社会科・歴史教科書問題(学習指導要領と教科書)、および委員会活動(声明等)の経過

歴史教科書を考える 第10号
2014.5.18 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会

社会科・歴史教科書問題(学習指導要領と教科書)、および委員会活動(声明等)の経過
1、1989年(平成元年)、1998年(平成10年の学習指導要領改訂)

①内容の改訂
1977(昭和57年)「我が国において漁撈農耕が始まったころの人々の生活」及び大和朝廷による国土の統一の様子~」

1989(平成元年)「遺跡や遺物などを調べて、農耕が始まると人々の生活や社会の様子が変わったことや、大和朝廷による国土の統一の様子」
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1998(平成10年)「農耕の始まり、古墳について調べ、大和朝廷による国土の統一~」
②内容の取扱いについての改訂
1998(平成10年)「学習指導要領に示された事項にとどめ、網羅的に取り上げないようにすること」が追記され、取り扱う時代が弥生時代に限定される」  
③授業時間の改訂
社会科歴史の授業時間数:1977年に140➡105時間、1998年に105➡100時間と削減

学習指導要領は世情の推移に伴いほぼ10年周期で改訂されるが、「ゆとり教育」をはじめとする「新教育課程」の導入によって授業時間数と内容が大幅に削減されることとなった。小学校6年生の歴史に関する授業時間は、昭和56年より105時間に、そして、平成10年にはさらに100時間とされ、その結果、学習指導要領に基づいて編集される教科書の内容も、特に、考古学に大きな関わりのある分野の記述が「弥生時代」からはじまるものが一般的になり、それ以前の「旧石器・縄文時代」についてはコラムの範囲でわずかに紹介するか、全く触れられていない教科書も登場する。また、歴史学習が始まる小学校6年生は、時間の推移や学んだことを整理するために年表を作る学習が組み込まれているが、多くの教科書では、年表からも縄文時代が消えている。
2、学習指導要領改訂の背景と教育現場の対応(委員会分析)
①歴史教育の前提として、「くに」の成り立ちを学ばせたいという国際的な指針があり、「生きる力」を謳う半面、生活史に対する認識が弱い。
②網羅的・詰め込み式の教育を改善するとして、「ゆとり教育」「総合的で横断的な学習」が打ち出される。教科書の本文から消えた縄文時代の学習は、博物館の利用や体験学習など、この「ゆとり教育」「総合的で横断的な学習」の教材として効果を発揮し、子ども達に歴史学習の魅力を伝える契機ともなったが、半面、歴史教育の過程に位置づけられないため、学習の本来の意味を理解させることが不十分で、「丸投げ」式の授業の在り方も問題とされた。
③授業時間数の削減に伴い、学習内容も削減されたという相関関係が一般的な理解であるが、実際には、1989年(平成元年)の学習指導要領から、「神話・伝承」「歴史上の人物」の取り扱いが強調され、1998年(平成10年)の学習指導要領では、さらに詳細に示されていることから、教科書の内容としてその内容が増えており、一概に削減とのみはいえない。
④ねつ造問題によって、旧石器時代が取り扱われなくなったと解する人も多いが、旧石器時代については、の小学校の教科書に登場するのはコラムのみであり、もとより正式な扱いはされていない。また、ねつ造の発覚は、学習指導要領の改訂後である。
★2006年「学習指導要領の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:旧石器・縄文時代の取り扱いと、「続縄文・後期貝塚文化」に見られる地域性の取り扱いを求める声明を提出。
(声明文抜粋) 

現行の歴史教科書から内容が削除された旧石蕃・縄文時代の歴史は、世界やアジアのなかにおける日本列島の地域性と、南北に連なる列島内部において複雑で多様な自然環境とその恵みのなかで育まれた極めて特徴的な地域文化を生み出したのである。それは、列島文化の基底をなすものでもあり、弥生時代に農耕を始めたことの意味を正しく理解するためには、この先行する原始時代における社会のしくみや生活の様子を明らかにしておく必要がある。また、日本列島は、一律に稲作社会へと移り変わったわけではない。“稲作から国土の統一へ’'で始まる歴史教科書は、本州の弥生文化とは異なり、稲作が行われずに、それぞれ「続縄文文化」と「後期貝塚文化」と呼ばれる独自の文化を発展させた東北北部から北溝道、そして、沖縄を含む南西諸島地域の歴史を無視したものであることも危惧される。

3、2008年(平成20年)の学習指導要領改定

①内容の改訂
 「農耕のはじまり、古墳時代について調べ、大和朝廷による国土の統一~」

 「狩猟・採集や農耕の生活, 古墳について調べ,大和朝廷による国土の統一~」
 ②授業時間の改訂
 社会科歴史の授業時間数100時間➡105時間
 ③『小学校学習指導要領解説』2内容の表記
 「「狩猟・採集や農耕の生活」について調べるとは、例えば、貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物を取り上げて調べ、日本列島では長い期間、豊かな自然の中で狩猟や採集の生活が営まれていたことが分かるようにする~」

