小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割 -日本列島における旧石器時代の取り扱いについて考える-

歴史教科書を考える 第12号
2014.11.8 日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会

2014.5.18 日本考古学協会第80回総会 テーマセッション
小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割
―日本列島における旧石器時代の取り扱いについて考える―
パネルディスカッション登壇者:大塚初重・大下明・小野昭・近藤英夫・佐藤誠
司会:大竹幸恵・岡内三眞
 大塚初重氏講演「日本考古学協会の歩みと歴史教育」
 歴史教科書を考える上で欠くことができないのは、1947年にはじまった登呂遺跡の発掘であり、それは敗戦の日本に勇気を与えるものであった。日本国全体で登呂の発掘を見守っていた。1948年には日本考古学協会が発足し、登呂遺跡特別委員会がつくられた。その後、現在まで考古学は多くの成果を生んできたが、教科書に対して積極的な働きかけを怠ってきたと思われる。考古学は学問と教育との橋渡しをもっと積極的におこなう必要がある。
 大下明氏報告「義務教育における社会科(歴史)教科書の現状と課題」
 まず、2008年までの学習指導要領と本委員会活動の流れとして、2002年の小学校教科書に旧石器時代・縄文時代の記述がなくなった点が改めて説明された。次に現在の小学校教科書の問題点として、2012年度には縄文時代が復活したものの、旧石器時代の記述がほとんどないことから、日本列島に人類がいつから存在していたのか知る機会がなく、さらに旧石器時代を復活させる意義とは、日本という国が成立する以前、人類史のはじまりを無視しては、正しい歴史認識は育たないはずとの指摘がなされた。
 パネルディスカッション
 大塚初重氏の講演、大下明氏の報告を受け、パネルディスカッションがおこなわれた。まず、大塚氏から相沢忠洋氏による岩宿遺跡の発見とその顛末が語られ、学界に認められるようになるまでの経緯が説明された。大下氏からは、著名な旧石器時代の遺跡がある群馬県や長野県はもとより、日本全国の小学校では8割の子どもたちは旧石器時代が載っていない教科書を使っている現状が説明された。佐藤氏からは、学習指導要領は学校教育における指導内容の基準を示しており、そのため、小・中・高等学校の教科書で、考古学の成果が取り上げられるためには、学習指導要領に該当する文言が表記される必要があること、学習指導要領の意味や内容とともに作成の過程を理解し、これに基づいて教科書が編集され、学校教育において使用されるようになるまでの経過などについて解説がなされた。
 次に今回の総会において、小学校の教科書に旧石器時代を復活させるための声明文を出した経緯が説明された。小野氏からは、子どもたちに何を学ばせたいかということが重要であること、旧石器時代とは我々とは違う人類も存在した時代であること、さらに日本史や外国史という枠組みはあまり意味がなく、人類の起源というキーワードが必要となること、どのようにして日本列島に人類が住むようになったのかということを説明するべきであること、人類学の近年の成果を含めて、縄文時代と旧石器時代との共通する部分と異なっている部分を大事にしたいということが指摘された。近藤氏からは、国際的視野から日本の教科書を考えると、旧石器時代は現代史に通じるものがあり、例えば国境線の問題を扱うならば、日本列島と大陸が地続きであったことは重要な視点になるはずであり、現在の国境線の意味を考えられること、ジオラマや地図・年表を大いに活用するべきであり、世界史的視野から日本列島の旧石器時代の記述ができるようになり、東アジアの一員としての日本あるいは日本列島という説明が可能になるという指摘がなされた。
 会場からは、博物館との協業を積極的に進めることで、体験しながら教えることは可能である点が指摘された。また、大下氏からは東アジアの中の日本、国のない時代の日本という視点も重要であり、人類の歴史の中では、国家がない時代のほうが長いことを説明しなければならないことが指摘された。大塚氏からは、考古学の成果や隣接諸学との連携の結果や評価をいかに教科書に反映させるのかということを真剣に考えなければならないとの総括がなされた。
 最後に田中良之会長から、高校の教育における近現代史のみを教えることの弊害、文部科学省に働きかける必要性、日本考古学協会としての公式見解(教科書)をつくるということも目標にするべきとの意見が述べられた。
アンケート「子ども達の歴史学習を考える」集計結果(2014年5月18日・ポスターセッション会場で実施)
①小学校5社の教科書についての感想
