第71回総会は、有限責任中間法人として再スタートして2年目の年にあたり、本格的に法人として歩みを進めるうえでの意義ある総会であった。また、国士舘大学では2000年5月の第66回総会でもお世話いただいており、5年ぶりの開催である。総会前日の5月20日には、理事会と埋蔵文化財保護対策委員会全国委員会、21日には71回総会と公開講演会、懇親会が開かれ、さらに22日には6会場に分かれた研究発表会と恒例の図書交換会が多くの出席者を得て開催された。
21日の総会では冒頭、田村晃一会長より法人として再発足した本協会に対し会員の一層のご協力をお願いするとともに、近年の考古学をとりまく諸情勢がますます複雑かつ混迷を深めている状況と前・中期旧石器捏造問題に端を発して、いま協会員には、社会人として、また研究者として、行動の規範である倫理綱領が必要ではないかとの提起がなされ、また開催校への感謝を述べた挨拶があり、続いて本総会実行委員長の須田勉教授より歓迎のご挨拶をいただいた。その後、議長団・書記を選出して議事に入った。
最初に2004年度の事業報告では、会員数3,900人を超えている状況と諸事業の実施内容が報告され、法人として必要な諸規定と倫理綱領の制定に向けた諸準備を行っているとの報告があった。新入会員資格審査報告では、今年度会員としての基準が満たされていると認められた113名の入会の提案があり、意義なく承認され、会員総数は4,000人を超えることになった。
日本学術会議報告では、制度改革で大きな転換期にきている状況と、今後学術会議とそれぞれの学協会とがどのように接点を求めるか注視していく必要があるとの報告があり、また埋蔵文化財保護対策委員会報告では、多くの遺跡保存に対する要望書提出の状況と、4年間に及ぶ取り組みのなかで今回『第3次埋蔵文化財白書』が刊行されたとの報告があった。2004年度決算及び監査報告では、未収会費の徴収に引き続き努力するとともに、法人会計がわかりにくいため手続き上の簡素化を検討すること、さらに事業遂行にあたっては法人としての社会的貢献についても明確にすべきとの意見が付され、いずれも異議なく承認された。倫理綱領案の提案では、1970年代から検討されてきた経緯と海外での制定状況も踏まえ、昨年小委員会を設置して検討を重ねてきた内容が詳細に説明されたのち、会員からの質疑を受けた。会員からもいくつかの追加提案があり、これらを受け、次期総会までに慎重な審議を重ね、来年度の総会で倫理綱領の制定に踏み切りたいとの説明があった。
審議事項では、2005年度の事業計画や予算案はいずれも異議なく承認され、来年は理事改選期にあたるため会員名簿の作成を行う旨の説明があった。また、会費に関する規則など3件の諸規則制定に関する案件も提案され、これらも異議なく承認された。なお、会員から近年の教科書には縄文時代の記述が少なく、考古学の研究成果が歴史教科書に反映されていないきらいがあり、生徒たちに誤った歴史観を与えかねない深刻な問題であるとの提起があり、理事会でもこの件に関して重く受けとめ、この問題に対処するために、小委員会の設置の提案がなされ承認された。
午後1時30分より、市毛勲(早稲田大学講師)、森郁夫(帝塚山大学教授)両先生の公開講演会が開催された。市毛氏の「日本古代の施朱の風習と辰砂」では、遺骸や埋葬施設に朱を施す施朱の風習について、朱には生命に直結する呪術性と生命を蘇生させる力があるとされ、旧石器時代に起源をもつ北方系と縄文後期からはじまる西方系の2種の異なる状況を明らかにしたあと、6世紀の半ばには鍍金技術による黄金色への人々の関心が施朱の風習の衰退・消滅につながったと永年の研究の成果が熱く語られた。しかしこれまで朱は、重要な資料であるにもかかわらず、十分に考古資料化されている状況とはいい難く、朱を遺物として評価し資料化されるよう主張された。また森郁夫氏の「畿内制の成立と寺院の造営」では、畿内制の成立時期については仏教との関わりから見た場合、従来の見解よりややさかのぼった段階に畿内制成立の動きがあり、また大化改新直後に諸豪族に寺院造営を奨励する新たな仏教政策をとったのは、上宮王家と曽我氏の滅亡によって寺院造営に関わる工人集団を朝廷が掌握したからと思われるとし、寺院造営と畿内制成立の動きを重ねながら、氏の永年の研究成果が語られた。永年の研究成果を静かに、時には熱っぽく語る両氏の講演に、会場を埋めた聴衆は魅了された。
午後5時からは、1号館地階スエヒロに会場を移して恒例の懇親会が催され、全国各地から多数の会員と実行委員会による懇談が行われた。
