宮城県栗原市入の沢遺跡の保存と活用に関する要望書 2015年7月1日

埋文委 第4号
2015年7月1日

 

文化庁長官       青柳 正規 様
宮城県知事       村井 嘉浩 様
宮城県教育委員会教育長 髙橋  仁 様
栗原市長        佐藤  勇 様
栗原市教育委員会教育長 亀井 芳光 様

一般社団法人日本考古学協会 
 埋蔵文化財保護対策委員会 
 委員長 矢島國雄 

宮城県栗原市入の沢遺跡の保存と活用に関する要望について


 標記の件について、別添書類の如く、当該遺跡は学術上きわめて重要な内容をもつものでありますので、貴殿におかれましては、適切な保存と活用の対策が速やかに講じられることを要望いたします。
 なお、当件の具体的な措置、対策については、2015年7月17日(金)までに、当協会埋蔵文化財保護対策委員会委員長宛にご回答を下さるようお願いいたします。

一、別添書類 一通

以上 



埋文委 第4号
2015年7月1日

文化庁長官       青柳 正規 様
宮城県知事       村井 嘉浩 様
宮城県教育委員会教育長 髙橋  仁 様
栗原市長        佐藤  勇 様
栗原市教育委員会教育長 亀井 芳光 様
(参考送付)国土交通大臣 太田 昭宏 様

一般社団法人日本考古学協会 
埋蔵文化財保護対策委員会 
委員長 矢島國雄 

宮城県栗原市入の沢遺跡の保存と活用に関する要望書


 宮城県栗原市入の沢遺跡は、国道4号線築館バイパス工事に伴い平成26年度に宮城県教育委員会により発掘調査が行われ、これまでに例を見ない重要な遺跡であることが判明しました。

 本遺跡は、平野に面する丘陵頂部に立地する古墳時代前期の集落跡で、丸太を立て並べた塀と大規模な環状の大溝に囲繞されていました。溝の外側に土塁が造られていた痕跡があり、三重の外部施設に守られていた可能性が高く、防御を強く意識した集落と認識できます。このような遺跡は他地域には見られないもので、防御集落が造られた背景には、当地域が「倭」と異なる北方の続縄文文化との境界領域であったことが関係したものと考えられます。

 また、遺跡の大溝の内側には竪穴建物群が密集して建てられており、その多くが火災で焼失しています。そのため、竪穴建物内に置かれていた土器をはじめとする様々な器物が良好に残されており、これまでに銅鏡4面のほか玉類や鉄器等が大量に出土しています。これらの遺物は、地域首長墓に相当する古墳の副葬品と共通するものであり、当時の社会において支配者の権威を示す威信財です。これらの遺物が、集落遺跡から大量にまとまって出土した事例はこれまでにありません。すなわち、本遺跡は古墳時代の地域首長層の日常的な活動を具体的に復元することができる稀少な遺跡であり、同時に大和政権と北方世界との関係性を考える上で、きわめて重要な位置を占める遺跡なのです。

 このように、入の沢遺跡は日本の国家形成期における地域首長層の動向や北方地域との交流と軋轢を物語るかけがえのない遺跡であり、その学術的価値ははかり知れないものがあります。将来に向けて適切な整備を行えば、防御施設を伴う集落の姿を臨場感をもって後世に伝えられる超一級の歴史資料となることは間違いありません。

 さらに、本遺跡の北側には古代の城柵遺跡である国史跡伊治城跡があり、南西方向には大仏古墳群が存在することは、この地域が一貫して交通の要衝であったことを示しており、これらとあわせて整備と活用を図ることで、南北文化が交錯するダイナミックな周縁史が復元され、日本史を新たな視点から再構成するための拠点となる可能性を有しています。

 以上、入の沢遺跡の学術的重要性に鑑み、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会は、下記のとおり要望します。


入の沢遺跡で検出された遺構群を現状保存するための措置を早急に講じること。
本遺跡の国史跡指定を視野に入れて、周辺の遺跡群と一体的な保存と活用を図るための包括的な検討を行うこと。


以上