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東日本大震災対策特別委員会報告

 東日本大震災対策特別委員会(以下、震災委とする)の活動についてはこれまでに、会報174及び176、178、181において報告を行った。また、第80回総会でもそれまでの活動の報告を行ったので、今回はそれ以降の2014年度の活動について報告する。

1 委員会の開催状況

第1回委員会

2014年5月17日(土) 午後3時〜午後5時 日本大学文理学部3号館3502教室で開催。
 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、八木光則、渡邊泰伸の11名である。

第2回委員会

2014年7月11日(金) 午後2時〜午後5時 協会事務所で開催。
 出席者は渋谷孝雄(委員長)、近藤英夫(副委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、富山直人、八木光則の11名である。

第3回委員会

2014年10月11日(土) 午後0時〜午後1時 だて歴史の杜カルチャーセンター1階リハーサル室で開催。
 出席者は渋谷孝雄(委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、佐藤宏之、玉川一郎、八木光則の7名である。

第4回委員会

2015年2月1日(日) 午前9時〜午前11時50分 福島県文化センター会議室で開催。
 出席者は渋谷孝雄(委員長)、飯島義雄、石川日出志、河野一也、菊地芳朗、佐藤宏之、倉敏明、玉川一郎、八木光則、渡邊泰伸の10名である。

2 被災地における復興調査の現状報告

 委員会での協議の前段として、被災3県から選出された委員によって、毎回現状報告がなされたが、2015年1月段階での被災3県の現状及び来年度の事業計画と、問題点は次のとおりである。

(1)岩手県(八木委員)

【発掘調査計画】

 洋野町・野田村・岩泉町では復興関係の調査は予定なし。久慈市では防災公園・漁業集落関連の2件の調査を予定。宮古市は高台移転地と幹線を結ぶ道路建設地3件などを予定し、うち2件の一部を岩手県埋文センターに委託する予定。大形太陽光発電の試掘は広大な面積のため苦慮。復興関連以外でも通常の調査を例年通り予定。

 山田町では本調査4件、うち2件を岩手県埋文センターに委託する予定。大形太陽光発電の試掘も予定されている。大槌町では区画整理事業3件を予定、うち1件を岩手県埋文センターに委託する予定。罹災者等の個人住宅の建設に伴う調査がピークを迎えると予想される。

 大船渡市は住宅再建など5件を予定、うち3件は3〜6ヶ月の期間が見込まれ、他の2件も試掘調査結果次第。このほか下水道工事などにも常時対応。陸前高田市は高台移転関連の2件を岩手県埋文センターに委託する予定。

 高台移転などは宮古市以北はある程度メドがつき、関連道路などの調査が主になってきている。山田町以南では高台移転関連の調査が2015年度も予定され、ピークを迎える市町もある。いずれの市町村も個人の住宅再建は今後も継続される見込みとなっている。このほか大形太陽光発電関連事業も各市町で大きな協議事項となっている。

【調査体制と派遣職員】

 岩手県教育委員会への派遣は、2014年度当初12名の各県からの派遣職員が、来年度は大幅な減員が予想される。2014年度に派遣されていた市町村では、野田村で発掘調査のメドがついたことから派遣は終了の予定。

 宮古市は名古屋市(1年間)、堺市(6ヶ月)、高松市(3ヶ月)、小田原市(3ヶ月)が継続、八戸市(3ヶ月)が新規に派遣予定だが、盛岡市からの派遣は終了する。山田町は調査職と事務職の派遣を希望しているが、派遣は行われない見通し(2名減)。代わって新規に職員採用を予定。

 大槌町は県教委・文化庁を通じて調整中。上半期に派遣の予定。大船渡市は県教委へ2名の派遣を要望しており、うち盛岡市からの1名が内定。2014年度は3名の要望に対し2名の派遣で、1月に内定した人数で確定したことから、来年度も減員の結果となることを危惧している。現場1人体制で超過勤務が常態化している。

 陸前高田市は派遣職員1名(2名減)とは別に、任期付職員1名、嘱託職員2名の採用を予定。正職員1名、専門派遣1名、事務派遣1名、任期付職員1名、嘱託職員4名の体制になる見込み。県埋文センターへの調査委託も継続。