翌22日は、6会場に分かれて、研究発表とテーマ発表が行われた。今回は、過去最高の71件の研究発表と、考古学と古代史両分野による8件のテーマ発表があり、近年の考古学研究がアジア諸国はもとより広く世界に目が向けられ、益々盛んになっている様子をみせつけた。しかし、研究発表が多数に及ぶために会場が何ヶ所にも分かれ、しかも発表時間は質問時間を含めて25分という設定となり、司会者や諸準備にあたられた実行委員会の方々の気苦労には余りあるものがあった。また発表者も時間を気にしながらの発表となり、スムーズな進行は行われたものの、発表内容にやや消化不良の感もみられ、研究発表のあり方について今後の課題となった。
図書交換会は、10号館の2階と5階の2会場に分かれて行われ、特に5階の剣道場では広い会場いっぱいに繰り広げられた図書交換会の光景に、相変わらずの熱っぽさが感じられたが、会場が分散しなかったために大変好評であったものの、5階まで多数の書籍を運び込んだ実行委員の方々のご苦労には、頭が下がる思いであった。
今回の総会の参加者は、2日間で延べ1,841名、そのなかで目立ったのは、研究発表の22日には半数以上が会員外の一般参加者及び学生であり、本協会の門戸が外に広く開かれている印象が強く植えつけられた。
以上のように、71回総会は、多くの参加者や研究発表者、図書交換会での賑わいなど、考古学に寄せる熱い思いが強く感じられたが、その反面、開催校であった国士舘大学と須田実行委員長をはじめとする150名以上に及ぶ実行委員会の方々には大変なご苦労をおかけしたと思う。万全の体制で総会を成功裡に収めた実行委員会の方々に対し、改めて衷心より感謝と御礼を申し上げるしだいである。(総務担当理事 萩原三雄)
本日、ここに有限責任中間法人日本考古学協会第71回総会を開催するにあたりまして、ひと言ご挨拶申し上げます。まず最初に、今回の総会の会場であります国士舘大学の関係者の皆様方、とくに須田勉教授をはじめとする実行委員会の皆様方のご尽力とご配慮にたいしまして、心から感謝の言葉をささげるものであります。
わが日本考古学協会は昨年3月、長い間の念願でありました法人として発足し、ここにすでに1年の歳月が経過いたしました。この間、協会は数回にわたりまして理事会を開催し、新しい法人としての協会のさまざまな問題の処理にあたってまいりました。これらの具体的な事柄につきましては、のちほど総会の議事として報告されるわけでございますが、ここではまず、倫理綱領の制定に関する事柄について申し述べることといたします。
こと、考古学に限らず、およそ研究者たるものは倫理的な規範に則った行動をとるべきものであって、その倫理的行動規範なるものは本来、自ずからひととして持っていて然るべきものであることは言うまでもないことであります。ましてや、同一条件での再現が不可能である遺跡の発掘ということを伴う考古学においては、いっそう厳密に倫理的であることが要求されるのであります。然るにわが考古学の世界で、かの忌まわしい捏造問題が起こり、前委員会以来の懸案として倫理綱領の成文化ということが当面の課題となったのであります。もっとも倫理綱領の成文化ということは、ひとり、日本考古学の世界だけの問題ではありませんで、すでにヨーロッパ考古学協会においても倫理綱領が定められております。これはまたこれで、日本とは異なった民族問題などもからんでのことであったと思われますが、ともかくも、前委員会の担当者との共同作業の結果、一応の成文化をみましたので、本日ここに提案することといたしました。このあとに行われます担当理事からの提案内容を十分お汲みとりくださいまして、ご討議をお願いしたいと思います。
なお、このほかにもさまざまな規則の改定がございます。法人化に伴う規則の整備でありますが、これも総会の議決を必要とするものであります。また会員から提案された議題もございます。これもまた考古学協会の新たなる課題、さらなる前進のための議案と考えられるものであります。どうか最後まで会員諸賢の真摯なご討議をお願いしたいと申し上げまして挨拶といたします。
(会長 田村晃一)午前10時、司会進行の岡内三眞理事から、出席者117名、委任状1,116通(計1,233名)で総会成立要件の会員数8分の1以上を満たしていることが報告され、第71回総会が開会された。開催にあたって、田村晃一会長・須田勉実行委員長が挨拶し、次いで議長(宮下幸夫・斎藤稔・伊藤邦弘)と書記(河野真理子・吉田美弥子)が選出されて、議事の進行・記録にあたった。
【報告】
2005年4月1日現在の会員数は、3,906名であることが報告され、2004年度の物故会員18名に対して黙祷が捧げられた。その後、総会資料1〔2004年度事業報告〕に基づき、総会・大会・理事会などの開催報告、定期刊行物(年報・会報・機関誌)の編集・刊行報告、公式サイトの随時更新、新入会員資格審査委員会の開催報告、陵墓問題について報告された。
