教科書等検討委員会の活動目標と2012年度の活動内容

歴史教科書を考える 第9号
2013.5.26 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会

1.教科書等検討委員会の活動目標
 社会科・歴史教科書等検討委員会は、中学校歴史教育の改善を目的として、2012年度4月から実施された中学校教育の新学習指導要領の内容、そして中学校の新しい社会科(歴史)教科書の内容について継続的に分析を進めてきた。そして、検討委員会発足時より進めてきた小学校の社会教科書および学習指導要領の分析もあわせて、小・中一貫した歴史教育を対象としたテーマセッションを、日本考古学協会第80回総会において実施することを中期活動目標として掲げている。
2.2012年度の活動内容
 こうした目標のもと、教科書等検討委員会では第78回総会(於立正大学)および2012年度大会(於西南学院大学)のポスターセッションにおいて、帝国書院、日本文教出版、教育出版、東京書籍、清水書院、育鵬社、自由社(順不同)7社の中学校検定済み教科書の内容を一部掲示した。これは会員の方々に中学校歴史教育の一端を知っていただくと同時に、教科書の内容について多くの意見・感想を募ることを目的としていた。
 ポスターセッションで集まった意見を整理・集約した後、検討委員会では各社の教科書を「人類の誕生」「旧石器時代」「縄文時代」「弥生時代」「古墳時代」に区分し、各時代についてグループ検討会を行い、問題点の抽出と総合的な比較・検討を行った。
 分析の結果、①明らかな間違い、②表現・情報の不足、および資料の考証不足等による誤認や曲解が危惧されるもの、③定説ではない学説への偏重、④教科書間での取り扱いの不統一性など、いくつかの問題点を抽出することができた。
3.今後の活動計画
①学習指導要領の分析
 教科書の記述内容は、教育現場や教科書編纂側が学習指導要領をどのように解釈するかによって異なってくるが、学会として教科書に反映してほしい内容とは何か、小・中学生に伝えるべきことは何なのかを検討していく前提として、学習指導要領の解釈と教科書の記述内容の分析を進める。
 そこで、このたびのポスターセッションでは、学習指導要領の内容がどのように中学校教科書に反映されているかを見極めることを目的として、学習指導要領と教科書の記述との対応関係を客観的に示すことで、学習指導要領の内容が教科書編纂者によってどのように解釈され、具体的な記述となっているかを明らかにする。学習指導要領とこれに則した教科書の分析を通し、義務教育の段階的な教育方針に沿った歴史教育の在り方について考えていく。
②日本考古学協会の提言
 教科書等検討委員会がこれまで分析した教科書の記述内容について、明らかな間違いについては出版社に修正を促す努力をしていくべきであるが、資料の考証不足による誤認や曲解、定説となっていない学説への偏重といった問題については、現段階における考古学の研究・調査成果を踏まえた適切な解釈を反映させていかなければならない。こうしたことからも、日本考古学協会としては、教科書の内容不備を指摘するだけに留まらず、歴史教育の中で小学生や中学生に何を学ばせるべきか、ということ明確にし、文部科学省へ提言していく必要がある。
 学習指導要領は、中央教育審議会が文部科学大臣の諮問を受けた後に、(初等中等教育分科会)教育課程部会での議論を経た上で審議のまとめが答申され、学習指導要領の改定案が公表されるが、日本考古学協会としては、教育課程部会での議論がはじまる以前に、学会としての明確な提言を準備しておく必要がある。そのためにも、中期活動目標である第80回総大会におけるテーマセッションでは、義務教育全体を対象としたテーマセッションを実施し、これに合わせて対外的なシンポジウムを開催する。なお、このテーマセッションとシンポジウムに向けて、第1期教科書検討委員会メンバーとの合同委員会を開催することで、小・中一貫した歴史教育の分析を進めていく。
学習指導要領ができるまで
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/index.htm(文部科学省ホームページ参照)
③教科書における旧石器時代の掲載に向けて
 現行の学習指導要領の改訂に伴い、小学校教科書から旧石器・縄文時代の記述が消えた問題については、その後、「狩猟・採集」として縄文時代に関わる記述は復活したものの、旧石器時代の取り扱いについては未だ問題が残されたままとなっている。教科書検討委員会発足の契機ともなったこの問題については、義務教育の中で旧石器・縄文時代を学ぶ意義とその必要性についてこれまでも議論を重ねてきており、今後も学習指導要領の改訂に向け、継続的に働きかけることが重要な課題となっている。上記テーマセッションにおいても再度この問題を取り上げ、問題解決の糸口を模索していきたいと考えている。
4.歴史教育のための補助教材
 これまで教科書等検討委員会では、主に学習指導要領と検定教科書の内容について分析を進めてきたが、その一方で、小・中学校の歴史教育の現場で使用されている副読本などの補助教材についても活用事例を把握するべきであると考えてきた。また、学校教育に限らず、地域の博物館や学習館、埋蔵文化財関連機関等で行われている体験学習など、実践活動を導入した授業や講座のあり方についても、歴史教育の観点からその実態を把握したいと考えている。
 しかし、単に活用事例を集めるだけでなく、歴史教育において実際にどのような学習効果をもたらしているのかについても明らかにするべきであり、教科書等検討委員会では今後、小・中学校における補助教材の活用や体験授業などの実践事例を集め分析することによって、教科書以外から得ることができる学習効果についても検討を進めていきたい。