日本考古学協会第77回(2011年度)総会は、5月28日(土)・29日(日)の両日、國學院大學において開催された。総会前日の27日に理事会と埋蔵文化財保護対策委員会、28日はメディアセンター棟1階常磐松ホールで第77回総会と公開講演会、國學院大學によるセッション1「考古学から古代の祭祀構造を考える−神道考古学の方法論と展望−」(発表7件)、若木タワー18階有栖川記念ホールで懇親会。翌29日は、120周年記念館で口頭発表4会場(44件)、セッション4会場(発表31件)、120周年記念館と常磐松ホール前でポスターセッション(23件)、120周年記念館で図書交換会が開催された。両日の参加者は会員1,066名・一般548名、計1,614名に上った。
総会では、まず菊池徹夫会長から開会挨拶があり、本総会において昨秋の臨時総会の議決を受けて「協会図書に係る特別委員会」、さらに先の大震災を受けて「東日本大震災対策特別委員会」を立ち上げること、そして本協会は、本来であれば会員制の見直しや公益法人化といった課題に取り組むべきであるが、何よりもまず、協会を挙げて被災された会員や文化財の救済・保存に全力を尽くすべきことが強調された。会長挨拶ののち、開催校を代表して吉田恵二実行委員長から、創立120周年記念のキャンパス整備が完了したことにより、1966年の第32回総会以来45年ぶりに國學院大學で日本考古学協会総会を開催できることを喜び、歓迎する旨ご挨拶があった。続いて、司会から総会の成立要件を満たすことが報告されたのち、議長団・書記を選出して、議事に入った。以下に議事(報告事項・審議事項)の要点を報告し、若干のコメントを付したい。
議事の冒頭、新設された日本考古学協会賞の選考経過が報告・了承され、坪井清足会員に特別賞、池谷信之会員に大賞、水澤幸一氏に奨励賞が授与された。初回で三賞の受賞者が揃ったものの、大賞・奨励賞については応募が5件と少なかった。大賞・奨励賞は今回ともに業績が単著であったが、優れた論文や調査報告等が対象であり、会員・非会員も問わない(本誌32頁)。次年度はより多くの応募をお願いしたい。入会資格審査報告では、入会資格該当者が78名と報告され、承認された。最近10年間の推移をみると、2002〜09年が110〜146名だったのが、昨年度73名と2年連続で減少した。2010年度の退会者が50名に上ることと合わせて注意したい。
協会所蔵図書に関しては、昨秋の臨時総会以後の経過が報告されたのち、「協会図書に係る特別委員会設置要綱(案)」が審議され、承認された。臨時総会議決をうけて、11月に会長と担当理事が訪英し、セインズベリー日本藝術研究所に陳謝して必要な手続きを進め、本年1月理事会で特別委員会準備会が設けられ、本総会での特別委員会設置に向けた議論が行われた。そして本総会での設置の議決により、7月には特別委員会の組織・委員が定まり、2ヶ年で結論を得ることになる。
東日本大震災への対応については、本総会での特別委員会設置にむけて準備会を組織し、岩手・宮城・福島・茨城各県等の会員の被災状況の調査と、被災会員と文化財救済活動への支援の取組、及び文化庁や関係行政機関・民間組織との連携を始動したことが報告された。そして「東日本大震災対策特別委員会設置要綱(案)」が審議され、設置が承認されたが、被災が著しく甚大かつ広域に及ぶために、特別委員会はまず5ヶ年計画、理事4名をもって組織し、情報収集した上で順次組織を強化していく方針とされた。また、被災会員への支援については、すでに会費規則並びに会費免除期間の基準が定められているので、これを準用することが報告された。
このように本総会では2つの特別委員会が設置され、とりわけ大震災対策についての心配もあって、2011年度予算に関する審議では、例年以上の質疑が交わされたことを特に付記したい。
28日午後は、まず國學院大學赤井益久学長より歓迎のご挨拶を頂いたのち公開講演会に移り、小林達雄國學院大學名誉教授が「劇場空間としての縄文記念物」と題し、夏至の日の三内丸山遺跡の木柱モニュメントをバックに、これら記念物は縄文人の世界観の表現なのだと熱弁をふるい、満員の聴衆を魅了した。また、公開講演会に続いて開催された國學院大學セッション「考古学から古代の祭祀構造を考える」は、1966年総会時に大場磐雄先生による筆頭講演が「神道考古学の体系」であったが、それから45年間及び近年の研究成果を総合するように、古墳時代の祭祀体系の考古学研究と、それに対する文献史学・神道学・理論考古学からのコメントで構成されており、まさしく「神道考古学の方法論と展望」(副題)を示すものであった。
