき。
• 首長のハコモノ志向の中で発展してきた博物館建設と運営を見直すべき。良質な研究と適切な普及活動のできる学芸員を育成していくべき。館の状況や地方行政の末端である市町村所属学芸員の雑芸員的状況も理解できるが、前述の良質な研究、適切な普及活動を志向していくべき。大学等でのリカレント教育を充実させていくべきと思う。
• 少子高齢化、財政悪化の中では国、地方問わず財政支出規模を縮小していく＝公務員の削減は必要であると考えます。国が全体に縮んでいく中で文化財とはいかなる必要があるのか何をしていくべきかの視点からの提案が必要であると思います。今まで開発側からやってくれ、金は出す人は増やす、建物も与えるという時代は建前以外では真剣に住民、国民に向かい合っていなかったのではないのか、保存などの声の高い住民のみでなくサイレントマジョリティーに発信していくべきだと思う。
• 博物館とは異なる史跡整備に伴うガイダンス施設の運営にも問題が多いと思う。せっかく史跡を保存し、整備したことも意味を忘れないため充実したことが求められる。
• 現在公立博物館は仕分け対応（書類作成）におわれている。市民に明示した事業展示は中止できないので資料整理などできない状況。指定管理にするかどうかの議論もずっと続いているが、市民サービスは向上するかもしれないが、資料保存の継続性が心配。数万点ある資料の細かな情報まで引きつげない。受託側も確定した資料しか受けない（破片はムリ）。学芸員の待遇が長期的雇用でなくなると落ちついて資料の研究ができない。損得抜きでやっているから維持できたものが次の就職のためのステップアップとかが中心になり業績主義になると地味な資料管理がおざなりになるのではないか。
• 指定管理者制度はデメリットのみが議論されがちだが、活性化という意味ではメリットも大きい。地域にねざした博物館をつくっていくためにはどうしたら良いのか？地方自治体は「地域経営」の視点から博物館の問い直しが始まっている。本当に教育委員会の所管が良いのか？も考えなければならない。地域実情に合わせた展開を柔軟にするために地方分権の視点から第三次勧告が下されたものと考えられる。地域住民との協働という視点から博物館の体制、文化財行政の体制を議論しなければいつまでたっても大事なものは大事だという「遠吠え」にしか聞こえない意見しか学会ではでてこないのではないか。

小結

　両シンポジウムともに会場の意見、アンケートの意見に共通して、資格制度の問題と合わせて、埋蔵文化財保護行政の現状を大きな問題として捉える意見が多かった。また、行政改革の中で厳しい状況に直面している博物館の在り方についても多くの意見が寄せられた。なお、非常勤職員の問題についても多くの問題が指摘された。研究環境検討委員会としては、この問題は常勤職員の年齢構成の問題、退職者後任の不補充の問題と合わせて大きな問題と認識している。シンポジウムで議論された諸問題はいずれも考古学が基盤としてきた社会との関係に深く関わっている。研究環境検討委員会としては検討を続けていきたい。

�W、おわりに

　シンポジウム「埋蔵文化財の資格制度を考える」、シンポジウム「厳しさを増す研究環境を考える」の開催にあたり、早稲田大学、関西大学、国士舘大学、東北学院大学、西南学院大学に多くのご協力を頂戴した。日本文化財保護協会戸田哲也氏、早稲田大学高橋龍三郎氏、文化庁禰宜田佳男氏には発表をご快諾いただいた。また、会場ではお集まりの会員諸氏から活発なご発言をいただき、多くの皆様からアンケートの回答が寄せられた。皆様に心より感謝申し上げる。

　研究環境検討委員会では、これからシンポジウムを通じて寄せられました多くのご意見の検討を継続し、さらに研究環境について考えていくことにしたい。検討を深めるためにも会員の皆様に引き続きご意見を頂戴したい。

【付記】

　埋蔵文化財調査の資格制度に関するシンポジウムに関しては以上のとおりであるが、以下にその後の状況を簡潔に提示するとともに、今後の動向を注視したい。

（１）早稲田大学の「埋蔵文化財調査士（のち考古調査士と改称）」について

　早稲田大学が文部科学省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」に応募し、採択されて始動した「埋蔵文化財調査士の養成および資格授与のための埋蔵文化財科学実践プログラム」は、2009年度末をもって文部科学省委託事業期間が終了した。2010年度から「考古調査士資格認定機構」が運営しており、同機構の公式サイト（http://www.jabar.jp/index.html）において関係情報が公開されている。それによると（2011年10月15日時点の記事）、加盟大学は、早稲田大学・札幌大学・金沢学院大学・國學院大學・国士舘大学・昭和女子大学・札幌学院大学・札幌国際大学・京都橘大学の９大学、資格取得者は2008年度：上級０名・１級０名・２級48名、2009年度：上級４名・１級５名・２級191名、2010年度：上級０名・１級９名・２級34名となっている。

（２）日本文化財保護協会について

　2005年に設立された日本文化財保護協会は、内閣府公益認定等委員会による公益認定の答申を受けて2009年４月１日に公益社団法人となった。同協会の公式サイトによると正会員は80社、賛助会員は６社、資格取得者は、埋蔵文化財調査士252名・埋蔵文化財調査士補167名（2011年３月１日現在）である（http://www.n-bunkazaihogo.jp/）。また、2011年２月から「目指せ100万人の考古学」と謳う「考古検定」が始まり、2011年２月から11月まで３回実施されるもようである（http://www.n-bunkazaihogo.jp/koukokentei/about/）。

（３）文化庁埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会について

　表記委員会は、2008年度に新たな資格制度の創設に向けた検討を開始し、2009年３月31日付で「埋蔵文化財保護行政における資格のあり方について（中間まとめ）」を公表した（http://www.bunka.go.jp/bunkazai/houkoku/pdf/maizoubunkazai_090528.pdf）。 　同委員会は2009年度は開催されなかったが、2010年度末の2011年３月１日に再スタートし、2011年度も検討が行われている。動向を注視したい。

（４）日本学術会議史学委員会における２分科会からの提言について

　日本学術会議史学委員会に設置された「文化財の保護と活用に関する分科会」・「美術館・博物館等の組織運営に関する分科会」等に考古学者が参加している。この２つの分科会が2011年８月３日付でそれぞれ「歴史学・考古学における学術資料の質の維持・向上のために−発掘調査のあり方を中心に−」（http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t130-4.pdf）・「地域主権改革と博物館−成熟社会における貢献をめざして−」（http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t130-3.pdf）という提言をまとめ、公表した。ともに考古学や埋蔵文化財行政の今後に深くかかわる提言であり、日本学術会議会員である木下尚子氏には、別途、次回会報や公式サイトに情報提供していただく予定である。

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