 このように、岩手県や市町村への派遣は大幅に縮小される予定。要望通りの人員確保ができていない。このような中、宮古市は同数の派遣職員を確保できる見通しだが、これまで派遣元の市と埋蔵文化財展などを通じ交流を進めてきたことと宮古市長・教育長が派遣元に挨拶に行くなどきめ細かな対応が派遣継続につながったものと考えられる。

 山田町と陸前高田市で職員の増員が予定されており、2012年度後半〜2013年度当初の増員に次ぐ2段階目の自力での調査員確保の動きが出始めている。

 派遣職員の減員は岩手県埋文センターへの委託の増加となり、埋文センター全体の調査量もこれまでになく増大し、業務過多による職員の健康管理などにもより細かな注意が必要となっている。

【今後の課題】

 2015年度が交付金の最終年度となるが、その後の見通しや課題について聴き取りを行った結果、洋野町・久慈市・岩泉町は交付金による調査はこれまでもなかったし、野田村は専門職がいないこともあり、復興交付金の調査計画はないとのこと。大船渡市では県道や市道移設、自力再建の被災者も多く、復興関連発掘調査の継続は必須であり、宮古市・山田町・大槌町・大船渡市・陸前高田市は整理作業や報告書刊行のため、次年度以降も交付金による事業継続が必要である。

 また、山田町・大槌町・大船渡市・陸前高田市では収蔵庫や整理室の整備が課題である。収蔵庫建設の場所確保の問題、工事請負事務担当者が不在であること、現在の借上プレハブが期限切れを迎えるなど、課題も大きい。

 発掘調査そのものの2016年度以降へのずれ込みを心配する市町村はあまり多くないように見受けられるが、高台移転地の調査が現在進行中の市町村では連絡道路などの建設も入り、個人での再建住宅も継続されると予想される。

 調査資料はこの数年で膨大に山積しており、整理作業や報告書刊行は大きな課題となっている。整理作業には派遣職員は望めず、それぞれの担当者が関わることになるが、通常業務を抱えながらの作業が予測され、予算とともに人的な不安を抱えている。

(2)宮城県(倉委員)

【発掘調査計画】

 沿岸各市町の高台移転の事業に伴う発掘調査はこれまでに15遺跡で実施されてきており、現在も石巻市羽黒下遺跡、女川町崎山遺跡、多賀城市八幡沖遺跡、山元町合戦原遺跡の4遺跡で継続中である。また、今年度中に9遺跡の試掘調査が行われる予定となっている。これらのうち、2015年度に持ち越しとなる調査がどの位の規模になるのかは、まだ、明らかでない。

 復興道路に位置づけられた三陸沿岸道路や常磐道に関係する発掘調査は気仙沼地域の未買収地が残されているがその他は終了し、JR常磐線移設にかかる遺跡も年度内終了の見通しがついた。県道関係の調査は女川町、石巻市、山元町の津波被災地にその調査の主体が移る。今後は特にほ場整備関連の試掘・確認調査が2015年度に44件予定されるなど、農業関連の調査が増加する見込みとなっている。

【調査体制と派遣職員】

 他県市からの自治法派遣(文化庁ルート)による調査員の確保は困難となる見込みであり、また、派遣元の都合により継続的な派遣は厳しい見通しである。昨年度は本来県が調査を行う事業について内陸の市町が肩代わりで調査することにより、それに充てる予定だった県職員を復興調査の調査員とすることで内陸市町からの支援を受けたが、今後は、宮城県内のすべての市町村を対象に調査担当職員の支援を要請するオール宮城の方式を検討中である。

【今後の課題】

 復興交付金の期限内で遺物整理、報告書作成まで終了させることは困難となっている。報告書の刊行について基本的な考え方は以下のとおりである。@調査した遺跡は内容にかかわらず報告書を刊行する。A報告書は必要最小限の内容とする。B調査主体となった自治体が整理・刊行する。C作業の一部を民間会社に委託することを検討する。