このセッション終了後ただちに若木タワー18階に会場を移して懇親会が開催され、中国社会科学院の朱岩石博士をはじめとする各氏のご挨拶を頂きながら愉快な時を満喫した。終盤に披露された國學院大學院生・学生諸君による「♪みんな知ってるかい 高天原というところ 若木ヶ丘の ヤレ資料室 ヨイヨイヨイ」で始まる『國大資料室音頭』の大合唱は、懐かしさを醸しつつ、懇親会を一層盛り上げる趣きがあった。
翌29日は、4会場6件のセッション(発表31件)と、ポスターセッションが開催された。このセッション制は、今年度から導入された発表形式で、関連学会との連携や、共通の研究テーマに取り組む会員が連携して成果を発表するものである。今回、公募セッションは「土器使用痕研究−スス・コゲからみた縄文・弥生土器と土師器による調理方法−」、「最近の古民族植物学研究の成果からみた縄文農耕再々考」、「沖縄県石垣市白保竿根田原洞穴から出土した後期更新世人骨−考古学と骨考古学の協働−」、「旧人・新人の石器製作学習行動を探る」の4件であった。いずれも現在注目の研究テーマで魅力的な構成であったが、セッションの進行が企画者に一任されていることが不徹底かと思われるケースや、質疑時間が不十分な会場もあり、今後の改善を要する点もみられた。
協会内の委員会が実施するセッションとしては、社会科・歴史教科書等検討委員会による「子ども達に弥生・古墳時代をどう伝えるか−学校現場での実践例とその課題−」と、東日本大震災対策特別委員会準備会による「緊急報告会:東日本大震災に直面して−被災地からの報告及び阪神淡路大震災に学ぶ−」が開催された。「緊急報告会」では、佐藤宏之氏による趣旨説明ののち、熊谷常正氏「岩手県の被災状況」・辻秀人氏「福島県・宮城県の被災状況」・櫃本誠一氏「阪神・淡路大震災と埋蔵文化財」の3報告ののち、意見交換が行われた。被災があまりに甚大であるために、地元が文化財救済活動を受け入れる状況にはない事例や、阪神・淡路大震災の折とは埋蔵文化財を取り巻く環境がかなり変わってきていることの問題の提示、人命救済最優先の中で何をどう展開し得るのかという悩み、今後長期に及ぶ復興事業に伴う調査体制や文化財保存体制をどう構築し得るか、など多くの課題が提示された。
今回の総会も多数の会員・一般の参加を得て盛会裡に終了した。國學院大学の実行委員会には、セッション制導入などにより、会場の準備と運営に従来以上に大きなご負担をお願いしたにも関わらず、万全の態勢で取り組んで頂いた。会員ともども心より御礼申し上げたい。
次第
午前10時、藤田富士夫理事の司会で開会し、冒頭、前年度の物故会員18名及び東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、黙祷を捧げた。続いて菊池徹夫会長、吉田恵二実行委員長から挨拶があった。次に、司会から現在の会員数が4,202名で、本日の出席者120名、委任状預かり分が1,137名、合計で1,257名となり、総会成立の定足数に足りているので、この総会が成立する旨の報告があった。続いて議長団及び書記団の選出に移り、議長団として高橋一夫会員、瓦吹堅会員、初山孝行会員、書記団として加藤里美会員、宮川博司会員が選出された。議長団、書記団は登壇し、自己紹介の後議事に入った。
田中良之副会長から、協会賞設置の経緯について説明があった後、日本考古学協会大賞に池谷信之会員、同奨励賞に水澤幸一氏が選考委員会から理事会に推薦され、理事会では協議の結果これを了承した旨の報告があり、推薦文が読み上げられた。また、特別賞として、理事会から坪井清足会員を推薦したことが併せて報告された。議長は3名の受賞について承認を求めたところ、拍手をもって承認された。承認後ただちに表彰に移り、菊池会長から受賞者に賞状と記念品が授与された。
佐藤宏之理事から、総会・臨時総会・大会、公開講座、公開講演会、機関誌刊行等の主要事業に加え、会員名簿が刊行されたこと、また、公式サイトが変更された旨の報告があった。