 ・単純な説明のみで、興味・関心を持たせることは難しい。
 ・時代のとらえ方が大雑把すぎる。単に「原始的であった(原始・古代については)」というとらえ方がされてしまうのではないか。
 ・教科書と博物館等とをリンクさせ旧石器時代も含めて(博物館等を)利用しやすいように内容を教えた方が良い。
 ・時間配当もあるのだろうが、旧石器・縄文・弥生時代の記述(頁)は少ない。
 ・大観して特色を捉えさせる目標だというが、大観すらできていないように思う。また、旧石器時代の扱いに差がありすぎる。あたかも、旧石器時代がなかったかのように取り扱っている。
 ・地域の歴史との関連から離れているように思う。
②中学校7社の教科書についての感想
 ・何が時代の特色なのかわかりづらい。
 ・3~2万年前にナウマンゾウを追って日本列島にヒトが来たかのような記述や、洞窟生活が一般的であったかのような記述(旧石器時代について)は、実際とはかけ離れており驚く。
 ・より深い内容を踏まえて、内容を教えるべき。
 ・この時代の人々がどう生きたか、どのように生きたのかを考えさせる必要がある。
 ・旧石器時代については、おおまかな概要は捉えられているのではないか。具体性に欠けるが、特色も全体的によく捉えられている。
 ・王権の成立に関する記述にさかれる時間が多いようだ(国の考えかと思うが)。
③上記①②を踏まえ小中学校の学習指導要領あるいは教科書を比較しての感想等
 ・なぜ歴史を学ぶのかという目的意識が作り手側に無いように思う。
 ・日本考古学の成果を教科書に反映させるべき。教科書会社は学習指導要領に縛られることなく柔軟な対応をとってほしい。
 ・児童・生徒には暗記ではなく考えさせる時間を多くとれるとよい。
 ・旧石器~弥生時代も大切であるが、戦国時代以降現代にいたるまでも重要である。
 ・小学校では縄文時代から教え、中学校では旧石器時代から教えるのでは、歴史の勉強としての一貫性がない。
④高校の歴史学習が「世界史」と「日本史」に分かれ「世界史」が必修となっていることについて
 ・「世界史」と「日本史」を必修にすべき。他 同意見3     ・日本史こそ必修にすべき。
 ・国際化のためということであろうが、国際化に求められるのは自国の歴史の理解であるべき。
 ・「世界史」必修は、文部科学省への働きかけがあったと聞いている。
 ・「日本史」を知らないで「世界史」を理解するのは難しいと思う。自国の歴史を知らずして他国は理解できない。
⑤日本の教育制度下で、歴史を「世界史」と「日本史」に分けて学習することについて
 ・分けて学習すること自体は問題ない。     ・「世界史」「日本史」「地理」の相互関連が必要。
 ・教科書の中で「日本史」のできごとと世界がどのように関連しているのかという記述が足りない。
 ・旧石器時代以降の日本列島の歴史をきちんと学習した上で、自国の歴史を核にして、外の世界に興味を広げていけるような歴史教育が必要ではないか。
 ・「世界史」学習において「日本史」を、「日本史」学習において「世界史」を絶えず関連させながら学習すべき。
 ・「歴史基礎」のように従来の「世界史」と「日本史」を分けた教え方を見直すのは必要なこと。また、世界の中の日本という視点が少し欠けているのではないかと思う。
⑥ポスター・テーマセッションについての感想や社会科・歴史教科書検討委員会への要望や意見(その他も含め)
 ・日本考古学協会の方と、一般の考古学・歴史学に興味ある人たちとの交流や意見交換が必要(後者の立場より)。
・我々の用いている用語についても見直す必要があるのでは。
 ・東アジアの一員であるという視点で旧石器時代研究の成果を活用することが重要ではないか。また、最初に「国」ありきという話もショックだった。
 ・社会科教員の質も問題とされるべき。岩宿を「いわやど」と読んだ教員がいた。考古学の成果は社会科教員にも認識されていない。
 ・本日、ここで話し合われた内容は、単に「旧石器時代」の扱いについての問題ではなく考古学で扱う文字のない時代全般にかかわるのではないかと思う。研究を深めるのは大切であるが、それと同時に「成果の発信の仕方」を工夫する必要がある。
 ・「日本」について反感を抱かせるような教育はいかがと思う。
 ・「旧石器時代」とは、いったいどのような時代なのか。
⑦回答者
 ・会社員(神奈川20代) ・博物館勤務(40代)・財団職員(埼玉県60代)・学生(20代)・(埼玉県50代)・会社員(東京都40代) 
東京学芸大学・日本考古学協会 社会科・歴史教科書等検討委員会
第2回シンポジウム
小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割
開催日時: 2014年11月8日(土) 13:00~18:20
会 場 : 東京学芸大学 芸術館ホール
主 催 : 東京学芸大学・日本考古学協会