 整理や報告書作成はこのような考え方で進める予定だが、今後の予算の確保について3県1市会議でも要望しているが、文化庁・復興庁からの確実な回答はまだない。

(3)福島県 (玉川委員)

【発掘調査計画】

 県教委による2015年度の調査は、土取り場・ほ場整備予定地など173haの表面調査、土取り場・ほ場整備・海岸防災林・廃棄物関連地など135haの試掘調査、土取り場・県道に関連し22,000uの本調査(財団に委託)を予定している。

 新地町の交付金事業の調査は終了したが、2015年度は民間の土取りが3件あり、1箇所は試掘中で、4月には2箇所の試掘を求められている。相馬市も交付金事業は終了した。地元に反対の動きもあるが160haの民間のメガソーラー計画もある。南相馬市では工業団地・植物工場などの試掘が進み、植物工場の鹿島区南海老地区(古墳前期の集落)などの約20,000uの本調査が2015年度前半に行われる予定である。また、旧警戒区域の小高区の防災集団移転や震災時に市教委が調査中であったほ場整備関連の試掘・本調査が2015年度から始まる可能性がある。

 双葉郡の浪江町・大熊町・富岡町・楢葉町でも復旧・復興事業が始まり、防災集団移転、防災用道路、メガソーラーなどで保存協議が行われ、県教委が支援して一部で表面・試掘調査が行われてきた。2015年度は浪江町の防災用道路、大熊町の土取り場関連・コンパクトタウン関連、楢葉町の竜田駅東地区開発関連、広野町の駅東部開発関連などで試掘・本調査がでてくる可能性がある。

 双葉町・大熊町に設置する中間貯蔵施設は県と両町が受け入れを表明したが、用地買収が難航している。また、双葉町は今もなお復興計画が策定できないままとなっている。

 いわき市は防災集団移転の最後の薄磯貝塚の本調査が10月で終了した。これで復興事業の住宅関連調査が終了し、財団は3月まで報告書を作成する予定。

【調査体制と派遣職員】

 大熊町で3月から1名採用し、新地町では非正規職が4月から正職員に格上げとなる予定。県では新年度に派遣4名(うち1名南相馬に直接)を受け入れ、財団でも4名の受け入れを予定している。

【今後の課題】

 旧警戒区域外の地域は復興事業の住宅関連の調査は終了したが、2015年度以降は民間を含めた地域経済復興関連事業に伴う調査が増加するとみられる。大規模で土取りが関連した事業であるケースが多く、調査の規模も大きくなるものと予想される。2015年度は、旧警戒区域内では県が支援して試掘などの現地調査が行われるケースが増えるものと予想されるが、この地域での作業員の確保は難しく、放射線量管理などの課題がある。中間貯蔵施設建設予定地内の遺跡の取り扱いについては、県教委の取り組みを注視する必要がある。

3 委員会での協議結果

(1)2014年度の活動方針の決定

 委員会の開催は4回(5月(協会総会時)、7月、10月(大会時)、1月)とする。復興調査に伴う発掘調査成果報告会は2015年1月31日に岩手沿岸地域、同2月1日に福島県で開催する。被災地教育委員会との協議は市町村対象の協議は行わず、県教委との協議を2〜3月ごろ実施する。文化庁面談を例年どおり3月初旬ごろ実施する。

(2)会長声明について

 国の復興交付金が2015年度末で切れる予定となっている一方、復興調査事業が同年度中に完了する見込みがないことから、予算の延長を要望する声明を協会会長名で出すこととし、7月11日の第2回委員会で案文を検討し、更に幹事会で詰めた後、7月理事会で提案、9月理事会で承認を受け、9月27日付けで「東日本大震災復興事業に伴う埋蔵文化財関係予算措置の延長要望に関する声明」が公表され、9月30日付けで内閣官房長官、復興大臣、文部科学大臣、国土交通大臣、文化庁長官、被災3県知事と仙台市長宛に送付された。