塚田良道入会資格審査委員長から、今年度は80名の入会申し込みがあり、1回目の審査で76名が資格基準を満たし4名が保留になったこと。その後1名が辞退し、2回目の再審査で3名が基準を満たしていると判断され、会員に対して79名についての異議申し立てを告知した。その結果、2件の異議申し立てがあり、3回目の審査委員会を開催したが、1件については本人より辞退申し出があったのでこれを受理し、残り1件については入会を制限するものではないと判断された。したがって、今年度は78名が入会資格該当者となったことが報告された。報告を受け、議長から78名の入会について承認を求めたところ、拍手をもって承認された。その後、新入会員は登壇し、入会者を代表して東京都の中野光将新会員から挨拶があった。
なお、入会資格審査委員会から理事会あてに、入会資格審査に関わる規則や内規について、文言整理等の検討が必要である旨の意見具申があったことが報告された。
山田邦和理事から、宮内庁に対して陵墓等の公開について16学協会で継続して申し入れ行っているが、本協会が幹事役を務めていること。2010年度は、奈良県新木山古墳の見学、大阪府の平塚古墳の見学会、大阪府の誉田御廟山古墳の立入り調査を行ったことが報告された。なお、誉田御廟山古墳の立入りについてはマスコミでも取り上げられ、一般市民から立入りに対する抗議の電話、メールがあったことも併せて報告があった。
谷口榮理事から、2010年度はこれまで行ってきた資格問題、埋蔵文化財の調査環境に関するシンポジウムに寄せられた意見と文化庁の調査委員会からの答申を踏まえ、会員の意見集約と周知を図ること。西南学院大学で予定していたシンポジウムが東日本大震災の発生で中止されたこと。さらに、今年度以降、埋蔵文化財保護対策委員会と連絡を密にし、東日本大震災に関する対策を優先して取り組むことが報告された。
新田栄治理事から、「発掘された日本列島2010」展の各時代から選んだ7遺跡及び『日本考古学年報』60号掲載の「総説」と「古墳時代研究の動向」並びに61号掲載の「総説」について全文英訳し、いずれも公式サイトに掲載していること。ロシアも含めたアジア諸国の中学校教科書に掲載されている考古学に関する記述について検討してきたが、その報告を10月以降に公開すること。第4回アジア考古学4学会合同講演会を開催したことが報告された。
続いて宮本一夫理事から、英国イースト・アングリア大学学長でセインズベリー日本藝術研究所理事長のエドワード・アクトン氏から菊池会長あてに手紙が届き、東日本大震災に対する丁重なお悔やみがのべられ、復興支援について検討していること。また、イースト・アングリア大学に日本学センターが、セインズベリー日本藝術研究所内に日本考古学文化遺産センターが設立されたので、今後、日本考古学の普及に関し協同、連携していきたいと望んでいる旨の報告があった。
岡山真知子理事から、2010年度総会で「子どもたちに旧石器・縄文時代をどう伝えるか−小学校の教科書で教えたい旧石器・縄文時代−」と題するテーマセッションを行ったこと。兵庫大会では弥生・古墳時代を中心とする教科書分析の内容をポスターセッションとして発表し、今年度総会でテーマセッションとして実施することが報告された。
石川日出志理事から、昨年10月の臨時総会での否決結果及び議長団提案を受け、臨時理事会において図書問題に関する特別委員会準備会を設置することとし、1月理事会で7名の委員からなる「協会図書に係る特別委員会準備会」を設置したこと。菊池会長、白井担当理事が渡英し、セインズベリー日本藝術研究所を訪問して事情説明のうえ陳謝して今後の対応を協議した結果、昨年の「覚書」交換以後、同研究所が負担した保管料等1,200,370円は返済したこと。また、準備会の設置によって、これまで永年にわたり協会の図書問題を協議・検討してきた「協会図書対応検討小委員会」は2011年4月17日をもって解散したことが報告された。
さらに、2月に第1回協会図書に係る特別委員会準備会が開催され、委員長に泉拓良委員が、副委員長に熊野正也委員が選出されたこと。4月に2回目の同準備会が開催され、同特別委員会設置要綱案、部会制・委員構成、予算等について協議されたこと。また、3月14日付けの会長名で「図書寄贈の停止について」という文書が送付されたことについて、委員から説明を求められ、これは、協会は今後図書の寄贈は受けないとする2009年度総会での審議・可決を受けてのもので、2010年度になっても周知が図れず多数の図書が送られてくるという現状から、2010年度に送付されてきた各機関に文書をお送りしたものであることが説明された。準備会ではこれら事務局で預かっている図書の取り扱いについての検討は、特別委員会に引き継ぐことになったことが報告された。