後 援 : 日本歴史学協会・辟雍会・日本旧石器学会
参加条件: 自由参加・参加費無料
シンポジウムの趣旨
 日本考古学協会・社会科・歴史教科書等検討委員会では、2006年以降、考古学研究の成果が小・中学校の歴史教育において十分に活用されるよう、その基礎となる歴史教科書の内容や、教科書の内容を大きく左右する学習指導要領の分析を行ってきました。また、その実態と課題についてテーマセッションやポスターセッションの場を通じて公開し、文部科学省をはじめとして具体的な提言と共に改善に向けての要望を伝えてまいりました。
 2008年の学習指導要領改訂において、歴史学習のはじまりが「狩猟・採集や農耕の生活」と改められ、小学校の歴史教科書にそれまで記載のなかった縄文時代の記述が復活したことは大きく評価されます。しかし、『小学校学習指導要領解説 社会編』では、その具体的な内容として「貝塚や集落跡などの遺跡、土器などの遺物」について調べるという表記にとどまり、狩猟・採集の生活を営んだ日本列島における人類史のはじまりについての説明がありません。そのため旧石器時代について、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていないという状況にあります。
 こうした状況を改善するためにも、学習指導要領と教科書の記述との対応関係を客観的に分析し、今年5月に開催された日本考古学協会第80回総会では、「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」と題しテーマセッション・ポスターセッションを開催いたしました。その目的とするところは、1)日本考古学協会の設立の経緯から、戦後歴史教育における考古学の社会的責任と役割を考え、2)義務教育段階の社会科歴史教科書の分析結果から、歴史教育における現状と課題を整理し、日本考古学協会として取り組むべき課題を明確にすることにありました。そして、2006年に提出した学習指導要領の改訂に対する提言が、2008年の小学校学習指導要領の改訂を見る限り、その目標を達成していないことから、あらためて文部科学省に次期学習指導要領の改訂に対する声明文を提出いたしました。
 こうした活動の一環として、本シンポジウムは5月に開催したテーマセッションと同じテーマとなりますが、戦後の義務教育段階における歴史学習の目的と考古学の果たす役割を確認し、教育学の立場からのご意見を伺いながら考えていきたいと思います。そして将来、日本の教育現場の最前線に立つ若い世代の皆さんからも広く意見を求めながら、活発な議論を重ねていきたいと考えております。
プログラム
総合司会 日高 慎(東京学芸大学准教授)
■ 開会の挨拶 13:00~13:10
長谷川 正(東京学芸大学副学長)
髙倉洋彰(日本考古学協会会長)
■ 趣旨説明 13:10~13:15
 岡内三眞(日本考古学協会社会科・歴史教科書等検討委員会委員長・早稲田大学名誉教授) 
■ 基調報告 13:15~16:05
Ⅰ 日本考古学界の歩みと歴史教育  大塚初重(明治大学名誉教授)
     13:15~13:55
Ⅱ 戦後の学習指導要領における歴史教育・社会科教育の変遷  加藤 章(元盛岡大学学長)
     13:55~14:35
            ― 休憩:10分 ―
Ⅲ 社会科歴史教育と『学ぶ側』の視点  坂井俊樹(東京学芸大学教授)
     14:45~15:25
Ⅳ 小・中学校教科書と学習指導要領の分析からみた考古学の役割  大下 明(雲雀丘学園中学校
     15:25~16:05                          高等学校教諭)
            ― 休憩:10分 ―
■ パネルディスカッション 16:15~18:00 
「小・中学校段階における歴史学習と考古学の役割」
司 会 :大竹幸恵・日高 慎(社会科・歴史教科書等検討委員会)
パネラー : 岡内三眞・大塚初重・加藤 章・坂井俊樹・大下 明・小野 昭(明治大学黒曜石研究センター長・日本旧石器学会前会長)・近藤英夫(東海大学特任教授)・佐藤 誠(茨城県立古河第一高等学校)
※質疑・応答 18:00~18:15
■ 閉会の挨拶 佐々木和博(社会科・歴史教科書等検討委員会副委員長)    ~18:20
 交通案内 
 東京学芸大学 東京都小金井市貫井北町4-1-1
   JR中央線「武蔵小金井駅」下車、北口側京王バス「小平団地行き」 学芸大正門下車
   JR中央線「国分寺駅」下車、徒歩20分  
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 お問い合わせ 
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電話:03-3618-6608