(3)報告会の持ち方

 第1回委員会で2014年度事業として実施が決定した復興調査に伴う成果報告会について、7月の第2回及び10月の第3回委員会で実施方法と形態及びテーマ等について協議が行われ、今年度は岩手県宮古市と福島県福島市で下記のように実施することを決定した。協会主催で関係自治体や各県考古学会等に共催や後援を求めることとした。

岩手県テーマ「発掘調査でわかった沿岸部の歴史」
日 時2015年1月31日(土)13:30〜16:30
福島県テーマ「復旧・復興調査でわかった福島県の歴史」
日 時2015年2月1日(日)13:00〜16:30

 第3回委員会後に報告者や報告題について電子メール等で検討を続け、11月初旬までに報告会の構成を決定し、会報12月号に掲載することとした。引き続き報告者の具体的な人選を行い、12月中旬までにその開催要項を決定した。

(4)日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会報告書について

 第3回委員会で叩き台をもとに協議を行った。第4回委員会ではその結果を受け、全体を2部構成とすること、2016年度内刊行とし、2015年度内に構成を詰めるとともに、必要な準備を進めることとした。

(5)第81回総会でのセッションについて

 第4回委員会で、2015年5月24日の総会時の特別委員会セッションを次のとおり開催することとなった。

 テーマ「東日本大震災から5年目−復興調査が抱える諸課題と大規模災害と考古学について考える−」
1.14時15分〜14時20分渋谷 孝雄「趣旨説明」
2.14時20分〜14時35分八木 光則「岩手県内の復興調査の見通し」
3.14時35分〜14時50分倉 敏明「宮城県内の復興調査の見通し」
4.14時50分〜15時05分玉川 一郎「福島県内の復興調査の見通し」
5.15時10分〜15時25分飯島 義雄「文化財レスキューの成果と課題」
6.15時25分〜15時50分菊地 芳朗「震災考古学の可能性」
7.16時00分〜16時45分討論(司会:石川日出志、佐藤宏之)

 なお、2016年度のセッションは復興調査で判明した学術的成果に重点を置いたものとすること、このためには発表者の選定も含め早めに準備する必要があるということで一致した。

(6)来年度の復興調査成果報告会の持ち方

 成果報告会は2015年度も継続し、宮城県と福島県の沿岸部の市で開催する方向で調整を進めることとなった。

(7)被災3県教育委員会文化財担当課との協議と文化庁面談

 第4回委員会で2月23・24日に岩手県教育委員会事務局生涯学習文化課、宮城県教育庁文化財保護課、福島県教育庁文化財課と復興調査に関係する諸課題について協議を行うことを決定し、3月上旬には文化庁記念物課と面談することで日程調整をすることが決定された。なお、文化庁面談は例年どおり埋蔵文化財保護対策委員会とも調整した上で実施することとなった。

4 東日本大震災復興に伴う発掘調査の成果報告会について

 2015年1月31日(土)に岩手県宮古市の宮古市民文化会館を会場として、また翌2月1日(日)に福島市の福島県文化センターを会場として開催した。テーマは宮古会場が「発掘調査でわかった沿岸部の歴史」、福島会場は「復旧・復興調査でわかった福島県の歴史」で、前者は宮古市教育委員会と共催、岩手県教育委員会、岩手考古学会、岩手歴史民俗ネットワーク(以上宮古会場)、福島県教育委員会、白河市教育委員会、南相馬市教育委員会、いわき市教育委員会、福島県考古学会(以上福島会場)から後援をいただいた。そのプログラムは次のとおりである。

 宮古会場

【プログラム】進行:佐藤宏之(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
13:30〜13:35あいさつ・趣旨説明石川日出志(一般社団法人日本考古学協会副会長)
13:35〜14:05復興計画と発掘調査の進捗状況 菅  常久(岩手県教育委員会)
14:05〜14:35宮古市の復興調査でわかったこと長谷川 真(宮古市教育委員会)
14:35〜15:05復興調査の成果−縄文時代−北村 忠昭((公財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター)
15:15〜15:45復興調査の成果−古代・中世−金子佐知子((公財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター)
15:45〜16:15復興調査に派遣職員として携わって柏原 正民(兵庫県教育委員会から岩手県教育委員会に派遣)
16:15〜16:30意見交換