近藤英夫理事から、2010年度総会前日に委員会を行い幹事会は年間10回開催したこと。総・大会時にポスターセッションを行ったことが報告された。遺跡の保存要望に関しては、東京都の武蔵国府国司館跡及び府中御殿跡、沖縄県白保竿根田原洞穴遺跡、京都府長岡宮第一次内裏回廊推定遺構、福岡県北九州市城野遺跡の4件について要望書を提出し、うち2件について回答があったこと。愛媛大学構内の文教遺跡の一部が駐車場になったことにつき、委員が現地入りしたことが報告された。
白井久美子理事から、資料に基づき詳細な報告があり、当初予算に計上していなかった支出として、セインズベリー日本藝術研究所が既に支払い済みであった所蔵図書の運搬費並びに倉庫保管料1,204,870円について返済したこと等が報告された。
続いて原田道雄監事から、金子直行監事と共に監査を行った結果、適法かつ適正に処理されている旨の報告があった。さらに原田監事から、図書問題に関して多くの予算を要したので理事会、事務局で経費節減に努めていることから、会員への理解・協力要請があった。また、会費未払い者の問題についても、早期に解決するよう指摘があった。
木下尚子会員(学術会議会員)から、考古学関係者は現在9名おり、今年度は改選の年にあたること。考古学分野は史学委員会に属し、「高校地理歴史科教育に関する分科会」「文化財の保護と活用に関する分科会」「博物館・美術館等の組織運営に関する分科会」に分かれて活動していることが報告された。
以上で報告が終了し、1の日本考古学協会賞選考委員会報告並びに承認、表彰、3の入会資格審査報告並びに承認を除く各報告について質問を受けた。
千葉県の大村裕会員から、図書交換会では6,000円徴収されるが、決算書に記載がないこと。また、6,000円の根拠は何か、との質問があった。
白井理事から、交換会で徴収したお金は実行委員会の収入となるので、協会の予算書には記載されないとの回答があり、続いて佐藤理事から、総会・大会には協会から100万円を支出しているが、増額する財政的余裕はない。また、徴収がどのような理由で始まったのかは定かではないが、現在理事会では厳しい財政的な面を考慮し、大会参加費あるいは発表代の徴収なども話題になっていると回答があった。続けて大村会員から、6,000円を払うことについて全く異議はない。ただ、図書販売だけが会場費を負担するのは不公平ではないかとの意見があった。
石川日出志理事から、4年前明治大学で開催された総会を担当したが、テーブルは全てリースで賄った結果赤字となったことがある。会場ごとに条件が違うので一概には言えないが、重要な提言なので、今後検討していきたいとの回答があった。
奈良県の菅谷文則会員から、昨年の臨時総会以降現在までに協会図書を一括で引き取るという申し出のあった機関があるのか、という質問があった。
石川理事から、これまでに3件あったが、臨時総会で理事会提案が否決されているので、図書問題に関して判断する機関がない。そこで今総会で特別委員会を設置して協議していくことになるとの回答があった。
さらに菅谷会員から、図書倉庫代が年間80数万円かかるということであれば、集中審議して単年度で議論し、早期に結論を出したらどうか。また、委員の募集にあたっては、海外寄贈を決めた時の理事は排除した方が良いのではないか、との意見があった。
東京都の五十嵐彰会員から、協会からの「寄贈停止」文書の送付数と、これまで受贈した全ての機関に出したのか、という質問があった。
石川理事から、2010年度に送付されてきた機関にのみ通知し120〜130件程度だと回答があった。
さらに五十嵐会員から、海外の機関にも出したのかという質問に対し、石川理事が、現在準備中で出していない、と回答した。続けて五十嵐会員から、海外との交流が途絶えるのは国際交流という観点から問題がある、という意見があった。
東京都の石井則孝会員から、かつて協会の財政危機時代が数年続いた。先ほどの図書交換会での徴収はその時に発生した。当時の関係者が集まって整理すればその間の状況も解るのではないか、との意見があった。
ここで議長から報告に関する質疑を打ち切るとの発言があり、2及び4〜11までの事業報告並びに決算報告、監査報告について諮ったところ、全ての報告事項が拍手をもって承認された。