荒井委員長から、2005年度新入会員の入会申し込みは115名あり、厳正な審査の結果、113名が基準を満たすと認められたことが報告され、拍手をもって承認された。当日出席新入会員が壇上で紹介され、代表して熊本県の出合宏光氏が挨拶した。
2005年10月から新体制による第20期の日本学術会議が発足することが改めて報告された。新体制において大きく変わる点として、まず〔1〕従来の7部制から人文社会系・生物系・理工系の3部制に変わる。〔2〕会員の選出は、学術会議会員が次期会員を推薦する方法に変わる。ただし、第20期では約30名の選考委員が、学協会及び研究機関が提供した6,000名を超える候補者の情報を基に210名の会員を選考する形で現在進行中であり、この210名が従来の研究連絡委員にあたる。〔3〕従来の研究連絡委員会にあたる約2,300人の連携会員が、会員によって選出される。〔4〕従来の研究連絡委員会が廃止され、学協会との連絡調整にあたる分野別の委員会が設けられるが、研究連絡委員会に比べその数はかなり減少し、考古学単独で分野別の委員会が設けられる可能性は大変低い。ただし、歴史学の分野別委員会が設けられる可能性は高く、考古学関係はここで活動する。また、会員選出後、学術会議と各分野との連絡調整の方法に関しても検討中であることが報告された。
学術会議の改革で最大の問題は、学術会議と学協会との接点が希薄になっていくと予測されることであり、これにどのように対処していくか。そうしたなかで分野別に学協会の連合体をつくってはとの動きもあるが、考古学では日本考古学協会が機能を果たしているので、あえてつくる必要はなく、考古学の分野で会員が選出されるかどうかも含め、日本学術会議との今後の関わりが問題になると指摘された。
また、2004年10月9日に奈良大学において、日本学術会議主催、九州国立博物館・日本考古学協会・日本文化財科学会・九州考古学会・日本考古学会・奈良大学・奈良文化財研究所等の諸機関の共催により、中国と韓国から5人の講演者を招き、考古学国際シンポジウム『モノからみた東アジアの交流−7・8世紀を中心にして−』が開催され、約150名の参加者があったことが報告された。
総会資料1〔埋蔵文化財保護対策委員会報告〕に基づき活動内容が報告され、補足説明として全国委員会、幹事会、夏期研修会、情報交換会等の内容が報告された。最後に『第3次埋蔵文化財白書』が刊行され、2005年5月22日に販売されることが報告された。
金子理事から、有限責任中間法人への移行に伴い、商業会計で処理されていることが報告され、総会資料2〔貸借対照表〕・資料3〔損益計算書〕・資料4〔事業経費〕・資料5〔損失金処理案〕に基づき説明された。
次に比田井監事から、法律に従って会計だけでなく業務に関する監査も行い、会計は適正に運用されている旨の報告があった。なお未収会費が財政を圧迫しているので、これの回収にいっそう努めるべきと指摘された。
決算報告並びに監査報告については、拍手をもって承認された。
まず、総会資料9「日本考古学協会倫理綱領(案)について」の趣旨説明文にある「提案し」を「提示し」に訂正したうえで案文を読み上げ、特に前文では、本綱領は会員が守るべき規範として制定し、広く考古学者にも遵守を求める表現としたい、と追加説明された。そして、この案文を本日の総会及び会報No.155に掲載して会員から意見を求め、これら会員からの意見を検討したうえで最終案を策定し、2006年5月の総会で制定する予定であると報告された。
質問:綱領(案)2−(6)の「安全と人権への配慮」に「安全衛生」の語を入れるべきである。
回答:ありがとうございます。
質問:綱領(案)1−(4)の「知的財産権の尊重」に「土地所有者の地的所有権を尊重する」記述が必要になる。また、考古学研究者の問題で、その他に「考古学の調査に携わる者」を入れるべきである。
回答:第2点目については、まったくそのとおりで、第1点目については、1−(6)「関係法令の遵守」に含まれるかと思われるが、検討する。
質問:綱領(案)2−(6)において、安全対策が人権の尊重と併記されるのはアンバランスであり、人権の尊重を独立した項目にするべきではないか。
回答:案文は外国のものを参考にしたもので、調査も含め、考古学研究全体に関するものという意味で人権とセットにした。
質問:前文の最後を、会員と他の研究者を分ける修正案に賛成。考古学研究者がすべて日本考古学協会員ではないので、協会員に限らず一般の考古学研究者に提案することは重要なことである。
回答:ありがとうございます。