 2008年(平成20年)の学習指導要領の改訂では、学力低下の学力低下の問題を受けて全体に授業時間数の増加がみられ、また、「道徳」や「国際化」を受けて取り扱う内容の改訂が認められる。小学校6学年の社会科歴史では、「狩現・採集」の取り扱いが復活したことにより、鹸科書にも「縄文時代」の記述が本文中や年表に登場するようになるが、検定において記可された5社の教科書を比較すると内容の格差が大きく、「旧石器」については依然としてコラムの範囲でわずかに紹介するに留まっている。
 学習指導要領に記載されている「狩猟・採集」は、旧石器時代と縄文時代の両方を対象とできる表記であるが、同じく、文部科学省によって発行されている解説書の中で、具体的な事例として貝塚といった縄文時代の内容が謳われていることと、旧石器時代の学習の位置づけがなされていないため、教科書での正式な取り扱いがなされないままになっている。このことは、旧石器時代の取り扱いが登場する中学校段階での歴史学習において、列島の歴史と世界の動きとを繋げて理解する学習においても不自然な取り扱いとなっており、国際化や学問の成果を活かした教育に相反する現状となっている。
★2008年「新学習指導賽鯛の改訂に対するバプリックコメント」提出(文部科学大臣宛)
★2008年「学詈指導賽鯛の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:「郷土」「旧石器時代」の取扱いを明確に追配する夏望を提出。
(要望書抜粋)

1、列島全域に普遍的に存在する考古学賣料を十分に活用し、身近にある郷土の歴史を学ぶ姿勢を尊重すること。
 (修正案例文)
 第2節社会第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 1目標(1) …P30
 (1) 国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績や優れた文化遺産について興昧•関心と理解を深めるようにするとともに,我が国と郷土の歴史や伝統を大切にし,国を愛する心情を育てるようにする。…下練部追加
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年)3内容(2)…P31
 (1) 我が国の歴史上の主な事象について,人物の働きや代表的な文化遺産を中心に遺跡や文化財,資料などを活用して調べ,歴史を学ぶ意味を考えるようにするとともに,自分たちの生活の歴史的背景,我が国と郷土の歴史や先人の働きについて理解と関心を深めるようにする。…下線部追加
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 3内容の取り扱い(1)…P33
オ アからケまでについては.例えば,世界文化遺産、国宝、重要文化財に指定されている我が国の代表的な文化遺産とともに、各地域に残る遺跡や文化財を積極的に活用し、歴史を身近なものとして楽しく学習できるように配慮すること。…下線部に修正
2、旧石器時代から始まる列島の歴史を明鶴に位置づけ、世界的な視野から人類の営みを考える視点を育むこと。
(修正案例文)
第2節 社会 第2 各学年の目標及び内容(第6学年) 3内容の取り扱い(1) …P32
イ 歴史学習全体を通して,我が国は旧石器時代からはじまる長い歴史をもち伝統や文化をはぐくんできたこと.我が国の歴史は政治の中心地や世の中の様子などによって幾つかの時期に分けられることに気付くようにすること。…下縁郷追加

 現行の学習指導要領については、パブリックコメントの段階から要望として意見をしたが、その効果は反映されず、声明文や要望書は、中央教育審議会の議論がスタートするタイミングに合わせて提出する必要があることがわかる。次期、学習自動要領改訂に向けてのスケジュールは、これまでの経過を考えると、ほぼ、以下の通りと予測されるが、次期学習指導要領の改訂については、まだ、はっきりとした動きがみられない。
4、予測される次期学習指導要領の改訂の流れと2014.声明文の提出(※2024文科省公表図をトレース)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 細かなスケジュールについては未定であるが、来年度の2月から審議会の議論が始まるとした場合、平成26年5月の総会を経て文部科学大臣と中央教育審議会会長に選出し、委員会の構成が決定したところで、より、具体的な要望書を出すことが効果的と考えられる。
★2014年「学習指導要領の改訂に対する声明」 提出(文部科学大臣・中央教育審議会会長宛)
骨子:以下に示すように、改善されていない旧石器時代の取扱いについて解説書の問題に触れ、「旧石器時代」の取扱いを明確にする声明を提出(別紙参照)。具体的な改善については、解説書の内容の改訂よりも、学習指導要領で旧石器時代明示が望ましく、中教審の審議が始まる段階で、より詳細に改善点を示す要望書を提出する考えである。

・『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本における人類史のはじまりについての説明がない。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていない。
・旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ケ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積がある。
・半世紀を超える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されている。
・我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行する。
・旧石器時代の人々の生活・文化は、世界や東アジアとつながりをもちながら発展しつつ、次第に日本列島独自の地域制を形成してきたことも明らかにされている。
・中学校の社会科(歴史的分野)においては、世界史的視野で人類の出現と旧石器時代の生活・文化について扱っているが、歴史を最初に学ぶ小学校段階から学習することで、小・中・高等学校の学習内容の連続性を意識した学習が進み、「伝統と文化の尊重、それらをはぐくんできた我が国の郷土を愛し、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与」するとした教育基本法の理念を具現化するものと考える。