古瀬清秀理事から、総会・大会・公開講座等の日程及び内容、並びに各委員会の活動計画などの説明があった。
議長から質問を受け付けるとの発言があったが質問はなく、2011年度事業計画は拍手をもって原案通り可決した。
石川理事から、同特別委員会設置要綱案の条項に沿って説明があり、附則の部分に「ただし、本特別委員会第1回が開催されるまでは、協会図書に係る特別委員会準備会が実務を代行する」という文言を追加する提案があった。また、同特別委員会の設置が承認されたら直ちに公式サイトで3名の委員を公募すること。公募の締め切りは6月30日とし、その後準備会を開催して委員候補を選出して会長が委嘱すること。7月23日の理事会開催以前に第1回特別委員会を開き、活動を開始するとの説明があった。なお、2011年度予算は363,600円であることも併せて説明された。
神奈川県の戸田哲也会員から、特別委員会はどのような権限を持つのか。また意識調査の結果によっては、総会や理事会で議論せざるを得なくなった場合、特別委員会で責任をもって対応できるのか。昨年の臨時総会後直ちに会員の意見を募るべきであったが、特別委員会設置に7ヶ月もかかっている。会員の意識の再確認ということからも、さらに議論が必要なのではないか。今言ったような意見が特別委員会に反映されるのか否かを確認したいとの発言があった。
石川理事から、準備会の委員は考え方を異にする委員で構成されており、その中で縛りをどうするかは難しい。今後は特別委員会で戸田会員の意見を受け止めていただいて検討することになるのではないか。特別委員会の設置は総会の議を経なければならず、結果として時間がかかってしまったが、今総会での提案となったとの回答があった。
続けて戸田会員から、意識調査はできたのではないかとの質問に、石川理事は、理事会案が否決された以後、意識調査をするという判断をどこでするのか、会員の意見ということであれば、会報に掲載して公開しており、そういう措置までしていることをご理解願いたいとの回答があった。
千葉県の植木武会員から、図書に関する特別委員会は1つ設置するのか、2つ設置するのか、また全体で委員は何人となるのか、という質問があった。
石川理事から、図書に関する特別委員会は1つで、その下に部会を2つ設ける。委員は全体で10名程度を考えている、との回答があった。
大阪府の大塚和義会員から、この総会で重要な蔵書問題について議論する時間が不十分である。しっかりと議論しないから臨時総会を開かざるを得なくなる。蔵書問題に関して、もう少し整理された形で提示されることを望んでいた。会則云々という問題だけではなく、根本的に人間的な視点で考えて欲しい、という意見があった。
ここで議長から質疑打ち切りとの発言があり、協会図書に係る特別委員会の設置について諮ったところ、拍手をもって原案通り可決された。
佐藤宏之理事から、設置要綱案の説明に入る前に次のような経過説明があった。3月理事会で総会において特別委員会の設置を提案すること。そのための準備会を4名の理事により設置して、会員の安否情報や被災文化財等に関する情報収集に着手したこと。また、文化庁や関係行政機関、民間団体等と連絡・連携をとり始めたこと。4月の理事会では、公式サイトに寄付金、支援金のお願い文書を掲載することを決定したこと。5月には準備会委員が宮城県、岩手県を訪れ、関係者・関係機関と協議したこと。さらに、会費規則並びに会費免除期間の基準の定めにより、被災された会員は一定期間会費が免除されるので申し出ていただきたいとの説明があった。続いて設置要綱案について各条項ごとに解説を加えつつ条文案が読みあげられた。なお、予算は454,000円を予定しているが不足が見込まれるので、会員からの浄財も併せて運営費に充てたいとの説明があった。
福岡県の武末純一会員から、趣旨には大賛成。図書問題では倉庫代等でおよそ100万円の金額がかかる。その問題を早期に解決して震災関係に全力を注ぐべきであり、予算に優先順位をつけるべき、との意見があった。
他に質問、意見等がなかったことから、議長から、東日本大震災対策特別委員会の設置について諮ったところ、拍手をもって原案通り可決された。
白井久美子理事から、2011年度は総額47,072,786円の予算をもって各事業を推進するが、大震災により被災した会員には会費免除の定めが適用されるので、当初予算案よりも大幅な収入減の可能性がある、との説明があった。