 福島会場

【プログラム】進行:石川日出志(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
13:00〜13:10あいさつ・趣旨説明菊地 芳朗(一般社団法人日本考古学協会理事)
13:10〜14:00福島県の復興調査と成果轡田 克史(福島県教育委員会)
14:00〜14:30南相馬市の復興調査と成果荒  淑人(南相馬市教育委員会)
14:30〜15:00いわき市の復興調査と成果木幡 成雄(いわき市教育委員会)
15:10〜15:40小峰城跡の復旧調査と成果鈴木  功(白河市建設部)
15:40〜16:10派遣職員からみた復興調査宮地聡一郎(福岡県教育委員会から福島県教育委員会に派遣)
16:10〜16:30福島県内の復興調査の意義と課題玉川 一郎(一般社団法人日本考古学協会東日本大震災対策特別委員会委員)
16:30〜16:45意見交換

 1月初旬に岩手、福島両県の市町村教委を始めとして関係機関にポスターとチラシを配布し、福島県では県庁記者クラブに投げ込みを行い、岩手県では事前に地元紙でも案内していただいた。参加者は宮古会場80名、福島会場84名であった。各会場とも内容が極めて豊富であったが説明は平易で、わかりやすかったとの評価があった。

 宮古会場では復興調査で沿岸部の各時代の歴史的空白が埋められると共に、それぞれの時代で歴史を語る資料が厚味を増してきていることが、菅、長谷川、北村、金子氏によって具体的資料で報告された。宮古の報告会は岩手日報が2月3日に記事にし、兵庫県から派遣されて発掘調査にあたっている柏原氏の報告を大きく取り上げた。阪神淡路の復興調査では調査を急ぐあまり現地説明会も開催されずに新しいまちづくりを行った。その結果、発掘調査の成果を地域住民が自ら知る機会に恵まれなかったことも少なくなかったこと。発掘調査の成果には地域への愛着、そして、地域の誇りを再確認できる情報がある。早期復興を達成することは当然重要だが、地域文化を受け継ぐ意味の重要さに気づかないと取り返しがつかないことになる。文化財は地域文化の結晶であり、地域に残されている民俗行事の例にみるように、遺跡や遺物もまた地域を結び付ける。このように、阪神淡路の経験をもとに真の復興のあり方を熱く語ったその姿は会場全体に大きな感動をもたらした。

 福島会場では、本調査を避けるためにギリギリまでの調整を行った結果、集団移転や公営住宅建設にかかる発掘調査が、岩手、宮城より遅れて始まったがほぼ終了の見込みとなっていることが県教委の轡田氏から報告された。南相馬市の荒氏、いわき市の木幡氏の報告では遺構の密集度が極めて高い遺跡や、また、過去の災害と考えられる痕跡のある遺跡が紹介され、白河市の鈴木氏からは、国史跡小峰城跡が精密な事前調査そして考古学的調査の結果から委員会の指導を受けて修復方針・方法が決定され、折々に見学会や公開日の設置で市民に公開し続けていることなどが紹介された。福岡県から福島県に派遣されている宮地氏からは普段このような形で成果報告されることが少ない試掘調査の重要性が語られた。当初の事業計画図と分布・試掘調査の結果により遺跡を残すために変更された事業計画図を対照して示されるなど、事業計画地内に所在する遺跡が表面の分布調査や試掘調査によってどのように残されたかを具体的に示していただいた。玉川氏からは旧警戒区域外では「住」のための復興調査は成果を上げながら終了時期がみえてきたが、短期間でなし得たこの背景には行政内部の調整機能が十分に働いたこと、他県からの派遣職員により調査体制強化が図られたこと、地域住民の理解があったことが挙げられるという。今後は「地域経済再生」の復興事業と旧警戒区域での復興調査が展開されるが、これらの地域への県教委の支援が必須であり、そのための体制整備が必要と結んだ。なお、玉川氏の発表で時間がなくなったため、意見交換は割愛した。

(東日本大震災対策特別委員会委員長 渋谷孝雄)