質問:綱領(案)の中に「遵守しなければならない」とあるが、どのような状況を想定して遵守するしないを考えているのか説明してほしい。
回答:個別に説明することは困難である。運用にかかわる問題は今後の課題として検討したい。
最後に、石川理事から綱領(案)について、本日に限らずご意見を協会に寄せていただきたい旨が述べられた。
【審議】
総会資料7〔2005年度事業計画(案)〕に基づき、総会・大会・理事会・監査等の開催計画、定期刊行物(年報・会報・機関誌)の編集・刊行計画、公式サイトの更新、新入会員資格審査、理事選挙、名簿発行、埋蔵文化財保護対策委員会、陵墓問題について説明が行われ、2005年度版の会員名簿は「個人情報の保護に関する法律」に則って作成すること、選挙人名簿としても使用することなどが報告され、案は拍手をもって承認された。
総会資料8〔予算書(案)〕に基づき説明があり、拍手をもって承認された。
総会資料10〔諸規定の制定について〕に基づき、会員に関する規則(案)・理事選挙規則(案)・旅費規則(案)について説明が行われた。
質問:定款にも「正会員」と「特別会員」という区分があるのか。
回答:定款第2章第10条では、会員は「正会員」と「名誉会員」に種別されている。「正会員」は「考古学に関し学識経験を有する個人で、この法人の目的に賛同して入会した者」、「名誉会員」は「考古学について顕著な功績があり、又はこの法人の発展に寄与した個人もしくは団体で、理事会の推薦により総会で承認された者」であり、会費に関する規則(案)でいう「正会員」は「名誉会員」以外のものを指す。
劔持輝久会員(神奈川県)から、1999年の学習指導要領の改訂に伴い、小学校6年生の社会科教科書(上)から縄文時代の記載が除かれ、弥生時代から始まっていることが報告され、この問題を検討する必要性が述べられた。また白石浩之会員(愛知県)からは、縄文時代だけでなく、旧石器時代も併せて検討していただきたいとの意見が出された。
これを受け理事会では、社会科教科書(小学校6年生など)に考古学の成果がどのように反映されているかを調査し、対応する小委員会の設置を提案し、了承された。
以上、2005年度総会における報告・審議を終え、12時10分に閉会した。
(1)総会 2004年5月22・23日 於:千葉大学
(2)大会 2004年11月6・7・8日 於:広島県民文化センター・広島大学
(1)理事会 2004年4月24日(協会事務所,以下特に記載のないものは同じ)、5月21日(千葉大学)、6月26日、7月24日、9月25日、11月5日(広島市まちづくり市民交流プラザ)、12月25日、2005年1月22日、3月26日
(2)監査 2005年5月14日(2004年度会計監査)
(1)年報 第55号(2002年度版) 2004年5月20日発行、第56号(2003年度版)編集
(2)会報会報 No.152(2004年8月1日発行)、No.153(2004年12月1日発行)、No.154(2005年3月1日発行)
(3)公式サイトの更新
(4)機関誌 『日本考古学』第17号 2004年5月20日発行
『日本考古学』第18号 2004年11月1日発行
『日本考古学』第19号 編集
(1)新入会員資格審査委員会(審査委員会:2004年12月11日、2005年1月29日)
(1)懇談会(2004年7月9日)
(2)陵墓見学会(2004年9月10日、11月12日)
全国委員会:2004年5月21日(千葉大学)/幹事会:2004年4月17日(協会事務所、以下特に記載のないものは同じ)、5月15日、6月19日、7月17日、9月18日、10月16日、11月20日、12月18日、2005年1月15日、2月19日、3月19日/夏期研修会:9月25・26日(千葉市)/情報交換会:11月7日(広島大学)
〈要望書提出12件〉
〈回答32件〉
(1)総会 2005年5月21・22日於:国士舘大学
(2)大会 2005年10月22・23・24日於:福島県文化センター
(1)理事会 年間8回(2005年4・5・7・9・10・12月、2006年1・3月)
(2)監査
(1)年報 第56号(2003年度版) 2005年5月発行、第57号(2004年度版) 編集
(2)会報 No.155・No.156・No.157
(3)公式サイトの更新
(4)機関誌 『日本考古学』第19号 2005年5月発行
『日本考古学』第20号 2005年10月発行
『日本考古学』第21号 編集
(1)新入会員資格審査
(2)理事選挙
(3)名簿発行
(1)委員会 全国委員会(2005年5月20日)・幹事会毎月1回・夏期研修会1回・情報交換会1回
(2)要望書提出