埼玉県の鈴木正博会員から、新たな特別委員会の予算は予算書の中に反映されているのか。旅費交通費が前年度に比べ下がっている。今年度の事業を考えると増えても良いと考える。事業計画と予算は連動しているのか、との質問があった。
白井理事は、震災で急遽中止になった事業もあるが、繰越金の多くは旅費である。従来理事会の旅費は、毎回の理事会に理事全員が出席するという前提で組んでいたが、今年度は実態に合わせた。また、この総会で設置された2つの特別委員会は、委員会での協議を経て具体的な活動方針が出てくると考えられる。初年度としては先ほど提案した予算で活動を開始したい、との回答があった。
埼玉県の鈴木敏弘会員から、予算案に賛成・反対というのではなく、資料によると事務所家賃が年間約260万円、倉庫料が130万円併せて400万円かかる。この400万円という予算で、図書と事務を一括でやる方法がないのかと思う、との意見があった。
ここで議長から質疑打ち切りとの発言があり、2011年度予算について諮ったところ、拍手をもって原案通り可決された。
特になし。
以上をもって議事はすべて終了した。(午後0時45分)
東日本大震災対策特別委員会設置要綱
「第1回日本考古学協会賞」につきましては、2010年11月30日(火)の締切日までに5件の応募がありました。2011年2月26日(土)に選考委員会が開催されて、日本考古学協会大賞に池谷信之氏、日本考古学協会奨励賞に水澤幸一氏が推薦され、3月26日(土)の理事会において報告、承認を得るとともに、併せて日本考古学協会特別賞に坪井清足氏を推薦することが承認されました。
この結果を受けて、5月28日(土)の第77回総会において、田中良之副会長から第1回日本考古学協会賞選考結果が報告され、承認を得るとともに、上記3氏に賞状と記念品が贈られました。
「第1回日本考古学協会賞」の選考理由は、下記のとおりです。
『黒曜石考古学−原産地推定が明らかにする社会構造とその変化−』新泉社 2009年3月刊
著者はこれまで、関東〜中部地方の主要遺跡から出土した黒曜石製石器を蛍光X線分析によって原産地を同定するという方法で、石材採取・製作・流通・消費のプロセスから社会構造へとアプローチしてきた。本書はその成果であるが、出土黒曜石の全点分析という膨大な作業がその基礎をなしている。方法論の整理と学説史的検討を踏まえて、旧石器時代から縄文化過程、狩猟採集社会の終焉と弥生時代の石器利用など長いスパンを扱っている点も一つの特長で、例えば旧石器時代における環状ブロック群の分析から複数集団の存在を考察し、小集団の一時的集合によるブロック群形成の実態へと迫って従来の仮説の検証を行っている。著者はこれらの成果を踏まえて「黒曜石考古学」の確立を目指しており、今後その展開が期待されよう。
以上により、選考委員会は本書の著者、池谷信之氏を第1回日本考古学協会大賞候補として推薦する。
『日本海流通の考古学−中世武士団の消費生活−』高志書院 2009年9月刊
著者はこれまで、中世の北東日本海沿岸地域の遺跡・遺物の調査研究を進めるなかで、おもに中国陶磁食膳具や国内産の瓦器・土器・漆器などの物資流通史に加え、城館跡の実相を通して中世武士団の消費生活の実態解明を目指してきた。本書はその10年来の成果をまとめた意欲作であり、考古学の堅実な手法に基づいた実証的な研究に拠っている。
序章では中世考古学の視点や位置付け、年代観を説く。そして本論第1部では、貿易陶磁に関わる国際情勢、時期別出土量の比較検討、当該地域の優位性、搬入ルート、越後国衙との連関、鎌倉遺跡群の遺物諸相、個々の器種の搬入時期、在地越前陶の変遷、茶道具の保有、漆器へのシフトなどを論じる。
第2部では、瓦器の器種と性格、中世在地・搬入土器の消長、漆器の器形変遷などに言及する。さらに第3部では切り離せない遺構論として、室町期国人領主館への移動や戦国期山城への移動のほか、京からの井戸構築技術の移入などにも触れている。このように出土資料を駆使し、当域中世の流通の実態を総合的に描き出そうとした貴重な試みと言えよう。
以上により、選考委員会は本書の著者、水澤幸一氏を第1回日本考古学協会奨励賞候補として推薦する。
永年にわたる考古学分野での業績並びに平成11年度の文化功労者受賞に対して、特別賞の授与を決定した。